【特集】

「セガハードヒストリア」のヒストリア~または製作日記【第4回】

セガハードへの想い出は永久に不滅! 「セガハードヒストリア」はいかにして生まれたか!?

【セガハードヒストリア】

7月22日発売予定

価格:16,500円(税込)

 過去3回にわたって当時のセガハードの最新動向を10年以上追い続けてきたセガハード専門誌「BEEP!メガドライブ」、「セガサターンマガジン」、「ドリームキャストマガジン」の足跡をお伝えしてきた。今からちょうど20年前、セガ最後の家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」を最後に、セガはハード事業から撤退し、それとともにセガハード専門誌というスタイルも幕を閉じた。あれから20年。なぜ今「セガハードヒストリア」が生まれたのか。今回は本当の意味で「セガハードヒストリアのヒストリア」となる部分について明かしていこう。

 ことセガハードを語るうえで、「Beep」以来の系譜を持つ、ソフトバンク系セガハード専門誌のことを思い出す人は多いだろう。セガの情報に飢えていたマニアに対して、いち早くその情報を提供し続けた「Beep」。そしてその名を冠した「BEEP!メガドライブ」。「セガサターンマガジン」では、セガハード専門誌初の週刊誌をスタートさせ、「ドリームキャストマガジン」では、セガハード最後の戦いを週刊体制のまま見届けた。実のその数約300冊、総ページ数にして5万ページにも及ぶ。これだけの誌面を「セガハードのためだけに」費やした媒体は他になかったと言えよう。

 この膨大な情報量をどうやって一つの書籍企画としてまとめるのか。そもそも、どうしてこの企画は生まれたのか。まずはその発端から振り返っていこう。

【歴代のセガハード専門誌】

メガドライブ30周年から始まった「セガハードヒストリア」

 ことの発端は「Beep」元編集長の川口洋司氏だった。現在は「セガハードヒストリア」と呼ばれているこの企画は、実はメガドライブ30周年の一環として立案されたものだった。メガドライブの30周年にあたる2018年は「メガドライブミニ」が発表され、徳間書店からも「BEEP!メガドライブFAN」が刊行されるなど、メガドライブのアニバーサリーを彩る展開が方々でなされた。メガドライブ専門誌だった「BEEP!メガドライブ」も、こうしたタイミングでなにかできることはないかと模索するのは当然のことで、同誌の初代編集長であった川口氏が「BEメガ」の資産を活用した書籍企画を立案。メガドライブの記念書籍として刊行されるはずのものだった。

 当初のコンセプトは「BEEP!メガドライブ」の特別増刊号といったもので、ゼロからページを作りこむという内容。その段階から「昔の誌面をそのまま掲載」するといった単純な「復刻書籍」ではなかった。ちょうどこの頃「BEEP! メガドライブFAN」の製作陣から「BEメガの誌面も付録DVDに収録して『BEメガ』と『メガFAN』両方の誌名を冠した記念本にしたい」という打診を受けたのだが、それに異を唱えなかったのは両誌のコンセプトが、根本から違っていたからだ。こうして生まれた「BEEP! メガドライブFAN」は無事に発売され好評を博した。今回は、あれから少し時間が経つが、「セガハードヒストリア」という形で、ふたたびセガファンの想いに貢献できるのは、嬉しいものがある。

【BEEP!メガドライブFAN】
「BEEP!メガドライブ」の誌面も掲載されている「BEEP!メガドライブFAN」。この書籍に掲載されているページは、「セガハードヒストリア」のために手元に集めていた雑誌を提供して作られた。現在会社には、すでにセガ専門誌の編集部は存在していないため、過去の雑誌も完全には揃っていなかった。そのため、かつての編集者たちが個人的に保管していた蔵書を提供してもらい約300冊を補完することができた

【全ハード網羅】
「BEEP!メガドライブFAN」に掲載された告知。入稿直前ぐらいの時期に「全ハード網羅」の企画が確定し、大急ぎでロゴを並べてコンセプトを伝えた。「COMING SOON」と謳ってはみたものの、当時はこれほど長い期間を要することになろうとは、想像していなかった(新型コロナの流行はこの年の年末頃から世間を賑わし始めたためだ)

メガドライブの「周年記念」は、すなわちドリームキャストの周年記念でもあった

 さて、そのように大々的に「30周年」が展開されたメガドライブだが、その裏でひっそりと20周年を迎えていたハードがある。ドリームキャストだ。メガドライブとドリームキャストはちょうど10歳差であり、アニバーサリーイヤーが重なる。川口氏らがメガドライブの記念企画を計画している一方で、より下の世代はドリームキャストの20周年で何かできはしないかと考えを巡らせていた。

