インタビュー

「FFXIV ファンフェス 2024 in 東京」吉田直樹氏インタビュー

「黄金のレガシー」は第2の新生。もし僕に何かあっても「FFXIV」チームは大丈夫

【ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー】

2024年夏発売予定

 スクウェア・エニックスは、1月7日より東京ドームで「FFXIV ファンフェスティバル 2024 in 東京」を開催している。イベントでは「FFXIV」の新拡張パッケージ「黄金のレガシー」の最新情報がたっぷりと発表された。発表内容については、別のレポートを参照して欲しい。

 本稿では、1日目終了後に行なわれたプロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏の囲みインタビューの模様をお届けする。

ロスガル女性キャラ「ウクラマト」は完璧な女性ではないがその成長を見て欲しい

――久々のリアルファンフェスで世界を巡り、東京のDAY1まで終えての率直な感想を教えてください

吉田氏: 単純にファンフェス自体がリアルで開催できて世界中の光の戦士の皆さんと直接お会いできるということ自体がものすごく嬉しいです。これだけ多くの人と、もちろん全体の人数からみると会える人は限定的ではあるんですが、これだけ多くの人たちが遊んでくださっていて、しかも遠いところから集まって、盛り上がってくださるというのは、開発者冥利に尽きるところです。本当に率直に嬉しく、喜ばしいと思っています。

 それと同時に、ここまでコロナ禍で非常にハードだったのが、ここまでこぎつけられたのは、世界中の医療従事者の皆さんがある意味身を投げ打ってでも献身的に、この状況を打破しようと思ってくださったからだと思っています。改めて感謝の気持ちも込めつつサービスを盛り上げていこうという気持ちでやってきました。新生10年目という節目で、これだけ大きな場所でやれたことは、開発者人生での最高の思い出になっています。まだ明日ハチャメチャな日が残っていますが、今のところはそんな感じです。

――ピクトマンサーを新ジョブに選んだ理由を教えてください。リムルとクルルのイメージの近さもあったのでしょうか?

吉田氏: それぞれは別の事象です。ストーリー上の都合もあるんですが、クルルというキャラクターは、僕らが創り出したキャラではあるんですが、彼女の心情を考えた時、きっと暁のメンバーや光の戦士と肩を並べて前線に出たいという気持ちはものすごくあったと思っています。いずれどこかのタイミングでとは思っていたのですが、「暁月のフィナーレ」ではヴェーネスとシンクロするという役回りがあったので、やるなら「7.0」だろうなと。ジョブチェンジをさせて前線に出してあげたいという気持ちがありました。

 ピクトマンサーに決めたのは、まず僕らはジョブから考えるのではなくロールから先に考えています。さらにその上にはゲームデザインがあって、色々なお客様に色々なジョブで遊んでもらうために、どういうロールを入れると全体が盛り上がって、マッチングが早くなり、安定して「FFXIV」がプレイできるようになるのかということをいつも考えています。

 やはり攻撃を主体とするロールはダントツで人気があります。拡張パッケージで複数のジョブを実装するとなったとき、やはり片方は絶対DPSが外せない。タンクとヒーラーはこれまで実装してきて、今は数的にはちょうどいいバランスになっているので、今回は2ジョブともDPSで行こうということになりました。片方が近接なのであれば、もう片方は遠隔で、入れるとしたらキャスターだろうねと。じゃあ「FFXIV」の中での面白さや絵的な魅力も考えた時に、あとは世界中のファンの皆さんの期待値とか。どんなジョブが来るんだろうねという期待に対して、これならというのが。もちろん最初からピクトマンサーに絞られていたわけではないんですが、有力な候補しては挙げられていました。

 じゃあ実際、絵を描くということを攻撃に置き換えられるのかというアイデアを出していって、すんなりと形にしていけそうだという感じに繋げていったというのが回答になります。

 結果的に発表を見るとすごくシンクロしていて、最初から計画されていたんじゃないかと思えるんだとしたら、それはチームとしてうまくやれている証拠だと思います。「FFXIV」は10年やってきて、各種のネタというか、細い銅線のようなものをみんなで手繰り寄せて1本の太いロープにしていくということを繰り返してきましたから、この辺りはチーム力の賜物かなと考えています。

――ロスガルの女性及び、ウクラマトについて、開発時にどのような点を重視しましたか。

吉田氏: これも実は今のクルルの話と同じく別々な事象です。「黄金のレガシー」という物語は「FFXIV」の新たな門出としての意味はもちろん、今までにない拡張のスタイルにしたい、「FFXIV」にはいろいろな側面があるんだよということをプレイヤーの皆さんにお見せしたいという意図があります。今回は王位継承レースの助力なので、最初の依頼はオブザーバー的な意味合いになります。助力をする相手が魅力的なキャラクターで、そのキャラが王位につく手助けをするような物語でなければ、プレイヤーの感情としてはこんな奴どうでもいいよとなってしまう。

