「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ
ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第33幕】
イタヲタのレトロなゲームライフ~ジョン・カミナリのハプニング満載オタク人生~
僕のゲーマーとしての人生を懐かしさたっぷりで語っていきたい。毎回、特定の時代をセレクトして、自分の記憶への冒険をしたいと思う。最終的には1つのストーリーになる。僕というオタクのストーリー。僕という和ゲー好きゲーマーのストーリー。文章だけでなく、クライマックスのシーンをもっとダイレクトに伝えるために漫画も使うことにした。とにかく、日本ではありえないシチュエーションについてたっぷり語っていくぞ!
- 今回の時代設定:
- 1994年
- イベント:
- エマちゃんとローマの近くの海でゲーム満載の夏を過ごすことに!
- ハプニング:
- 女性といちゃつくより新作ゲームを探すべきか?
19年前の夏。その年に19歳の誕生日を迎え、1年前から大人になっていた。そう。イタリアの法律上では大人になっていたが、僕の人生の送り方には変化なんてなかった。いつもと同じように、勉強が終わったら家に友達を呼んで、一緒にメガドライブやスーパーファミコンの新作で遊ぶという毎日を送っていた。エマちゃんは僕のようにゲーム一筋だったが、ゲームから離れ、異性交遊に関心を移した元ゲーム友達も多くいた。
「今日は何で遊ぼうか?」
エマちゃんは、何があってもいつも側にいてくれる正真正銘の友達だった。8月から家族と一緒に海の近くで借りた家で1カ月夏を過ごすことになった。海。海水浴、水着、日光浴、ビーチバレー……。もちろんそれも楽しかったが、ゲームなしでは、海でのバカンスはとても考えられなかった。だから、8月になると海の家への“ゲームの引っ越し”というお決まりの作業が僕を待ち受けていた。
「今年は何を持って行こうかな? このゲームでも遊びたくなる可能性があるので、やはりこれも持って行くべきかな?」
自分の部屋の棚にぎっしり詰まったゲーム箱を見比べながら、優柔不断な僕は持って行くべきゲームソフトについて迷い始める。結局、「念のために全てのゲームを持って行こう」というのが、いつもの最終的な判断だった。
実は今年、エマちゃんも一緒に行くことになった。向こうにも友達はいたが、ゲームが好きな友達はエマちゃんだけだった。だから、それはとても嬉しかった。海水浴を楽しんだ後、まず海沿いのゲームセンターを探す旅もしたし、夜、家に帰ってから深夜までスーパーファミコンで一緒に遊ぶというゲーム三昧な日々が僕達を待っていた。
恋人は? 女性への興味は? なかったわけではないが、当時の僕は女性の顔が1秒以上直視できないほどシャイで、とにかく、異性交遊にはまだまだ自信が足りなかった。
8月が来た。僕は、家族やエマちゃんと一緒に海もありゲームもありの最高に楽しい夏休みを過ごしていた。ただゲームショップがなかったので、1カ月間持っていたゲームで我慢するしかなかった。あるいは、ゲームセンターを探して僕の“新作を体験したい”という本能を静めるしかなかった。
8月末のある日、僕は考えもしなかったところで日本の名作に出会おうとしていたのだ。海で知り合った友達は、僕がゲームを愛していることを知っていて「今晩だけはゲームのことを忘れて、一緒にギターを引きながら、楽しいビーチでの夜を楽しもう」と誘ってくれた。もちろん、エマちゃんも一緒に行くことになった。
夜の10時。ビーチで焚かれた焚き火の前で男性がギターを引いている。周りにいる男女達は抱き合い、いちゃつき始めた。僕とエマちゃんは、一体何をすればいいのかわからず硬直状態だった。僕達も適当に女性に近づいて、いちゃつけということか? いや、それは無理かもしれない。興味はあったもののシャイすぎて、実行するなんて僕達には不可能だった。
「飲み物を買って来まーす!」
唾を飲み込みながら僕はエマちゃんに顎で信号を送った。彼も一緒に後ろの海の家に向かって歩き出して行った。ちょっと息を整えないと、ちょっと落ち着かないと。こういう展開にはとても慣れていなかったので、どうすればいいのか非常に戸惑っていたのだ。
海の家には飲み物が注文できるカウンターもあった。座って飲食できるテーブルもあった。よく見ると……ゲームセンターもあるのではないか?! 来た時は全然気付いていなかったが、いくつかの筐体が確かに置かれていた。海だから古いゲームしか置いていないだろうと勝手に決めつけていたが、奥の筐体からすごいクオリティーのサウンドが聞こえてきた。それは、届いたばかりの最新作だと期待させるほどのレベルだった。
「エマちゃん、あれは何のゲームなの?」
