インタビュー

今の時代にノベルゲームで勝負をするために必要なこととは。「GINKA」開発者インタビュー

あえて「ATRI」を意識した要素や本作が生まれた理由に迫る

【GINKA】

10月26日 発売予定

価格:3,278円

 フロントウイングが10月26日に発売するPC用ノベルゲーム「GINKA(ギンカ)」。

 本作は2020年にANIPLEX.EXEより発売されたノベルゲーム「ATRI-My Dear Moments-(以下「ATRI」)」を手掛けたシナリオライターの紺野アスタ氏と、イラストレーターのゆさの氏が携わる新作タイトルとなっている。制作も同じくフロントウイングが携わっているほか、作中においても海や船が登場するなど「ATRI」を彷彿とさせる要素が多い作品でもある。

 今回はそんな本作を手掛けるシナリオライターの紺野アスタ氏とディレクターのかづや氏にお話を伺った。これまでのフロントウイングとしての歩みや、どのようにして本作の制作がスタートしたのか、美少女ゲームというジャンルが下火になりつつある今の時代にノベルゲームを作る理由についてや、お二人のノベルゲームに対する思いなどを紹介していく。

「ATRI」は2020年にANIPLEX.EXEより発売されたノベルゲーム。紺野アスタ氏とゆさの氏が携わる作品となっている
【『GINKA』あらすじ動画】

「ATRI」があって「GINKA」がある。本作が生まれた理由を語る

――まずはこれまでの携わってきた作品と、本作において手掛けた部分など簡単な自己紹介をお願いします。

かづや氏:フロントウイングには10年以上在籍しておりまして、いちばん有名な作品ですと「グリザイアの果実・迷宮・楽園」にてシナリオライターとして担当しています。そこからディレクターに転身しまして、本作「GINKA」においてもディレクターという立場から作品に携わっております。

紺野アスタ氏:僕はフリーランスのシナリオライターだった期間が長かったです。代表作としては「この大空に、翼をひろげて(PULLTOP)」という作品がありまして、こちらは2012年の「萌えゲーアワード」の大賞を受賞し、PULLTOPさんの方でお仕事をしていました。そのほかにも「向日葵の教会と長い夏休み(ケロQ&枕)」のシナリオを手掛けてきました。

 その後フロントウイングに所属することになり今に至ります。かづやさんとは2020年に配信された「グリザイア クロノスリベリオン(グリクロ)」にてシナリオを担当する形でご一緒させていただきました。

2011年発売の「グリザイアの果実」は複数のシリーズ展開が行なわれている
「この大空に、翼をひろげて」は2012年に発売。Switchでもダウンロード版が販売されている
「向日葵の教会と長い夏休み」は2013年に発売されPSPおよびPS3向けにリリースされた
スマートフォン向けに配信された「グリザイア クロノスリベリオン」はサービス終了となったものの、PC向けに売り切り型として発売されたため今からでも多くのシナリオが楽しめる

――今回の「GINKA」では何を担当されたのでしょうか?

紺野アスタ氏:本作では企画とシナリオを担当しました。企画ってユーザーさんにあんまり重視されてない感じがしますが、けっこう大事なポジションでして「こういうゲームを作りましょう」、「こういうストーリーにしましょう」とかコンセプトやテーマを決め、その企画を会社に通してからシナリオを書き始めます。企画自体はシナリオライターが担当することが多いポジションです。

 単に企画だけを担当するのであれば「こういう作品が売れそうだ」であったり「今こういう作品が流行っている」ということをまとめて形にします。対して、企画とシナリオを同じ人間が担当する利点としては自分がストーリーを書いた際に面白くなるであろうゲームの企画とは何か? というゲームの作り方ができます。特に複数人でシナリオを分担する形ではなく、1人ですべてのシナリオを書く場合には有効で、自分に合わせた企画を自分で作ることができます。