 キャラクターをどう魅力的に描くかというところから構成を初めていって、だいたい芯が固まっていったタイミングで、やはりロスガルが男性だけ実装されているという状況で、女性も実装して欲しいという声が費用に多い中で、約束をしっかり守っていこうと考えた結果です。

 グラフィックスアップデートもあったので、本当にできるかどうか結構難産だとは思っていたんです。けれども幸い開発チームはやりますよと、特にグラフィックスのチームは献身的に言ってくれたこともあり、そうであれば、注目度の高い新しい種族というところにウクラマトを当てて、彼女を通じてロスガルの女性というキャラクターの魅力だったり、考え方だったり、種族の集落との係わりを深く描けるようになるので、そういったところをつなぎ合わせて作っていきました。

 いよいよパッチ6.55から活躍します。これまでにないキャラクターに仕上がっていると思います。最初から完璧なキャラではないですが、あえてそうしています。彼女の成長もキーワードになると思っていますので、そこを見ていただければロスガル女性という種族が人格を伴った場合にどういう魅力があるのかということが表現できていくんじゃないかと思っています。

――メインストーリーは2部構成になっているということですが、途中からまったく違う2つの物語が展開していくのですか?

吉田氏: さすがにそれはないです。あまり言うとネタバレになってしまうんですが、プレイした後にこれは確かに2部構成だなと思うかもしれないですが、「7.0」を通しては1本の物語になるように作っています。ただ、ここが大きな山場で分岐点だったなと思うようになっていくのではないかと思います。1つの物語の中で様変わりしていく価値観とか、様々なキャラクターの葛藤と同時に、世界の命運に対して急なハンドルの切り替えしみたいなものにも今回チャレンジしています。ニュアンスで本当に申し訳ないんですが、新しい「FFXIV」の側面をお見せできるのではないかと思っています。

 新しいことに挑戦しているので不安がゼロではないんですが、上がってきているものを見ても、今は不安よりも期待のほうが高いです。ぜひ次なる展開を楽しみにしていただければと思います。

――「黄金のレガシー」では、例えば大規模戦闘をプレイヤー間の交流、QOLの充実など、どのようなユーザー体験を目標として開発をしましたか?

吉田氏: 今まさに開発している最中なので、まだ振り返るのは早いどころの話じゃなくて、まさに悶絶しながら作っているところではあるんですが、今お話ししたように、新たな挑戦、新たな側面をできるだけ感じてもらいたいと思っています。

 ただ、僕は新しいことが必ずしも正義ではないと思っています。ゲームデザインは新しいから面白いというわけではないと思うんです。どんなゲームでも、これは新しいシステムですといっても、それがつまんないねと言われたら価値がなくなるじゃないですか。だからちゃんと押さえるところは押さえて、安心してこれまで通りのクオリティを感じられるというベースラインをしっかりとったうえで、その上に新しさを感じてもらえるような、先ほどいった急ハンドルのような展開だったり、1つ1つのコンテンツのクオリティの底上げだったりを今回の目標にしています。

 10年前の2013年8月に「新生エオルゼア」をローンチさせていただきましたが、今回は第2の新生みたいな感覚で挑んでいるつもりです。当時の新生と比べたら、我々もはるかに経験を積ませていただいているので、3倍4倍のしっかりしたゲーム体験をお届けできると思っています。

――「新生エオルゼア」から10年で、スキルやジョブ、ボスやギミックなど、様々なゲームデザインが行なわれてきましたが、こうしたデザインのアイデアはどこから生まれているのですか。アイデアが枯渇しないために気を付けていることがあれば教えてください。

吉田氏: どこからアイデアが出るのかという部分は一言では答えにくい質問ではあります。これだけ巨大なゲームになってくるとゲームデザインという一言で全部を語るのは実はちょっと難しくて。ゲーム全体のかじ取りは僕がディレクターとしてやっていて、次に挑む世界はこうで、そこで訴えかけるべきテーマはこれで、こういうフィーリングをプレイヤーの皆さんに与えるんだという話は当然、僕から全体のゲームデザインとしてしています。

 ただ、その中からストーリーを作っていき、各コンテンツを配置していき、そのコンテンツの中のゲームデザインについては、僕は結構各担当に裁量を大きく渡すタイプのディレクターなので、とにかく面白ければいいと。

