インタビュー

「デビル メイ クライ5」開発者インタビュー

キーマン3人が目指す「DMC」のアクションとは

2019年3月8日 発売予定

価格:

パッケージ版 6,990円(税別)

ダウンロード版 6,480円(税別)

CEROレーティング:D(17才以上対象)

 カプコンが2019年3月8日に発売する「デビル メイ クライ 5」。E3 2018で電撃的に発表されると、8月のドイツ・gamescom 2018では初のプレイアブル出展、そして東京ゲームショウ2018(TGS)ではついに日本で初めて本作を体験できる機会が設けられる。

 TGSでプレイできるのはgamescom版をベースに、日本語化とさらなる要素を盛り込んだネロ編だ。なにせ約10年ぶりの新作なのだから、どんな手触りになのか気になっている往年のファンも多いだろう。

 弊誌ではTGSに先駆けてダンテの試遊も行なっており、その模様はレポートとしてお伝えしているが、今回のインタビューではそれを踏まえて、ディレクターの伊津野英昭氏とプロデューサーを務める岡部眞輝氏、マシュー・ウォーカー氏にダンテの魅力、そしてTGSでの注目ポイントなどを伺った。発売を楽しみにしている人もぜひ読み進めてほしい。

左からマシュー・ウォーカー氏、伊津野英昭氏、岡部眞輝氏

初期のアイディアがついに実現した新武器「キャバリエーレ」

――TGSでは「DMC5」のプレイアブルデモが出展されますが、操作感覚などに前作からの違いはあるのでしょうか。

伊津野氏:僕は「デビル メイ クライ 4 スペシャルエディション」にも携わっていたので3年ぶりの開発だったんですけど、一般的には前作から10年ぶりの新作と、かなり期間が空いていますよね。だからまずは、この10年間でトレンドになった“痒いところに手が届く感”は全部取り入れようと考えました。大幅に刷新したというより、細かいところの調整を重視したイメージです。

 あとはグラフィックスもハードが変わったことでよりリアルになり、これもアクションに影響を与えています。とことん実写化を突き詰めた一方で、アクション部分を非現実的な動きにすると違和感が出てきてしまうんですよね。グラフィックとアクションが乖離することを、僕は「アクションの不気味の谷」と呼んでいるんですけど、開発途中にはまさにそんな不気味の谷が出てきたときがありました。そこで、実写化に耐えられるモーションのつなぎを実装しつつ、操作感覚を前作より良くする、というコンセプトで進めました。この2つは相反することですけど、力技でねじ伏せることが大きな目標としてありました。

――プレイステーション 4やXbox Oneといった、いわゆる現世代機だからできたことというと、具体的になにかありますか?

伊津野氏:今回から新しいエンジン「RE ENGINE」を使いまして、一見するだけだと実写に見える表現は上手くいきましたね。また、膨大なメモリ量があるおかげで大量の「デビルブレイカー」を自由に使いこなせるのも、過去のハードでは実現しなかったことだと思います。

ウォーカー氏:カプコンは前世代機だと物理レベルのレンダリングを実装できず、「RE ENGINE」でようやくフィジカルレンダリングが実現できました。あとは自然なフェイシャルアニメーションができたことも現世代機ならではだと思います。

伊津野氏:それっぽいことは前世代機でもやってたんですけど、割と力技でしたね。今回はちゃんとモデルを変形させて、ごまかしではなく真正面から写実的なCGが作れたと思います。

――やはりグラフィックの方向性はフォトリアルしかなかったんでしょうか?

