PS Vitaゲームレビュー
俺の屍を越えてゆけ2
神と人との因縁を描くストーリー。“夜鳥子”の存在があらゆる意味でキーとなる
(2014/8/22 00:00)
神と人との因縁を描くストーリー。“夜鳥子”の存在があらゆる意味でキーとなる
本作は前作の約100年後、平安後期が舞台。前作でお馴染みの神様も多数登場するが、基本的には新たな一族の新しい物語が描かれ、前作をプレイしていなくても全く問題はない。神の存在が近く魑魅魍魎も跋扈する、どこかおかしみがありつつも時に「エグい」とさえ感じる展開もありの、ダークファンタジー的な世界観は前作譲りだ。
一族に呪いをかけた相手を打倒して呪いを解くというのは前作と共通のテーマだが、今回の敵は帝の信が厚い陰陽士・阿部晴明。都を襲う天変地異の責任を一族に被せ、人身御供として一族郎党、女子供まで惨殺した上で短命と種絶という2つの呪いをかける。それが天界の計らいにより、封じられていた神“夜鳥子”の力で蘇るのだが、そもそも晴明はなぜ滅ぼす一族に呪いをかけたのか、復活することも見越した上での計画なのか……この謎を追い求めるのが物語の大きな流れだ。
そしてシナリオを進めると、この夜鳥子を一族の一員として転生させることが可能に。メインシナリオを進行させるためには夜鳥子を出撃隊の一員に加え、特定の月に開催される“百鬼祭り”へ突入して阿部晴明と対峙する……というのがゲーム中盤の展開となる。
筆者はキャラクター性とストーリー要素が強い、いわゆる“JRPG”を好んでプレイする口だが、その観点からすると夜鳥子の存在は魅力的。一族と行動を共にしつつも正体不明な夜鳥子はミステリアスで異質な存在感があり、陰陽士という独自の職業も、シナリオ進行とリンクして使える式神が増えていく楽しさがある。式神使用時の“変身”など、ビジュアル面でも見所のあるキャラクターだ。
記憶を失っており、本人は多くを語らない(語れない)夜鳥子について、鬼神が戦いの前に漏らす昔語りなどにより、断片的な情報から徐々に人物像が見えてくるのも面白い。「神様みんな夜鳥子さん好き過ぎじゃないか」という声もあるようだが、筆者的には「そもそも神様ってその辺自由奔放だよね」という見方なのであまり気にならなかった。夜鳥子に恋い焦がれているからといって、夜鳥子以外にそうではないとは限らない、といったところだろうか。
晴明との因縁も含め、総じてストーリーを牽引する存在となっており、晴明打倒、一族の悲願達成という遠い大目標に加えて、夜鳥子の謎を追うという中期目標が設定されているのは、筆者のようにストーリー重視派にとっては中盤の中だるみを避けられてありがたい。
一方で、“ゲーム進行に必要なNPC”という観点でみると、評価はなかなか複雑だ。夜鳥子も2年ほどの寿命で亡くなり、次に転生可能になるのは1カ月後。その上で他の一族と同様に2カ月の修行期間があるため、“次の百鬼祭りが開催される月”と“一族の戦力がベストな状態”に加え、“夜鳥子が転生して出撃可能になる状態”までタイミングを合わせる必要があり、タイミングを外すと次の機会は1年後。ややストレスフルな管理を要求されるのは確かだ。
さらに、夜鳥子の転生にも奉納点を消費するため、先の先を見据えた計画を練る必要がある。ある意味、一族育成シミュレーションとしては腕の振るい所ではあるのだが、1番困るのは、次の百鬼祭りの直前に夜鳥子の寿命が来そうなとき。効率優先でプレイしていると「夜鳥子さん早く転生させたいので、寿命縮めるため健康度浪費しよう」なんて考えがちで、短い命をわずかでも長く繋ぐという、本来のゲームプレイとの相性はやや悪い。
結局のところ、夜鳥子というキャラクターにどのくらい思い入れを持てるかにかかっている感は強い。筆者はある種の身勝手さも含めて人間くさい神の姿に親しみを覚え、「ちょっと面倒だけど夜鳥子さんのために頑張ろう」と思えた。また、一族にもしっかりと、「ここまで何世代もかけて戦ってきて良かった」と思える見せ場が用意されている。
強いて言えば、夜鳥子と一族の関係が単に利用し利用される間柄ではなく、夜鳥子が一族に寄り添う存在であることが、終盤になるまであまり見えて来ないのが残念なところ。最後までプレイすると、「ああ、夜鳥子さんって一族の皆が本当に好きだったんだな」と納得できるのだが、そこに至るまで、夜鳥子と一族が直接対話するようなシーンは、転生してきた時の挨拶と遺言程度。存在感抜群なコーちんの何分の一かでも、屋敷などでコミュニケーションを取れる要素があれば、評価はまた異なったかもしれない。
