佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
gumi國光氏・新氏に聞く「Tokyo VR Startups」を始めたワケと成果
最先端VRの“その先”へ。TVS第2期スタートの意気込みとビジョンを聞く
2016年10月5日 14:00
モバイル・ソーシャルゲーム大手のgumiの100%出資で運営されているTokyo VR Startupsは、日本唯一といっていい“VR専門のインキュベーションプログラム”を実施している会社だ。
インキュベーションというのはビジネス用語で、アイディアはあれども実現するための資金やオフィスがない、というような起業家の卵を支援し育てる事業のこと。スタートアップ企業が事業拡大を行なう初期段階である“シードステージ”の更に前の段階、企業がグループとしての形を成して最初の製品プロトタイプを作り、さらなる投資を呼び込むための準備を行なうステージだと言える。一般的なベンチャーキャピタルとは違って、Tokyo VR Startupsのインキュベーション事業はイグジット後の投資回収等を目的としておらず、ほぼ純粋に起業支援の形をとっていることも特徴的だ。
今年1月にスタートしたTokyo VR Startups(以下“TVS”)インキュベーションプログラムの第1期では、1月~6月の半年間にわたるプログラムに5つのチームが参加。箱崎インキュベーションセンターに集まった各チームはVRゲームやVRコンテンツオーサリングツールあるいはドローンといったそれぞれの分野で製品プロトタイプを開発し、6月29日に行なわれた最終発表会で成果を披露した(関連記事)。
これら第1期のチームのうち、 VRコンテンツオーサリングツールの「InstaVR」は1,000社以上への導入を果たし、8月にはグリーベンチャーズやColopl VR Fundから総額約2億円の資金調達を達成、事業を軌道に乗せている。ゲームユーザーに馴染み深いところでは、新清士氏率いるよむネコによるVRパズルADV「エニグマスフィア~透明球の謎」はOculus Touch/HTC Vive対応ゲームとして11月のリリースを目指し、高橋健滋氏率いる桜花一門によるホラーADV「Chain Man」はPlayStation VR対応ゲームとして2017年のリリースを目指しており、それぞれTVSのプログラム終了後も製品の発売に向けて開発や資金調達を続けている。
ほかにも、藤山晃太郎氏が率いるハシラスが開発する数々のVRアトラクションは長崎のハウステンボスや東京のサンシャイン60展望台等に展開を済ませており、VRへのタッチポイントを全国に広げている。このように、TVS第1期の参加チームは事業化の成功率が極めて高いことが特徴であり、またその内容もエンターテイメント系が中心となっていた。
そして、TVSでは今年9月にインキュベーションプログラム第2期をスタート。こちらも半年間のプログラムとなり、11月末と2月末にデモデイの開催を予定している。集まったチームの顔ぶれは第1期とはガラリと変わって、VRを使ったソーシャル・コミュニケーション、医療ヘルスケア、VR触角技術の開発と、直球のエンタメからは距離を取ったようにも見える。
・株式会社GATARI(代表:竹下俊一氏)
HTC Vive、Oculus Riftを前提とした、音声入力とアート表現にフォーカスしたソーシャルVRアプリケーションの開発。
・カバー株式会社(代表:谷郷元昭氏)
SteamやOculus Storeでのリリースを目標とし、世界中のユーザーと様々な遊びを行なえるソーシャルVRゲームを開発。
・HoloEyes株式会社(代表:谷口直嗣氏)
人体の内臓や病変を個別の3Dデータとして立体的にVR/ARとして直感的に閲覧できる医療ツール及びサービスを開発。
・Miletos株式会社(代表:三上祐介氏)
脳神経学的なアプローチから、誰でも扱いやすい形で安価に触角をVR空間上で再現するVR触角技術を開発。
・特別参加:株式会社ジョリーグッド(代表:上路健介氏)
放送メディア向けのVR映像コンテンツ制作ソリューションをワンストップで提供するサービス。
特別参加枠のジョリーグッドは特殊で、既に大手メディア向けに事業を展開中であり、インキュベーションプログラムの支援が必要な段階はとうに過ぎている。生まれたばかりのスタートアップ企業と一緒に仕事をすることで“刺激を与え合う”ために参加したという形だ。他の4チームは最近できたばかり、もしくはTVS参加のために設立された企業群で、TVS1期と同様の気鋭の起業家たちが集まっている。
ここでひとつ不思議に思えるのは、ソーシャルや医療、触角技術といった分野に手を広げるTVSが、最終的にゲーム企業による投資としてどういった着地をしていくか、ということだろう。TVSを運営する親会社のgumiは間違いなくゲーム企業で、TVSを含めたVRへの投資をいつかは自社のゲーム開発に活かしていくことを考えているはずだ。
