インタビュー

「オーバーウォッチ」ディレクターJeff Kaplan氏合同インタビュー

新ヒーロー「アッシュ」実装秘話や、ビューアやOWリーグの今後について聞いた

11月2日、3日開催

会場:Anaheim Convention Center

 BlizzCon 2018で、「オーバーウォッチ」は恒例となっている新ヒーローの発表を行なった。今回発表されたのは、スナイパータイプのDPSアッシュ。西部劇のイメージを体現するマクリーと好対照の新キャラクターで、オムニックのB.O.Bを召喚するという「オーバーウォッチ」ならではのアルティメットを備える。BlizzConでは「オーバーウォッチ」の生みの親であるJeff Kaplan氏にインタビューすることができた。

 合同インタビューなので話が飛び飛びになってしまっているが、筆者が特に掘り下げたのは「Overwatch World Cup ビューア」とオーバーウォッチリーグの今後の展開について。現在はPC版限定サービスとなっている「Overwatch World Cup ビューア」だが、将来的にはゲームクライアントに統合され、コンソール版でも利用が可能になるようだ。

【オープニングセレモニー】
オープニングセレモニーで発表を行なうJeff Kaplan氏

新ヒーロー「アッシュ」、新短編アニメ「リユニオン」について

【新ヒーロー、アッシュ登場! | オーバーウォッチ】

――新ヒーローのアッシュは非常に魅力的なキャラクターだと感じた。今回スナイパーを追加した理由は?

開発チームの中で話し合い、ユーザーからのフィードバックを受けたところ、ウェポンベースのキャラクター、アビリティではなく武器をメインに運用するヒーローを欲しがっている。たとえば、ドゥームフェスト、モイラなどは武器ではなく、アビリティの組み合わせで戦って行くヒーローであり、言い換えれば格闘ゲームに登場するヒーローのような感じだが、そうではなくウェポンベースのヒーローを欲しがっていると感じたので追加した。マクリーが中距離、ウィドウメイカーは長距離、アッシュはその中間に位置する。

 アッシュがこれまでのヒーローと異なる点は、短編アニメに存在していて、そこからプレイアブルキャラクターに移行したことで、最初からレバーアクションのライフルを使うことは決まっていて、その設定を活かすためにはプロジェクタイルではなくヒットスキャンの方がよく合うのではないかと考えた。ハンゾーなどの既存キャラクターとの差別化ではなく、彼女のキャラクターからどのようなヒーローにするかデザインしていった形になる。

質問に答えるKaplan氏

――アニメーションでマクリーと再会していたが、喧嘩別れしたようにも見えるし、写真があるところは男女の関係のようにも思えるが、どういう関係なのか?

今はまだあまり語れないが、2人の関係は今後明らかになってくる。アッシュはマクリーよりも年長で39歳。彼女がデッドロックギャングのリーダーであり創設者。初めてアッシュとマクリーが会った時は、マクリーはまだ若かったので、2人の関係はあったのかというとないというか、まだ言えないが、楽しみにして頂ければと思う。過去に2人の間でいざこざがあり、今後そういった部分も明らかにしていければと考えている。確実に言えるのは、ゲーム内のヒーロー同士の掛け合いを通して、ふたりの関係性が明らかになるということで、それ以外にもコミックやアニメーションを通じて、ヒーロー達の物語を伝えることを楽しみにしている。

【短編アニメーション「REUNION」 | オーバーウォッチ】

――今回公開された短編アニメ「リユニオン」はそれなりに長いトレーラーで濃厚なストーリー性を盛り込んだ内容になっているが、このアニメーションに込めたメッセージは何か?

とても良い質問。3つあって、1つは開発陣が幼少期から見ていたマカロニウェスタンへのオマージュ。マクリーという西部劇のヒーローが居る中で、西部劇をリスペクトした作品を作りたかった。デッドロックギャングという名前は出ていたが、詳しく語られることはなかったので、そこのバックストーリーをお伝えしたかった。

 またシネマティックの中でウィンストンのリコールがあって、オーバーウォッチは解散していたが、彼がヒーローを必要としているということで、エージェント達に対して再結成しようじゃないかというメッセージを出すのだが、メイとかはそれを受け取って、悲しい過去がありつつも、オーバーウォッチに戻ってきてという経緯があるなかで、マクリーもメッセージを受け取っていて、彼の場合は、彼自身がオーバーウォッチに戻るのではなくて、最後に出てきたエコーという女性ヒーローを解放し、エコーをオーバーウォッチに戻すことが最善というのがマクリーの考え。マクリーは野暮用があるということでさっていくが、エコーを解放することが、リコールへの返事ということを皆さんにお伝えしたかった。

――エコーはアテナとは別人なのか?

