インタビュー

「VRの技術の蓄積は使い手も進化させている」、SIEワールドワイド・スタジオ プレジデント吉田修平氏インタビュー

 プレイステーション4向けに限らず、全てのゲーム、VRコンテンツの最高峰、最先端を提示し続けているのがSIEワールドワイド・スタジオであり、そのリーダーである吉田修平氏である。今回も吉田氏にインタビューを行ない、取り組みや今後の展望を聞いた。

 お話を聞いて思うのは、吉田氏のVRへの強い思いである。従来のTVゲームを越える可能性、その方法の1つであるVRは今どのように進化しているのか、作り手としての想いを聞いた。また、気になる「The Last of Us Part II」や「Ghost of Tsushima」に関しての情報なども質問した。吉田氏の想い、今後の活動などにもフォーカスしたい。

VR技術の蓄積と進化が感じられる「マーベルアイアンマン VR」

 まず最初に質問したのは、「今年のPlayStationブースについて」。吉田氏は、「とても良いと思います」という感想を持ったという。映像でのインパクトがある「DEATH STRANDING」はシアターを構え、色々なタイトルの試遊台をたくさん用意し、VRの試遊台も数多く用意している。ユニークなタイトルがキチンと出せたと吉田氏は語った。

SIEワールドワイド・スタジオ プレジデント吉田修平氏

 今回筆者はこのVR試遊コーナーでいくつかのタイトルを触ったが、感じたのが「これまで以上にプレイしている人の姿が楽しい」ということだ。「マーベルアイアンマン VR」のアイアンマンになりきっている感じ。「アッシュと魔法の筆」の自由に世界に絵を描く姿、「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」で、キレキレのダンスを決めるプレーヤー。時にはゲーム画面以上に、プレイしている人達の姿が面白そうで、VRゲームが一層魅力的に見えた。

 筆者の気持ちを語ると吉田氏は「今回の超一押しは『マーベルアイアンマン VR』です」と語った。「あれは、スゴイですよ」と言葉に力を込め吉田氏は魅力を紹介してくれた。「マーベルアイアンマン VR」はデベロッパーからの強い希望で実現したタイトルで、まさにアイアンマンらしいゲームに仕上がったとのこと。

 「アイアンマンの手から炎(リパルサー・ジェット)を吹き出して飛ぶじゃないですか。PlayStation Move モーションコントローラー(PS Move)を両手に持って、下に向けてトリガーを引くことで飛ぶんですよ。この飛行がすごく自然で、アイアンマンになりきれます」。体験できたステージは映画でおなじみのトニーのラボがある崖沿いの場所。「マーベルアイアンマン VR」では箱庭世界としてここを自由に飛び回れる。

 VRは酔いの心配があることで知られ、またヘッドセットはケーブル接続なため、動き回らないようにPS VRは椅子に座ったプレイを推奨するゲームが多い。しかし本作はプレーヤー自身が身体を回転させ、色々動き回ってプレイするのを可能にしている。「安全面を考えてプレイしましょう、と僕たちは言っていますが、『マーベルアイアンマン VR』は立って、ぐるぐる回って楽しめる。これはデベロッパーのチャレンジなんです。それは開発側だけでなく、使い手も慣れてきた、ということなんだと思っています」と吉田氏は語った。

吉田氏超オススメの「マーベルアイアンマン VR」

 VR酔いを防ぐために考えられた移動法の1つが「ワープ」。移動ポイントを釣り糸を垂れるように指定し、PS Moveやコントローラーのボタンで移動する。しかし現在のタイトルでは、通常のゲームの様にコントローラで移動したり、「マーベルアイアンマン VR」ではPS Moveでジェットの噴出方向を変えて移動できる。もちろんユーザーの選択肢の1つで、それが強制ではないタイトルが多いが、通常のゲームの様な自在な移動ができるタイトルも増えている。これはユーザーの“慣れ”によるもの、そして何よりユーザーが望んだからこそ実現していると吉田氏は指摘した。デベロッパーの進化、ユーザーの進化を確かに感じている。

 「今後ハードウェアが進化することで、VR体験はよりよくなると思います」と吉田氏は語った。「VRは長くゲームを作っている会社でも学ぶことがすごく多い。それをVRを始めてすぐに気がつきました。これまでの普通のTVゲームではできなかったことができるので新しく学ばなきゃいけない。しかし一方で危険に対するガイドラインは多くしなくてはならなかった。しかしデベロッパーさんの工夫でやり方が見えてきました。人間の能力はどうなっているのか、VRはそういうことも考えさせられます。そして3年間、そういった知見は高まっています」と吉田氏は語った。

 VRの面白さを感じさせられるのは「アッシュと魔法の筆」のVRモードだ。実はVRモードはゲームの開発時にはなく、ゲームの魅力的なビジュアルをVRにすれば一層楽しくできるだろうという思いで、VRチームを“追加”したのだという。VRチームはVRコンテンツだけを作るという構成でコンテンツを作った。ゲームのライブラリやリソースを使い、VR専用のコンテンツを作るようにしたのだという。

「アッシュと魔法の筆」

 「アッシュと魔法の筆」のVRモードでは最初はゲーム内と同じように壁に絵を描いていくのだが、3D空間に自由に絵が描けるようになる、VRチームならではのこだわりの楽しさを提供してくれる。ゲーム内の大事な仲間である“かいぶつ”も目の前で実在感を持って動く。ゲームの世界に実際に入ることができればこういう見え方、ふれあいができるのではないか、という体験をもたらしてくれるコンテンツだと吉田氏は語った。

