レビュー
「かまいたちの夜×3」レビュー
「こんや、12じ、だれかがしぬ」で有名な初代メインストーリーも収録するシリーズ3作目
2024年9月13日 00:00
- 【かまいたちの夜×3】
- 発売元:スパイク・チュンソフト
- 開発元:スパイク・チュンソフト
- 9月19日 発売予定
- 価格:3,960円
- CEROレーティング:C(15才以上対象)
今年の11月25日で、原作のリリースからちょうど30周年を迎えるサウンドノベル「かまいたちの夜」。そのシリーズ完結編をプレイステーション 4/Nintendo Switch/PCといった最新のゲーム機で遊べるようにした「かまいたちの夜×3(トリプル)」が、9月19日にスパイク・チュンソフトから発売される。
タイトルは少し異なるが、ゲームの内容自体は2006年にプレイステーション 2向けにリリースされた「かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相」とほぼ同じだ。メインはシリーズ完結編のエピソードにあたる「三日月島事件の真相」なのだが、登場人物やストーリーはそれまでの作品と繋がっており、いわば3部作のラストを飾るようなものとなっている。
そのため、この「三日月島事件の真相」だけ遊ぶとやや物語がわかりにくい部分もあることから、シリーズ1作目と2作目のメインストーリーも遊べるようになっているのだ。その代わりといってはなんだが、1作目と2作目に関しては他機種で発売されていた様々なシナリオは収録されておらず、あくまでメインストーリーのみが楽しめるようになっている。
リリースに先駆けて、本作のPC版をひとあし先にプレイする機会がもらえた。こちらの記事では、そこからわかったゲームの魅力や特徴についてご紹介していく。オリジナルを遊んだことがない人や、ちょっと興味があるけどどんなゲームなのかわからないという人は、ぜひ参考にしてみてほしい。
サクサクプレイできる便利機能やドット風フォント、サウンドプレイヤー機能も搭載
最初にゲームのストーリー部分に触れていく前に、システム面について少しだけご紹介しておこう。メニューから「始めから」を選ぶことで、3つのストーリーの中から最初にプレイするゲームが選べる。「ペンション“シュプール”編」は、「かまいたちの夜」の1作目のメインストーリーを収録したものだ。シリーズを初めてプレイするという人は、ここから遊ぶのがいいだろう。
「監獄島のわらべ唄編」は、シリーズ2作目の「かまいたちの夜2」のメインストーリーを収録したもの。そして、今作のメインとなる「三日月島事件の真相編」は、「監獄島のわらべ唄編」の1年後を描いたストーリーとなっている。
最初に登場した「かまいたちの夜」はスーパーファミコン向けのタイトルだったが、その当時の雰囲気を楽しみながらプレイしたいという人向けに、フォントを通常文字からドット文字に変更することもできる。
ゲーム内容自体はどちらを選んでも全く違いはないのだが、雰囲気は微妙に異なっているように感じられるのはなかなか面白い。こちらは好みで好きな方を選んだり、ゲームを開始する前などに気分で変更したりするのもいいだろう。
筆者はスーパーファミコン版のみで、PS2版はプレイしていないためそちらとの機能的な比較はできないのだが、遊んでいて便利に感じる機能が本作に搭載されていた。そのうちのひとつが、「オートプレイ」である。こちらは自動でテキストを進めていくことができ、選択肢もランダムで選んでくれるというもの。
ゲームとしては何度も選択肢を選び直しながら、真のエンディングである「完」にたどり着くことを目指していくのだが、とくに初回のプレイ時はどの選択肢を選んでどんな結末を迎えたとしても、それ自体が経験値になる。そのため、この「オートプレイ」を利用することで、お茶でもすすりながら映画でも見るような気分で物語を楽しむという遊び方もできるようになっている。
この「オートプレイ」とは別に、何度も繰り返しプレイする中でかなり有効だった機能が、1度読んだ文章を読み進めたり読み戻したりといったことができるというものだ。使い方は簡単で、十字キーの下ボタンを押せば1度読んだ文章はサクサクと切り替えて読み飛ばしていくことができる。逆に、十字キーの上ボタンを押せば時間を遡って読み戻していくことが可能だ。
この機能の何が便利なのかというと、本作では選択肢を選んで特定のルートの物語を読んでいくということが多いのだが、その選択肢の場面まで一気に時短で移動することができるのである。最低でも1度は通ったルートではないと読み飛ばすことはできないのだが、今回繰り返しプレイするなかでもっともお世話になった機能であった。