伊津野氏:フォトリアルでいくと、地域性による好みのバラつきが抑えられるんです。アニメ調だったり別の表現だと作家性が問われ、地域による好き嫌いもはっきり変わってきます。「DMC」は世界中にファンがいるタイトルですから、方向性としては間違ってないかなと。

岡部氏:実際、アメリカのE3、ドイツのgamescomで披露してきまして、どちらの地域でも思った以上の評価をいただけました。僕たちが格好いいと思っていたところを、思っていたとおりの感想を抱いてくれたのは嬉しかったですね。それと僕が1番嬉しかったのは「ニコが超かわいい」と言ってくれたことです(笑)。

――10年ぶりの新作となると、シリーズを知らない若い世代からの反響も気になるところです。

伊津野氏:少なくとも海外では若いゲームファンも楽しそうにプレイしてくれました。あとはTGSでどんな反応が待っているか、楽しみにしているところです。

岡部氏:シリーズを知らない人ほど、今回のグラフィックスをすんなり受け入れている感じがします。

――前作から10年の間で温めていたアイディアはあったのですか?

伊津野氏:ダンテの武器のひとつ「キャバリエーレ」は前作どころか「DMC2」のころからあったネタです。バイクをそのまま武器にするアイディアで、「DMC2」のころは乗って移動するだけ、「DMC3」ではイベントシーンで武器として扱うだけでした。当時からプレーヤーが使えるように努力をしたんですけど実現しなくて、15年以上の時間をかけて、ようやく実現にこぎつけました。「DMC2」では本当に企画書をプログラマーに渡すところまで行ったくらい、憧れのバイク武器だったんです。

ウォーカー氏:キャバリエーレは感覚的にも本当に新鮮ですよね。乗って攻撃するだけでなく、パカっと2つに分かれてチェーンソーになったり。操作感も重厚感があって、良い意味で異質なんです。


満を持して武器として登場するバイク「キャバリエーレ」

――重厚感というのは最初から意識していたポイントなのでしょうか。

伊津野氏:武器の見た目という点ではいつも“憧れ”から入るんですよ。見ていて格好いいと思える見た目ですね。それをゲームに実装するとなると、使い分ける意味を持たせないと面白くありません。ガワだけ変わって効果が同じでは意味がありませんからね。そしてキャバリエーレを入れる意味になったのが、重厚感だったというわけです。しかしキャバリエーレはいろいろと苦労しましたよね。「武器切り替えるときどこにしまうねん!」て(笑)。

岡部氏:背中に背負うなんていう案も最初はありましたね。でも最終的に、美しく消える方法に落ち着きました。

ウォーカー氏:そういえば、実際にバイクを背負うダンテを作っている時期もありましたね。

――それも少し見てみたいですね(笑)。ダンテといえば4種類のスタイルも存在しますが、こちらはどのような使い分けを想定していますか?

伊津野氏:単純に考えると、スタイルによってBボタン、もしくは○ボタンの使い方が変化するというものです。近距離と遠距離攻撃は共通してある中で、もう一手をどうするかをプレーヤー側で選択できるんです。ただの回避だと避けきれない敵に対して、回避重視の「トリックスター」にしたり、ステージごとや敵ごとに使い分けるといいと思います。慣れてきたら、敵の行動ごとに切り替えることにも挑戦してもらいたいです。

――バトルの演出、エフェクトでこだわった点は?

伊津野氏:フォトリアルなゲームの難しいところで、この世にフォトリアルな魔術エフェクトなんてひとつもないんですよ。だけど考え方によっては、実写と派手なエフェクトの融合はハリウッド映画でいくらでもやっていることです。だからフォトリアルであっても遠慮せず、エフェクトだけはファンタジーに仕上げました。今回はフォトモードも搭載していますので、どの一瞬を切り取っても絵になるように、こだわりを持って作り上げました。


フォトリアルとエフェクトの融合。フォトモードも楽しめそうだ

――フォトモードも搭載するということは、今まで見えなかったところまで造り込まなければいけないですからね。

伊津野氏:作る人は嫌がるんですよ(笑)。前作まではすべてがフリーカメラではなく、一部カメラを固定したシーンもありましたけど、今回はすべてが360度見渡せます。これもフォトモードが入った影響なんですよね。

ウォーカー氏:作り込んだからこそ、フォトモードも入れないともったいないと思ったんです。背景だけでなくキャラクターも細かいディテールまで気にしているので、ぜひフォトモードでチェックしてほしいです。

――ここまでは前作からの変化を語っていただきましたが、逆にこれまで培ってきたノウハウが活かされた場面はありましたか?

