ニュース

TGSフォーラム2016基調講演「VRマーケットの展望」レポート

クリエイターが語る、VRゲーム開発の苦労、課題、そして将来像

今年の基調講演はVRコンテンツクリエイターによるトークセッションとなった

 東京ゲームショウの中でも、特に業界人向けのカンファレンスとなる「TGSフォーラム」。毎年、そのときどきのゲームマーケットを取り巻くトレンドについての話題が飛び交う催しとなっているが、今年の基調講演は「VRマーケットの展望」と題して、最先端のVRシーンをもり立てるコンテンツおよびハードウェアのトップクリエイターが集まってトークを行った。

 前半、「ソフトウェアメーカーによるパネルセッション」では、カプコンの伊集院勝氏(開発推進統括本部 CS制作統括 技術研究開発部 技術開発室 副室長)、セガゲームスコンシューマ・オンラインカンパニーの林誠司氏(第3CSスタジオプロデューサー)、バンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏(CS事業部 第1プロダクション プロデューサー/ゲームディレクター)という、いずれも現在VRタイトルの開発に携わる3名が登壇した。

登壇した3名。左から、カプコンの伊集院勝氏、セガゲームスコンシューマ・オンラインカンパニーの林誠司氏、バンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏

クリエイターが語る、VRゲーム開発の苦労、課題、そして将来像

「KITCHEN」で怖がる体験者の様子。本コンテンツは今後別の機会に体験できるようにしたいとのことだ

 カプコンでは全社横断的にVRコンテンツの研究を進めており、カプコンの伊集院氏はその中心にいるひとりだ。これまでの取り組みとして、昨年のTGSでも披露されたデモ「KITCHEN」や、「バイオハザード7」の完全PlayStation VR対応、9月16日からカプコン直営のゲームセンター、プラサカプコン吉祥寺店で提供が始まる「特撮体感VR 大怪獣カプドン」といったコンテンツを紹介した。

「バイオハザード7」は全編をVRでも遊べるよう開発中
「特撮体験VR 大怪獣カプドン」。吉祥寺のカプコン直営ゲームセンターで9月16日から遊べる

 セガの林氏は10月13日にPSVRと同時発売予定の「初音ミク VRフューチャーライブ」の開発に携わっている。PS Vita、PS3、PS4と続いてきたバーチャルコンサートシリーズのVR版ということで、「キャラが目の前で動くと、風を感じるほどの臨場感」がウリまた、PS4版の「初音ミク -Project DIVA- X HD」も、今後のアップデートでPSVRに対応するとのことなので、ファンの皆さんには楽しみなことだろう。

「初音ミク VRフューチャーライブ」。PSVR向けに10月13日より順次新ステージが発売される予定だ

 バンダイナムコの玉置氏は10月13日に発売予定のPSVR「サマーレッスン」と、お台場のVR実験施設「VR ZONE Project i Can」の双方に関わっているという。メインは「サマーレッスン」のほうで、このジャンルを社内では「キャラクターVR」と定義し、これまでのゲームとは違ったアプローチとして「1背景・1キャラに特化して表現を深めることで、ほんとうに目の前にいるとしか思えない感覚」を追求したコンテンツを作っていく活動に勤しんでいるとのことだ。

「サマーレッスン」と「VR ZONE」に関わるバンダイナムコエンターテインメントの玉置絢氏。「サマーレッスン」は多くの人にとってVRへの期待感を大いに高めたタイトルだ

VRプロジェクトの難しさについて

 ここでトークのテーマとなったのが「VRプロジェクトの難しさ」について。従来のゲームとは方法論が違って開発が難しいと言われるVRコンテンツの開発について、3者の経験と視点からのコメントが飛び出している。

 「バイオ7」の完全VR対応の開発を今も進めている伊集院氏は、既存のゲームをVR対応させることの難しさを「同じアセットを使って、もう1本のゲームを作っているんじゃないかというほどの苦労」と表現。VRでは視点もプレイ感覚も異なり、VR酔いの問題もあるため、操作性の調整から、イベント等の演出面の変更や調整、ユーザーインターフェイスの刷新や、VR向けのライティングの調整など、手を入れるべき箇所がゲーム要素のほとんど全部にわたるというのが実際に取り組んでみての発見で、それだけに「バイオ7」のVR対応は「苦難の連続」とその苦労を伝えていた。

ライブ会場の臨場感をリアルに再現することに注力

 「初音ミクVR」を手掛ける林氏は、VRの表現力を最大限に活かすところに大きな力を注いでいるようだ。特に、「初音ミクのライブは、マジカルミライ等のイベントで本物の会場で行なわれているので、そういった会場の臨場感をいかにVRで体験してもらうか、導入の部分から議論して作っている」という。これにより、開演前のザワザワ感など、普通のゲームでは表現されないようなライブ会場のリアルな部分がしっかりと組み込まれているという。

 もうひとつ苦労点として挙がったのはアニメーションのクオリティについてだ。通常のゲームであれば構図が予め決まっているので一方向から見栄えがよく見えれば十分だが、VRではあらゆる方向から見ることができるため手を抜けない。その調整に非常に苦労したと語っている。この苦労のおかげで、ユーザーの皆さんは「初音ミクVR」で、ステージ上のライブパフォーマンスを好きな位置・角度から存分にたのしめるようになるというわけだ。

VRでキャラクターをリアルに感じさせるのは非常にハードルが高いという

 「サマーレッスン」を手掛ける玉置氏は、苦労点として「人間らしさをいかに表現するか」という課題を挙げた。VRでは、目の前にかわいいキャラを出しただけではダメなのだ。実在感が高いため、「かえって人間に見えるかどうかのハードルがすごく高い」と玉置氏。ちょっとしたしぐさや目線など非常に細かいところまで気になってしまうなか、作れる中でいまベストな人間らしさの表現を取捨選択して作りこんできた、というのが大きな苦労点だったそうだ。