そのあたりを含め、TVSへの取り組みについてgumiおよびTokyo VR Startups代表取締役社長の國光宏尚氏と、Tokyo VR Startups取締役の新清士氏に話を聞いた。TVS1期の成果と2期への期待と狙い、そして最終的にゲーム事業にどう還元していくのか……といったテーマでお届けしよう。
5チームそれぞれが次のステージに進んだTVS 第1期
──まずは話の枕として、 TVSをはじめたきっかけと、第1期で得た感触にについて教えてください。
國光氏:問題意識としてひとつあったのは、アメリカ等ではエンジェル出資のような形で、企業初期のお金を集めやすい状況があります。そのおかげで空き時間を利用してやってきたエンジニア等がチームを集めて起業して、ということがやりやすいのですが、日本ではなかなかそうもいかない状況があります。特に、初期のまだどうなるかわからない段階では全くお金が集まらず、週末にやるような趣味の領域からなかなか脱却できないと。ですので、まずはこの環境を打破しようと、初期のお金や設備といったものを提供しようと考えました。そこでひとつの目標としてあるのは、そうして育った企業がさらにその後も出資を受けてスケールしていけるようなところまで持っていくことです。
第1期の参加チームでいうと「InstaVR」さんは、トータル2億の資金を集められたという形になっています。残りの会社さんも、まだ発表はしていないのですが、まさにいま投資家等との話を進めているところで、全部ではないにしてもかなり多くの会社さんが次のステージに向かえることになりそうな形になってきています。その意味で第1期プログラムは目的を達成できたのではないかと感じていますね。
新氏:昨年のTVSスタート時のときは、5社のうち少なくとも1社は次のステージに進むというのが我々としてのゴールだったんですが、「InstaVR」さんが2億というある意味本格的なラウンドに進めたので、ひとつ成功だったというふうに言えると思います。「InstaVR」さんは海外のほうでもユーザーをかなり集めていらっしゃいますので、その意味では一番進んでいると言えますね。
──「InstaVR」さんについては、gumiさんも投資されているんでしょうか?
國光氏:グリーベンチャーズさんがリードインベスターという形で、続いてColopl VR Fundさん、そしてアメリカで僕達がやっているVenture Reality Fundのほうからも一部出資を入れてという形で、三社で出資をする形になっています。
── TVSを離れて業界各所から資金を集めたと、その意味ではまさに次のステージに進んだというわけですね。
國光氏:そうですね。TVSはインキュベーションステージという、本当に初期の初期を対象にしていますが、僕達のVenture Reality Fundのようなファンドでは、シード/アーリーステージを対象にして、現地企業を中心に14社への投資をしています。そこでもうひとつの目的でいうと、日本でもVRは盛り上がっていますが、とはいえ欧米が大きくなってきていますので、そことの橋渡しをしていくことが必要ではないかと考えています。その意味では「InstaVR」さんがVenture Reality Fundのようなところから出資を受けて、現地を飛び回って現地チームを作って、次のステージに向かおうとしているというのは、もうひとつの目的も達成できたということで、よかったなと思います。
「遊びたいニーズと買いたいニーズとの間のギャップ」を意識したゲーム開発
──開業を支援してもらえるだけでなく、投資家へのつながりも得られるというのがTVSの大きなメリットということですね。その意味でいうと、新さんの「エニグマスフィア~透明球の謎」は他のチームのようなサービス系プロダクトではなく、ゲーム製品としてリリース予定とのことですので、また違った形になりそうですね。
新氏:はい、Oculus Touchのローンチに合わせてリリースの準備をしていて、まさに最後の追い込みの真っ只中ですね。HTC Vive向けも当然出しますが、先にTouchに合わせて出すというのを最大の目標にしています。超追い込み中で、こんなスケジュールに誰がした、って感じなんですけども(笑)。その前にナムコさんのなぞともカフェにテストで2日間出展させていただいたんですが、ものすごく反響が大きくて。テストなのでユーザーさんのデータを見たりアンケートを頂いたりしたのですが、“リア充”が多かったんですね(笑)。
なぞともカフェ自体が謎を解く脱出ゲームをする場所で、業態としてはカラオケボックスに近い形なのですが、その場所を1つお借りして実際に店舗で展開させていただき、66名の方からアンケートに応えていただいたんですが、20点満点で18点くらい、そしてもう一回やりたい、という反応をいただくことができました。これはもう確実に面白いものを掴んだという感触は得ましたね。