伊津野氏:オートマチックアシストは前作までも存在しましたが、今回はいつでも瞬時に切り替えられるようになっています。僕らは"アクションゲーム作り中毒"みたいな人たちなので、正直これまではオートでの戦闘に気が回っていなかったんです。だけどあるとき、うちのボスが「いつでも切り替えられるようにしたらええのに」と軽く言われて、それで僕も初めて「そういうものなのか」と気付かされたんです。実装してみたらやたら評判が良くて、挑戦してよかったと思っています。

ウォーカー氏:オートマチックアシストは使って恥ずかしいものではなくて、ちょっとした練習にも使ってほしいですね。

岡部氏:わざとアシストしない部分も残していて、例えば回避は自分で操作しなければいけません。実はオート回避も実装して、目をつぶっても遊べるようにした時期もあったんですけど、結局なくなった案です。手軽に遊びたい人、超絶コンボの足がかりにしたい人の両方に利用してほしいからこその判断ですね。

今「DMC」を作る意味


――ネロだと戦術の中に「デビルブレイカー」が入ってきますが、これは全部で何種類用意されているのですか?

伊津野氏:全部だと8種類ですね。初めは持っている種類が少ないものの、ストーリー中で増えていきます。

――デビルブレイカーはステージでアイテムとして補充する使い捨て型になっていますよね。また複数の種類を所持していても自由に切り替えられなかったり、ちょっと特殊なシステムになっていると思います。

伊津野氏:ダンテは武器とスタイルを切り替えられる自由なところがオリジナリティになっているんです。天井が高いキャラクターというか、自分で発展させることができます。そんなダンテがいる中でネロも自由に切り替えられると、結局同じ遊びになってしまいます。ネロは基本的にあるものをいつ、どのタイミングで使うかを考えてほしかったのと、極力シンプルなアクションにまとめたかった意図もあり、ダンテと違いを付けることにしました。

ウォーカー氏:せっかく今回は3人のプレイアブルキャラクターがいるので、みんな違った遊び方をしてほしい思いがありました。

――ちなみに……3人目のキャラクターというのはどんな人物なのでしょうか。

伊津野氏:作中で起こる事件を解決してほしいと「Devil May Cry」に頼んでくる依頼人ですね。どんな人物かはストーリー上で分かってきますが、名前だけは分かっていて、アルファベット1文字で「V(ブイ)」と名乗ります。

――依頼人だけど、実際に操作できる、つまり戦うこともできるんですよね。

伊津野氏:そうですね。ダンテとネロが違うコンセプトであるように、「V」に関しても違うコンセプトが存在します。ボリュームもガッツリ遊べるくらいの存在感になっています。

岡部氏:「そうきたか!」と言ってもらえるようなキャラクターを目指しました。発売前、年内にはどうにか動く姿を見せられるようにしたいですね。

――ダンテたちを含め、前作に登場したキャラクターも多く登場します。性格やキャラクター同士の関係性になにか変化はありますか?

伊津野氏:1番印象的なのはネロが少年から青年に成長しているところですかね。ネロの根本の性格は変わってないものの、少しだけ大人になった姿を見られると思います。しかしそれ以外はあまり変わってないかもしれません。


――物語ではダンテとネロとVの誰がメインになるのでしょうか?

伊津野氏:あらすじとしてはVがダンテに事件の解決を依頼して、そこにネロが巻き込まれていく流れです。「DMC4」の発表の時はダンテが主人公のようなミスリードもあって、ネロの存在に驚かれたこともありましたけど、今回はキービジュアルにあるとおり、3人がしっかりと主人公しています。

ウォーカー氏:アクションは全員個性的ですし、ストーリーでも満遍なく活躍するので、3本のゲームが1本にまとまったような内容です。

伊津野氏:本当にそんな感じです。作っているときは「本当にできるの?」と心配されましたけど(笑)。

――ちなみに皆さんは、現在のアクションゲーム市場の変化をついてどのように見ていますか?最近はオープンワールドのゲームが増え、流行りのバトルロワイヤル系もオープンワールドの一種です。そんな中で「DMC」のようなステージクリア型のアクションゲームを作るのは、相当なこだわりがないとできないと思うんです。