エマちゃんは目で僕の指先を追い、奥の筐体の画面に視線を向けた。ここからは遠いが、戦士らしきキャラクターが、ファンタジーを連想させるステージの中で格闘しているような映像だった。1人の男性が興奮した状態で、そのゲームで遊んでいた。
僕達は例の筐体に近づいた。グラフィックススタイルは、カプコンの名作ベルトスクロールアクションゲーム「ファイナルファイト」によく似ていた。いや、これも100%、カプコン制作のゲームだ。ファイターが剣で戦っているが、攻撃だけでなくアイテムも使用できるし、新しい装備品も装着できるようだ。何という素晴らしいゲームだろう。カプコンの得意なアクションゲームに、まさにRPGの要素が加わったかのような感じだった。
プレイしていた男性が巨大な敵に倒された。その時「遊びたいからコンティニューしないでくれ!」と祈った。案の定、そのプレーヤーは「このゲームはクソ難しい!」とぶつぶつ言いながら、筐体から離れて行った。その時初めて、ゲームのタイトルが確認できるスタート画面が表示された。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ タワー オブ ドゥーム」
やはりRPGが絡んでいたのだ。あの有名なテーブルトークRPGを題材にしたカプコンの新作だったのだ。RPGに目がないエマちゃんは幸せの絶頂を味わっているようだ。
「エマちゃん、早く遊ぼうよ! 4人同時にプレイできるみたいだしね」
早速、硬貨を投入! 僕はRPGの王道中の王道ファイターを、エマちゃんは攻撃魔法が得意なエルフを選択した。初めてのプレイでやることがわからなくて、さっきのプレーヤーが愚痴ったように難易度が高すぎるように思えた。
この筐体は、硬貨を吸収するという特性を持っているようだ。この状態が続いたら、飲み物を買うためのお金もなくなると心配しつつも、やはりやめられない! コンティニューの繰り返しがしばらく続いた。少しずつ戦闘のコツを掴み、最初のプレイよりもずっと上手になっていることを実感する。
最初の硬貨を投入してから、1時間以上が経過した。その時、後ろから、海の家のオーナーの声が掛かってきた。
「もう閉店時間ですよ!」
時間の経過を忘れるほど、僕達はそのゲームに夢中になっていた。それよりも、僕達は他に忘れていることがあるのではないか? 焚き火の前でいちゃついている男女の友達は、一体僕達のことをどう思っているのだろう。きっと、こう思っていたのだろう。「あの人は不治の病にかかっている。『ゲームオタク』という病にね……」(笑)。
ダンジョンズ&ドラゴンズ タワー オブ ドゥーム
- プラットフォーム:
- アーケード
- 発売元:
- カプコン
- 発売時期:
- 1994年
- ジャンル:
- アクション
カプコンは本作で、「ファイナルファイト」で代表されるベルトスクロールアクションゲームに、装備品の購入やアイテムの使用などRPG的な戦略要素を合体させた。一見、ファンタジーを舞台にしたアクションゲームのようだったが、実際に遊んでみるとそのとてつもない難しさに気が付いた。4つ用意されたキャラクターの特徴や、バラエティ豊かなアクションをマスターしない限り、あっというまにボスに倒され硬貨の消費が圧倒的に増える。
本作の凄さは、欧州でも根強い人気を誇っていた「ダンジョンズ&ドラゴンズ」というテーブルトークRPGの雰囲気やルールを大切にしつつ、カプコンゲームとしてのユニークなアイデンティティも保たれていたことだった。当時欧米が、日本のゲームメーカーに有名なライセンスを委託していた。その時代、日本は欧米メーカーを遥かに超えており、特にアーケードの分野ではライバルなど存在しなかったと断言できるだろう。
もちろん僕は、コンティニューなしでゲームをクリアしたことはなかった。逆にそのゲームは、ワンコインでのクリアができないよう難易度が高く設定されていたと僕は思っていた。それでも、毎回違う作戦を練り、違うアイテムを拾って使用し、違う分岐を選んでいたので満足度は100%だった。
カプコンならではの美麗なドットグラフィックスも大好きだったし、高品質の音響効果のおかげで臨場感も満点だった。そして、何よりも凄かったのは4人でプレイできることだった。
プレーヤーがそれぞれ、異なるアクションやスキルを持ったキャラクターを選び、お互い協力しながら進んで行くというプレイスタイルは絶妙だった。当時イタリアでは、そのゲームはあらゆるゲームセンターに設置されており、行列ができるほど大人気だったのだ。
本作は1999年にセガサターン用に移植され、今年の8月22日に、その続編も含めたプレイステーション 3/Xbox 360用ソフトとして「ダンジョンズ&ドラゴンズ -ミスタラ英雄戦記-」が発売される予定だ。当時遊ぶことができなかった人、また当時遊んだあの素敵な気持ちを振り返りたい人も、絶対に購入するべきだと思う!
(C)SEGA