インタビュー

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC

マウスコンピューターで、なぜ「NEXTGEAR-C」は生まれたのか?

【G-Tune NEXTGEAR-C ic100BA1】

9月13日 発売

価格:172,584円(税込)~

 マウスコンピューターから発売されている超小型ゲーミングPC「NEXTGEAR-C」。12センチ四方の筐体に第7世代のCore i7-7700HQ、GPUにGeForce GTX 1060が搭載されている。このようなパソコンをなぜ開発したのか、同社のコンシューマー営業統括部 コンシューママーケティング室 主任の小林俊一氏、安田祐三郎氏に話を聞いた。

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC マウスコンピューター コンシューマー営業統括部 コンシューマーマーケティング室 主任 小林俊一氏
マウスコンピューター コンシューマー営業統括部 コンシューマーマーケティング室 主任 小林俊一氏
【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC マウスコンピューター コンシューマー営業統括部 コンシューマーマーケティング室 安田祐三郎氏
マウスコンピューター コンシューマー営業統括部 コンシューマーマーケティング室 安田祐三郎氏

LANパーティーでの要望から開発に着手

――この大きさには驚かされるのですが、なぜ「NEXTGEAR-C」を開発しようと思ったのですか?

安田氏: まずG-Tuneのブランドとして、ゲームのイベントやVRのイベントに数多く機材の協力を協賛しているのですが、ユーザーさんからは小さくてハイパワーなPCが要望されていました。そこでまずデスクトップのグラフィックスパフォーマンスを小型ケースで実現する「LITTLEGEAR」というシリーズを販売しました。そちらも好評を頂きましたが、最近協賛させていただいている「C4 LAN」というLANパーティーのイベントがあったのですが、そこでLITTLEGEARよりさらに小さいPC、ノートPCではなく液晶もバッテリーもない、非常に軽量なPCが欲しいという要望がありまして、そこで「NEXTGEAR-C」を開発しました。

――確かに小さなPCを使っている方がいました。

安田氏: PCではないですが、コンシューマー機器とモニターがセットでケースに入っているようなものであるとか、持ち運びを意識されている方が多くいらっしゃったので、それに合わせたようなPCがあったらいいんじゃないか、というところですね。

――ここまで小さくするのにはご苦労があったと思いますが。

安田氏: ゲーミングPCとして販売するためのスペックを実現するパーツを実装するために熱の部分はだいぶ苦労しました。筐体の1番下にGPUが入っていまして、その上にCPUが乗っています。CPUとGPUの吸気と排気を別々に分けていまして、GPUは底面吸気の側面排気、CPUは別になっています。熱が発生しやすいものが近くにあってもトラブルが起きにくいようにしています。

――ビデオカードは独自のものですか

小林氏: 基本的に専用品と考えていただいていいと思います。ノートのコンポーネントを使わせていただいている形ですね。似たようなものにMXM(Mobile PCI Express Module)などがありますが、それに近いイメージかと思います。ただしコンセプトは似ていますが、MXMコネクタに取り付ける形状にはなっていませんので、完全に同じではないです。

――熱の部分もあってスペック的にはGeForce GTX 1060が限界といったところでしょうか?

安田氏: そうですね。ただ、今のゲームを見ればGeForce GTX 1060があれば十分というスペックです。加えてゲーム以外にもVRの需要も満たしたいのでこちらを選びました。USBポートなどのインターフェイスを多く用意しているのもそのためです。最近のVRですとHDMIやUSB3.0など、数多くのポートが必要になります。これに加えてキーボードとマウス、コントローラーをつなげる必要があります。それに対応できるよう、数多くのポートを用意しています。

――夏場は大変なのではないですか

安田氏: 弊社のテストは、暑い環境で高負荷な処理を与えるよう行なっていますので、そのあたりは問題ありません。

――CPUなどの選定については何か基準はあったのでしょうか?

安田氏: ゲーミングPCとして販売するにあたって、できるだけスペックが上のものをと考えて用意していました。Core i7-7700HQが搭載されていますが、VRを扱うためにはスペック的にもそのクラスが必要になります。それとGeForce GTX 1060の組み合わせで販売しようと思っていました。

――モデルのラインアップでブロンズモデルからゴールドモデルまで用意されていますが、この並びはどのような基準があったのですか?

