インタビュー
E3で大好評だった理由とは? 「メタルウルフカオスXD」プロデューサー竹内将典氏インタビュー
14年前のXbox版をそのままの雰囲気で現代のプラットフォームで再現!
2018年8月27日 00:09
6月に行なわれたE3で台風の目となったタイトルがフロムソフトウェアの「メタルウルフカオスXD」だ。伝説的なゲームパブリッシャーGathering of Developersをルーツを持つDevolver Digitalの発表会で電撃発表され、大きな話題を集めた。
発表を行なったDevolver Digitalは、天下無双のバカゲー「Serious Sam」シリーズを代表作とする一風変わったゲームメーカーだ。一癖あるタイトルばかりを扱い、E3の発表会は常に死者が相次ぐ。今年も開始3分で司会進行役が殺害され、その殺害した女性も血まみれになった上、ついにマシンガンの兇弾に倒れた。その彼女が命がけで紹介したタイトルが「メタルウルフカオスXD」だ(何言ってんだ? という方は下記カンファレンス映像をご覧頂きたい)。
「メタルウルフカオスXD」は、フロムソフトウェアの知る人ぞ知るロボットアクションゲーム「メタルウルフカオス」のリメイクとなる。Gamescomでは、Devolver Digitalのビジネスブースに出展し、開発中のビルドを初公開し、メディアインタビューも行なわれた。今回は「メタルウルフカオス」の生みの親であり、「メタルウルフカオスXD」でも再びプロデューサーを務める竹内将典氏がインタビューに応じてくれたのでたっぷりお届けしたい。
ことの発端はストリーマーによる「メタルウルフカオス」の実況配信
――「メタルウルフカオス」は、私は確かに遊んだ記憶があるんですけど、逆に言うとそのレベルで留まっていて、Xbox 360に埋もれてしまったというイメージの強いタイトルです。E3での発表を受けて、「こんなに人気のタイトルだったのか」と海外での人気の高さに驚いたのですが、まずはオリジナル版のお話から聞かせていただけますか?
竹内将典氏:このゲームは初代Xboxの一番最後に出たタイトルで、もともと海外版をリリースする準備もしていたんですけど、諸般の事情があって出せなかったんです。ですから、このゲーム、日本語版しかないんですよ。
――え、そうなんですか? ではなぜあれだけE3の発表で海外の人たちが盛り上がったんでしょう?
竹内氏:もともと、当時欧米で出すというアナウンスはしていて、Xbox Magazineなどの雑誌に体験版も入れていたんです。当然、ゲームファンは出ると思っていたのに結局出なくて、当時からこのゲームを英語版で遊びたいという方が結構いたんです。
それは結構前の話なんですけど、最近になってYoutuberなどのストリーマーさんが、このゲームを取り上げてくれて実況中継してくれて、変わったゲーム、ぶっ飛んだゲームとして、再び脚光を浴びたんですね。それで知名度がグッと上がった状態で発表したので、ワッと盛り上がったということだと思います。
――インフルエンサーさんが取り上げたことによってゲームの魅力が再発見されたような?
竹内氏:そういう側面はあると思います。
――パブリッシャーはDevolver Digitalさんですが、両社の繋がりはどのようなものなんですか?
竹内氏:実はお付き合いはこのタイトルが初めてなんです。Devolverさんは、何故かよくわからないんですけど、その配信とは別にこのゲームに目を付けてくれたんですね。Devolverさんはインディゲームをメインに、世界中から様々なおもしろいゲームを集めているパブリッシャーさんなので、このゲームのようなヘンなゲームに対する嗅覚があるんでしょうね(笑)。
それでDevolverさんは、Twitterで定期的にファンに向けて情報発信をするんですが、それは発売が決まったタイトルの情報だけでなく、「このタイトルはどう思う?」みたいな形でファンに問いかけするツイートも行なっているんです。その中のひとつに「このゲーム(メタルウルフカオス)はどうかな?」ということを、我々フロムになんの相談もなくやっていたんですね。そしたらそのツイートに凄く反響があったみたいで、では本気でやってみようという話に社内的になったみたいで、それでフロムにこういうプロジェクトをやってみないかという相談が来たんです。
――相談が来て初めてそういうムーブメントを知ったんですか? どう思いました?
竹内氏:正直、話が来たときはDevolverさんのことをよく知らなかったんです。ヘンなゲームを一杯出しているメーカーぐらいしか知識がなくて、彼らと話していたら話が合うなと思って、方向性や考え方が近いところがあって、今ではとても仲良くやらせていただいています。
――E3では様々なゲームを紹介しましたが、メディアカンファレンスのニュースではこのゲームがダントツの人気でした。この爆発的な盛り上がりというのは予想できていたんですか?