その通り。興味深いストーリーがあって、エコーとアテナは共にAIのヒーローだが別人。エコーは2014年ぐらいにリードアーティストが描いたコンセプトアートですでに公開されていて、その胸にはアテナのロゴがあった。別バージョンには別のロゴが入ったりしていたんだが、それは単に空間を埋めるためにロゴをいれただけで、皆さんはすっかり忘れていたんだが、ファンの方は覚えていたんだ(笑)。それで「これがアテナだ」と一部で勘違いされてしまったんだが、実は別人だ。

【エコー】

――オムニックのB.O.Bについて教えて欲しい。

まず世界観をつくるにあたって、「オーバーウォッチ」は未来の話なので、たとえばアッシュはステレオタイプなウェスタンだが、そうした中で「オーバーウォッチ」独自の未来感を演出するためにオムニックを用いて、その対比を浮き彫りにすることがおもしろいと感じた。また、「オーバーウォッチ」にとってオムニックは重要な要素で、ゲーム世界では人類対オムニックの対立が再激化していて、今後抗争を少しずつ描いていく上で、あえてオムニックをストーリーに追加しようとしている。

――B.O.Bはプレイアブルキャラクターにならないのか? PvEで操作できるようにならないのか?

良いアイデアだと思う。もしかしたら将来的にPvEのプレイアブルキャラとして実装される可能性はある。ただ、「リユニオン」で一番重要なキャラクターはアッシュで、2人のアーティストが、彼女をどういうヒーローにするかデザインする中で、2人の共通点がB.O.Bをアルティメットで召喚するというアイデアだったんだ。今のところはアルティメットとして呼ぶのがおもしろいんじゃないかということでアルティメットに留まっている。彼らアーティストにとって新しいヒーローを作り出すのは楽しい作業なので、リユニオンの中にも色んなキャラクターが登場しているが、各キャラクターをプレイアブルキャラクターとして実装するとすればどんなヒーローになるか常に考えながら開発を行なっている。

ユニークな二人三脚ヒーローで、アルティメットを使うのが楽しみなキャラクターといえる

――B.O.Bのバックストーリーを教えて欲しい

マイケル・チュー(「オーバーウォッチ」リードライター)がインタビューで語っていたが、B.O.Bは名前ではなく、“ビッグ・オムニック・バトラー”の略ということはあまり知られていない。ストーリーを見てわかったとおもうが、アッシュは裕福な家庭に生まれたが、両親には放置されていて、誕生日会を開いても両親はいない代わりに常にB.O.Bがいて、警察のお世話になったときもB.O.Bが迎えに来たぐらいで常にアッシュの支えになっているキャラクター。主従関係なのでアッシュは命令口調で、お願いではなく命令するという関係になっている。

――B.O.Bはアッシュに付き合わされて悪ぶっているところがおもしろい。

B.O.Bは一切喋らないが、実はやりたくないと思っているかも知れない(笑)。基本的には命令に忠実に動く、たとえばアッシュが消防士や宇宙飛行士になろうとおもったら、常にそばにいて一緒に消防士や宇宙飛行士になっていた

――アッシュはいつPTR(パブリックテスト環境)に入るのか?

早ければ来週月曜に実装したいと考えている。PTRの性質上、色んな問題がある可能性もあるが、できるだけ早いタイミングで実装したいと考えている。

「Overwatch World Cup ビューア」について

【Overwatch World Cup ビューア】

――「Overwatch World Cup ビューア」はeスポーツ観戦をする上でとても便利なツールだが、これはどういう経緯で開発されたものなのか? 将来的に「オーバーウォッチリーグ」にも対応するのか?

「Overwatch World Cup ビューア」はeスポーツの発展のためにとてもエキサイティングなフィーチャーを盛り込んでいて、見た目はひとつの機能だが、実際には2つの機能を含んでいる。

1つは、マスペクテーティング(大勢による観戦機能)。これまではカスタムゲームで観戦者を入れることはできたが、マッチメイクもスペクテーターも一緒だったので最大4人までしか入れることができなかった。今回は“マスペクテーティング”ということで、より大勢の人が同時に視聴することが可能となった。「オーバーウォッチリーグ」への対応に関しては現段階では明言できないが、海外ではストリーマーも大勢の視聴者がいるが、ビューアーを通じて、同じようにマッチを観て貰うこともできるようになった。

2つ目はインスタントリプレイ。私は昨日はずっとメディアの対応をしていてワールドカップを生で見れなかったが、これまでだと公式のアーカイブを見る必要があったが、今ならビューアのインスタントリプレイで観戦できる。カメラを自分で動かして好きな視点で見ることができるし、早送りして飛ばすこともできるし、私自身が尊敬しているプレーヤーの視点で見たりできるところが優秀な点だと思う。今はワールカップ限定だが、将来的に「オーバーウォッチ」の全プレイでこの機能を使うことができれば、ある日の対戦で、敵のウィドウメーカーにコテンパンにされたら、そのウィドウメーカーの視点で見直して研究することができるようになる。そう言う未来が来ればいいなと考えている。