安田氏: ブロンズモデルでは、VRを体験できる最低限のスペックを用意しました。それ以上のモデルですが、最近のゲームタイトルは容量も大きくなっていますので、それに対応できるモデル、ということでラインナップを用意しています。ゴールドモデルは、載せられる1番いいものを、という感じですね。

――ストレージにはM.2が使われていますね。

安田氏: ここにあるのはSATA接続モデルですが、NVMeのものも搭載できますので、速さを求める方はそちらを選ぶことができます。

――マザーボードが本当に小さいですね。

安田氏: GPUと合わせて3枚構造になっているんですが、熱量の問題があるので、分割して排気性を確保しています。

小林氏: GPU側はPCI Expressの信号を用意しているのと、若干USBコネクタ向けの機能を小基板に持たせています。もう1つはCPUやメモリ、ストレージ回りなどのメイン機能と、カードリーダーが乗っている感じです。

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC 上層階のCPU側の基板。ヒートシンクなども見ることができる
上層階のCPU側の基板。ヒートシンクなども見ることができる
【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC CPU側基板の下にある、GPU側の基板。GPUが大きく見えるが、逆に基板そのものの面積がかなり小さいということもできる
CPU側基板の下にある、GPU側の基板。GPUが大きく見えるが、逆に基板そのものの面積がかなり小さいということもできる

小さなゲーミングPCへのこだわり

――開発にあたってのこだわりはあるのですか?

安田氏: やはり小ささですね。LANパーティーでは1人1人に与えられたスペースが本当に狭いので、大きな筐体ではなく、ディスプレイの前に置いても、ディスプレイ画面にまったく影響がない(画面を遮らないほどの)コンパクトさは必要でした。それでなおかつゲームが快適にプレイできるスペック。そこが1番こだわったところです。デザインもほかのG-Tuneのモデルよりもすっきりしています。イベント利用をメインに考えていましたので、ほかのコンテンツに影響がないようなすっきりしたデザインにしています。

――最初にこのサイズありき、だったのでしょうか?

小林氏: 弊社のパートナーさんがいまして、いろいろなプロダクトを持たれています。いろいろと提案を受ける中で、ニーズに合致したものをチョイスしたという感じです。弊社としてもこういった小さなPCを求めていた中で、GPUのPascalアーキテクチャやCPUの世代など、技術もいろいろと変わってきました。こういったものが実用として使える形になってきましたので作り上げたというところです。

 G-Tuneとして発売するならゲーミング、VRのパフォーマンスを担保できなければならない。ただ小さくすることは可能ですが、それで性能が出ないものであれば意味がありません。実用的なものも考慮して、弊社の評価基準に照らし合わせて、製品としてお客様の前に出して満足頂けるものにすることにはこだわりました。パートナーさんが出してくるものを選んで作るだけでは意味がない。お客様にはご満足頂けるものではありませんので、弊社の開発側でも評価をして、実際に使えるものを、お客様目線で用意しました。

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC ディスプレイやデスクトップPCと比較したとところ。とにかくこの小ささは驚異的
ディスプレイやデスクトップPCと比較したとところ。とにかくこの小ささは驚異的

――購入してからストレージやメモリを変更したりできるのですか

安田氏: この筐体を開けるのは難易度が高いので、それは難しいですね。シールをはがしたりしなければいけませんし、無線LANのアンテナも上部にありますので。また開けること自体も保証外となります。

小林氏: ノートPCに近いイメージですね。ご注文頂く段階でチョイスできますので、その際に決めて頂いて、ある意味完成品としてお客様にお求め頂けたらと思います。

――USBポートの配置には何か意味があるのですか?

安田氏: 配置に関してですが、HMDの接続に邪魔にならないような構成を考えていました。あと数に関しては、いまだにUSB2.0の機器を長くお使いいただいている方もいますので、そういったところで数は確保させて頂いています。

小林氏: USBポートを縦に用意していますが、横にすると接続するときに邪魔になりますし、基板の幅だけで決まってしまいます。そこで上下にスタックする形で設計しました。USB Type-Cも用意しています。

――ゲーミングPCでは最近光ったりするのが流行ですが、そういったギミックは入れられなかったのでしょうか?