それ以外にも、利用頻度は低いが文章の表示を消すことができるほか、背景の明るさなども調整することができる。どのボタンがどの機能なのか忘れてしまったときは、操作説明を表示して確認することも可能だ。
もうひとつ、メニューから選べる機能が「サウンドプレイヤー」だ。こちらはゲーム中に流れる74曲ものBGMを好きなだけ聴くことができるという機能だ。ゲームを遊んでいるときはそれほど意識していないこともあるが、ひと通り聴いてみるとたしかに耳に残るメロディばかりとなっている。
「こんや、12じ、だれかがしぬ」すべての物語の発端となったシリーズ1作目「ペンション“シュプール”編」
小説のようにテキストを読み進めていく、サウンドノベルというジャンルの火付け役ともなった「弟切草」。それに続く第2弾として、1994年にスーパーファミコンで発売されたのが、シリーズ1作目の「かまいたちの夜」だ。登場人物たちをシルエットのみで表示するというスタイルも、当時はかなり斬新だった。
それに加えて、「こんや、12じ、だれかがしぬ」という、ゲーム中に登場する殺人予告のメッセージのインパクトもあり、ゲーム自体も大ヒット。その後、様々なプラットフォームに移植されているため、多くの人が1度はこの作品を目にしたことがあるのではないだろうか。
さて、この「ペンション“シュプール”編」では、そのシリーズ1作目のメインストーリーのみが遊べるようになっている。追加シナリオは含まれていないものの、完結編を遊ぶための必要最低限のストーリーは楽しむことができるため、むしろこれだけで十分ともいえる。
ストーリーとしては、信州にある雪山のペンション「シュプール」で起きた密室の殺人事件が描かれている。主人公は、東京の大学に通う矢島透だ。同じ大学に通う小林真理と一緒にスキーを楽しんだあと、真理の叔父が経営するペンションに向かう。そこで、事件に巻き込まれてしまうのであった。
このペンションには、透や真理のほか、ペンションのオーナー夫妻、アルバイトの久保田俊夫に篠崎みどり、ペンションオーナーとの知り合いである香山夫妻にフリーカメラマンの美樹本洋介、三人組のOLと、謎の人物田中一郎が宿泊していた。
そこで有名な「こんや、12じ、だれかがしぬ」という殺人予告のメッセージが見つかる。その後、バラバラになった死体を発見するものの、ペンションがある場所には携帯の電波は届かず、外は猛吹雪で身動きも取ることができない。密室に近い状況に追い込まれた宿泊客たちは、一体誰が犯人なのか、徐々に事件の真相に迫っていくことになる、というのが大まかな内容だ。
これはシリーズ2作目の「監獄島のわらべ唄編」とも共通している部分だが、システム的に見ると途中で表示される選択肢によって、その後の展開が変わっていくという、フローチャートのような作りになっている。少しユニークなところは、選んだ答えによって、犯人なども含めて全く異なる展開になっていくことだ。
この「ペンション“シュプール”編」では、エンディングは全部で13種類用意されている。そのうち「終」と表示されるものは真のエンディングではないものだ。「完」の表示が出ると、正式なエンディングとなり、エンドロールが流れるという仕組みである。
ちなみに、1度何かのエンディングを見ると、目次を選んで再開ができるようになるほか、これまで体験したエンディングリストも確認することができる。すべてのエンディングを見たいという人は、そちらをチェックしながら残りのエンディングが見られるように選択肢を選んでいくといいだろう。
孤島を舞台にわらべ唄をなぞった殺人事件が起こる「監獄島のわらべ唄編」
「監獄島のわらべ唄編」は、シリーズ2作目となる「かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄」のメインストーリーのみを収録したものだ。このシナリオのユニークな点は、ネタバレになってしまうため詳しくは説明できないが、メタ的な構造になっているところである。
前作の登場キャラクターたちに加えて、新たな人物が登場する。あくまでもゲーム内での話となるが、このメタ的な構造によってリアルと現実の世界が入り交じったような不思議な面々が集結する形となる。