伊津野氏:なるほど……そうですね、僕たちは心の底からアクションゲームを美しいと思って作っていて、それはオープンワールドとは異なる方向性のものだと考えています。「DMC」の面白さ、つまり濃密なアクションを味わいたいのであれば、これまでの作品と同じ、このスタイルが1番向いていると考えています。僕はプレイ時間の大多数をアクションに割いてほしい考えがあって、オープンワールドだと移動の時間が入ってしまいますからね。といっても、僕もかつて「ドラゴンズドグマ」を作ったんですけど……(笑)。ただあれも、歩いている時間を面白くしようと挑戦したゲームなんです。

岡部氏:トレンドが出来上がるのは技術の進歩、インフラの進歩が要因にあり、それを活かしたのが「PUBG」や「Fortnite」だと思います。ただ、僕たちはそれ以前に、長く待ってくれたファンの方たちへのおもてなしをする仕事もあるのです。仕事を進めるためにトレンドは必要なのか、それとも別のなにかが必要なのかを見極めつつ、「アクションゲームだからこうしなければいけない」、「今の時代はこうしなければいけない」みたいな考えにとらわれず、「『DMC』だから、『DMC』を作る」という信念を持って作っています。

――最新のトレンドは決して無視せず、だけど芯になる部分は絶対に変えずに作ったのが「DMC5」だと。

岡部氏:そうです。今のアクションゲームのトレンドって、車に例えるとラグジュアリーカーだと思うんです。運転のしやすさ、乗りやすさが求められています。ですが僕らが「DMC」に求めるのはスポーツカーみたいな、峠を攻めるような楽しさですね。ただ、峠を攻めるだけでなく、運転を手助けするアシストもしっかり備わっている。そんなイメージです。

ウォーカー氏:すごく良い質問ですね。世の中にはいろんなアクションゲームがあって、ストーリー重視のものもあれば、「モンスターハンター」のようにやり込むゲームもたくさんあります。「DMC」は格闘ゲームみたいに、遊べば遊ぶほどアクションを理解して、もっとすごいプレイができるゲームだと思います。先日「PAX West」に出展したときは試遊でSランクを達成した人がいて、もうオーディエンスが大盛り上がり!そういう力がアクションゲームにはあるし、「DMC」はこれからもオーディエンスが盛り上がるようなゲームにしていきたいです。

――ありがとうございます。それでは最後に、TGS2018で出展されるデモ版の注目ポイントを教えてください。

ウォーカー氏:体験版で注目してほしいのは、まずはネロ編に追加される新しいデビルブレイカーです。gamescomでは披露しなかった、1番派手なやつが追加されるので、派手なプレイを楽しんでもらいたいです。

岡部氏:「パンチライン」と「バスターアーム」の2種類は、トレーラーでは登場していたんですけど実際に触れるのは今回が初です。僕としては最後に登場するボスのゴリアテをバスターアームで投げ飛ばすところまで体験してほしいです。

伊津野氏:日本語ボイスでのプレイも初なので、特に「DMC4 スペシャルエディション」を未プレイのかたからすると、かなり新鮮に見えると思います。日本語ボイスで描かれる「DMC」に注目してもらいたいです。

――ちなみに、日本版の声優さんに対して、なにか要望は送りましたか?

伊津野氏:ネロ役の石川界人さんには、「そのままの演技で」とお願いしました。というのも、本作は「DMC4」から数年後が舞台で、これは石川さんが初めてネロに声を当てた「DMC4 スペシャルエディション」から3年しか経ってないので、その成長を自然に出してくれればと思ったからです。ダンテ役の森川智之さんも、普段の森川さんと同じようにユーモアがあり、格好いい感じでお願いしました。

――本日はありがとうございました。