インタビュー

「DEN OF WOLVES」、シナリオディレクターサイモン・ヴィクルンド氏インタビュー

SF的な敵の存在や、意外な展開が待ち受けるゲームシステムが明らかに

【DEN OF WOLVES】

発売日、価格未定

 10Chambersは12月8日、The Game AwardsにおいてPC向け協力FPS「DEN OF WOLVES」を発表した。本作は近未来、アメリカ領でありながら企業が支配権を持つミッドウェイシティを舞台に、企業間の争いを描く。プレーヤーは「犯罪企業家」となり仲間を募り、企業からの依頼を受けてのし上がっていく。

 10Chambersは「PAYDAY」、「PAYDAY2」を手がけたウルフ・アンダーソンが設立したゲームメーカー。20119年にPC向け協力型FPS「GTFO」を発表した。「GTFO」は協力しなければ生き残れないハードコアな難易度と、緩急のある展開、凝ったフィールドなどで世界中のプレーヤーから評価された。

 「DEN OF WOLVES」は10Chambersのこれまでのゲーム開発の集大成となる作品となるという。今回、10Chambersは発表に先がけ、世界各地でメディア向けに「DEN OF WOLVES」のコンセプトを説明するイベントを開催した。本稿では10Chambersの共同創業者であり、シナリオディレクターであるサイモン・ヴィクルンド氏にインタビューを行い、「DEN OF WOLVES」に関してさらなるディテールに迫っていきたい。

 発表会でのS「DEN OF WOLVES」と、「GTFO」の最終章の情報に関してはレポートとしてまとめているので併せて読んで欲しい。

【Den of Wolves - Official Trailer】

これまでの経験を集約し、さらなる楽しさ、快適なマッチングを目指す

――まず最初は「DEN OF WOLVES」を発表できた感想をお聞かせください。

ヴィクルンド氏:「DEN OF WOLVES」は私たちがずっと発表したかったタイトルです。皆さんにお見せできて嬉しいです。

 今回の東京の前にデンマークのコペンハーゲンでヨーロッパのジャーナリストに発表を行っています。東京の後はサンフランシスコでアメリカの記者に発表をします。コペンハーゲンでも「DEN OF WOLVES」はかなり気に入ってもらえたと思います。良い反応でした。

10Chambersの共同創業者であり、「DEN OF WOLVES」のシナリオディレクターであるサイモン・ヴィクルンド氏と、コミュニケーションディレクターのロビン・ビヨーケル氏

――ヴィクルンドさん、そして10Chambersは、「PATDAY」から「GTFO」を経て今作「DEN OF WOLVES」までずっと協力プレイでのゲームを作っています。RPGやアクションではなく、協力プレイにこだわっているのはなぜですか?

ヴィクルンド氏:それは私たちの"強み"であるからです。だからこそ協力プレイにこだわっていこうと思っています。

 2011年、今から10年以上前にウルフ・アンダーソンと共に「『Left 4 Dead』からゾンビなどの要素を取り除いたらどんなゲームになるか?」、というコンセプトの元「PAYDAY」を製作しました。

 「PAYDAY」開発時は小さな会社でチームも少人数でした。資金も少なかったので、"口コミ"でゲームの良さを広めて欲しいと私たちは考えていました。この考えに協力プレイというのは非常に合っていました。人と人が繋がり、協力してミッションに立ち向かい、達成感を共有する。その楽しさが「PAYDAY」を多くのプレーヤーに印象づけてくれました。それはまさに、私たちが作りたい、実現したかったゲーム体験でした。

強盗ゲームとして人気を得た「PAYDAY2」

 私たちが何よりも重視しているのは「自分たちが作っていて楽しいゲームを作ること」です。他の評価などは関係なしに、自分たちが作りたいゲームを実現させたい。その結果として協力ゲームを作り続けているということです。

――今回発表会では、「DEN OF WOLVES」は「GTFO」以上に世界観への作り込みを感じました。

ヴィクルンド氏:その通りですね、そう感じていただいて嬉しいです。「DEN OF WOLVES」の舞台、ミッドウェイシティでは幾つもの企業があり、彼等のマーク1つとっても意味を込めて製作しています。

 ミッドウェイシティはアンダーソンのアイディアがまずありました。「隔離された世界とSF」というのが最初のコンセプトです。イメージのソースには「インセプション」や「攻殻機動隊」といった作品があります。