こちらは大ヒットした前作の続編を描いたストーリーということもあってか、ボリュームも大幅にアップしている印象である。実際に事件が起きるのは、プレイし始めてからかなり経ってからなのだが、そこまでに登場人物たちの特徴がしっかりと描かれている。そうしたこともあってか、自然とゲームの世界にのめり込むことができた。
前作では雪山で吹雪に覆われたペンションという密室殺人事件が描かれていたが、こちらも孤島ということに加えて、元々監獄だった場所を改装した「三日月館」がゲームの舞台となっている。この島では、50年に1度吹き荒れる「かまいたちの夜」という暴風雨が発生し、ちょうど今回招待された面々が宿泊することになったのがその日であった。そのため、外に出たくても出られない中、次々と殺人事件が発生していくのである。
この三日月館は元監獄だった場所らしく、窓の外にある池には剣山が伸びているなど建物自体にも様々な仕掛けが用意されており、行動そのものが限定される。その中で、犯人がどのような行動をとったのかということを、徐々に解き明かしていくことになるのだ。
「監獄島のわらべ唄編」というタイトルが付けられているように、このシナリオでは、別名「監獄島」とも呼ばれている島で、わらべ唄を題材にした殺人事件が起きていく。この辺りでピンと来た人はなかなかのミステリ通かもしれないが、どことなく推理作家の横溝正史的な雰囲気が漂っているところも面白いポイントだ。
また、前作よりもちょっとギャグ的なシーンも散りばめられており、読み物としても楽しめるような作りになっていた。
別々の視点から事件の真実を見つけ出すシリーズ完結編「三日月島事件の真相編」
三日月島で起きた事件から1年。経営者の香山誠一は、ボロボロになった三日月館を買い取って修復し、そこで亡くなった人たちを供養するために、事件に参加していた人々を招待する。そこで、新たな殺人事件が発生してしまったというのが、シリーズ完結編である「三日月島事件の真相編」の大まかなストーリーだ。
本作の最大のポイントは、これまでの過去作とは異なり、4人の視点が次々と切り替わりながら物語の真実を明らかにしていくというところだ。過去作では、選択肢によってまったく展開が異なるパラレルワールドのようなストーリーになっていた。だが、このシナリオではひとつの真実に対し、それぞれのキャラクターたちがとった行動が、他のキャラクターのストーリーにも影響を及ぼすような作りになっているのだ。
たとえば、とある選択肢を選んだ言葉や行動が、他のキャラクター視点でプレイしているときに、自分が選んだ通りに発言や行動を行ない、その後展開も少し変化するといった感じである。そのため、特定のキャラクターの行動のみを考えるのではなく、全体を通してどのような動きをしてきたか推理していく必要があるのだ。
難易度はこれまでのシリーズと比較して格段に難しくなったように感じるかもしれないが、実際にプレイしてみるとキャラクターの視点が変わるものの、やること自体にそれほど大きな違いがあるわけではない。また、先ほど紹介した便利な読み飛ばし機能もあるため、時間をかけずに様々な選択肢を選んで物語を探求していけるようになっているのだ。
ちなみに、この「三日月島事件の真相編」では、なんと全部で90種類ものエンディングが用意されている。そのため、すべてのエンディングを見ようとすると、それなりの回数、ゲームをプレイしなければならない。しかし、その代わりといってはなんだが、ちょっとしたご褒美も用意されているところもポイントだ。
なんとすべてのエンディングを見るというのとは別に、真のエンディングへたどり着くことができると、ピンクのしおりが出現する。こちらでは、本編とはかなり趣の異なる「ちょっとエッチな番外編」が楽しめるようになっているのだ。いったいどんなストーリーになっているのかについては、ぜひご自身の目で確かめてみてほしい!
ということで、「かまいたちの夜×3」に収録される3作品のポイントについてご紹介してきたが、完結編だけではなく、それまでリリースされてきたシリーズの物語をひと通り網羅することができたため、より深くゲームを楽しむことができたという印象だ。また、今回初めてすべてのシリーズのメインストーリーをプレイしたため、それぞれの作品で描かれていた内容もしっかりと把握することができた。
最近のゲームとは少し異なり悲鳴以外にボイスが流れるシーンはほとんどなく、テキストを読むことがメインの作品だが、秋の夜長にじっくりと読書を楽しむように名作と名高いサウンドノベルに挑戦してみるというのもなかなかいいのではないだろうか?
(C)Spike Chunsoft/我孫子武丸/田中啓文/牧野修