――シナリオもご自身で手掛けることになると、構想も含めて最初の企画の段階から調整できるのですね。

紺野アスタ氏:僕に向いている企画・テーマを自分で選択できるというか、こういう企画のほうが世間では受けるけど自分で書いても面白くならないなと感じる場合、世間受けではそこまでではないけれど自分でシナリオを書いたらこっちのほうが面白くなるなというものを、長年やってきた経験を踏まえて企画にすることができます。ですのでノベルゲームの企画はちょっと特殊な部分もあり、普通のお仕事の企画とは少し違うかもしれません。

――販売もフロントウイングが手掛けていますが、どのような経緯でこのプロジェクトがスタートしたのでしょうか?

かづや氏:昨今、美少女ゲーム業界は苦しい戦いを強いられているのが現状です。そのため、フロントウイングとしてもノベルゲーム以外に目を向けてソーシャルゲームであったり、マンガ原作を手掛けたりと様々な取り組みをしてきました。その中で、ANIPLEX.EXEさんとケロQ&枕さんと我々フロントウイングで制作したノベルゲーム「ATRI」の評判がものすごく良くて、その際に「PC向けのノベルゲームってまだ求められてるし、良いものを作れば買ってもらえるんじゃないか」という明るい希望のようなものが見えました。

 そこで改めてアスタさんがフロントウイングにいるなら次回作を作りましょうという流れで「GINKA」の企画がスタートした形になります。「ATRI」を評価していただいたユーザーさんのおかげで本作を作れることになりました。

 もう少し細かい流れとしてはまず初めにアスタさんがシナリオを担当するのが決まりました。次にゆさのさんという「ATRI」のイラストレーターさんがいらっしゃるんですけども、ゆさのさんとご一緒して再びノベルゲームを作れたら良いなとなり、お声がけしたところご快諾いただき、この座組みができあがりました。

「ATRI」はコミカライズの連載が行なわれているほか、2024年にアニメ化も予定されている

――「ATRI」をプレイしたいちユーザーとしてはANIPLEX.EXEではなくフロントウイングから出るというのが意外に感じていました。

かづや氏:改めて説明いたしますとアスタさんはフロントウイングの所属でして、フロントウイング作品としてアスタさんの新作を作るということは決まっていたんですよ。

紺野アスタ氏:ゆさのさんに今回もイラストレーターを担当していただけたのが幸運だったというか、お断りされていたら他の方を探して別の作品を作っていたのではないかと思います。こちらとしても「ATRI」で手応えがあったので、ゆさのさんにお願いできて本当に良かったです。

――「GINKA」の制作期間はどのくらいになりますか?

かづや氏:アスタさんにお声がけをした構想の段階から約2年ほどのですね。

紺野アスタ氏:ほかの仕事をしながらどういう作品にするのが良いんだろうと練っていました。

――なるほど2020年6月に「ATRI」が発売されてから企画がスタートした形なんですね。シナリオはかなり前の段階で完成していたのでしょうか?

紺野アスタ氏:「グリクロ」など他の仕事もあったため、かなり前に完成していたわけではありません。

 そもそもフロントウイングに所属した直後は会社としてノベルゲームを制作するかどうかが決まっていない状態でした。ほかにも様々な企画があり、会社内で僕がどういう仕事をするのかが決まっていない中で「ATRI」の評判が良かったため、じゃあノベルゲームをもう1度やってみようという話になりました。ですので、結果的にまたノベルゲームが作れてとてもありがたいですね。

コンテンツであふれる現代にノベルゲームをプレイしてもらうため意識したこと

――ここからは作品についてお伺いします。物語のテーマや制作する上で大切にしたことなどがありましたら教えてください。

紺野アスタ氏:今はノベルゲーム自体が主流のジャンルではないのかなと思っています。理由としてはソーシャルゲームが流行っていたり、そもそもPCを持っていない人が昔に比べて増えたのも要因の1つなのかなと。僕らの世代は一家に一台PCがあるのが当たり前で、当時はそれもあってかPCゲームが売れていました。