 もちろん、企画ができた段階で確認をして、ブレストの前確認をして仕様になった段階でもう1度確認をして、実機で仮実装されたらチェックをして、バランスが実装されたらチェックして、最後にもう1度チェックをするというくらいにチェックは細かくやっています。

 でも、基本は面白ければいいと。バランスはみんなで何とか取るから、とにかく面白いものを作ろうというのがチームと一緒にやってきたことです。なるべく新しいスタッフを登用していくことも。第3開発事業部は下剋上気質で、バイトから入ったのに3年経ったらサブリーダーをやっているというような子もいるんです。

 年齢は関係ないし、本当に面白いものをしっかりしたコスト感覚で、色々な人たちに支えられながら作っていけるというのは得難い才能だと思っています。そういう人たちのアイデアを、先輩たちのサポートをつけてどんどん形にするということをやっています。

 もう1つ、アイデアが枯渇しない方法については、おそらく「FFXIV」をMMOを作っていると思って開発していると枯渇しているかもしれないです。ここは本当に「ファイナルファンタジー」であって幸いだったと思います。コンソールで育ったゲームですし、やはり日本人の多くが、特に僕ら開発の主力世代はMMOからゲームを始めたわけではなく、オフラインのゲーム体験で育ってきた人がまだまだ多いです。そういうコンソールのアイデアをMMOにしたらどうなるかというチャレンジは意外とMMO界隈ではやれていないんです。ここが「FFXIV」の強みだと思っています。「FF」だったらどうするだろうとか、新しい「FF」としてこんなことやったら面白いよねとなってからさて、これをMMOでどうやるんだっけみたいな。それがアイデアが枯渇しない秘訣なのかもしれないですね。コンソールの良さをMMOの世界に置き換えた場合の新鮮さみたいなことをやってきている感じです。

 だから、世界に素晴らしいコンソールのゲームが出てくれると、我々もどんどん枯渇しなくなる(笑)。うちの部は本当にみんなゲーマーなので、そこからどんどんゲームだけじゃなく漫画やアニメも含めてアイデアが出てくるので、そこは本当にいいところだと思います。

――「新生エオルゼア」から10年、「FFXIV」を最も人気のあるMMO、1つの文化にしてきたと思います。FFを文化にできたと思いますか

吉田氏: 文化という大それた感覚はなくて、僕らはあくまでもゲームを作り続けている。それが単純に世界中の人が集まって一緒に遊べる公園というか、かっこよくいえばテーマパークなんですが、僕らは近所の子供たちが集まって、一緒に遊ぶ公園をひたすら作り続けているという感覚です。

 確かにメタバース業界から講演して欲しいという話はくるんですが、あまりそういう感覚はないです。僕らはあくまでエンタメだと思っているし、10年は節目ではありますが、まだまだ通過点だと思っています。遊びきれないという感覚って、果てが見えているから遊びきれないと思っているんです。宇宙は果てがないから、星の数を数えるのをやめるじゃないですか。感覚的にあきらめる、全部遊ぼうという感覚にならないくらい広くしていって、いつ始めてもらってもいいし、いつ終わってもいい、いつ帰ってきても変わらずワイワイしている世界をこれからも作っていきたいです。

 だからあまり堅苦しい言葉は僕にもチームにも必要ないので、とにかく楽しい、面白い、この世界いいねと言ってもらえるように頑張ります。

――パッチ6.55の見どころを教えてください。

吉田氏: パート2はこれまで結構あっさりした印象があったと思いますが、今回はウクラマトというキャラクターの魅力を描くためにも結構遊べるように作ってあします。普通にプレイしても2時間以上は楽しめるようになっています。キャラクターたちの掛け合いや突っ込み合いも見どころです。結構コミカルなところをお見せできるのではないかと思います。

 あとは、ヒルディの暁月編がいよいよ完結します。帰ってきたのにまたいなくなるのかとか、今回はヒルンドがいるので、ローポリヒルディの運命がどうなるのかにも注目してください。リテイクまでして作り上げたヒルディ完結編を楽しみにしてください。「7.0」の前にまだ6.57や6.58も予定していますので、いろいろなコンテンツを楽しんでいただければと思います。

――「黄金のレガシー」に関する新発表について、ファンの反応はいかがでしたか。

吉田氏: 「暁月のフィナーレ」でハイデリンとゾディアークのサーガがあそこまで綺麗にエンディングを迎えるとは思っていなかったと思うんです。ただこれは終わらせるからこそ得られるカタルシスなんです。「新生エオルゼア」から1個1個ドミノを並べてきたけれど、このドミノは倒さなければカタルシスを得られない。1回目のドミノは全部倒し終わったので、さあ2回目だと。ただ、あれだけのクライマックスを体験したら、人は更なるクライマックスを多分求めるんです。昔のジャンプみたいに、宇宙と戦ったら次はどこへとどんどんインフレしていくんですが、やはり一度リセットして、戦うべきものは強さだけではないというところも出したい。