 だが、本家セガもドリームキャストに対して大がかりなお祝いは考えていないらしく、ドリームキャストの周年企画では製品としての展望がいまひとつ見えてこなかった。そして、そんなところに川口氏の企画が舞い込んできたのだった。タイミングよくセガサターンも翌年に25周年を迎えるところであり、その翌年はセガの60周年も重なった。ならば、この3大セガハードを網羅した形で、ソフトバンク系セガハード専門誌の集大成を作ろう。「Beep」編集長でもあった川口氏を旗頭に、歴代のセガハード専門誌のスタッフが集結し、本企画は本格的に始動することとなった。

 下記はセガに訪問して企画を詰めていた頃のツイート。近年、レトロゲームを取り扱った書籍は、メーカーに無断で刊行されている「勝手本」といったものが多く、そうした本の場合は、売り上げ権利元のメーカーに還元されないことがほとんどだ。今回の「セガハードヒストリア」は、それらとは一線を画した形で、公式にセガの協力のもと、製作されている。

セガファンに喜んでもらうための付録は「見て、触って、楽しい」がコンセプト

 この企画を進めるにあたって、何か特別なものを付録にしたいと思っていたが、我々当時のスタッフがセガハードに関わるのも実に20年ぶりだ。この先、また同じような機会があるかはわからないが、できることはやっておきたかった、という想いがあった。付録を検討するにあたってブレない軸に据えたのは「できるだけ多くのセガファンが喜んでくれるものを」だった。

 ステッカーやTシャツのようなアイテムは「悪くはないが、欲しくない……」という人もやはり出てくる。今回は、できるだけ多くのセガファンに喜んでもらうべく「見て、触って、楽しい」という五感に訴えるコンセプトを重視した。その結果、組み立てて遊べて、飾っても楽しいセガハードミニチュアと、ズバリそのものであるメガドライブの「ゲーム」が選ばれた。

 メガドライブのミニチュア製作に関しては、ゲーム系の立体物企画で実績のある依田智雄氏(yodachin0330@)に相談を持ち掛けた。依田氏はYujin(現:タカラトミーアーツ)に在籍していた頃に「SEGA HISTORY COLLECTION」をはじめ、各社のゲーム機ミニチュアを生み出した人物だ。その精巧な作りと、製品に込められたこだわりはゲームファンの熱い支持を集めている。あのシリーズが今回復刻できたら……という想いもあって、依田氏の門戸を叩いた。

 しかしながら、当時のゲーム機関連の製品は、すでに長い年月が経過していたこともあり、復刻は容易ではない可能性が高い、とのこと。こうなったらと新規で造型からやり直すことも視野に入れて、Yujinの系譜を受け継ぎ、今もかつての依田氏の仲間たちが在籍するタカラトミーアーツに相談してみると……なんとメガドライブ30周年に合わせて新たに製品を作り直す計画があることが判明した。

 これが「SEGA HISTORY COLLECTION メガドライブ編」である。本家タカラトミーアーツはガチャ方式での販売であったが、「セガハードヒストリア」に付録として付くものは、「フルコンプリート」&「新ソフトウェアラベル」という別のコンセプトを設定し、めでたくセガハードミニチュアの収録が実現することとなったわけだ。

【依田智雄氏】

【付録イメージ】
タカラトミーアーツ製のミニチュア。可動ギミックも再現されており、CDトレーの開閉はもちろんのこと、ロックオンカートリッジのフタまで可動する精巧な作り
監修中のソフトウェアのラベル。おもに付録に収録されたタイトルから選定されているが、スーパー32Xやロックオンカートリッジ、メガCDの作品などはプレイアブル収録されていないため、ラベルと収録作品が一致しない。なお、ロックオンカートリッジのようにガチャ版とまったく同じラベルのものも存在する(ロックオンカートリッジはこれ以外に存在しないため

 「セガハードヒストリア」にもうひとつの付録として収録されることになったメガドライブソフトの選定基準は、今回の「セガハードヒストリアのヒストリア」の第1回記事でも触れているように「主観」、「客観」2つの基準を設けて総合的に判断していくことにした。主観の基準は、かつての編集者&ライターによる得点評価。各ソフトを10段階評価で採点し、それらの平均点を算出。「収録したいソフトリスト」をまずは「たたき」として作った。

 次に、客観的な基準として当時の読者投票による「読者レースの評価」や、現在の「入手の困難度」、そして「メガドライブミニとの重複回避」という3つの要素を加味して最終的な候補を絞っていった。