 さらに、キャラクターの特徴を出すために、従来のように決めポーズ、キメ台詞のような漫画・アニメ的な表現が使いにくいという。そこで「サマーレッスン」では何気ないくせ等にこだわって制作。とくに重要だったのは目の動き。同じ会話でも目の動きひとつで様々な感情が出てくると語っている。

 次に制作コストについての話題となったが、基本的には絶対的な金額が増えたりするわけではない、というのが3者の共通見解だ。ただし力を注ぐポイントは大きくかわる。伊集院氏によれば、「バイオ7」では背景やキャラクターといったアセットに大きなコストがかかるが、そこはVRでも変わらない代わり、VR対応を実現するためにプログラマーには大きな苦労がのしかかるという。

 「初音ミクVR」については割と効率よく作れたとのことで、これは「Project Diva」のリソースが活用できたからだと林氏。一方、完全に新タイプのコンテンツと言える「サマーレッスン」を作っている玉置氏は「キャラクターにコストをかける割合がかなり高まっている」と指摘。原型ができても完成までには何度もレビューをしてブラッシュアップをかけ、とことん作りこむ必要があるという。物量ではなく質、という方向性になる。

現在感じている限界・課題

視点の選択を完全にユーザーに委ね、自由な位置からライブ鑑賞をできるようにすることでVR酔いも軽減できたという

 次の話題となったのが、それぞれが現在感じている限界や課題について。この部分について大きなトピックとなったのは「VR酔い」の問題をいかに対処するか。「酔いは蓄積していくもので、1発で回避できるような決まった手法はない」というのは「バイオ7」を手がける伊集院氏。タイトルごとに対処法は違ってくるが、その中でいろんなタイトルを作るにはまだノウハウが足りないな、というのが現在の状況だという。

 一方、バーチャルコンサートを手掛ける林氏にしてみると、VR酔いの問題は「視点切り替えを完全にユーザーに委ねることで解決されている」ということで、むしろ現状の課題は現実のライブに迫る空気感をいかに表現するかということ。そこはまだまだなので、VRではむしろ現実では不可能なステージや演出に力を入れることで差別化を図っているとのことだ。

 玉置氏はVR酔いも含むVRコンテンツの品質管理の難しさに言及した。「VR酔いひとつとっても、人によって感じ方が全然違うため、たくさんの人のレビューを拾って総合化していく方法を考えないといけない」と玉置氏。また、魅力的なVR体験が作れたとしても、それを人に伝える方法論についてもまだ発展途上にあるという。「サマーレッスン」で培ってきたノウハウはいろいろなタイトルで共有し、活かしていきたいとのことだ。

VRの可能性について

 最後のテーマは、今後のVRの可能性について。これにはそれぞれソフトウェアメーカーの代表者らしく、どんなゲームを作りたいか、という方向性のコメントが飛び出した。

 伊集院氏と林氏の期待する方向性は「複数人での体験の共有」。「初音ミクVR」での体験は一人用であり個人的なものになるが、「ライブ会場で隣にいる人影に実は誰かが入っているなど、VR共有体験でもあるというところに可能性があるのではないか」と林氏。将来的いは「初音ミクVR」のオンライン対応もあるかも?と思わせる発言だ。

 伊集院氏も「コミュニケーションの強化を図る方向に技術を使うと面白くなりそう」と、多人数で体験するVRというものに進化の方向性を見ている。例えば「バイオ」では、複数人で協力してゲームを進めていくような形だ。怖い状況で、隣にいる別のプレーヤーがどれくらい怖がってるかを見ることができれば、これまでにないホラー体験の共有化ができる。

玉置氏は、従来のゲームとVRでは体験の方向性がまるで違うところに注目

 玉置氏は少し違った視点を持っていて、今後は「プレーヤーの当事者性を活かしたゲームが面白いのではないか」という。といのも、一人称のVRゲームでは、誰か他のキャラクターを操作しているのではなくて、参加しているのが自分自身だという強烈な感覚がある。そこで、プレーヤー自身の恐怖や興奮といった感情をシステムで計測して、それを活かしたゲーム作りができるのではないか、というのだ。バーチャルキャラクターのしぐさでプレーヤーの感情をコントロールしようとする「サマーレッスン」の開発を続けてきたらしい意見だ。

 登壇した3名のクリエイターともに手掛けるコンテンツの方向性や性質には違いがあるものの、世界観やキャラクター性を活かした日本らしいVRコンテンツという大枠で共通している。VRゲームにおける世界初のメガヒット作は、こういった個性あふれるクリエイターたちの手から生まれるのかもしれない。PlayStation VRの発売、そしてその将来に期待したい。

【VRハードウェアについてのトーク】
トークセッションの後半では、VRシステムの開発・販売を手掛ける2名が登壇。左はFOVEのCTO、ウィルソン・ロクラン氏。右はHTCのVR担当バイスプレジデントのレイモンド・パオ氏
ウィルソン氏はFOVEの心臓部であるアイトラッキング技術をアピール。将来的にはフルスペックのモーションコントロールシステムに対応する計画も明かした
120fpsの高精度で行われるFOVEアイトラッキング技術は、他のソリューションに比べても圧倒的とウィルソン氏。両眼を追跡することで深度方向の検出や操作もできる
すでにハードは発売中のHTC Vive。HTCでは「Viveport」というソフトウェア販売プラットフォームを準備しており、SteamがカバーしないノンゲームのVRアプリを積極的に配信していくつもりだ