佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

大量出展! TGS 2016が見せた日本VRシーンの未来

PS VRに集まる国産タイトル。“キャラクターVR”が躍進する!

注目を集めたPlayStationブース
「VRコーナー」にも大量のPS VRデモ機を展示。混雑を避けるためか、かなり余裕を持ったブース配置がされていた

 TGSフォーラム2016基調講演「VRマーケットの展望」(関連記事)とともに幕を開けたTGS 2016。“一世を風靡する”とはこのことか、と思えるほどに会場各所でたくさんのVR関連出展を見ることができたという点で、非常に印象的な年になった。

 特に注目されたのはもちろん10月13日発売予定のPlayStation VRだ。SIEではプレイステーションブースでのデモ出展に加えて、別館に設置された「VRコーナー」内に大型のデモエリアを用意。そちらでは32台のPS VR試遊機を用意し、全14タイトルの出展を行なうという過去最大規模でのブース運営を行なっていたが、9ホール入口で行なわれていた整理券配布は「開場のタイミングで行ってもは全く間に合わない」という盛況ぶりで、市場ニーズの高さに改めて驚かされた。

 そのPS VRは人気殺到のため予約停止中となっているが、TGS 2016に先立って行なわれたSIEのカンファレンス「2016 PlayStation Press Conference in Japan」にて、9月24日からの予約再開が約束されている。公式サイトにて全国235店舗にのぼる予約取扱店(ECサイトを含む)がリストアップされているので、PS VRを発売日に確実に手に入れたい方はお近くの店舗で予約できるよう、24日にむけてスタンバイしておこう。

32台14タイトルの試遊が行なわれていたPS VRの体験ゾーン。整理券配布は開場直後にすべて終了、瞬殺であった

「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」(バンダイナムコエンターテインメント)
「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」(バンダイナムコエンターテインメント)
「初音ミク VRフューチャーライブ」(セガゲームス)

 さて、「VRコーナー」を含むTGS 2016の会場全域ではPS VR以外にも、数えるのも無理なほど(少なくとも30以上)のハード・ソフト両面のVR関連展示が行なわれていたが、その全体の中で特に印象的だったのが、キャラクターの魅力を主軸に据えたVRコンテンツの存在感である。

 PS VRコンテンツとしてはバンダイナムコの「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」(体験レポート記事)をはじめ、「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」、セガゲームス「初音ミク VRフューチャーライブ」などといった形で、国産のVR専用コンテンツの話題に占めるキャラクター系VR体験といったものの割合が非常に大きなものになっている。

 ちなみに上記の「サマーレッスン」と「初音ミク VR」は、それぞれ10月13日のローンチ後、継続的に新規エピソードや追加ステージが配信されていく予定だ。そのため価格が「サマーレッスン」の基本ゲームパックが2,980円、「初音ミク VR」の各ステージが2,700円とフルプライスのゲームの半額ほどに抑えられている。一般にVRコンテンツは「小規模な世界をひたすら作り込む必要がある」という特性があり、総プレイ時間が数百時間に登るような大作ゲームをドカンと出すわけにはいかない。これがVR時代の標準的なゲームの販売スタイルになっていきそうだ。

 また「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」も、ライブステージ部分だけをピックアップしたシンプルな内容になっていて、アイドルのプロデュース、コーディネートといった要素は含まれていない。その分、価格も2,480円と安価に抑えられていて、ローンチ後は追加ステージの配信等が行なわれる可能性も大いにありえる。

「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」。これを「基本ゲームパック」として、時と場所をかえた追加エピソード4本の配信を予定している。キャラクター性を軸とする多くのVRコンテンツがこういった販売方式を取ることになりそうだ

 試みに、プレイステーション公式サイトで紹介されているPS VR対応タイトル一覧のうち、国産・PS VR専用・デモ以外の非映像コンテンツ(録画された映像を流すのではなく、CGでレンダリングされインタラクティブな体験ができるもののうち、ゲーム製品として有料販売されるタイトル)に絞って数えてみたところ、およそ42%がキャラクターにフォーカスしたタイトルで占められていることがわかった。全エピソード購入時の総額を想定するとその割合は更に高まる。

 コアゲームを含む国産コンテンツでは「鉄拳7」、「エースコンバット」、「ファイナルファンタジーXV」のように、通常のPS4でも遊べるPS VR“対応”のタイトルのほうが数が多いが、そこでもキャラクター体験にフォーカスした「しあわせ荘の管理人さん。」、「初音ミク -Project DIVA- X HD」(アップデートで対応)といったタイトルが見られるし、賛否両論を呼んでいるせいかPS公式サイトでは触れられていない「デッド オア アライブ エクストリーム3」(こちらもアップデートで対応)のようなタイトルもあるので、数としてはこの方向性でさらにたくさんのコンテンツが登場してくることになる。