 開発は「魔導物語きゅ~きょく大全」などで実績があり、復刻系に意欲的な「プロジェクトEGG」のD4エンタープライズに協力を打診。同社は復刻系の展開に意欲的で、日本ファルコムのレトロ復刻製品「ドラゴンスレイヤークロニクル」や古典的な名作PCゲームを集めた「CLASSIC PC-GAME COLLECTION -THE DEATH TRAP・WILL・ALPHA・BLASSTY・GENESIS-」など、マニア心をくすぐる製品を多数世に送り出している。今回の主旨に同意してもらえただけでなく、T&Eソフトやアルシスソフト、旧データイースト系など、今回の収録候補に挙がっている作品をすでに展開していることもあって、これ以上ないパートナーと手を組むことができたと言える。

【パッケージイメージをPDFで収録】
収録されるソフトに関しては、パッケージのラベルと取扱説明書をPDFファイルでデータ収録。写真は「アンデッドライン」のパッケージ。中古ソフトは「箱なし」、「取説なし」という、いわゆるソフトのみの状態で販売されているケースもあるが、本製品では当時の雰囲気をあますところなく楽しんでもらおうと、それぞれ独立したデータとして収録することになった

【「スタークルーザー」の取扱説明書】
「スタークルーザー」の取扱説明書。数世紀先の未来、複数の星系にまたがる連邦を形成した人類の壮大な背景が語られる。後半のページは各星系の星系図になっており、プレイヤーが情報を記入しながらプレイを進めていけるスタイル。こうした趣向を凝らした付属物も余さず収録される

あくまでメインは「書籍」部分。唯一無二、永久保存版の「セガハード歴史書」に

 じつは今回の「セガハードヒストリア」は、コロナの影響を大きく受けてしまっている。製作が軌道に乗り始めた一昨年の末からコロナの蔓延が始まり、1年前の春には前代未聞の「非常事態宣言」が発令。数ヵ月にわたって企画が停滞することとなった。そうしたコロナの影響は今この記事を書いている時点において継続しており、直接対面する取材は極度に制限され、肝心の「書籍の内容」をお伝えすることができていない状況が続いた。

 とかく付録が目立ちがちな本書ではあるが、手に取るセガファンの多くは、おそらく「メモリアル書籍」として、当時の記事を懐かしんで読んでもらえるものと思う。本書についても、ここであらためて掘り下げてお伝えしたい。

 本書の最大の特徴は当時のスタッフが今のセガファン向けて作っている、ということだ。「当時のことを一番よく知っている当時のスタッフの手によって製作されている」。ここにこそ、「セガハードヒストリア」最大の特徴が凝縮されている。

 現在、メガドライブが30周年、ドリームキャスト撤退から20年という歳月が経っているわけだから、当時のスタッフは当然それなりの歳に全員がなっている(参加いただいているベテラン編集諸氏には失礼!)。数十年分のアニバーサリー企画ともなると「当時ファンでした」という熱烈なマニア以上に、「当時メディア担当だった」という人物はほぼ限られてきてくる。

 現在世の中にあふれる「レトロゲーム本」にカタログ的なものが多いのは、「専門家でなくても書ける」部分もあるからだと思う。データを集めてソフトから画面写真を撮影すれば、当時のリアルタイムな知識や経験がなくてもカタログは作れてしまう。

 本書の最大の売りは、「当時の経験と知識を持つ人々」にしか作れない本にすること。そのためには「当時のスタッフ」が集結し、「当時の関係者」の協力も不可欠となってくる。もちろん本家セガの協力も欠かせない。そうした当時のスタッフと関係者が集結して生み出された「膨大な情報量」。これは実に2年の歳月をかけて作り上げた内容になっている。当時の膨大な雑誌の内容をいまの時代に振り返る企画として、できうる限りのことは尽くされている。現在もまさに製作中だが、「セガハードヒストリア」の内容に目を通した本家セガ担当者からも「これはスゴい資料だ」と言われた内容になっている。

【セガハードヒストリアのボックス】

時間がいくら経とうとも、あの時のセガハードの想い出は永久に不滅だ

20年前、僕らのハートを熱くさせたあのセガハードは、苦渋の決断のもと終焉を迎えた。どんなものにも終焉の時はやってくる。だが、あの時の熱い想いは、20年経った今、見直してみても、輝きを失うことはなかった。今回の「セガハードヒストリア」を手にして、読み返してみると、きっと当時のあの熱い想いが蘇ってくるはずだ。

