レビュー

「Atomic Heart」レビュー

タイミング重視、閃き必須! 歯ごたえのあるパズルが待ち受ける

 「Atomic Heart」はかなりパズル要素、仕掛けの多い作品である。パズル要素も強く、地形や影響を観察したり、先に進むためのガイドを探したりと頭を悩ませるものも多い。

 その中でも色々な場面で遭遇するのが磁力を使った仕掛けだ。。天井の磁極をSHOCKで操作すると+と-の磁性が変化し、その磁力に引っ張られ、ダイナミックに地形が変わる。変化する地形をいかに把握して先に進むか、成功すると楽しい仕掛けだ。

 ポリマーは中を泳ぐことができるので階段などを使わずに高い場所へ移動したり、高所からノーダメージで落下できたりする。ポリマーは人間の記憶も保存でき、本人が死んでいるのにその意識をとどめることができるため、P-3は様々な場所ですでに死んだ人間と会話できる。この特性だからだろうか、ポリマーの中を泳ぐと“声”が聞こえるのである。これはなかなか不気味な体験だ。

【パズル要素】
ポイントを切り替え貨車を動かす
カメラを操作して仕掛けを作動させる
天井の磁石にSHOCKを当てることで地形がダイナミックに変わる
ポリマーの中を進むと不思議な声が聞こえる
マップには様々な研究所があるが、ストーリーが進まないとは入れない場所も
研究所をクリアすると武器の追加アイテムを入手できる

 またタイミングを重視する仕掛けも本作の特徴だ。扉を塞ぐ鍵は明滅するランプがついた瞬間にボタンを押すことでロックが外れるのだが、徐々にタイミングが早まってきて間違うと他のロックが解除されてしまうので焦ってしまう。特に敵が近くにいる場合は焦ってしまうので、注意が必要だ。

 タイミングと言えば赤い蛇のようなキャラクターを動かすミニゲームはかなり苦戦した。「インベーダー」の様なコンピューターゲーム最初期の画面風で、赤いミミズ型メカを操作して青いポイントを回収していく。一定数ポイントを回収すればクリアなのだが、画面端にぶつかってしまうとミスになり、最初からやり直しになる。このタイミングがとてもシビアで、苦手な筆者は大いに苦戦した。ここは難易度を下げるなどの救済措置があっても良いのではないかと感じるほどだった。

【苦戦したミニゲーム】
蛇のような赤いキャラクターを操作して青のポイントを集めるミニゲーム。筆者はこのゲームがとても苦手でかなり苦労した

 本作は全体的にパズル要素が強く、先に進むためや、研究所に入るために様々な仕掛けをクリアしていく必要がある。慣れてくると解放は見えてくるし、うまくいくと楽しい。ただ研究所の入口は前述したようにストーリーを進めないとアンロックされないところも多いので注意が必要だ。

【様々なギミック】
タイミングよくボタンを押さないと解除できない鍵
光る玉を転がすパズル

日本語音声で楽しめる事により、キャラクターの感情がより伝わる

 PS5/4版発売に合わせ、日本語吹き替え音声が追加された。PS5版を改めて触ってみたが、やはり物語の臨場感がグッと増す。物語の冒頭でおじいさんだと思っていた街の人が実はおばあさんだったり、英語音声と字幕では拾いきれない事があるのを実感した。

 吹き替え声優では特にサチノフの声を大塚明夫さんが演じているのが印象的だ。頼もしいおじさんキャラクターを演じることが多い大塚さんだが、サチノフはP-3の父親代わりであり、その包容力を感じさせるこちらを思いやる声の中に、どこか秘密めいた、何かを隠していそうな響きが混じっているのだ。

 意外だったのがコンパニオンロボット・テレシコヴァ。もっと落ち着いた声をイメージしていたが、ずいぶんとかわいらしい、アニメっぽい“萌え声”で、オリジナルもかわいらしい解釈だというのがわかった。

サチノフ博士はポリマー化された社会をもたらし、重傷を負ったP-3を助けた彼にとって2人目の父親とも言える人物。ただ今回のロボットの反乱にはサチノフの思惑も感じられる。演じる大塚さんの声は大きな信頼感だけでなく、小さな不信感も与える
コンパニオンロボット・テレシコヴァ。英語音声でのイメージと異なり、ずいぶんかわいらしい声だ

 そして当然だがP-3の岩崎洋介さん、グローブのAI・チャールズの主役コンビが良い。2人は反発しながら苦難を乗り越えていく。P-3の口の悪さ、悪態は変わらないし、チャールズの皮肉は強まるばかり。しょっちゅう言い争いをしているのだが、その雰囲気がやはり良いのだ。彼等の掛け合いは日本語吹き替え音声での大きなセールスポイントだろう。

 そして英語が苦手な筆者にとって、日本語吹き替え音声は英語音声と字幕では拾いきれない“機微”を拾えるのがありがたい。梶裕貴さんは、ターゲットであるペトロフの繊細さと狂気を感じさせる声の抑揚が伝わってくるし、優しさと激情が混じるラリサを小清水亜美さんが演じる事で印象を強めている。「色っぽい修理機械」というトリッキーなノラも吹き替え音声で魅力は200%増しだ。吹き替え音声でクリアまで進めてみたいと強く思った。吹き替え音声は、PCやXbox One/Series X|S/でも実装されているので、クリアしたという人も再挑戦して欲しい。

 一度目は先の展開もわからず、無我夢中で戦っていたのだが、2度目は余裕があり探索もしっかり行った。スキルの構成も実用的にでき、敵をガンガン倒しながら進んでいくことができ、結果リソースが潤沢になり、よりゲームを楽しめた。

P-3とチャールズの掛け合いは本作の楽しいところ
ラリサは物語で重要な役割を担う。小清水さんの声が印象を強める

 「Atomic Heart」は「バイオショック」の影響を強く受けたゲームであるのは間違いない。現在とは異なる歴史を描いた世界観、ギミックたっぷりのゲーム要素に、多彩なスキルや武器。この独特な世界観の中で戦いを繰り広げるその楽しさこそが最大の魅力だ。

 一方でちょっと物足りないかな、と感じる部分も正直あった。ただひたすらこちらに向かって取り囲んでくる敵の挙動とAIは単調だ。特に地上の戦いはただひたすら群がる敵を払いのけるだけになってしまうし、ストーリーを進めないと研究所の扉が開かなかったり、オープンワールドとして戦闘と探索をもっと練り込んで欲しい。

 また、登場キャラクターのキャラクター性の薄さも不満点だ。ペトロフを追うストーリーなのに登場人物がほとんど姿を見せず、ひたすらパズルを解いていくのはストーリーテリングとしては弱い。登場人物の印象を強化するシナリオはもっと作り込めたのではないか? と感じた。最もこの印象は日本語吹き替え音声で少し変わった部分もある。やはり声を認識できるとキャラクターへの思い入れは変化する。

 ただ本作がつまらないかと言えば、そんなことは決してない。この世界を探索するだけで楽しいというのは本当に大きな魅力だし、敵をガンガン倒しスキルを強化しより激しく戦っていくゲームプレイの感触も良い。特に2度目のプレイはストーリーや各設定も楽しみが増えた。ラストの展開に向けてのセリフの伏線や、各施設の機能、構成など改めて本作の世界がしっかり作られていることが実感できた。

 「Atomic Heart」はやはり魅力的なアクションRPGである。世界観、ゲームシステム、ストーリーと、どれもが味がある。東側の開発者ならではの独特の社会や人間への視点というのも感じられたと思う。「架空のソ連」という独特の雰囲気を、ぜひ味わって欲しい。

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