びっくりしたのは、なぞともカフェでのロケテ1日目は昼からだったんですが、翌日の朝、開店前に大行列ができていまして。いや、これはいくらなんでもウチは関係ないだろと思ったんですよ(笑)。前日にツイートとかはしていたんですけれどもあまり大きくやっても来た人があぶれても困るし、データに偏りが出るのもなんだろうということで、できるだけ宣伝は抑えてたんですよね。ところがほんとに口コミベースで広がったみたいで、開店15分間で夕方までの予約が全部埋まってしまったという。これはもうVRをやりたいという人が本当にいっぱいいるんだ、ということがすごくわかったんですね。これはいけそうだと、ただ運営に人を付けると人件費がかかるといったオペレーションの問題もあるので、そこをどうしましょうかねという話をナムコさんとしている最中です。
そういった意味では、TVS1期でスタートした半年間の間にある程度のものを作り上げて、VRならではの感覚を目指すことをずっと目標にしていたのですが、それが非常に効果的に機能したというふうに思います。東京ゲームショウでも出展させていただいたときもやはりリア充が多くて、カップル2台で協力プレイをやるという感じで(笑)。そのときはHTC Viveがスペースの問題があるということでOculus Touchで出させていただいたんですが、空間の移動もコントローラーでやるのですが、操作に対して全く違和感を感じる方はいなくて、非常に評判はよかったです。パルマーにも遊んでもらいました(笑)。
我々としてはVRならではの体感があるという仮説を持ってゲーム開発をはじめたんですが、それが確実にあるということが確認できました。またVR特有のものを追求していくと今までのゲーム体験にない何か、というのが確実にあるということも確認できました。それをいま、いろんな企業さんにお話をしていて、実際に予算をつけてもらえる一歩手前の所まで来ています。
「InstaVR」さんの場合は我々のプログラム(TVS)に入る前にある程度サービスをはじめているという段階だったのですが、我々の場合はスタートして半年間でもう製品を出せる一歩手前のところまでこれたということですね。
── ゲーム製品の場合は、サービス系の業態とはちがってマネタイズが製品の発売に連動していますから、その後の展開も読みやすい部分がありそうですね。
新氏:そうですね、そういう意味ではわりといい線を突いているなと、自画自賛なんですが(笑)。そこは常に疑いを持ちながら見ているんですが、やはりユーザーさんの反応などを見ていると、感触が非常にいいのは確かですね。
── 今後「エニグマスフィア~透明球の謎」はどういった形で展開されていくんでしょうか?
新氏:ロケーションでの展開もぜひやりたいと考えています。どこと組むかというのはまだ検討中で、どうやってオペレーションするか、人を付けて運営する必要があるかどうか、というところが最大のネックになっています。その点を議論して最終的に落とし込んでロケーションに持っていきたいと。東京ゲームショウに出したものはデモではなくて、チュートリアルから始まって15分でゲームとして完結するというバージョンで、満足度も高かったので、このままロケーションに出せるんじゃないかという手応えを得ています。あとは乗ってくださる企業さんとの話次第、という所ですね。同時に普通の製品としての開発も継続していって、Oculus Touchで出し、HTC Viveで出し、その次はPS VRをターゲットにしていくという作り方になっていくと思います。
── ロケーションへの展開でいうと、ハシラスさんはTVS参加前・参加中から順調にサービスを展開していて、抜きん出た存在ですね。
國光氏:そうですね、ハシラスさんのその後はもう凄まじく順調で、あちこちから引き合いが来ているようです。まさにいま企画を出すスピードが神がかってきていますよね。
新氏:当然ハシラスをキャッチアップする中国系の企業も出てきているんですが、そういう意味ではハシラスさんはもう一歩先のアイディアを作って実装している状態ですね。我々もデータを取ってわかったんですが、いま日本中で、VRはやりたいというニーズはめちゃめちゃあるのですけれども、VRを買いたい、というところにはまだ手が出てない状態ですね。今の価格帯だと簡単に買えないと。遊びたいニーズと買いたいニーズとの間にギャップが存在していて、今の市場はロケーションVRに向いているんですね。その部分でハシラスはすごく適切にフィットしていて、むしろハシラスはいろんなところから仕事が来すぎていて、どれを選ぼうか、という感じみたいです。そしていま、また新しい製品の仕込みにかかっている感じですね。
盛り上がるVR業界。マジョリティを離れ、敢えてチャレンジングな分野を選んだTVS 第2期
── ハシラス以外も含めて、失敗したチームがひとつもなかったというのはTVSの大きな成功と言えますね。そのTVS第1期のスタートからこれまでOculus Rift、HTC Viveが発売され、まもなくPS VRも発売されると、市場環境に変化が出てきていますが、このあたりどう捉えていますか?
