並み居るオルクを蹴散らし、切り刻み、撃ち倒せ! 「ウォーハンマー40,000: スペースマリーン」は宇宙に恐れられる「死の天使」スペースマリーンのウルトラマリーン戦団中隊長タイタスとなって、オルクの軍団をたたきつぶすアクションゲームだ。
スペースマリーンとはまさに一騎当千。無敵の戦士っぷりを味わえるゲーム性と、独得の世界観のストーリー展開は他のアクションゲームとは違う独得の感触をもたらす。異色で濃い面白い魅力を持った作品である。かなり荒削りなところもあるがこのテイストが気にいった人には特別な作品となるだろう。
■ ミニチュアバトルゲームを原作にした、無敵のスペースマリーンの物語
主人公タイタス。スペースマリーンの強力さを見せつけてくれる |
群がるオルクをなぎ倒す。無慈悲で無敵の戦士だ |
ミニチュアバトルゲーム「ウォーハンマー 40,000」。このミニチュアから広がる世界を本作は再現している |
「ウォーハンマー40,000: スペースマリーン(以下、「スペースマリーン」)」は「ウォーハンマー 40,000」という英ゲームズワークショップが販売するミニチュアを使ったシミュレーションゲームを原作としている。「ウォーハンマー 40,000」は遠未来を舞台としながら、“オルク”と呼ばれるファンタジーゲームのオークやゴブリンそっくりな敵やディーモンが登場するファンタジーとSFが混じり合った世界が特徴だ。ちなみにファンタジー世界を舞台とした「ウォーハンマー:ファンタジーバトル」というミニチュアバトルゲームも人気が高い。
「ウォーハンマー 40,000」では、プレーヤー達はミニチュアフィギュアを集め、自由に彩色して自分だけの軍隊を作り出し、ジオラマに並べて対戦相手の軍隊と戦う。敵との距離をメジャーで測ったり、時にはルールの解釈について話し合うなどコンピューターゲームとは違った魅力がある。何より鎧を極端に大きくしたようなスペースマリーンのパワーアーマーや、ガラクタを寄せ集めたようにしか見えないのにちゃんと機能するオルクの宇宙船、不気味なディーモンや、プラモデルとして組み立てる戦闘車両などユニットから伝わる世界観が楽しい。
「スペースマリーン」はそんな「ウォーハンマー 40,000」の世界を舞台としたアクションゲームだ。プレーヤーは人類が宇宙に進出した<帝国>の一員であり、強大な力でその名を轟かすウルトラマリーン戦団に所属するタイタス中隊長となる。今回の任務は星自体が工場となっている<帝国>の工業惑星グライアに侵攻してきたオルク軍を撃退することだ。しかしオルクは防御施設を既に占拠、奪った“惑星防衛砲”でこちらを攻撃してきた。彼等の狙いは巨大ロボット兵器「タイタン」を奪うことだ。
奪われた対空砲で粉々にされていく味方の艦隊。タイタスは部下を率い、高高度から飛び出し自由落下、背中のスペースマリーンパックだけで地上を目指す。途中オルクの空中船を見つけると、何の恐れも抱かず突っ込んでいく。何という無謀でめちゃくちゃな降下。これこそがスペースマリーン、それこそがタイタスなのだ!
「スペースマリーン」のタイタス達の活躍は、強調しすぎなほど大げさに、派手に描かれる。スペースマリーンであるタイタスは、一撃でオルク達をなぎ払う。群がってくる敵をばったばったとなぎ倒す様は「真・三國無双」シリーズを思わせるがこちらチェーンソーが刃となった刀「チェーンソード」でオルクを切り裂いたり、「サンダーハンマー」で粉々にしたり、脚でオルクの頭を踏み抜いたりとバイオレンスに溢れている。
何よりも体力の回復方法が「攻撃」というのが本作の特徴を強く現わしている。「スペースマリーン」では、タイタスの体力回復の方法は、一定時間経過したり、アイテムで回復するのではなく敵をスタンさせてからつかみ攻撃でとどめを刺すこと。回復のアクションも敵の腹をチェーンソードで貫いたり、顎に手をかけて一気に引き裂いたりと残酷だ。敵に全く慈悲をかけない戦闘マシーンのようなスペースマリーンの力に圧倒されてしまう作品だ。
SF世界を舞台にしていながらも<帝国>は厳格な宗教観を持っており、“歪み(ワープ)”と呼ばれる異端の影響を極端に恐れている。「異端審問官」という歪みを監視する役割を持つものまで存在する。また、スペースマリーン達のアーマーはゴテゴテと飾り立てられていたり、中世を思わせる要素もふんだんに取り入れられている。工場惑星の何もかもが大げさな施設も楽しいし、荒っぽくいい加減なオルクのテクノロジーも面白い。爆発しそうなロケットを背負って空中戦を挑んでくるオルクなどはユーモラスでありながら人命軽視の怖い思想が見え隠れする。何よりも自分の攻撃に味方を巻き込むことを何とも思っていないのである。
高高度から降下、オルクの船をたった1人で撃沈してしまう。スペースマリーンの強さを見せつけるオープニングだ | ||
左は撃つと爆発する敵。右はオルクのリーダーの「いくさ頭」だ。ミニチュアの持つ雰囲気を再現している | ||
惑星全体が工場という工業惑星グライア。中央は隕石のようなオルクの降下船。右はミニチュアでありそうな戦闘機 |
■ 強力な武器で、オルク達を撃滅せよ!