本作のコンセプトアート。ミッドウェイシティは貧富の差が激しい世界だ
企業の製品やマークなど世界観は練り込まれている

 他国から隔絶された島にある都市が舞台というコンセプトは、自由にシナリオや物語の要素が追求できます。このコンセプトはより自由度の高いゲームプレイを可能にしてくれると思っていますし、設定に凝ったゲームシナリオが可能になります。

 ミッドウェイシティの設定は物語やアイディアを限定するものではありません。「ミッドウェイシティだからこういうアイディアを入れよう」、「こういうゲームにしよう」というわけではなく、まずやりたいストリーと、ゲームシステムがあって、それを実現させるため、アメリカの州でありながら企業達によって他の場所とは別のルールが敷かれているミッドウェイシティというところができたのです。

――近未来、企業間の争いという作品では「サイバーパンク」という物語のジャンルがありますが、このイメージを取り入れていないのはどうしてでしょうか?

ヴィクルンド氏:「DEN OF WOLVES」には合わないから、です。ロボットの腕を付ける。派手でカラフルなモヒカンにする。そういうイメージはいわばファンタジーであって、私たちが目指す世界ではありません。私たちはより地に足がついた未来世界を提示していきます。

 1995年の映画「ヒート」という映画は「DEN OF WOLVES」の世界観においてかなり影響を受けた作品であると言えます。あの映画は現代を扱ったものですが、現実的なイメージが本作の世界のベースとなっています。登場人物は現代の企業人と同じように背広を着ていますし、武器も現代の延長上のものです。私たちは「目的のあるSF」と呼んでいますが、世界観にシナリオや物語が引っ張られすぎないように、現実的な要素を意識しています。

――そうなると、例えば高性能な人工眼とか、強力な金属骨格のような人体改造の要素はゲームには盛り込まれないでしょうか?

ヴィクルンド氏:そうですね。ただ自由に想像ができる余地はきちんと盛り込んでいきます。「PAYDAY2」に登場したbomb squad(不発弾処理班)のようなアーマーによって耐久度を上げた兵士や、ロボット兵器、ドローン、スパイダーロボットといった、ゲームを楽しませる近未来兵器やロボットは登場します。

――ゲームシステムにおける新しいチャレンジはありますか?

ヴィクルンド氏:現時点で細かいシステムは話せません。私たちが目指すのはより楽しいゲームプレイ、のめり込めるストーリーテリングとゲームメカニズムです。そして展開するドラマをゲームでいかに制御し、ユーザーに楽しんでもらえるか。こう言った要素を考えてゲームシステムを考えています。現在のゲーム以上の可能性を探っていきます。

 そしてやはりソーシャルですね。マッチングシステムやユーザー同士の交流、ソーシャル要素を私たちのこれまでの作品以上に強化し、より気軽にプレーヤーが交流できる環境を目指していきます。

――例えば最初に提示された目標が大きく変わってしまったり、ステージがゲーム途中でダイナミックに変化するなど、ゲーム中に大きな変化があってユーザーが驚く、といった要素は企画していますか?

ヴィクルンド氏:そうですね、そういう要素は入れていきます。ミッションでは複雑なストーリーを展開していきます。紆余曲折を経たり、裏切りにあったり、物事がもくろみ通りに行かないなど様々な状況を用意し、プレーヤーが忘れられない物語を体験できるようにしていきます。私たちはそういったストーリーテリングが大好きです。「これとこれをチェックしてクリアだ!」と、必ずしも予定通りに展開するとは限りません。ステージに関しても、SF的な要素も盛り込みますし、物理的なダイナミックな変化、仕掛けなども考えています。

 目的が変わったり、状況が変化する場合、ユーザー達が混乱する可能性がありますが、そこはゲームシステムとして明確に目標を提示するので大丈夫です。マップ内の目的地、やることはきちんと提示されるので、ストーリー内でゲーム内キャラクターが混乱するようなことになっても、あくまでプレーヤーの前には明確な目標が提示されていきます。

――今回の発表はまだ限られた情報ではありますが、「特にここに注目して欲しい」というポイントがあれば教えてください。

ヴィクルンド氏:期待してもらいたいのは「私たちが次の強盗ゲームを作る」ということです。私たちは2005年の「ゴーストリコン アドバンスト ウォーファイター」、2007年の「ゴーストリコン ウィークエンド」の開発にも参加しており、その経験を活かして「PAYDAY」シリーズに挑んでいます。