國光氏:TVSを始めようと思った当時から見ると、アメリカ、日本、中国など、世界中でVR産業が凄まじく盛り上がってきているというふうに感じますね。ただ一方でハードの出荷台数が当初の想定より少なくなっていて、そこはもうちょっとメーカーの皆さんに頑張っていただかないと(笑)、という感じですね。ただ需要自体はお客さんのほうにしっかりあって、ゲームも上位のタイトルは結構な金額を売り上げているみたいな感じですので、その意味では、あとはハードの不足は時間の問題でしょうから、この1年でVRは非常に盛り上がってきていることは間違いないですね。
── TVS2期の開始にあたって、そういった市場環境の変化は感じられましたか。
國光氏:1期はだいたい20社くらいの応募だったのですが、2期は35社くらいの応募とかなり増えてきましたし、その内容もかなりバラエティに富んだものになってきました。株式会社GATARIは東京大学と東京芸術大学の学生が中心になっていまして、VRを使った新しいコミュニティシステムを作っていくという、いわば若い学生枠みたいな形になっていますし、カバー株式会社はベテランの人が集まっていて、VRを使ったソーシャルコミュニティを作るというものですね。HoloEyes株式会社は医療系のVRで有名な神戸大学の杉本教授との共同チームで医療系のVRを手がけます。Miletos株式会社は京都大学の大学院の子たちがハードウェア系をやっているところです。それからもう一社、特別参加枠としてジョリーグッドさんですね。
── 今回はソーシャル、医療、触角技術と、実用系に向いたチームが多いように感じられます。
國光氏:今回はやはり2期ということで、TVS自体の存在意義を考えて選考した部分はあります。実績のあるチームが普通にゲームを作りました、みたいな感じですと割りと簡単に資金が集まったりしますし、国際的に言うとVRのベンチャー企業も増えてきたというふうに見ていますけれども、TVSはベンチャーキャピタルではないので、投資して回収を目指すよりかは、やはりインキュベーションを通じてVRのエコシステムを広く大きくしていこうというところを目的にしています。なので今回はわりとチャレンジング(笑)な、これは普通のところからはお金が集まりにくいだろうなぁ、というところを敢えて含めています。
とはいえVRでソーシャル体験というのも100%あるでしょうし、またアメリカでは医療系のVRもすごくホットなスポットになってきています。それから今後のVRは当然見るだけではなくより五感を活用したものになっていくでしょうから、当然触角技術もどこかから出て来ると思います。その意味で、将来的に確実に来る、けど今はチャレンジングすぎるからあまり皆が挑戦しない、みたいなところです。そこに僕らが積極的に挑戦していこうというのが2期で掲げたテーマのひとつですね。
特別参加のジョリーグッドについては、シンプルにいうと日本版のJauntですね。テレビ局等向けの撮影から編集から、最終的に配信までというフルスタックの仕組みを備えているところです。こちらはもうわりとビジネスが先に進んでいまして、北海道放送とか東海テレビなどと実際に仕事をしています。この会社は既にgumiから2億調達しているので超スタートアップというわけではないのですが、ビジネス自体は進んでいるけどまだ知名度はそんなにないという感じで、バリエーションを増やしていく意味で特別枠を設けました。
── 2期も箱崎のTVSインキュベーションセンターをそのまま使うのですか?