敵をスタンさせ、とどめを刺すことで体力回復ができる |
左下のゲージを使って発動するフューリー・モード。近接攻撃が強化される |
「スペースマリーン」はアクションとTPSの中間という形のゲームデザインだ。様々な火器を使いこなし、近接攻撃と織り交ぜて戦っていく。武器はゲームが進むにつれ使用可能なものが増えていく。
近接では「コンバットナイフ」から、「チェーンソード」、「パワーアックス」、「サンダーハンマー」となる。パワーアックスはチェーンソードより振りが遅いが威力が大きい。サンダーハンマーは接近戦武器として最大の威力があるが使用中は一部の射撃戦兵器が使用できなくなってしまう。近接攻撃は通常攻撃とスタン攻撃を組み合わせた様々なコンボが可能だ。単発のスタン攻撃では気絶しない敵が増えてくるので、うまく広範囲に攻撃できるコンボを組み込んでいくかも課題になってくる。
遠距離攻撃は最大で4つの武器を持ち歩ける。マシンガンのような感覚で小型ミサイル“ボルト弾”を発射する「ボルター」、遠距離から狙撃可能な「ストーカー・ボルター」、プラズマを発射する高威力の「プラズマピストル」、ショットガンのように近距離の広い範囲を攻撃する「メルタガン」、エネルギーを遠距離まで放射する「ラスキャノン」。特にユニークなのはエネルギー弾を発射し、任意に爆発させられる「ヴェンジェンス・ランチャー」だ。こういった様々な火器を状況に合わせて使っていく。
この他、敵を倒すと増加する「フューリー」というゲージがあり、使用すると一定時間体が金色に輝き近接攻撃がアップする。発動中は体力も回復するのでピンチの時に有効だ。また場面によってはジャンプパックを使用することができる。飛行から急降下で攻撃する「グラウンド・パウンド」は広範囲にダメージを与える強力な技だ。ジャンプパックからのグラウンド・パウンドは爽快で正直ずっと使っていたいのだが、一定の距離を進むとタイタスは「もう必要ないな」とためらいなく捨ててしまう。この演出が面白かった。オルク達は取り囲むように接近戦を挑んでくると同時に、遠距離からマシンガンでダメージを与えてきたりする。接近戦に夢中になってるといつの間にか瀕死になっていたという状況も少なくない。遠距離攻撃には注意して、遮蔽物を意識しながら戦う必要がある。特に中盤から出てくるロケットランチャーはやっかいで、攻撃方向が把握しにくい上に大ダメージを与えてくるので、優先的に倒さなくてはならない。
タイタス達スペースマリーンは体力に加えエネルギーシールドを装甲に張り巡らしており、攻撃を受けるとシールドがまず減少し、次いで体力が減る。シールドは一定時間で回復するが、体力は敵をスタンさせてからのとどめの一撃でしか回復しない。敵のダメージは高めで油断するとあっという間に倒されてしまう。
敵を攻撃して体力回復というのは世界観を活かしたユニークなシステムだが、荒削りだなあと感じたのは、とどめの一撃のアクション中も敵からのダメージを受けてしまうところだ。死にそうだから回復したいのに、とどめアクションが長くてその間攻撃を受け続けてしまって結局倒されてしまったり、トータルで見たら回復しても事態が好転しなかったと言うこともあり得る。特に中盤からは単発でスタンする敵が少ないので、回復までの手間が増える。時には後ろに下がり敵を減らしつつある程度安全になってから体力回復、ということも考えていかなくてはならない。ゲームバランスとの兼ね合いという部分ではあるが、もう少し練り込めたのではないかなと感じた。
左から「チェーンソード」、「パワーアックス」、「サンダーハンマー」。近接攻撃こそ本作の醍醐味だ | ||
何パターンもあるとどめの一撃。スタンさせた敵を瞬殺できる | ||
「ボルター」、「メルタガン」、「ヴェンジェンス・ランチャー」 | ||
左は武器メニュー。中央と右はジャンプパック装着時だ。強力だが限られた場所でしか使えない |
■ オルクに占拠された惑星、ケイオス軍の登場で3つどもえの争いに
異端審問官。ある秘密兵器を研究していたという |
謎に包まれた<歪みのエネルギー> |