好きな視点から試合を眺めることができる

――リプレイデータは、どういう構造になっているのか? 特に大きなデータをダウンロードした形跡もなく、すぐ見ることができて驚いたが。

ビューアは動画データをダウンロードするのではなくて、マッチそのもののデータ、マッチのプレーヤーのポジションを保存したデータをダウンロードして、それをゲームクライアントに読みこませているので大容量のデータを必要としない。現在は別のクライアントになっているが、将来的には1つのゲームクライアントにビューア機能も統合したいと考えているし、コンソール版にも対応したいと考えていて、今エンジニアが頑張って開発している。ビューア自体は、発足したときから開発を続けていて、フィル・オーリックが手がけている。

ちなみにワールドカップビューアは、ライブバージョンと少し違っていて、ワールドカップは古いバージョンが使われている。なぜ別クライアントなのかというと、ライブバージョンで、ワールドカップのデータを再現しようとすると不具合が出る。細かい要素が微妙に違うため、今は別クライアントを立てているが、その辺が改善されれば将来的にはゲームクライアントだけでリプレイが再生できるようにしたいと考えている

――「Call of Duty Black Ops 4」にも似た機能があるが、eスポーツをよりよく観て貰うためだとすれば、もっと早いタイミングで出して欲しかった。

わかっている。このタイミングになったのはまったくの偶然。開発の中ではマイルストーンを作っていて、このタイミングでビューアを入れたのかというと、認知度の低い試合などで一般ユーザー向けに実装するより、ワールドカップのような大きなイベントで実装することで、より多くのフィードバックを貰えると考えた。ちなみにキルカメラは、「COD」でインスピレーションを受けて作ったもの。実際、treyarchが「CODBO4」を開発する前からずっと話をしていて、両社で親密な情報交換を続けている。

Nキーでメニューを呼び出すことができ、早送り巻き戻しも自由自在だ

オーバーウォッチリーグ、その他の話題について

「オーバーウォッチリーグ」シーズン1は8月をもって全工程が終了し、公式サイトではワールドカップの模様がミラー中継されている

――オーバーウォッチリーグのファーストシーズンの総括とネクストシーズンの抱負を聞かせて欲しい。

シーズン1については大成功を収めることができて誇りに思っている。Blizzardが自ら主催運営するリーグを、12チームで1シーズン運営できたことは光栄なこと。チームの皆さんもコーチやサポートを呼ぶなど協力してくれて、おかげで良いシーズンを成し遂げることができた。視聴の観点からはストリームの生中継、現地応援も多く、グランドファイナルをニューヨークのブルックリンで実施したが、2日間ソールドアウトで、大成功だった。

シーズン2は8つのチームが追加されることが楽しみで、Blizzardの運営スタッフや、チームのスタッフもシーズン1を経験したことで、土台を築けたと思う。シーズン1の経験をシーズン2に活かすことで更なる成功を目指せるのではないかと思っている。

――来シーズンは新たに8チームが参加し、全20チームになることが発表されたが、今後も増える可能性はあるか?

今のところこれ以上増える予定はない。8チーム増やしただけで冒険的な施策だったので。

――中国だけで4チームもいるが、韓国も含めて、アジアディビジョンを新設する予定は?

その考えはない。基本的にはグローバルで1つのディビジョンを構成していて、プレーヤーを地域でロックしたくない。世界で競えるようにしたい。移動距離は問題で、今は南カリフォルニアでほとんどの試合を行なっているが、アジアは大変なので、リーグが成長すれば、アジア内でのマッチが増えることはありえる話だと思う。ただ、あくまでリーグとしてはグローバルで1つだ。

――キャラクター同士の掛け合いにおいて、過去のストーリーが語られることが多いが、そろそろ彼らが新しい物語を作る姿が見たいのだが?

やりたいことは満載で、色々予定はしているが、未来にヒーローがどのような物語を展開するかは伝えるべき。リユニオンの短編アニメでも、ウィンストンのリコールや、エコーという新ヒーローなどのエピソードを披露したが、ウィンストンの呼びかけに応じたキャラクター達の物語について触れ始めている段階なので、ぜひ今後の発表に期待して欲しい。

――ピンクマーシーのような取り組みはとても良かった。今後も別の形で続けていくのか?

開発スタッフの家族の中でも乳がんを患ってしまった方がいて、「オーバーウォッチ」を通じて乳がんに対する認知度をあげるのと、乳がんの撲滅に向けてチャリティをやることで何かを変えたかった。BCRFを採用したのは、自身で調査をして乳がん撲滅に対して一番大きな団体だから。ピンクマーシーを通じて「オーバーウォッチ」コミュニティの力を感じたので、今後別の形で施策をやるかもしれない。ただ、どういう形がベストなのかは常に考えていきたい。

【【マーシー用スキン「ピンク」 | BCRFへの支援 | オーバーウォッチ】】
ピンクマーシースキンを始めとしたチャリティの売上総額が1270万ドル(約140クエン)に達したことで話題を集めた