新氏:はい、基本的に引き続き箱崎のインキュベーションセンターに集まることになります。そして実はインキュベーションセンター自体が拡大の方向に準備をしていまして、TVS1期の運営に協力していただいたブレイクポイントさんと共同で、TVS参加チームに限らずVRの開発をしたいという方が利用できるFuture Tech Hubというシェアオフィスを10月下旬にオープンする予定です。実はよむネコのチームはまだTVSのオフィスにいるんですが、もう2期の方たちも入ってきているので、狭いんですよね(笑)。なので我々を含むTVS1期のチームの一部はFuture Tech Hubのほうに移動する予定です。60人くらい入れるスペースになる予定で、そこであるいはTVS3期への参加を検討されているような方が準備をできるような環境を提供していこうと考えています。
我々のポイントとしては、日本でVRのエコシステムを広げていく、VR開発産業を育てるためのコミットをしていくということをひとつの大きなミッションとして持っていますので、そのひとつとして、TVSの機能だけではなく、一緒にやっているブレイクポイントさんが広げる形でFuture Tech Hubという形でコミュニティを広げて、VRの下支えをする土台づくりをより進めていこうという戦略を取ろうとしています。
國光氏:やはり1期ですごくよかったなというところは、同じ時期に起業したメンバーが集まりますから、お互いに教え合ったり、刺激を与えあうという面もあって、より開発が進んでいく感触がありました。TVSのメンバーだけだと僕らのリソースも含めていいとこ5社くらいが限界なので、今回はTVSのメンバーに入ってなくてもFuture Tech Hubで同じ環境で仕事ができるような環境を作ります。ブレイクポイントさん的に価格もかなり格安で、1テーブル固定席で月3万円、もし固定席がなければ1万円だけという、果たしてそれで持つのか?!という条件です。という感じで、なんでもVRに関係する人たちがここに行けば常に誰かがいて、いろいろ相談しあったりとか、セミナーやイベントもどんどん開催していきたいと思っています。そういうふうに皆で意見を交換しながらやっていこうという場所を拡大していこうというのが今回の考え方になります。
新氏:カバー株式会社の谷郷さんは、今回応募なさった動機について、良くも悪くもひとつは私の影響だと言っていました。ウチのチーム(よむネコ)はそれこそほとんど何もない状況からどんどん物を作っていったんですが、ありがたいことにそこにTVS環境があって、いろんな刺激が入ってきて、そのおかげでウチのチームはすごく成長していったという経緯があるんですね。それを見ていていると、自分たち単独でやっていると刺激がないためにその部分で遅れが出てしまうと、その意味でTVSに敢えて入りたい、というふうに谷郷さんはおっしゃっていたんですね。刺激を与え合うことで成長度が違うものになる、という意味ではこういったクラスタを作る価値は非常にあるんだなと感じています。
次世代のスマホVR時代に「VRアタリショック」を起こさないために
── ゲームメディアとして気になるのは、やはりゲームにどう還元されていくのか、というところです。gumiさんはもちろんゲームを主戦場にしている企業ですけれども、國光さんとしては、TVSでの取り組みを今後どのようにゲーム事業にフィードバックしていきたいと考えていますか?
國光氏:実際のところ、ゲームを含めて一番重要になってくるのは、VRならではの体験、だと思っています。スマートフォンゲームの時も結局は、家庭用ゲームを移植しようとしたものは全く流行らなくて、最終的にはスマートフォンならではのゲームというものが主流になりました。それを踏まえて今重要になってくるのは、VRならではの体験とは何か、というものをどういう風に作っていくかということです。新さんのところもいろいろと試行錯誤しながらVRならではの体験というものを作ってきましたし、一方、僕らのVenture Reality Fundのほうでは「Job Simulator」などを作っているOwlchemy Labsにも出資していまして、あれもまたVR時代のUI・UXというものを提案しています。
僕は“立体視”のゲームは消えると思っています。結局、3Dテレビが流行らなかったこととVRとの決定的な違いは、3Dテレビはただ立体的に飛び出して見えるだけなんですよね。そこに特別な体験がないから、みんな映画館でたまに見るくらいならいいけど、2Dの映像と3Dの映像にそんなに差がないですから、わざわざ家で見ようとはしないと、だから流行らなかったんだと思います。VRでもまだ正直、立体視にしただけのゲームというのが大半であるように感じていて、VRならではの、没入できる、リアリティのある体験はまだまだですよね。