物語は惑星降下から、占拠された“惑星防衛砲”の破壊、巨大ロボット・タイタンの確保、異端審問官との出会い、そして審問官が持っていた超兵器の機動を目指していく。惑星全土はオルクの軍勢がいて、どこでもタイタス達の戦いは苦しい。
工業惑星は無骨で重々しく、暗い場所が多い。オルクに破壊されている場所と、まだ侵入を許していないタイタンのある工堂周辺の静かな雰囲気の対比が面白い。オルクの列車の上で戦ったり、ロキットパックで空を飛ぶオルクと空中で戦ったりとシチュエーションも多彩だ。
タイタスはオルクに占拠された工業惑星で、圧倒的な不利な戦況を戦い抜いていく。どんな絶望的な状況にも全く動じず、群がる敵をなぎ倒していくスペースマリーンの戦いは、「ウォーハンマー 40,000」のファンの思いをそのままゲームで再現したようで、開発者達の強い思い入れを感じさせられる。筆者自身は「ウォーハンマー 40,000」に詳しくはないが、ファンなら喝采を上げてしまうであろう本作の“濃さ”はプレイしていて強く伝わってくる。
「スペースマリーン」では<歪み>というエネルギーが重要な鍵を握る。別次元でありこちらに侵略をしようとするケイオス(渾沌)の勢力と深く繋がるエネルギーを巡り、人類とオルク、さらにケイオスの軍勢も加わり3つどもえの争奪戦が展開する。ケイオスは歪んだ魂が肉体を得たディーモンの他、帝国を裏切りケイオス側に転向した「ケイオス・スペースマリーン」も登場する。鍵を握るのはタイタスだ。工業惑星の人々を救うことができるのか、戦いはどんな結末を見せるのか、展開するストーリーにグッと引き込まれる。
原作の雰囲気にこだわっているためか中盤まで敵がオルクばかりだったりと、超大作と言われるゲームと比べると展開がすこし地味に感じる部分があるかもしれない。しかし、この強烈で独得な世界観、無敵で無慈悲なスペースマリーンの活躍という大きな魅力が、本作に他作品とは比べられない魅力を与えている。荒々しく、残酷で、ユーモラスで、重厚な「スペースマリーン」はプレーヤーによっては特別な輝きを感じる作品となるだろう。
世界観が強く伝わってくるグラフィックス。右が巨大ロボット兵器タイタン | ||
オルクの列車に乗り込み、破壊する。スペースマリーンを阻めるものはない | ||
戦いは空でも。無理矢理空を飛んでくるオルクがユーモラスだ | ||
様々な種類のオルクが襲いかかってくる。ロキットランチャを撃ってくる敵は要注意だ | ||
ケイオスの勢力により、戦いは3つどもえに。右は裏切り者達のケイオススペースマリーン |
■ スペースマリーンとケイオススペースマリーンにわかれ、最大16人で戦うマルチプレイ
自分を倒した敵の装備をコピーできる。将来の目標にもできそうだ |
「スペースマリーン」はシングルプレイだけでなくオンラインでの対戦要素もある。プレーヤーはスペースマリーンとケイオススペースマリーンにわかれて戦うことになる。最大16人の対戦が可能だ。
対戦ルールは拠点を奪い合う「制圧」と、一定数敵を倒す「せん滅」の2種類が用意されている。対戦を重ねることで経験値を得て多彩な装備やスキルをカスタマイズで組み合わせるようになる。特にジャンプパックで空を飛び、ハンマーを使うのが熱い。空から一気に襲いかかるのは爽快だし、逆にそうやって襲われたときどう回避するかも面白い。空の攻防は本作の特徴の1つだ。
もう1つ面白いのは、倒されたとき敵の装備をコピーできるところ。高レベル装備をもう1度倒されるまで自分のものにできるのだ。初心者でもベテランの力を借りて逆襲することができるのである。
「スペースマリーン」は「ウォーハンマー40,000」というその世界観に最大の魅力があるゲームだ。混沌とした世界観、荒らしいキャラクター達の凄惨な戦い。ミニチュアバトルゲームプレーヤーが夢想した世界がここに再現されている。そしてそのこだわり抜いた世界だからこそゲームプレイに独得の感触を与えているのだ。濃く、楽しいゲームであり、原作ファン以外の人も惹き付ける魅力溢れる作品だ。
激しく戦い合うマルチプレイ。本作ならではの近接重視の戦いも楽しい |
(2011年 10月 26日)