 あくまでこれは僕個人の意見ですが、今の時代にあえてPC向けのノベルゲームを作るというのはどういうことなのかというと、できるかどうかは別として名作を作ろうというモチベーションでやらなきゃいけないんじゃないかと思っています。名作って作ろうと思って作れるものではないですが、名作になり得る可能性を持つ作品を作らないと、今の時代では厳しいのではないかと考えています。

 これはお金の問題だけでなく、ユーザー1人1人の時間を取り合っているということでもあります。他のゲームを遊ぶ手を止めてもらって、ノベルゲームをプレイしてもらうためには「名作かもしれない」という期待がないとユーザーがプレイするモチベーションに繋がらないんじゃないかと。このゲームをやった価値、つまり時間を割いてノベルゲームをプレイした価値がどれだけのものかと振り返った際に「良いものをプレイしたな」と思えるものが名作に繋がるのかなと。

 普段映画を見ない人が年に数本映画を見るのはなぜかと考えた時、名作だったり、ヒットしていたりと理由があると思いますが、ゲームも同じでプレイする価値のある作品を生み出そうという企画じゃないと作る意味がない。

 うちの会社ではマンガ原作などノベルゲーム以外にも様々な取り組みがあります。その中でノベルゲームは絵に音楽に声にと、制作する上でのコストが掛かる作品でもあります。それをあえて現代にやる意味を考えて取り組んでいます。

ロープライス・ミドルプライス・フルプライスなどノベルゲームには様々な価格帯のタイトルが存在し、作品のボリュームもそれに準拠することが多い。フルプライス作品は価格も8,000円~10,000円ほどでプレイ時間も30時間弱など作品1つに対し多くの時間がかかる

――今作も海や船など「ATRI」を想起させる要素が登場しますが、意図的なものになりますでしょうか?

紺野アスタ氏:「ATRI」をプレイした方に見つけてほしいという意図もありますが、それと関係なく、僕の過去作は海や空などのモチーフを取り入れていることが多いです。青色は映えるし、爽やかで目を引くのもあって取り入れています。また、単純に海辺で育ったということもあって海が好きで入れているというのもありますね。

――水上に立つ鳥居といえば広島県の厳島神社が有名ですが、こちらがモチーフになっているのでしょうか?

紺野アスタ氏:漠然とどこというわけではないですが、海に鳥居が建っているのは神秘的でいいなと思っています。写真を撮るのが好きで海辺に行くことがあるのですが、けっこう海辺に鳥居があることがあるんですよ。海岸の向こうの岩場に鳥居が建っていることがあり、観光地などでもない場所であっても海の上に鳥居があったりして不思議な感じですよね。

広島県の厳島神社だけでなく、神奈川県の箱根神社や千葉県の八坂神社など各地にこのような鳥居が存在する。ゲーム内でも印象的なCGとして登場するようだ

――ゲーム内に選択肢および分岐要素はありますか? また、ご自身のノベルゲームにおけるルート分岐の重要性や思いなどがありましたら教えてください。

紺野アスタ氏:今回は「ATRI」に比べて細かい選択肢が多いです。ストーリーの流れから主人公はこの選択肢を選ぶであろうと思っていても、可能な限りその選択をプレーヤーに委ねたいと思って選択肢を入れています。可能な限りシンクロしてもらい、そこで間違えた場合は間違えたなりのルートに入っていく感じです。分岐が複雑というわけではないですが、選択肢は臨場感に繋がるのではないかと考え、今回は少し多めに入れました。

 物語において最終的にハッピーエンドになるとしても、完全な1本道でその結末に至るのは予定調和感がでてしまう。可能性としてバッドエンドになる結末もこの世界には存在しており、それがストーリーとしてちゃんとユーザーに見せられるとハッピーエンドの尊さが変わるんじゃないかなと。とある作品ではトゥルーエンドに至るためには、バッドエンドを見ないといけない設計にしていますが、だからこそハッピーエンドに行きついた際の喜びが強くなるのではないかと考えています。