竹内氏:私自身もビックリして、発表の時に、日本のTwitterのトレンドの2位に入ったりしましたが、この盛り上がりはまったく予想できていませんでした(笑)。むしろ不安しかなくて、2004年のゲームで、もう14年前になっていて、当然ですけど、今遊ぶために作っていないわけです。これが今のゲーマーにどのように受け入れられるのかはまったく想像が付きませんでした。
でもDevolverさんは、この反応について確信があったそうです。絶対大きな反響があると。彼らの目利きは凄いなと思いましたね。
――我々オッサンが「わーー」っと騒いでいた一方で、「『メタルウルフカオス』って何?」という若いゲーマーもたくさんいると思います。改めて「メタルウルフカオス」というゲームについて紹介していただけますか?
竹内氏:初代Xboxで発売されたロボットアクションゲームです。今はこういったロボットアクションゲームは少なくなってきているので、なかなかこういうゲームに触れる機会はないと思いますが、このゲームはアクションゲームとして爽快感を大事にしていて、フィールドにあるありとあらゆるものをぶっ壊すことができて、色んな武器を切り替えながら戦えますし、もっとも特徴的なのは、主人公のアメリカ合衆国大統領が独特の性格をしていてアメリカンなゲームになっています(笑)。
――どのようなストーリーなんですか?
竹内氏:アメリカの大統領が主人公で、副大統領が自分が大統領になれなかった嫉妬からクーデターを起こされるんですね。主人公は、副大統領に奪われたアメリカを取り戻すためにロボットに乗って戦うというストーリーですね。
――アメリカ人がいかにも好きそうなストーリー展開ですね(笑)
竹内氏:そうなんですかね(笑)。まだ発売していないので、最終的にどういう反応があるのかまだわからないんですけど、わかりやすいストーリーラインというのは目指して作っています。
――そういった部分が、このゲームを発掘してくれたストリーマーの琴線に触れたんですかね。
竹内氏:だと思います。わかりやすさに加えて演出がぶっ飛んでいますので、ネタにしやすいというかツッコミを入れやすいのかもしれませんね。
――そのネタについてですが、主に欧米向けで、日本人には空回りするような感じなんですか?
竹内氏:そんなことはないと思いますよ。なぜかというと、この中で表現されているアメリカは、基本的に日本人がアメリカに対して持っている偏見というか、ステレオタイプアメリカ人なんです。アメリカ人ならこういうことをやるだろうとか、喋るだろうということを先鋭化してギャグっぽく入れているんですね。ですから、日本人は、そういう先鋭化されたネタをそのまま楽しめると思いますし、アメリカの人は、日本人って俺らのことをこういう風に見ているんだというユーモアとして捉えてくれるのかなと。
――アメリカ人が、日本人に対して持っているサムライ、腹切り、忍者みたいな固定観念の逆バージョンということですね。
竹内氏:そうそう(笑)。そういうノリで作っています。
――何か具体的なエピソードを教えて貰えますか?
竹内氏:このゲームは舞台が有名な都市ばっかりなんですね。サンフランシスコ、グランドキャニオン、それからNASAのあるヒューストンとか。でも、アメリカ人にとってヒューストンって何もない片田舎で有名でもなんでもないんですよね。僕らがアメリカンだと思っていることは、アメリカ人にとっては全然アメリカンではなかったりするんですよね。
たとえばラスベガスにしても、僕らからするとカジノがあって煌びやかなイメージですが、アメリカ人からするとマフィアの街というイメージらしくて恐い街なんだそうです。そういうギャップみたいなものが楽しいんじゃないかと思いますね。
――フロムさんといえば「アーマードコア」だと思いますが、「メタルウルフカオス」は「アーマードコア」の派生タイトル的な存在だったのですか?
竹内氏:いえ、違うんですよ。ロボットゲームを作るノウハウは、当然「アーマードコア」の経験を活かしていますけど、基本ベースは「O・TO・GI ~御伽~」です。「O・TO・GI」もXbox向けに作られたタイトルで、こちらは和風ファンタジーアクションなんですけど、そのリソースを多く使って開発されています。
――なぜXbox専用タイトルだったんでしょう?