安田氏: そうですね……。筐体のコンパクトさに重点を置いた分、装飾に対する余裕はあまりありませんでした。筐体自体も熱のことを考えてアルミ金属でできていますので、透明なパネルを入れるのはちょっと難しいですね。

小林氏: 光ものを入れると熱が加わりますし、外装自体が金属のフレームになっていますので、透明な部分を入れると熱効率を損ねてしまいます。どちらかというと質を取ったというところですね。

――真四角でなく、面が取れていたりするのは何か理由があったのですか?

安田氏: 放熱のためのスペース確保といった部分もあるのですが、その分表面積が大きくなりますので、熱を逃がしやすくなります。そのためですね。

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC 中身のボードを抜いた筐体外観。外装は金属のフレームになっている
中身のボードを抜いた筐体外観。外装は金属のフレームになっている

――これに取っ手を付けると昔のコンシューマー機のように見えますね

安田氏: 取っ手に関してですが、先ほども述べたように本体はディスプレイの前に置いても邪魔にならないことを目指していましたので、取っ手を付けると筐体が大きくなってしまいます。メインで考えていたコンパクトさを失ってしまうので、取っ手は考えていませんでした。

――VR利用の声についてはどうですか?

安田氏: 推奨パソコンで協力頂いている桜花一門さんに1台お貸し出しをしています。VRというとPlayStation VRやHTC Vive、Oculus Riftなどがありますが、それぞれのデバイスで動作を確認しなければいけません。テストの都度、作業スペースを作ることになりますが、他のデスクトップPCの場合、持ち運ぶだけで重労働になりますので、軽量かつ小型でVRが安定して動作するPCがあることは開発を行なう上で作業量軽減にも繋がるため、素晴らしいという声をいただいています。またイベント会場などでは有線LANがないところがあります。そういった点でも無線LANが標準で付いているのはありがたいとおっしゃられています。

【インタビュー】ユーザーの声から生まれた12センチ四方の超小型ゲーミングPC VRシステムとしての利用。HTC Viveと大きさ的にはかわらないで、このパワーはやはりスゴイ!
VRシステムとしての利用。HTC Viveと大きさ的にはかわらないで、このパワーはやはりスゴイ!

――LANパーティーにも対応するよう、有線コネクタもありますね。

小林氏: 現地でSTEAMを使ってゲームをダウンロードされることもありますので、その際は有線の方がいいですから。

安田氏: 前述の通り本当に1人1人のスペースがありませんから、ディスプレイが置いてあってキーボードとマウスを置いたらいっぱいです。そこにデスクトップPCを置くのは大変です。

小林氏: これなら簡単に動かせますので、接続し直すのも簡単ですから。

安田氏: 横向きに置いていただいてもいいですし。必ずしも正面に向ける必要はありませんので。

――こちらは企画から製品になるまでどのくらいの期間がかっていますか?

安田氏: 去年の終盤に開発が始まった感じですね。

小林氏: 実際に商品になるまでは早いですが、ちゃんと形になるまでには熟成期間も取っています。この形に決まったのが6月くらいですね。その段階では商品として決まっていました。

――CPUで言うと第8世代のものも発売されましたが、次のシリーズは考えていらっしゃいますか?

安田氏: こちらはかなり特徴的な製品、とんがった製品と考えています。お客様にどれだけ受け入れられるのかはこれから確認するわけですが、ご好評頂いてさらに芽があれば、新しいものは考えていきたいと思っています。

――スペックが低くても、もう少し安くて小さいパソコンが欲しいという声もあるかと思います。

安田氏: 今のところそれは考えていません。先ほど申し上げたようにVRを楽しみたい型に合わせる形になると、上位のパーツが必須となります。できるだけハイスペックなものに合わせるほか、コンテンツもいいものを作ってもらいたいという考えがありますので。スペックを下げることは考えていないですね。

――最後に読者の方にメッセージをお願いします。

安田氏: こんなに小型なゲーミングPCが出たと言うことですね。場所にとらわれずにゲームができる環境が整ってきた。家であってもリビングや寝室に置けますし、外に運んでプレイすることも可能です。ゲーム機を持ち運んでゲームをしていたのと同じように、自分の設定でゲームをする環境が整ってきました。ぜひとも使って頂きたいですね。

小林氏: LANパーティなど「外に持ち出す」という筐体のコンセプトを活かせるイベントで使っていただく機会を増やしたいです。

――ありがとうございました。