2018年12月10日 06:00
プレイステーション 4/PlayStation Vita用3Dロボットアクション「電脳戦機バーチャロン×とある魔術の禁書目録 とある魔術の電脳戦機」は、2003年に発売されたプレイステーション 2用「電脳戦機バーチャロン マーズ」(以下、マーズ)以来、「電脳戦機バーチャロン」(以下、バーチャロン)シリーズとして15年ぶりの新作となる。筆者を含めて、シリーズのファンにとっては、15年も間が空いた後の“まさかの新作”。もはや待望と言うのも難しいほどの時間が経ち、驚きと喜びに、少々心配な気持ちも混じった。
本作は確かに「バーチャロン」の新作ではあるのだが、2016年に発売されたコラボレーション小説「とある魔術の電脳戦機」のゲーム化という側面もある。ライトノベルレーベルの電撃文庫で2004年に刊行され、現在まで40冊以上にわたって続く人気長編小説「とある魔術の禁書目録」(以下、禁書目録)が「バーチャロン」とコラボし、「禁書目録」の作者である鎌池和馬氏が書き下ろした小説だ。筆者は「禁書目録」の長年のファンでもあり、これも“まさかのコラボ”だった。
筆者にとっては願ってもないコラボ作品ながら、同時に、世間でこんな声があることも知っていた。「バーチャロン」ファンからは、「『バーチャロン』に萌えキャラを混ぜるなんてとんでもない」。「禁書目録」ファンからは、「『バーチャロン』って何? 謎のゲームとなぜコラボしたのか」。双方をよく知っている私としては、双方の気持ちが本当によくわかる。
でも、本当にそうなのか。双方のファンにとって、本作はそんな片付け方で見過ごしていい作品なのか。ここは両作品を愛している私が、双方に向けてきちんと評価せねばならないだろう……という使命感を帯びつつ、「禁書目録」ファン、「バーチャロン」ファン、それぞれの目線から見た「とある魔術の電脳戦機」をレビューしていきたい。
「禁書目録」ファンサイド ~ コラボが「禁書目録」の新たな世界を見せるか?
「バーチャロン」って何だ?
まずは「禁書目録」ファンに向けて話をしていきたい。「禁書目録」ファンにとっての最大の懸念は、「バーチャロン」が何なのか、という根本的な話だと思う。
バーチャロンの前作が発売した2003年、「禁書目録」はまだ世に出ていない。ましてや「禁書目録」はライトノベルレーベルの電撃文庫から出版された、10歳代後半を中心とした若年層向けの作品。「禁書目録」の最初期からのファンでさえ、「バーチャロン」を知らなくて当たり前だ。
「バーチャロン」は、1995年にアーケードゲームとして1作目が登場した、対戦型ロボットアクション。当時としては極めて美麗な3Dグラフィックスで描かれた人型ロボットが、3次元空間でハイスピードバトルを繰り広げるゲームだ。ロボットなのに基本的に空を飛ばず、ブースターを使いながら地上を高速に駆け回るという挙動に加え、2本のスティック(ツインスティックと呼ばれている)と4つのボタンだけで操作できる、独特なインターフェイスでも注目された。
当時はアーケード向け対戦格闘ゲームの全盛期とも言うべき時代で、「バーチャファイター」シリーズなど多くの対戦ゲームが稼働していた。ロボットを題材にしたゲームは今も昔もマニア向けという印象が強く、加えてツインスティックという操作デバイスが良くも悪くも特別感を出していた。しかし、今をもって代わりのない唯一無二の作品であり、ロボットゲームの枠を超えた根強いファンを抱えている。
「バーチャロン」は誰もが遊んだ超人気作とは言わないまでも、2000年前後にゲームセンターへ行っていた人なら、知らない人はまずいない有名タイトルだ。15年経った今でも新作の発売を喜んだファンは多い。「禁書目録」とは時代のズレがあっただけで、「バーチャロン」は決して無名のタイトルではない、ということは申し上げておきたい。
「禁書目録」と「バーチャロン」はマッチするのか?