 同じ物語であっても可能性を見せられるのがノベルゲームの良いところだと考えてまして、他のエンディングに至る可能性が存在しているか、全く存在していないかでは全然変わってくる。分岐があることの面白さはノベルゲームの魅力のひとつだと考えていますね。

――なるほど、たしかに分岐があるとプレイする際に気が引き締まりますよね。

かづや氏:私はライターの際に藤崎竜太さん(「グリザイア」シリーズなどに携わるシナリオライター)とこちらについて話したことがあるのですが、アスタさんの意見と同じで物語上の重要な分岐点では、わかりきった選択肢でもユーザーに決意をさせるのが大切かなと思っています。ユーザーが主人公にシンクロしてもらうために選択肢というものを入れようという方針で当時はシナリオを手掛けていました。

 加えてシナリオを担当した「グリザイアの果実」ですとヒロイン1人に対しトゥルーエンドとバッドエンドを必ず用意するということが決まっていたりもしたので、ゲームならではの物語の可能性を見せられるという意味で分岐はとても良いんじゃないかなと考えております。

――紺野アスタさんとゆさのさんによるコンビの新作という点が注目要素の1つかと思います。ゆさのさんならではの強みなどはありますか?

かづや氏:ゆさのさんのいいところとしてグラフィッカーもできるイラストレーターさんである点です。そのおかげで本作「GINKA」の色彩設計は「グリザイア」シリーズと比べて立ち絵や背景の塗りが異なる仕上がりになっています。

 また、ディレクターの目線としましては、お互いに同じ作品を手掛けた経験があるため、こういうものを作ってくれるだろうなというイメージがしやすいのがあるのかなと。

簡単に説明するとノベルゲームではイラストレーターは主にキャラクターのイラストやCGの原画を担当し、グラフィッカーはそれらの彩色を手掛けることで作業を分担する

――本作も短く言い切るようなタイトルになっていますが、ここに込めた思いなどはありますでしょうか?

紺野アスタ氏:「ATRI」も「GINKA」もタイトルについては僕が決めたわけじゃないんですよ。ヒロインの名前をゲームのタイトルに付けるというのはライターとして結構プレッシャーで、そのヒロインが受けなかった(人気がでなかった)ときにすごく滑っているような印象を与えてしまいます。

 例えば「ATRI」を例に上げると、メインヒロインであるアトリをタイトルに持ってきているにも関わらず、ユーザーの大半が他のヒロインのほうがかわいいじゃんとなった場合とても残念なので。

 また、僕はヒロイン1人に注力するシナリオというものを今まであまりやってこなかった経緯もあります。多くの美少女ゲームはヒロインが4人とか5人いて、仮にメインヒロインが受けなくても、他の子が人気になれば少し安心できます。実際センターを飾るヒロインの受けが良くないということはあったりもして、僕はそれがすごい嫌なのでセンターの子が絶対受けるように頑張ってシナリオを書くのですが。

 そのため、1人に絞るということはすごいプレッシャーで、シナリオを書く上でその子をどのように作り上げていけばいいのかと考えます。「ATRI」も「GINKA」もこの点についてはとても悩みました。でも、まんべんなく受けるようなキャラクターにすると結局は弱くなっちゃうのでどこか尖らせないといけないんですよ。

――「ATRI」も「GINKA」もメインヒロインは1人ということである意味では責任重大ですね。

紺野アスタ氏:ライター的にはメインヒロイン以外の子が作品の中で1番可愛いと思われてしまうのが嫌なので。他のヒロインの人気が出てメインヒロインがおざなりにされる作品とかあるんですけど、自分で定めたメインヒロインの人気が出てほしいという思いがあります。毎回そう上手くはいかないし、他のヒロインの人気が出たことで良くなった作品もあると思いますが、僕の中ではそういう思いがあります。

――そもそもタイトルはどのように決定されたのでしょうか?

