「グノーシア」レビュー
グノーシア
緻密に組み立てられた“読ませる人狼”。性格のパラメータ化がループを加速させる!
- ジャンル:
- アドベンチャー
- 発売元:
- プチデポット
- 開発元:
- プチデポット
- プラットフォーム:
- Nintendo Switch
- 価格:
- 2,750円(税込)
- 発売日:
- 2020年4月30日
2020年4月29日 00:00
4月30日にNintendo Switch版が発売されるSF人狼系シミュレーションアドベンチャーゲーム「グノーシア」は、一般名詞化されつつあるいわゆる「人狼ゲーム」を1人向けゲームへとアレンジし、“読ませる人狼”として進化させたタイトルだ。
本作の特徴は、人狼パートにおける“小さな物語”と、それらをまとめる“大きな物語”が同時に進行していく点。プレイするたびに人数や配役がまったく異なる人狼ゲームを繰り返すことで、登場人物の秘密や主人公の身に起きていることが少しずつ明らかになっていく。
「グノーシア」は、2019年6月に初めてPlayStation Vita用タイトルとして登場した。PS Vitaが現行の携帯ゲーム機としての役目を終えつつある中での発売だったが、その状況を覆すほどの完成度で一躍注目作となった。PS Vita版の発売から約1年、満を持してNintendo Switch版が登場する。
「グノーシア」の魅力は、あくまで「人狼」がベースでありながら、語り口を練りに練ることで「グノーシア」独自の手触りを獲得していることにある。筆者自身は「人狼」をプレイしたことがあり、「白出し」、「黒出し」といった人狼用語が自然と身についていたクチであるが、「『人狼』のアレンジにこんな手法があるんだ!」と驚き、新鮮な気持ちで終始プレイできた。
その一方で、決して「人狼」プレーヤー向けのマニアックな内容ではない。「人狼」をパラメータ化し、経験値によってレベルアップするRPG的要素を入れ込むことで、「人狼」をまったく知らない人でも、何なら対面の「人狼」がどうも苦手という人でも楽しめるようになっている。
では具体的に、どんなタイトルなのか。その魅力をNintendo Switch版発売の機会に改めてご紹介していきたい。
能力をパラメータ化し、レベルアップできる「人狼」
「グノーシア」のストーリーは、ある宇宙船の中で進行する。主人公を含めた登場人物たちは宇宙船の乗員であり、中に紛れ込んだ「グノーシア汚染者」(通称グノーシア)を探し出すために議論を重ねる。怪しい人物を多数決でコールドスリープするなどし、グノーシアが完全に排除されれば人間の勝利。人間とグノーシアの数が同じになれば、グノーシアの勝利となる。
本作では議論の始まりから決着までを1ループとして進めるが、ループごとに人数や配役(誰が人間で誰がグノーシアか、など)は変化する。そのためプレーヤーがグノーシアになることもあり、その際はグノーシア側の勝利を目指す。なお、議論の参加人数はプレーヤーを含めて最大15人。ゲームが進むにつれて参加人数が増え、役職も追加されていく(意図して設定も可能)。人物たちについては後でも触れるが、誰もが個性的で一筋縄ではいかない。クセのあるメンバーの中で配役をグルグル入れ替えながら、どんどん「人狼」をプレイしていくイメージだ。
ここでの注目は、「人狼」咀嚼の鮮やかさだ。中でも発明だなと思うのが、主人公も含めた登場人物の性格と能力を数値化したこと。パラメータの項目には「カリスマ」、「直感」、「ロジック」などがあり、たとえば「カリスマ」が高ければ周りが自分の行動に促されやすくなり、「直感」が高ければ他人の嘘に気づきやすくなる。
1ループが終了すると、結果に関わらず経験値を得る(勝利した方が量が多い)。経験値を使えば各能力のレベルを上げられる仕組みで、レベルを上げれば上げるほど議論を有利に進められるようになる。
性格と能力が結びつくリアル志向システム
また、ポイントとなるのは各能力が一定レベルに達すると使用できる特殊な会話「コマンド」。たとえば「カリスマ」レベル10で使用できる「名乗り出ろ」は、誰かが人間かグノーシアかを判定できる「エンジニア」、コールドスリープした人物が人間かグノーシアかを判定できる「ドクター」などの役職持ちを名乗りださせることができる。
これはプレーヤーが得られる能力というだけでなく、すべての登場人物にも適用されている。そのため、性格ごとに“議論のクセ”が表われてくるところが面白い。もともと「人狼」は、コミュニケーションスキルが問われるゲーム。要はプレイする人物の性格が内容の質に直結するわけだが、その「人狼」の醍醐味が上手くゲーム化されている。
たとえば言動そのものは社交的で明るいコメットは、「直感」が高く他人の嘘を見抜きやすい。あるいは小柄なククルシカは、パラメータ「かわいげ」と「演技力」が高い美少女。ククルシカを疑うとコマンド「哀しむ」を発動し、周りの弁護を一手に集めて注目をそらす。論理的にいかに疑わしくとも、コールドスリープの票がなかなか集まらない(そして疑いをかけた分、こちらが疑われる)厄介な能力なのだが、そこから、微笑みの奥に深い闇がある人物像がにじみ出てくる。
ほかにも論理派のラキオ、嘘の多いSQ、保身優先の沙明など、魅力たっぷりの役者たちが揃っている。それぞれの人物の性格やエピソードは、ループを重ねることで(特定の条件になることで)徐々に明かされていく。SF的に味付けされたその設計がまた練られているため、何十回とループを重ねていくうちにどの人物も好きになっているだろう。「初対面の人と何回も『人狼』してたらすごく仲良くなった」みたいな感覚を、本作の中で得ることができると思う。
ループものとして再定義された新説「人狼」
その上で、本作は単に「人狼」を楽しむだけのゲームではない。プレイを進めると、セツとプレーヤーの2人だけが以前のループの記憶を持っていることがわかる。
なぜループを重ねるのか、どうしたらループから抜け出せるのか。ループの中で明かされるヒントをもとに、さらにループを重ねていく。ここが冒頭に述べた“大きな物語”の部分になるが、やはり設計は緻密だ。ここから先は一言一言がすべてネタバレになるため止めておくが、個人的な感想として、終盤はプレイする手を止められなかった。
もとより繰り返しが楽しい「人狼」をループものとして再定義し、そこに独自の設定とストーリーをどんどん放り込んでいく。クリアを目指すループの中では、驚いたり泣けたり、あるいはギャグ展開で和んだりと様々なサプライズも用意されている。
議論の途中では会話を中断してしっかり内容を整理できるし、レベルアップしていけば便利なコマンドが増え、勝利への道筋をより簡単につけられるようになる。ここぞというときには特定の結果を求められることもあるが、敗れても経験値は得られるので徒労感は少ない。総じて、プレイのハードルは低いのでどんどんループを進められるだろう。
「人狼」というと、設定は変えられてもプレイの流れや手応えは固定化されているとばかり思っていたが、「グノーシア」によってそれがただの思い込みだったことがわかった。知っているようでまったく知らない、心をグッと持っていかれる展開が「グノーシア」最大の魅力だ。