 日本人にVR技術を渡せばこうなるというのははじめからわかっていたことだが(笑)、しかし、それにしても日本独自のVRコンテンツ路線がこれほど派手な形で現われることになったというのは、VRファンとしてとても面白く、ワクワクさせてくれる現実だ。

「初音ミク VRフューチャーライブ」。PS VRをかぶればミクさんが目の前に!というわけで、コンテンツ規模の大小にかかわらず2700円は安い!とお思いのファンの皆さんは非常に多そうだ

キャラクターの魅力を全面に押し出したVRコンテンツの数々。女性向けVRの勢いも凄い

HTC Viveの新コンテンツをプレイアブル出展していたHTCブース。
「乖離性ミリオンアーサーVR」。グリーンバック合成で、VRキャラクターと同じ空間にいる様子を客観的に見ることができた

 大手メーカー以外や国産のPC系VRを含めるとこの傾向がさらに強まる。「VRコーナー」では多数の小ブースが林立し、VRコンテンツのデモを行なっていたが、その大半が「キャラクターとの近接体験をVRで楽しむ」という方向にあるコンテンツだった。

 例えば「VRコーナー」で比較的大きなVR体験ブースを出展していたHTC。ブースでは3つのグリーンバックルームでHTC Viveの体験デモが行なわれていたが、その全部がキャラクターの魅力を全面に押し出したコンテンツだった。

 AMD/講談社の共同開発によるバーチャルアイドルのVRコンサート体験「Hop Step Sing!」ではアイドルたちのステージパフォーマンスを間近に体験。KDDI/モノビットが開発する「Linked-door」は本来なら対人コミュニケーションのシステムだが、この会場では「スペースチャンネル5」の躍動するキャラクターを間近で体験する、という仕立てになっていた(関連記事)。そしてスクウェア・エニックスの「乖離性ミリオンアーサーVR」では、4人のアーサーに囲まれた格好でバトルを展開することができるほか、バトルの幕間ではかわいらしいキャラクターとのコミュニケーションタイムで、ナデナデしたりできる。

 ちなみにそのスクエニではテクノロジー推進部が開発したVR漫画、「Project Hikari」というものも自社ブースで出展している(関連記事)。これは漫画の作法であるコマ割りによって切り取られた時間・空間で描き出されるストーリーをVRでより効果的に視聴できるというもので、要所で作中のキャラクターが立体化され、まるで手を伸ばせば届くような距離感でドラマが展開するという体験を得ることができるものだ。これも日本ならではのキャラクターの魅力を全面に押し出したVRの一形態といえるだろう。

AMD/講談社の「Hop Step Sing!」。バーチャルアイドルたちのステージ上で超近距離鑑賞ができる

女性キャラと男性キャラの2つのVRデモを展示していたシーエスリポーターズのブース
HTC Vive用デモとして作られた「ピナのVR撮影会」もPS VRで今冬リリース予定

 HTCの裏手に中規模のブースを出展していたシーエスリポーターズはデジタルプロモーションを専門とする企業だが、ここ最近はキャラクター中心のVRコンテンツを多数開発しており、ブースでは来年1月上演予定のアニメ映画「ポッピンQ」のキャラクターたちが歌って踊るVRデモや、「VR握手会&撮影会 from KING OF PRISM」として、耽美な男性キャラが多数登場するアニメ映画「KING OF PRISM by PrettyRhythm」のキャラクターとイチャイチャできるVRデモを展示していた(関連記事)。それぞれ映画のプロモーションとして制作されたコンテンツだが、スマホ向けやPS VRでのリリースも予定しているという。

 特に「VR握手会&撮影会 from KING OF PRISM」は実に象徴的なコンテンツだ。というのも、本作をはじめとして、主に女性をターゲットとしたVRデモコンテンツがTGS 2016の会場では非常にたくさん展示されていたからだ。

「ポッピンQ」VRデモの方はこんな感じで、登場キャラクターたちのライブコンサートを間近で視聴
「VR握手会&撮影会 from KING OF PRISM」ではイケメンキャラと握手したり、ナデナデしたり

「刀剣乱舞」のVRデモを和室を模したブースで披露していたDMM Games
スマホアプリ「マジカルデイズ」のイケメンキャラとVRで邂逅

 上記をはじめとした“女子向けVRコンテンツ”についてはライター和久井香菜子氏が情感たっぷりにその印象をレポートしている。DMM Gamesの「刀剣乱舞」VRデモ(関連記事)、サイバードの「イケメン戦国◆時をかける恋」のVRデモ(関連記事)、ではイケメンと化した刀剣や戦国武将と接近遭遇し、「神々しい」とか「ヤバい」とか、感情をそのままに伝えてくれていて面白い。もはや現実の男性どころか現代の男性すら不要なのかという勢いである。