一方純粋にシステム上の存在としてみると、前作をとことんやり込んだ人を含め、自由度の高いプレイを求める向きには不満が大きいことは想像に難くない。とはいえある程度ゲームを進めると、“特定の月に(これが1番キツい)”指定の場所へ夜鳥子を連れて行くという制限は外れる。そもそもやり込み派にとっては、本編クリアしてからが本番……と言うと言い過ぎかもしれないが、各迷宮の完全制覇、アイテムコンプリート、最強キャラクター作成などなど、やり込める要素は豊富にある。物語本編はプレイ時間が最も短い“あっさり”モードでサクサクとクリアして、そこから改めてモードを変えてやり込むのも1つの手だろう。
失敗の記憶すらも思い出になり、唯一無二の一族史が紡がれていく
夜鳥子に比重が置かれたストーリーには賛否両論あるようだが、「ゲームなんて作家のエゴが出た方が尖ってて面白い」と思う筆者にとってはむしろご褒美だった。一方、一族のドラマについてはプレイを進める中で、自分自身で生み出していくのが“俺屍流”ではないだろうか。筆者自身、長い一族史においてさまざまなドラマを経験した。その一部をピックアップするとこんな感じだ。
- 健康度を多く消費する奥義を、余命少ないキャラが“最後の大仕事”とばかりに使用。見事鬼神を打ち倒し、帰還後に大往生
- 筆者の一族はずっと当主を剣士で通してきたが、次代を託すつもりの子が生まれる直前に現当主が死去。ひとまず予定していた子の兄に継がせたが、生まれてきた子はやや性格が悪そうな顔をしており「あっこれ兄弟で確執ができる奴だ……」などと想像してみたり
- 奥義継承のため子を成したいけど目当ての神様との交神には奉納点が足りない。そうこうしているうちに死期が迫って焦る
- 晴明打倒には一歩力及ばず次世代に望みを託したが、生まれてきた子は親よりもいまいち体力が伸びず途方に暮れる。きっと本人はコンプレックスに思ってるだろうな……などと想像してみたり
これに限らず、どんなにお気に入りのキャラクターができてもいつか必ずロストし、永遠に使い続けることはできない、しかしその血を子孫に残すことはできる……この喪失感の中にある希望こそが、「俺屍」のドラマ性と言えるのではないだろうか。
プレイを進めていると、引くか進むかの判断ミス、交神の儀を行なうタイミングの見誤りなど、「失敗した!」と思うことも少なくない。ただそれでも、いやだからこそ後悔の念と共に強く心に残る出来事も多かった。交神の儀から実際に子供が来るまで1カ月の間があるのも、安易なリセットプレイを防止するうまい作りと言える。
心に残るという点では、BGMの役割も見逃せない。“百鬼祭り”で晴明を退けることで四季折々の“本来の祭り”が復活していくのだが、この祭りの最中に街で流れる曲は、本作の主題歌「WILL」のメロディを取り込みつつ、それぞれの祭りの風情を加えてアレンジした祭り囃子。シナリオの進行と街の復興がリンクし、それを音楽の面でも演出してくれるのはなかなか胸が熱い。他にも、メロディアスでノリノリの鬼神戦曲や、おどろおどろしくもどこか切なさを感じる阿部晴明のテーマ曲など、和楽器をあしらった多くの楽曲がプレイを盛り上げてくれる。
ハック&スラッシュRPG+一族育成シミュレーションという基盤に、さまざまなお助けシステムと強いストーリー性という方向付けを行なった「俺の屍を越えてゆけ2」。本編クリアの感慨に浸りながら、筆者は「2014年に出る俺屍は、こうあるべきだろう」と強く感じた。RPGが好きなら幅広くお勧めのタイトルだが、正直筆者が1番プレイしてほしいのは“前作を挫折した人”だ。「ああ、俺屍ってこんなに楽しいゲームだったんだ」と思えるのではないだろうか。本編にデータを引き継げる体験版もあるので、まずはそこからでもチャレンジしてみて頂ければ幸いだ。
なお、本稿は「俺の屍を越えてゆけ2」バージョン1.02でのプレイをベースに執筆したが、執筆後、バージョン1.03へのアップデート予定が告知された。これによると、夜鳥子の転生に必要な奉納点について下方調整が予定されているという。また、本稿では触れなかったが、神様が頻繁に地上に降りて鬼神化し、倒して昇天させるまで交神できなくなってしまうという仕様について、地上に降りる頻度が下方調整されるようだ。筆者自身は「交神したいときに交神可能な神様から相手を選ぶ」というプレイをしていたのでそれほど気にならなかったが、やり込み派にとっては嬉しい改善だろう。
10年以上遊ばれ続けてきた「俺屍」の続編となる本作。プレーヤーの声を受けて前作同様長く遊ばれる作品となることを期待したい。