「禁書目録」ファンにとって1番大事なことは、コラボ作品がきちんと「禁書目録」の作品であり、新たな物語が楽しめるかどうか、だろう。原作のキャラクターだけを引っ張り出して、本編とは別世界で無関係の物語だったりすれば、長編小説である「禁書目録」にとって何のプラスにもならない。一言で言えば、「ファンでも知らなくていい作品」になる。
答えは2つある。1つは「鎌池和馬氏の書き下ろしなので大丈夫」だ。「禁書目録」のファンには伝わると思うが、「禁書目録」は設定的に懐が深いというか、基本的に何でもあり。無理を通して道理を引っ込ませるのが、鎌池氏の作品の面白さでもある。本作のシナリオは鎌池氏自身が手掛けており、「禁書目録」ファンが見て齟齬を感じるような内容ではない。
もう1つの理由は、「バーチャロン」側にある。「バーチャロン」はアーケード向けの3Dロボットアクション、というのは表向きの顔。裏の顔として、異常なほど膨大な設定が用意されている。その一部は、本作の公式サイトの「世界観」の項目でも紹介されている。
「バーチャロン」の世界設定を知っていると、小説版を含む「とある魔術の電脳戦機」の世界観がより理解できる。小説版は見せ方がとてもうまくて、「バーチャロン」を知らなくても読み進めるのに支障はないのだが、事前に知っているとピンとくる部分も多くてより楽しめる。鎌池和馬氏が「バーチャロン」の設定を読み込んだ上で、「禁書目録」の世界にきちんと織り込んで話を作っているのがよくわかる。
ゲーム版のストーリー展開は、小説版の後日談となっている。作中において小説版での出来事を知っているのは、ごく僅かな人間だけ……という流れになっているので、いきなりゲームから入っても構わないが、「禁書目録」ファンであれば先に小説版を読んでからゲームに触れることをお勧めしておく。
小説版を含め、「バーチャロン」と「禁書目録」を知っているからこそ楽しめる場面がいくつもある、ということは明言したい。「バーチャロン」の物語において重要な存在となる「時空因果律制御機構タングラム」は、並行世界と事象を入れ替えることで、運命を操れる力を持つとされる。この「タングラム」が存在する世界に、「禁書目録」から「オティヌス」がしれっと登場したら、ファンなら否応なくテンションが上がるに違いない。……こんな話についてこられる人が筆者以外にもいて欲しいと願う。
「禁書目録」作品として面白い話なのか?
あとは本作が「禁書目録」シリーズ作品として見て、面白いかどうかであろう。まず注目して欲しい点は、登場キャラクターだ。
「禁書目録」のファンには、小説版ではなくテレビアニメ版のファンも多いはず。本作には、テレビアニメ版第2期までには未登場のキャラクターが何人か登場している。具体的には、プレーヤーキャラクターの中で「後方のアックア」と「レッサー」は未登場。「佐天涙子」と「食蜂操祈」は「とある科学の超電磁砲」に登場している。NPCとしては「オティヌス」や「レイヴィニア=バードウェイ」も登場する。
プレーヤーキャラクターは13人。「禁書目録」には膨大な登場人物がいるため、筆者は「たったの13人か」と残念に思ったくらいだ。ただ本作は「禁書目録」オールスター作品というわけではなく、あくまで外伝的な1作品でしかない。13人分の目線で物語が描かれるだけでも、本1冊分以上の価値はあると思う。個人的には、小説版で「バーチャロン」を熱く語っていた「青髪ピアス」がNPCですら登場しない点だけは歯がゆいのだが……。
物語の舞台は科学勢力の本拠地である学園都市。そのため魔術師達は学園都市に潜入しているという体になる(とはいえ「禁書目録」本編でもしょっちゅう潜入されているが)。「バーチャロン」は作中において、ポータブルデバイスでも遊べる人気ゲームで、eスポーツの競技種目。さらにホログラフィック技術により、大会中は巨大なロボットが街中でバトルを繰り広げる、という設定になっている。
プレーヤーキャラクター達は、「バーチャロン」の大会に純粋に参加する者、大会の裏で暗躍する者、それを阻止しようとする者、その渦中にいちいち飛び込んでいく主人公。「禁書目録」ファンにとってはいつも通りの構図である。
物語は全てのプレーヤーキャラクターの視点から、少しずつ細切れに語られていく。物語の視点が複数の人物で次々に入れ替わっていくのも「禁書目録」の特徴的な描き方だ。小説で慣れていると何ということはないが、アニメ版だけのファンだと展開についていけず、ちょっと面食らうかもしれない。
ストーリー展開としては、「禁書目録」シリーズの作品として考えても、かなり過激な方だと思う。世界の危機的状況はシリーズで何度となくあったが、本作はそれとは違う危うさがある。科学と魔術の勢力のぶつかり合いとも言えず、それでいて各々に思惑があり、誰が敵か味方か、善なのか悪なのかという概念が曖昧なまま進んでいく。先が読めない上に状況が二転三転する展開は、いかにも鎌池氏らしい描き方で、ファンを喜ばせてくれることは間違いない。