 それがあるからこそ、さらにこの先何年も、それこそまた10年も続けていけることになるので。今回はその一歩目なので、満足感と次に対しての期待感と不安感も多分入り交じっていたはずです。でも、いきなりネタバレしてドーンといくわけにはいかないじゃないですか。すごい話なので期待してくださいとは言えないので、1回目、2回目のファンフェスでは自然の中でのびのびと冒険するんだというイメージで作って、それを今回なんだこれは、思っていたものと全然違う、どうなるんだと思っていただけるような演出ができたのではないかと思います。

 今日、空き時間に拝見した限りでは、いろんな要素を楽しみにしていただいているようで、宣言チーム開発チーム総がかりでファンフェスを作ってきたのでそこは満足しています。

――友好部族のベルベル族の横にいたアルパカが気になります。

吉田氏: 開発チームでアルパカ大人気でございます。ファーシェーダーが思う存分使われていて、それだけ愛でられている生き物なのでおそらくヒカセンをのせて大地を駆けるだろうし、なんだったら空も飛べるんじゃないかな。

――世界中のヒカセンが、「黄金のレガシー」前にやっておいたほうがいいことはありますか?

吉田氏: ないです。拡張がくるからこれをやっておかなきゃとか、あれをやらなくちゃというのはのめりこんでいる間はいいんですが、疲れた時につらくなるんですよね。拡張に対してのモチベーション上がらなくなってしまうと思いますので、なにもご用意していただかなくても大丈夫です。

 装備も中途半端な状態で全然問題ありません。クエストを最後までやっていうだけで、ギアはどんどんたまっていきますし、事前情報を追わなくても完全新作RPGとして楽しめるように作っています。

 ここまではディレクターとしての答えなんですが、プロデューサーとしては、もちろんアカウントを止めている人に復帰してもらって、遊んでもらったほうが嬉しいです。拡張で復帰を考えている人は1カ月前と言わずに2カ月前、3カ月前からでもゆっくり体を慣らしていただけると幸いです。

――次の10年に向けて何を見据えていますか?

吉田氏: まさしく先ほど話した通り、1回目のドミノ倒しを気持ちよくやらせていただいたので、次のまた最高になっていくであろうドミノを1つずつ並べていきたいというのが今の感覚です。

 まだ「7.0」の開発中ですが、一応今僕の頭の中には8.0以降の展開についても、どっちに行こうかなということを思いつきはしています。「9.0」くらいまでは僕がやっていっても枯渇せずにやっていけるんじゃないかと思っています。でもまだ僕の頭の中にしかありません。あまり先のことを言うと、スタッフが逆に辛くなってしまうので。今を全力でやったうえで、僕がイメージしている先の展開に向けて、かじ取りを微妙に調整しているつもりなので、そこは引き続き安心して「FFXIV」という船に乗って、一緒に航海を楽しんでもらえればと思っています。

 一応ライフワークだとお話させていただいているので、ゲーム業界を引退するまでは、例えスクウェア・エニックス社員ではなくなっても、契約社員として係わることができると思いますのでできることは全部やり切っていこうと思っています。僕は太く短く生きたい人間なので、20年後や30年後には僕が死んでいる可能性があるんですが、今仮にパタッと倒れて意識がなくなったとしても、チームはもう大丈夫です。

 確かに僕のように東京ドームで2時間越えのプレゼンをできる人材がいるかと聞かれるとそれは無理だと思います。でも、同じような興奮や情報をお届けることは、今のチームなら間違いなくできます。形が変わるだけです。ディレクションやゲームデザインに関しても、ごく一部の人間には方向性みたいなものを話していますし、僕の機能をどんどん持っていってくれている人たちがいます。なので、本当に今この瞬間に僕が倒れたとしても、プロデュース部分はチームとして成り立つし、ゲームデザインやディレクションもやれると思います。僕個人が言うアホなことを実現しようとする人がいなくなる可能性はありますが、逆に僕が重しになってそれができない人たちもかなりいるはずで、そういう新しいアイデアが出るチャンスでもあるのかなと思いっています。とはいえ、当面安泰だと思っていますので、ぜひ安心してゲームをプレイして欲しいです。仮にゲーム業界を引退したら、1プレイヤーとしてずっと開発チームに文句を言う役を引き受けます(笑)。