レビュー
「The Last of Us Part I」レビュー
2022年9月1日 00:00
強い絆で結ばれていくジョエルとエリー。その旅路の果てにあるものは?
やはり「The Last of Us Part I」の最大の魅力はストーリーだ。そしてその中心となるのが「ジョエルとエリーの絆」である。ジョエルは20年前最愛の娘サラを失った悲しみに囚われたままだ。彼女を失った日に贈られた腕時計、もはや時を刻まなくなった壊れた腕時計を彼は20年間付け続けているが、自分からサラの話はしない。失った人のことは話さない。それがジョエルの悲しみへの対処の仕方だ。
エリーは本編の物語が始まる前に親友を失っており、そのエピソードは本作に収録されている追加エピソード「Left Behind -残されたもの-」に収録されている。母もいない彼女は「1人にされること」を恐れている。本来は人なつっこく、気さくな性格だが、過酷な生活と愛する人と引き離されたつらい記憶は、彼女にハリネズミのような警戒心の強い態度を取らせている。
そんな2人が苦難を乗り越え絆を育んでいく。世界は危険に満ちており、「人類を救う」という使命は重い。命がけの旅の中、エリーは何度も無力感にさいなまれるが、ジョエルもまたエリーの助けがなければ切り抜けられない場面に直面する。お互いを認め合い、彼等はより強く成長していく。
エリーは崩壊後に生まれた子供だ。崩壊前の文明を知らない。痩せた女性モデルのポスターを見て「なぜ望んでガリガリの体型になっているか信じられない!」なんてことも言う。文明が崩壊していない現代に住むプレーヤーはジョエルの立場でエリーの「自分とは全く異なる価値観」に直面する。こういった会話も楽しい。
「The Last of Us Part I」は丁寧なローカライズがされており、ジョエルは「新世紀エヴァンゲリオン」の加持リョウジや、洋画の吹き替えなどで知られるベテラン声優の山寺宏一さんが渋く演じている。エリーを演じるのは「ハピネスチャージプリキュア!」の白雪ひめなどを演じた潘めぐみさん。生意気そうなエリーの雰囲気にあっている。日本語吹き替え音声もかなり聞き応えあるが、英語音声と聞き比べてみるのも楽しい。
この世界は現代の我々から見れば"地獄"に見える。外では感染者達が潜んでいるし、人間達は少ない物資を巡り争い、自分たちのコミュニティ以外の人間は獲物でしかない。そんな中でも人は懸命に生き抜こうとしている。ジョエルとエリーは旅を続けながら様々な人と出会う。ヘンリーとサムの兄弟、人嫌いのビル、ジョエルの弟トミーとその妻マリアなど様々な人々と出会い、彼等の生き方に触れる。
プレーヤーの心を揺さぶるのはこの世界で向き合い、生き抜く彼等の姿だ。もちろんこの世界に耐えきれず、あるいは感染したことに絶望して死を選ぶ人もたくさんいる。自分がこの世界にいたらどうするか、考えさせられる。
現在の私たちは、本作が最初に制作された2013年では想像もできなかった新型コロナウィルスのパンデミックのただ中にいる。現在も感染を恐れ意識の上でかなりのストレスと共存しながら生きている。世界の混乱にも直面したし、今でも最前線で新型コロナウィルスと戦う人々もいる。日本は幸い大きなパニックなどは起きていないが、上海の大規模ロックダウンや、ニューヨークなどでの暴動、ヨーロッパでの深刻なアジア人差別など恐ろしいニュースを伝え聞いている。今後もまだまだ予断を許さない状況だ。もし文明が崩壊したら、人類が踏みとどまれなかったらどんな状況になるか? 本作が描く世界は幻ではない。
「The Last of Us Part I」では"人間"の姿が描かれる。文明が崩壊し、"たが"が外れた人間、社会という保護がなくなった人間が生き残ろうとどれだけあがくか、危険な存在になるかが繰り返し描かれる。そのスタッフの情念、強烈な問いかけはプレーヤーの心を強く揺さぶる。エリーやジョエルもまた生きるために時には我々が共感できないほどに残酷で凶暴な決断を下す。彼等の旅路の先に何があるのか、是非プレイして見届けて欲しい。
©2022 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog LLC. The Last of Us is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.