 「PAYDAY」、「PAYDAY2」、そして「GTFO」と協力プレイのゲームを作る中で、開発ノウハウも、経験もユーザーに与えるゲーム体験の方法も学んできました。「DEN OF WOLVES」は我々のゲーム体験の集大成になる。そこを一番に期待していただきたいです。

――今回の協力プレイで、新しいゲームメカニクスのアイディアがあれば、教えてください。

ヴィクルンド氏:もちろんたくさんのアイディアを持っていますが、今は話せないですね(笑)。SF的要素にも期待してください。そしてこれまでの私たちの作品に比べ、進化した要素もあります。「GTFO」では仲間の1人が端末でハッキングをしているとき他のプレーヤーはそれがわからなかったのですが、「DEN OF WOLVES」では他のプレーヤーが何をしているか、リアルタイムで把握できるようにします。

 「GTFO」は面白いゲームになりましたが荒削りな部分があり、改善点も多く感じました。「DEN OF WOLVES」はその反省からよりわかりやすく、楽しいゲームにすべく開発を進めています。

ハードコアな協力プレイを前面に押し出した「GTFO」

 「GTFO」は私たちが作りたい要素を突き詰めたゲームですが、結果としてハードコアになり、敷居が高くなりました。「DEN OF WOLVES」は比べると「GTFO」よりも「PSYDAY2」に寄ったゲームになります。「PAYDAY2」の間口の広さ、協力プレイのしやすさ、というのを意識しています。

――「DEN OF WOLVES」はコンソールへの展開も視野に入れるGAMEとのことで、操作方の改良なども考えていますか?

ヴィクルンド氏:「GTFO」はキーボードでコマンドを打ち込まなくてはいけない要素もありましたからね(笑)。カジュアルな操作性を意識して作っています。

 繰り返しになりますが1人のミスであっという間に全滅するような要素は「GTFO」の大きな魅力ですが、「DEN OF WOLVES」はハードコア志向ではなく「PAYDAY2」で提示した間口の広さ、わいわい協力プレイが楽しめるような方向性を意識していきます。

 メカニクス、ゲームシステム、プレーヤーの感情を揺さぶるようなゲーム展開など、私たちは「GTFO」の開発を通じてたくさん学びました。「DEN OF WOLVES」はその経験を活用し、「PAYDAY2」のような間口が広く多くの人が楽しめるゲームとする。まさに私たちのこれまでの集大成としていきたいと思っています。

ヴィクルンド氏の言葉からは協力プレイへの強い思い入れを感じさせる

 そして何より協力プレイの楽しさですね。1人でやっていたり、場を共有しながら自分勝手にゲームを進めるのではなく、同じ目的に向かって力を合わせると色々なことがうまくいく。この楽しさをきちんと感じられるゲームにしていきます。協力プレイの楽しさ、ここはきちんと大事にしたいと考えています。

――最後に、「DEN OF WOLVES」に期待しているユーザーに向けて、メッセージをお願いします。

ヴィクルンド氏:「DEN OF WOLVES」では次のステップの協力・強盗ゲームです。「GTFO」は日本のプレーヤーがたくさんプレイしてくれました。私たちはそれに驚き、感動し、日本語翻訳を決めました。最初の翻訳はクオリティが低く、もう一度翻訳をしています。私たちはそれだけ日本のプレーヤーに期待しています。「DEN OF WOLVES」をぜひ楽しみにしてください。

――ありがとうございました。

 今回、ゲームの具体的なシステムや仕掛けなどはまだ聞けなかった。ゲームとしてしっかり作り込んでいくのはこれから、というところなのだろう。「GTFO」は2019年のリリース時には、マッチングシステムもなく、セーブポイントがなかったり、チュートリアルもないなどハードコアで作り手の実験的志向がそのまま形になったようなゲームだった。

 その「GTFO」は初心者向けのチュートリアル、少人数プレーヤーを助けるBOTキャラクター、そして日本語を含めた各国のローカライズなど進化を遂げた。「DEN OF WOLVES」はこれらの経験と反省を受け、強盗ゲームとしての楽しさを考えたシステムと、近未来という強い思い入れを感じさせる世界観が実装される。

 得意分野である協力ゲームというジャンルをさらに突きつめる「DEN OF WOLVES」はどのようなものになるか、期待したいところだ。