竹内氏:当時、ゲームコンソールと言えば日本というイメージが強かった時代で、Microsoftさんが久々にアメリカ製のコンソールを出して、ちょっとしたゲームプラットフォーム戦争みたいな部分がありました。各社とも独占タイトルをたくさん持とうとしていて、その数を競っていたんですね。
当時は我々も今ほど自由に開発を進められる状態ではなく、プラットフォーマーさんと協力しながら作っていくという体制だったので、その中でMicrosoftさんとも組んで何かやった方が良いという考えがあって、Microsoftさんは参入したばかりでチャレンジャーだったので、新しい発想のゲームを生み出すことに凄く積極的でした。
このゲームもちょっと変わっていて、ぶっ飛んでいる部分もあるので、これを見て「やっていいよ」となかなか言ってくれなかったんですけど、Microsoftさんはこれを「面白い!」と思ってくれてサポートを手厚くしてくれたんです。そういったこともあって最終的にXboxのみで出すということになりました。
――後にPS2でリリースされることもなく、Xboxだけですか?
竹内氏:そうです。出ていません。
――日本のXboxだけで発売というと、非常にマニアックなゲームですよね。
竹内氏:だからこそ、今カルト的、伝説的な人気になっているんだと思います。
――タイミング的にはXboxの末期、Xbox 360が登場する直前ですが、ではXbox 360版もという話にはならなかったんですか?
竹内氏:タイミングの話になってくるんですが、このゲームが出たのが2004年の12月、Xbox 360が出たのは2005年の11月なんです。もうかなりゲームは出来ていて、Xbox 360は新しいハードで、新しいハードへの適応がそれほど簡単にできるわけでもないというところで、Xbox 360で出すのは難しかったというところがあります。
――なるほど、発売後に、Xbox 360でHD化という話もなかったのですか?
竹内氏:ありませんでした。Xbox 360やXbox Oneに比べればマシでしたが、それでも日本ではXboxのマーケット規模は小さかったので、ゲームの評価は高かったんですけど、ビジネス的にはかなり失敗しています。日本だけでしたし、セールス的には1万本というところです。
――それなのに、ここまでE3で盛り上がりが作れたというのは凄いことですよね。
竹内氏:そうなんです(笑)。作り手としてはこのゲームをいつか救済したいという想いはあったんですけど、ビジネス的に失敗しすぎていて、続編とかそう言う話にもなりにくかったので、今回こういうことになってよかったと思っています。
「メタルウルフカオスXD」について
――その「メタルウルフカオスXD」についてですが、“XD”っていうフレーズはどこから来ているのですか?
竹内氏:ストレートにこのゲームを表現すれば“HD”とするのが妥当なんでしょうけど、フロムにしてもDevolverにしても、ストレートにいきたくないというのがあって(笑)、早い段階で「HDっていうのはおもしろくないよね」という話になって、ではどういうタイトルがいいんだろうという話になって、先ほどもお話しした通り、このゲームは日本でしか出ていないので、欧米ユーザーにアピールできるタイトルということで、“XD”かなと。
特にアメリカの人は、XboxのX、X-MENのXと言う具合に、Xという文字に特殊なイメージを持っているんですね。何か説明ができないような不思議なパワーを持っているような。このゲームもそういう説明しがたい魅力のあるゲームだと思っているので、HDではなくXDって言ってみるのはどうなんだという話になりました。
――今画面を見ていますが、基本的にはリメイクという理解でいいんでしょうか?
竹内氏:いえ。基本的にはXboxから何も変えていません。正確に言うと、何も変えていないように見えるようにしています。というのは、欧米の方はまだこのゲームをプレイしたことがないので、当時このゲームを遊んでみたいと思ってくれていた人にそのままのゲーム体験を届けたいというのが狙いです。
――今のグラフィックスで完成ですか?
竹内氏:まだです。70~80%ぐらいです。影の表現、ポリゴン、テクスチャの解像度などがまだ不十分なのでそのあたりを今後調整していきます。
――この当時の3Dテクノロジーそのままのポリゴンポリゴンした感じはあえて残しているわけですね。
竹内氏:そうです。プレイした人には懐かしさを感じて貰いたいし、まだの人はオリジナルの感じを味わってもらいたいなと。中途半端にHD化しても、グラフィックスのしょぼいゲームと見られてしまうのはイヤだったので、だったらいっそのことそのままにして、こういうテイストのクラシックゲームなんだよという撃ちだし方のほうがいいかなと。
――このマップはどこですか?
竹内氏:グランドキャニオンです。米軍基地に攻め込んでいます。
――どうなるとクリアになるんですか?