かづや氏:すごいリアルな話をすると、最初は別のタイトル案がありまして、私とアスタさんの間ではそのタイトルで行こうという話をしていました。一方で本作はアスタさんとゆさのさんが関わる作品であるため、2人が手掛けた「ATRI」のユーザーに気づいてもらうためにも短く言い切る「GINKA」としたほうがいいんじゃないかということで、あえて今回もヒロインの名前をタイトルにしています。

紺野アスタ氏:要は僕がこのヒロインにすべてベットするぞと、最初の段階では腹を括れてなかったのかもしれませんね。会社の方からタイトルはやはり「GINKA」で行きましょうと決まり、それで腹を括ることができました。

 今となってはどう考えても本作のタイトルは「GINKA」だなと思えるような内容になっています。

かづや氏:ゲームをプレイしていただければアスタさんの言っていることが多分わかると思います。「ギンカのお話だ!」と。

――なるほど、たしかに「ATRI」を遊んだユーザーに届けたいという意味では複雑なタイトルにするのではなく、今回もヒロインの名前を持ってくるというのがいいのかもしれませんね。

かづや氏:「GINKA」というタイトルにして改めて感じたのは、わかりやすいし通りがいいなとも思っています。タイトルが「◯◯の◯◯」など複雑になると言語ごとに意味合いが変わることがあり、「GINKA」はその部分で英語や中国語など海外向けに展開する際にも伝わりやすいかと思います。

色彩設計にこだわった「GINKA」のグラフィック

――先程カラーフィルターのお話が登場しましたが、ビジュアル面についてのこだわりなどはありますでしょうか?

かづや氏:大きく言うと本作では背景に“時間差分”と呼ばれるものが多くあって、例えば主人公の部屋という背景でも昼・夕・夜など時間の流れを感じていただけるよう、多くの差分を用意しています。

 これとは別にフロントウイングのゲームは時間帯によってカラーフィルターと呼ばれる、画面上に一律で雰囲気を変えるものを適用しています。それも今回は刷新しました。「グリザイア」シリーズなどと並べていただけるとわかるかと思いますが、同じ夜の時間帯でも見え方が大きく変わります。

 また、背景だけではなくキャラクターの立ち絵にもこだわっていまして、声優さんのボイスを聞いてそのイメージに合うように手を加えたりと、調整に調整を重ねています。

こちらのCGにおいても光の入り方などを考えて描かれているという

――制作サイドの事情はあまり詳しくないのですが、あとからかなり調整が入るものなんですね。

かづや氏:フロントウイングのなかでこんなに調整を加えたのは初めてかもしれません。そのくらいグラフィックにはこだわりが詰まっています。

 マジックアワーのカラーリングの、紫色っぽい、ピンク色っぽいとても美しい砂浜にも注目してみてください。

マジックアワーは日没時や日の出前の時間を指し、美しく光が差し込むことから映画や写真の撮影などにも使われる時間帯になっている

――音楽に関しても松本文紀さんが携わっていますが、作詞でこだわった部分などはありますか?

紺野アスタ氏:僕は作詞自体の経験が多いわけではなく、しっかり作詞を手掛けたのは「ATRI」になります。ちゃんとしたプロの作詞家のようにはいかないので、言葉的にはストレートに伝わるように意識し、メロディに乗ったときに気持ちのいい歌詞になるようにしました。

 オープニング曲は静かなメロディからはじまりますが、Bメロの溜め感というか、盛り上がってサビでドーンと来るという構成がドラマチックなので、その溜めて盛り上がる部分にちょうどいい言葉がのるようこだわっています。

――オープニング動画でショートバージョンが披露されていますがいい歌ですよね。

かづや氏:公開されているものはOP用ですが、フルバージョンは既存の曲に比べてちょっと長めです。「ATRI」のオープニング曲と比べても全体の尺が長くて前奏が壮大な曲になっています。

【【OP】『GINKA』/長谷川育美「Star Trail」】
こちらがオープニング楽曲を使った動画。51秒あたりからのBメロの盛り上がりに注目だ

TGSの動画に関する裏話や今後の展開にも言及

――本作についてでもそれ以外でも、今後の展開やこれからやりたいことはありますでしょうか?