ユーザーに向けて、情報と体験を届けたい

 一方で筆者が気になったとのは「The Last of Us Part II」「Ghost of Tsushima」が出展されなかったこと。E3ではSIEそのものが出展しなかったため、筆者自身は「今回も見れなかった」という思いがあった。それを伝えると吉田氏は「試遊バージョンを作るというのも開発チームにとっては大変になる」と答えた。

 ただ、「The Last of Us Part II」に関してはこれまであえて情報を出すのを抑えていたが、今後もう少し情報を出していこうと思っているとのことだ。「Ghost of Tsushima」に関しては開発は順調であり、こちらの情報も今後楽しみに待って欲しいと吉田氏は語った。

「The Last of Us Part II」
「Ghost of Tsushima」

 そして全くの新作として「Predator:Hunting Grounds(仮)」が発表された。こちらはプレデター対人間の非対称の対戦アクションである。吉田氏は本作に対し「すごく楽しい」という。特に日本のユーザーには非対称の対戦アクションが受けるのではないかと期待している。

 「Dead by Daylight」や「第5人格」といったタイトルの日本のユーザーの好反応から見て、「Predator:Hunting Grounds(仮)」も同じように受け入れられる予感がある。「巨大な敵に立ち向かう、協力して敵に立ち向かうというところが日本のプレーヤーに受けているんじゃないかと思います」とのことだ。

「Predator:Hunting Grounds(仮)」

 また、中国デベロッパーと共同開発した「MONKEY KING: ヒーロー・イズ・バック」に関しても質問してみた。こちらはSIEワールドワイド・スタジオではなく、China Hero Projectを進める部署の仕事であるということを提示した上で吉田氏は、SIE全体としての戦略を解説してくれた。中国はPCとモバイルが大きな市場だが、若い人にはコンシューマーに慣れ親しんでいる人もいる。そしてそういう人達が今や大人になり、自分達の技術をコンシューマ市場に活かしたいと思う人達もいる。China Hero Projectは彼らを支援するための活動である。そのクオリティが上がっていると言うことも吉田氏も感じているとのこと。

「MONKEY KING: ヒーロー・イズ・バック」

 Naughty Dogを始めSIEワールドワイド・スタジオのスタジオもアジアの開発会社と仕事をしている。しかしそれらはマップを指示通り作るなどいわば下請けの仕事だ。China Hero Projectはそうではなく、アジアオリジナルIPや、オリジナルタイトルを作ろうという活動であり、アジアのクリエイターを育てていこうという戦略だ。

 新しいクリエイターの支援を他部署が行なっている一方で、SIEワールドワイド・スタジオはそういった活動ではなく、参加するデベロッパーと共に、最先端、最高峰を提示し、ゲームの本質を問いかけ、ハイエンドを目指し、最新の技術を活用したい、という思いこそが根幹であると吉田氏は語った。これから成長していくクリエイター達の目標になるようなタイトルを出していきたいという。

様々な質問に答えていただいた

 「SIEワールドワイド・スタジオという名前も、パブリッシャーとして本格的にゲームを作り、展開していく役割を担うスタジオで、日米欧のデベロッパーが参加しているというのは、世界でも珍しいと思います。今後私達にアジアのデベロッパーが参加する可能性もある。そうなったときに、アジア市場に向けてゲームを作る、ということも考えていくのも面白いかな、と思い始めているところです」と吉田氏は語った。

 さらに、こちらも厳密には吉田氏の役割ではないのだが、「SIEの情報提示戦略」にも質問させていただいた。やはりE3にSIEが出展を行なわなかったことは筆者にとって驚きだった。「今後何か大きなイベントでの情報提示の予定はあるか?」という質問をしたのだが、吉田氏は「ユーザーに情報を届けるという姿勢で情報提示を行なっていきたい」と答えた。キーワードの1つが“ユーザー向け”である。E3はゲーム関係者、流通向けのイベントである。しかし今は、ストリーミングの方が会場に訪れる人よりもっと多くの人に情報を届けられるのではないかという思いを持っているという。

 日本でのイベント、欧米向けのイベントといったわけかたではなく、前提としているのは「グローバル」だ。ストリーミングを行えば、世界同時に情報を公開できる。「各地域向けに情報をお披露目する、そういう活動は減っていくかもしれません」と吉田氏は語った。ストリーミングでは何百万人の人に瞬時に情報が届けられる。その需要はどんどん増しているという。ただ、VRなどのゲームの感触を届けることも重視しており、今後もユーザー向けのイベントは行なっていきたいという。メディア向け、関係者向けではなく、ユーザーにきちんと届けたい、そういう傾向は今後より明確になっていくとのことだ。

 TGSに来るユーザーに向けてメッセージを、とお願いすると吉田氏は「毎回混雑してしまいますが、タイトルの試遊は事前予約なので、予約ができた方はしっかり遊んでいただけると思います。今回初めてプレイアブルになるタイトルもたくさんあります。チャンスがあれば、是非遊んでみて下さい」と語った。

 改めて吉田氏の「VRへの期待」を聞くことができたと思う。新しい体験をもたらすVRはまだまだ発展していくジャンルである。吉田氏はその進化の最先端で、さらに新しい何かを提示しようとしている。その予感がある。SIEワールドワイド・スタジオの全てのタイトルに強い期待があるが、特にVRの新しい地平、それを見たいと感じさせられた。