20年ぶりに、セガハードのテーマの元に、集まった当時のトップクリエイターたち。彼らは、あの時のことを今どう思い、別の世界でもしもセガハードが今も続いていたとしたら、どんなハードになっているのだろう。単に昔を懐かしむインタビューではなく、今という未来を生きる当時のセガファンに、熱くこみ上げる答えがそこにはあるはずだ。

また、インタビューしたクリエイターらによる、「ハード読者レース・クリエイター版」もその結果が気になるところだ。メガドライブ、セガサターン、ドリームキャスト。それぞれのハードの評点は、どんな点数が出てくるのか、これは最終集計を待って、「セガハードヒストリア」を手にした人だけが、見ることができる。

セガハード撤退から20年。当時の関係者の想いが凝縮された「セガハードヒストリア」は、現在最後の製作段階に入りつつある。7月21日の発売に向けて、時間の許す限り、このあとも休日返上で作り込みは続いていく。今後も充実していく本書の内容は随時Twitterなどでお伝えしていく。セガハードの本に携わる機会は、おそらくこれが最後と言える決定版。そんな意気込みで作られている「セガハードヒストリア」はいよいよ受注も締切間際だ。ぜひ、この機会を逃さずに手にしてほしい。

【メイキング・オブ・「セガハードヒストリア」その1】
「セガハードヒストリア」には、当時のクリエイターたちへ現代の視点でセガハードを振り返ってもらうインタビューを収録している。セガハード撤退からちょうど20年経った今、あの時の選択について思うこととは? セガの開発チームとしてトップクラスの位置にいた元AM2研の鈴木裕氏は、『セガサターンマガジン』『ドリームキャストマガジン』でも一番登場回数の多かったトップクリエイターだが、そんな裕さんが、当時の時代背景も含めセガの時代を振り返る

【メイキング・オブ・「セガハードヒストリア」その2】
ミニチュアのソフトウェアラベルは、現物を撮影して作られる。写真の「ゆみみみっくす」はBEメガ編集部の所蔵品。当時の管理用シールが貼られたまま今日まで保管されてきた。今回のミニチュアではこの個体を撮影に用いた

【メイキング・オブ・「セガハードヒストリア」その3】
本製品のために集められたソフト。あらためて当時のパッケージや取扱説明書を見てみると、いろいろと発見があって面白い。ぜひ、本製品でその内容を確かめてもらいたい

「セガハードヒストリア」収録タイトル紹介第4弾 「グラナダ」、「鮫!鮫!鮫!」

 ここまで説明してきたように「セガハードヒストリア」には、付録としてメガドライブソフト10タイトルがついてくる(PCでプレイ可能)。今回は、その中から2本を紹介していきたい。メガドライブの当時はアーケードや他機種からの「移植」が多く、その完成度が注目される時代だった。今回ご紹介する作品も、それぞれ「X68000」、「アーケード」という当時の上位機種からの移植となる。

【グラナダ】

 「BEメガ読者レース」の最終結果は234位、読者評点は7,3251。開発・販売はメガドライブでも多数のタイトルをリリースしたウルフチーム。X68000版からの移植であるためオリジナルより削られた要素はあるものの、性能や価格の違うメガドライブで同じほぼゲーム内容をプレイできることが貴重であった。

 基本的なルールは、自機の移動方向へと任意にスクロールするステージを探索し、敵が出現するジェネレーターをすべて破壊した上でボス戦と戦うというもの(全9ステージ)。迷路状のマップを巡りながら遭遇した敵を“隠れては撃つ”していくスリリングなゲーム体験が味わえる。一見地味に見える画面ではあるが、ボス戦などで見せるソフトウェアによる回転・拡縮表現はいま見ても色褪せないオドロキをもたらすだろう。後に「スターオーシャン」や「黄金の太陽」などでも名曲を聴かせる桜庭統が楽曲制作の一員であることも書き加えておきたい。

【鮫!鮫!鮫!】

 「BEメガ読者レース」の最終結果は147位、読者評点は7.8983。多数の名作シューティングゲームを生み出したゲームメーカー「東亜プラン」による一本で、同社がリリースしたメガドライブ用タイトルの中でも人気は上位。当時のゲーマーは「東亜プランが満を持してメガドライブに参入か!」と色めき立ったものだ。ちなみに同社のパブリッシャーとしての参入第1弾タイトルである。

 ゲーム内容としては、赤い複葉機を操作して縦スクロールするステージを進み、最後に待ち受ける巨大ボスを撃破していくという正統派ストロングスタイル。3種類のショット(赤のファイヤーは画面を覆うほどの派手さ)+ボンバーを駆使して全10ステージを戦っていく。ミリタリー感あふれるグラフィックや、重厚感たっぷりのサウンドも注目のポイントだ。