かづや氏:そうですね、今回はSteamをはじめとした各種ダウンロード版での販売となりますが、みなさんの応援があれば今後新しい発表ができるかもしれません。

紺野アスタ氏:先程もすこし出てきましたが「GINKA」は「ATRI」のおかげで作れたという経緯があるので、その流れで「GINKA」も売れてくれたら今後も新しいビジュアルノベルを作れると思います。

 「ATRI」を制作する前ですが、実際にそれまでロープライスのノベルゲームってPCゲーム業界的にはそんなに売れないイメージがありました。ロープライス作品で売れているものもありますが、フルプライス作品と比較するとどうしても売れにくく、同じような内容の作品であればフルプライス作品のほうが売りやすいというのが定説としてありました。

 そのため「ATRI」の売上は大丈夫なのかなぁと心配していましたが結果的にはすごく売れて、ユーザーさんの反応が良くて、普段からノベルゲームを購入していないであろうユーザーさんにも買ってもらうことができました。それもあり、ロープライスのノベルゲームの新しい可能性を感じています。

 実際のプレイしやすさという意味では、フルプライスよりもロープライスのボリュームのほうが遊びやすいのかなと。フルプライス作品だからできることもあるため一長一短なのですが、買いやすい値段、作りやすいボリューム、かつちゃんと面白いものにも需要があると感じ、いろいろやりたいなという気持ちになりました。

――そうなんですね。インディーゲームとしては「シロナガス島への帰還(TABINOMICHI)」というアドベンチャーゲームがあるのですが、500円という価格で販売されていたりして安いですよね。

紺野アスタ氏:僕も「シロナガス島への帰還」はプレイしたんですけどめちゃくちゃ面白かったですね。キャラクターもすごい良くて面白かった。そういった作品も含めて重要があるのかなと思っています。

「シロナガス島への帰還」はワンコインで遊べる安さに対してボリューミーな作品になっている。クラウドファンディングが成功を収めSwitch向けにパッケージ版も発売された

――海外の方が日本のノベルゲームを知るきっかけが増えていますよね。

かづや氏:フロントウイングは今Steamに力を入れてますが、Steamの方でもビジュアルノベルフェスを開催してくれていたりと、ビジュアルノベルの可能性はまだまだあるのかなと感じています。

紺野アスタ氏:ストーリーものに対する注目度が盛り返してきているなという印象があります。一時期ノベルゲームに限らずストーリーものに対する食傷気味のようなものを感じていました。その反動なのかわかりませんが、ストーリーを求める人が増えたという印象があってその流れに「ATRI」は乗れたのかなと。

 「GINKA」の反応もすごく良いんですよね。あらすじ動画とかもそうだし、オープニング映像もそうだし、キービジュアルを出したときの反応も良いです。そういうものを求められているということを感じて、やってて楽しいですよね。

――そうなんですね! 個人的には特に東京ゲームショウの開催に合わせて公開された映像が短めの尺ながらも見せ方が上手いなと感じていました

紺野アスタ氏:メッセージ動画内のセリフとして「制作スタッフがすごいのよね~」とありますが、こちらについても僕がシナリオを担当しています。自分で自分のことを褒めるような内容で「これ書いてるの本人なんだよな」と思いながら、開き直って書いてましたけど(笑)。

 とはいえ今回に関しては「ATRI」からの流れで同じスタッフが手掛けているというのもあり、同じ人が書いてるんですよということをアピールするために言わざるを得なかったため、収録現場では結構恥ずかしかったですね(笑)。

【東京ゲームショウ2023公開!『GINKA』ひめ島からのメッセージ動画をお届け】
東京ゲームショウの会場にて公開されていた映像はYouTubeからいつでもチェックできる。ノベルゲームの日常パートを彷彿とさせる映像で、約3分半という短い時間で各キャラクターの個性を見せつつ、ゲームのポイントまで紹介している。必見です!