竹内氏:敵を倒しながらどんどん進んでいって、最後にいるボスを倒せばステージクリアというシンプルな内容です。ステージとステージの合間に、自分が持っている武器をカスタマイズできるようになっていて、プレイ内容によって得られる素材やお金が違ってくるんですが、それらを貯めることによって新たな武器の開発ができるようになって、武器のカスタマイズと成長要素によってロボットを強化しながらステージをクリアしていくという内容になっています。
――ゲームのボリュームはどれぐらいあるのですか?
竹内氏:14ステージあって、プレイ時間は普通にプレイして14~15時間ぐらいだと思います。
――オリジナルとXDで、コンテンツ的に違いはありますか?
竹内氏:ありません。まったく同じものです。違うものを入れてしまうと、ファンが遊びたかったオリジナルの「メタルウルフカオス」ではなくなってしまいますので。
――なるほど、たとえばDLCで、新ステージが追加されたり、マルチプレイモードが追加されるようなこともないわけですね?
竹内氏:そうですね。ただ、技術的には難しい話ではないので、反響が大きくて、それを望む声が大きければ考えても良いと思いますけど。まずは欧米のゲームファンにオリジナルのゲーム体験を提供するということを目標に取り組んでいます。
――今は当時のゲームが遊べるクラシックゲームのリバイバルも多いですが、当時のXbox版のまま遊べるモードというのはないのですか?
竹内氏:それはまだ検討中ですね。今は16:9で当時の体験を実現しようとしてますので、その上で4:3を入れることに意味があるのかどうか迷うところです。
――竹内さんは、「メタルウルフカオス」では何を担当していたのですか?
竹内氏:ゲームプロデューサーです。今回もゲームプロデューサーです。
――同じゲームを2度プロデュースするって珍しいですよね?
竹内氏:そうですね(笑)。
――あえて若手に任せるという選択肢はなかったんですか?
竹内氏:というよりも、今回の開発は弊社ではないんです。Devolverさんの協力会社であるGeneral Arcadeという会社が開発を担当していて、私は監修という立場です。監修はどうしてもオリジナルを作った人間が担当しないといけないので、それで私がという流れです。General Arcadeはシンガポールに本社があって、事実上の開発はロシアで行なっています。
――今回はXbox Oneのみならず、PS4やPCにも展開されますが、操作はどうなりますか?
竹内氏:基本はゲームコントローラーで遊んでいただく形を想定しています。キーボードとマウスで動かせるようにしようと考えていますが、同じように操作するのは難しいと思うので、ゲームコントローラーを強く推奨する形にしようと考えています。
――残念なことに発売延期が発表されましたが、その理由を聞かせて下さい。
竹内氏:今回は欧米のゲームファンにそのままのゲーム体験を届けるということを基本コンセプトにして開発を進めています。このゲームはもともと14年前に初代Xboxでリリースされた古いゲームで、今のPS4やXbox Oneと比較すると3世代ぐらい古いテクノロジーで作られています。それを現代のテクノロジーに置き換えていくというプロセスの中で、そのまま置き換えてしまうと、当時のものから雰囲気が変わってきてしまうので、それは基本コンセプトからズレてしまうので、そこの手間に時間を頂くことにしました。
――念のためですが、日本で発売されますか?
竹内氏:はい、日本でも発売されます。初めてのワールドワイド展開です(笑)。XboxだけではなくてPS4とSteamにも展開します。
――東京ゲームショウへの出展計画は?
竹内氏:残念ながら今のところその予定はありません。
――体験する機会は用意しますか?
竹内氏:もちろんです。準備ができたら皆さんにお知らせしようと考えています。
――それは体験会のような機会を作ると言うことですか? それとも体験版をオンライン配信するのですか?
竹内氏:両方可能性はあります。どっちもがベストですが、どっちかは必ずやりたいですね。
――今英語音声、英語字幕ですが、日本語版ではどうなりますか?
竹内氏:もともとオリジナル版も英語音声なんですね。字幕で日本語を含む他の言語をサポートしようと考えています。
――改めて発売日と価格を教えて下さい。
竹内氏:新たな発売日は“2019年中頃”としていて、夏より前には出したいと考えています。価格はまだ決まっていないのですが、当然フルプライスではなく、ハーフプライスぐらいの価格感で販売したいと思っています。
――日本のゲームファンにメッセージをお願いします。
竹内氏:今回、ようやく日本のXbox以外で、「メタルウルフカオス」がプレイできるようになります。当時、Xboxでしかプレイできないから遊べなかったという方も多いと思うのですが、PS4でもSteamでも遊べるようになりますので、ぜひ試してみてください。
――ありがとうございました。