 このほかにも同じくサイバードの「マジカルデイズ the Brats's Parade」のイケメンキャラクターとのイチャイチャ体験ができるVRデモ(関連記事)や、ブース内ではホストクラブじみた出展を行なっていたボルテージのスマホ用ゲーム「スイートルームで悪戯なキス」のVRデモ(通称:椅子ドンVR、関連記事)、など、女性向けコンテンツのVR化が激烈な勢いで進んでいる。男性のVRファンである筆者にとっては、まさに不意打ちというかんじで、もう笑ってしまうしかないという気持ちだ。

 これらのコンテンツの多くはこういったイベント会場で体験するデモとして制作されているが、ぜひPS VRやSteamやOculus Store等での配信もしてもらいたいところだ。家庭で楽しめる!となったら、各作品のファンの皆さんは勢い良くVRヘッドセットを買いに走り、VRマーケットの成長が促進するに違いない。

日本のVRシーンはゲーム業界の地殻変動をもたらすか

「オルタナティブガールズ」のVR体験会を開催していたサイバーエージェント

 ほかに男性ターゲットのVRコンテンツとしては、既にiOS/Android向けに配信されているサイバーエージェント「オルタナティブガールス」が熱烈に売り出し中で、8ホールではスマホ版のVRデモを多数、また10ホールでは「VRコーナー」の一角でHTC Viveに対応させたスペシャルバージョンで、作中キャラクターとの近接体験を披露していた。残念ながらこのHTC Vive版が一般向けにリリースされるかどうかは不明である。

「オルタナティブガールズ」はVRモード搭載のスマホアプリ」だが、会場ではHTC Vive向けにビルドされた特別版も展示されていた。ルームスケールVRを活かした近接体験ではふたまわりほど臨場感がアップする

昨年に引き続きの出展となるプロダクションI.Gブース

 またプロダクションI.Gのブースでは4月に公開がスタートしたVR映像作品「攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER」をドームスクリーンとOculus Riftで披露していたほか、2016年10月より放送開始のテレビアニメ作品「ブレイブウィッチーズ」のVRコンテンツ「ブレイブウィッチーズVR(仮)」をプレイアブル出展。こちらはPS VR/Oculus Rift/HTC Viveといった各VRプラットフォームでの展開も検討しているとのことだ。

「攻殻機動隊 新劇場版 VIRTUAL REALITY DIVER」のドームスクリーン
3Dシューティングゲーム仕立ての「ブレイブウィッチーズVR」。ストライカーユニットを履いたウィッチを後方から追いかける視点のVRコンテンツとなっている

ミドルウェア系企業であるLive2DもVRコンテンツを出展

 この方向性におけるコンテンツ開発技術にも大きな発展がある。「VRコーナー」に出展していたLive2Dは、2Dイラストをポリゴナイズして滑らかに動かせるという技術を専門に扱う企業だが、現在では2Dイラストを360°の全方位で表現できるというソリューション「Live2D Euclid」を開発中だ。

 出展されていた「Live2D保健室」というコンテンツはこの技術で立体化された美少女キャラクター「YUI」とのコミュニケーションができるというもので、まさにイラストがそのままVR世界に飛び出したかのような表現を実現していた。この技術は2017年第1四半期にリリース予定となっているが、こういった技術が用いられるようになることで、ますますキャラクター中心のVRコンテンツは質と量を増やしていくことだろう。

2Dイラストから起こされたキャラクターとVR空間内でコミュニケーションするデモ「Live2D保健室」。イラストそのもののキャラクター質感が新鮮である

 このようにTGS 2016の会場では、驚くほどの多くのキャラクター系VRコンテンツを見ることができた。将来的にPS VRやPC向けにリリース予定のもの、イベントでのデモ用に作られたものと展開方向は様々だが、ひとつ確実にいえることは、日本のコンテンツシーンとVR技術の相性がすこぶる良いということだ。これは以前からしきりに言われていたことだが、この会場でこれ以上ない形で具現化したことになる。

 キャラクターの魅力を伝える装置として、VRはまさに革命的な技術だ。ユーザー自身が「画面の向こう側」に入り込み、バーチャルキャラクターに触れ合うことが可能になる。その体験が強烈なことはもちろんだが、それと同じくらいに重要なのは、そういったコンテンツの魅力はゲーマー以外の広い層にも届くということだ。

 従来のキャラクター資産が活かせることもあって、これまで映像コンテンツの制作を専門にしていた企業も、VRをきかっけに3Dインタラクティブコンテンツの制作に乗り出すケースが相次いでいるのも重要な傾向と言える。これまでPS4や高性能PCといったゲーム環境を全く必要としなかった人たちにも魅力的なコンテンツが提供されていくということで、日本のVRシーンはゲーム業界全体に大きな地殻変動を引き起こす可能性をはらんでいるといえよう。