――声優さんの演技力と相まって面白かったです(笑)。

紺野アスタ氏:声優さんが良いんですよ。めちゃくちゃはまってて。収録も楽しかったです。

かづや氏:実はですね、まだ紹介できていない豪華な声優さんが担当するキャラクターがいまして、是非楽しみにしていてください。

紺野アスタ氏:事前に公表しないキャラクターの声優さんになんでこの方をつかっているんだっていう。

かづや氏:また、このインタビューが公開される頃にはカウントダウン動画が公開されています。これまた面白いので是非ご覧いただければ!

【『GINKA』カウントダウン動画(1/7)】

――発売間近というタイミングですが改めて、振り返った際にここにこだわった、ここに注目してほしいという点はありますか?

紺野アスタ氏:ギンカのかわいさですね。色んな角度からギンカの可愛さを掘り下げたので。あとは夏休みの田舎感や離島で過ごす夏休みの空気感を楽しんでほしいです。

かづや氏:ディレクター的には「グリザイア」シリーズが一旦節目を迎えて、それに負けないというか、新しい看板を作るぞ! という気持ちで色彩設計から全部を一新した肝いりのタイトルです。初めてノベルゲームをプレイする方や、フロントウイングの作品を遊んだことがない人も是非1度遊んでいただけたら嬉しいなと。そういう意気込みで作っています。

「グリザイア」シリーズは「グリザイア ファントムトリガー」のVol.8が2022年2月25日、「グリザイア クロノスリベリオン」が今年の4月28日に発売され一区切りがついた形となっている

紺野アスタ氏:フロントウイングのスタッフさんからするとごく当たり前なのかもしれませんが、フロントウイングはノベルゲームを作る技術がものすごく高くて、グラフィックもきれいだし、演出も凝っています。当たり前のことのようにやっていますが、あとからこの会社に入った身としては、同じことができるメーカーがいくつあるんだと感じます。

 ソーシャルゲームやマンガといったコンテンツづくりをやっていますが、僕はノベルゲーム制作におけるノウハウを使わないのはもったいないと思っていました。これだけのものを作れるこの技術を何か活かせないんだろうかという思いがあり、それが「ATRI」だったり「GINKA」になっているので見てほしいです。

――最後に発売に向けての意気込みをお聞かせください。

かづや氏:発売日は決まっているので、もうあとはどれだけ完成度を上げられるかというところで、今もスクリプト演出やグラフィックを直したりして、少しでもいいものをお届けしようと頑張っています。本当に期待していただければ幸いです。

紺野アスタ氏:僕としてはもうシナリオも終わって、音声収録も終わって、あとはデバックを手伝うだけというタイミングなので少し気楽ですが、それだけにシナリオ以外のパーツパーツも良くできているので早く遊んでほしいなと思っています。

――発売前の大変お忙しい時期にも関わらずインタビューをお引き受けいただきありがとうございました!

 昨今はソーシャルゲームや無料でマンガが読めるWebサイト、各種サブスクリプションサービスなどあらゆるコンテンツが低価格または無料で楽しめる時代だ。あらゆるコンテンツが生み出されるこの時代にあえてノベルゲームで勝負をしたいという気概を感じる内容だった。そんなフロントウイングスタッフの想いが詰まったノベルゲーム「GINKA」は10月26日発売だ。

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