VRについて、おそらく欧米系の方が最初に言っていたのが間違っていたと思うのが、リアルなやつをバーチャルで再現しようとするみたいなことですね。それはやればやるほど違うと僕は思っていて、体験としてリアル、リアルに感じる、というのがより重要です。リアリティって何?というものをもっと突き詰めた体験であるとか、それによってコミュニケーションの形も変わったりとか。そういう意味では、僕らがやっていきたいのは立体視ではなくて、VRでなきゃいけない体験、というものを持ったゲームを作っていくことが、最終的にお客さんにも受け入れられていくと思っています。というわけで、TVSのようなチャレンジを通じて、VR体験、これがVRならではの楽しさだ、というものを皆で発見していきたいなと。当然、そこで得た知見等は自分たちのゲームにフィードバックしていきたいというふうに考えています。
新氏:ちょっと課題も感じているんですね。今回応募頂いた中には当然ゲーム系も多かったんですが、やはり差がついてきています。ハードを入手して既にどうこうと触られて経験を積み上げてきている方と、まだハードを入手して間もないとか体験頻度が少ない人との間で、考えているプランにはっきりと差ができているんですよね。その情報格差をどうやって埋めていけばいいか、というのをすごく大きな課題だと感じています。ですので、もっと情報発信をこちらからしていかなければならないという風にも考えています。
── 普通の開発者ならそれをチャンスと捉えてゴリゴリ先に進んでしまいそうですが、新さんとしては知見をシェアしてきたいんですね。
新氏:そうですね、そこはきちんとシェアしていきたいですね。今わかっているのは、VRの中でのリアル、というものがあって、VRならではのリアルとは何か、ということに対してちゃんと解答を持てているかどうか、ということが次の時代のVRにとっては重要なんだということを、多くの開発者の人に知ってもらわなければいけないと。まだ開発者の大半はそこまでいっていないと思うんですね。
國光氏:そのへんのノウハウが重要なのって、ユーザーさんにとってフリーツープレイのモバイルゲームのクソゲーには耐えられるけども、VRのクソゲーには耐えられないという事情もありますね(笑)。僕としては一応やらないといけないから全部やりますけど、まあまあ“苦痛な奴”って多いですよ。そういう成功失敗、ノウハウを共有していくことですね。VRでアタリショックが来てしまうと、真面目に体が具合悪くなるじゃないですか(笑)。特に従来のゲームをそのままVRに持ってきたようなやつですね。そういうのはなくしていきたいですし。
── コンテンツ面でVRならではのノウハウが必要なのは間違いないですね。一方、VRのハードウェアは言わば第1世代のものがPS VRで出揃いますが、今後、ハード面ではどういう方向に進化して欲しいと考えていますか?
國光氏:VRならではの体験を実現する上で、僕がとりわけマストかなと考えているのは、その世界に入れる、没入できることだと思うんです。立体視じゃなくて本当にその世界に入り込むとなると、ある程度ルームスケールじゃないと成立しないと思っていて、今HTC Viveがやっているような機能が必須ですし、ルームスケールで言うと最終的にはハンズフリーかつコードレスで使えるスマートフォンこそ、まさに大きなところだと思っています。ですので、最終的にはスマートフォンで、スタンドアローンでルームスケールでVR体験ができるようになってきた時、というのが本当にガッと市場が跳ねる瞬間になるかなと。ハードはその方向に既に向かっていますけどね、そこが僕としては一番大きいキッキングポイントになると考えています。
── 例えばGoogle Daydreamのような標準のスマートフォン向けVRプラットフォームがネイティブでルームスケールに対応して、描画性能も追いついて、標準のデバイスとして出てきたときに、VRアタリショックみたいなことを起こさないようにコンテンツを整えるのが皆さんの使命感というわけですね。
國光氏:そうですね。
新氏:まあ短期でいうと、ケーブルをどうにかしてほしいですね。ケーブルレスの状態には1年では持っていけないでしょうけど、Viveは特に、ケーブルと、イヤホンのケーブルがロケーションベースで展開するときのボトルネックになっていますね。Oculusはそういう意味ではクレバーなデザインなのですけども、ロケーションVRがバツなのでっていう、そのあたりがもうちょっと、ハードウェアとしての形状が洗練されてくるともっと使いやすくなるかなというのは言えますよね。あとは値段がどれくらいのペースで下がっていくのかということも、一般普及に向けては大きいと思います。
── まとめると、HTC Vive並の体験がそこらのスマートフォンでできるようになるタイミング、というのを待望しているわけですね。
新氏:そうそう、そこが大きいです。やっぱりね、VRは立体視じゃない!というのは声を大にして言いたいですね。今って正直、殆どのコンテンツが立体視になっただけみたいなものじゃないですか。3Dテレビにしても、映画館にしても、やっぱり、みんな2Dでもいいや、みたいに思っているじゃないですか。そこがVRが決定的に違うところで、3Dテレビの失敗とは違うところに行こうとすると、やっぱりVRならではの没入を重視したコンテンツがどんどん出て来ることが鍵になるのではないかな、というふうに思いますね。