物語としては「禁書目録」、ゲームとしては対戦アクション
ここまではストーリー部分に絞って話をしてきたが、改めてゲーム全体として見ていきたい。鎌池氏の書き下ろしシナリオがあるとはいえ、本作はあくまで3Dロボットアクションゲームである。
「バーチャロン」シリーズは、アーケード版からの登場という生い立ちから、ツインスティックでの操作を前提としてきた。PS2用の「電脳戦機バーチャロン マーズ」も、システムは前作「電脳戦機バーチャロン フォース」をベースにしており、コントローラーでの操作に最適化されたとは言い難かった。
しかし本作は完全な新作であり、最初からPS4のコントローラーでの操作を前提として作られている。過去のシリーズを遊んだことがなくても問題ない。また「バーチャロン」は伝統的に武装が3種類となっており、一般的にイメージされるロボットアクションゲームに比べて、シンプルな操作系になっている。あまりロボットゲームだという点を意識しない方が導入は早いと思う。
ゲームはハイスピードで展開するアクションゲームなので、慣れるまで思うように動かせないのはやむを得ない。ただ序盤のステージは敵も弱く、ストーリーを進めていく中で操作に慣れていける。また「月詠小萌」が登場して操作方法をレクチャーしてくれるチュートリアルも用意されているので、楽しみながら練習ができる。
「禁書目録」ファンにとっては、本作はコラボ作品の1つという印象だろう。しかし本作は、セガが一時代を築いたアーケードゲームの中で、確固たる地位を獲得するゲームの最新作でもある。断じて「キャラクターを使ってゲームにしました」程度のぬるい内容ではない。ゆえに、ゲームとして難しいと感じる人もいるだろうし、遊びこんでいけばアクションゲームとしての面白さにも気づいてもらえると思う。
本作のアクションゲームとしての面白さは、3Dロボットによる高速アクションゲームでありながら、伝統的な格闘ゲームの駆け引きが生きている点だ。一見するとFPSっぽいのだが、仕組みは全く違う。敵を半自動的にロックオンし、隙を狙って攻撃を当てる、というものだ。敵弾を防ぐ盾のような装備もなく、被弾すればHPゲージが減る。
本作の攻撃は、ほとんどが見てから避けられる。遠距離からの射撃は、迫ってくるのが見える程度のスピードで飛んでくるので、左右に走ったりジャンプしたりすれば回避できるようになっている。ただし、攻撃や行動によってはその後に一瞬動きが制限される。格闘ゲームで言うところの、硬直時間が存在する。
敵の攻撃を回避し、その硬直を狙って反撃するのが、「バーチャロン」の伝統的な駆け引きだ。攻撃の種類も、3種類の武装がある上、ダッシュ中などでは武装の特性が変化する。また近距離では専用の近接攻撃もあり、こちらはガードも可能。さらに機体によって、射撃が得意だったり、弾数が多かったり、近接戦に強かったりと、タイプが異なる。自分と相手の相性も考えつつ、高速な駆け引きを繰り返していくのが本作の面白さだ。
本作はアドベンチャーゲームではないので、ストーリーのシーンでの見せ方は完成度が高いとは言い難い。また読み物として何時間も楽しめるほど膨大なボリュームもない(アクションゲームに長すぎるストーリー描写があったら困る)。そのため展開が急すぎたり、ゲームで勝ったのに物語上では負けたような展開になったりして、違和感のある部分も時々ある。それでも、最終的には1つの物語として納得できる形に完結はする。
そして本作をクリアする頃には、「禁書目録」のファンであっても、「バーチャロン」というゲームの完成度の高さは理解していただけると思う。その先もぜひ、オンライン対戦などでさらに楽しんでいただいて「バーチャロン」のファンになっていただければ嬉しい。長年の「バーチャロン」ファンとして心から歓迎したい。
「バーチャロン」ファンサイド ~ 我らが愛した「バーチャロン」の続編たる作品か?
「禁書目録」って何だ?
ここからは「バーチャロン」シリーズのファンに向けて書いていく。まずは「禁書目録」がどんな作品なのか、ざっくり紹介しよう。
「とある魔術の禁書目録」は、鎌池和馬氏によるライトノベル作品。2004年に第1巻が発売されてから、現在までに40巻以上になる長編で、3月時点でシリーズ累計1,635万部という記録的販売部数を誇る。ライトノベル以外のジャンルも含む作家セールスランキングで、鎌池氏がたびたびトップ5に入って話題になったこともあった。
テレビアニメ化以降、「禁書目録」の人気はぐっと高まり、特にヒロイン的存在の女子中学生「御坂美琴」のキャラクター人気が沸騰した。さらに「御坂美琴」を主人公とした外伝作品「とある科学の超電磁砲」も大いに注目されたことで、「禁書目録」をよく知らない人からは、可愛い女の子達がたくさん登場する、いわゆる“萌え系アニメ”というレッテルを貼られている感もある。
「禁書目録」に可愛い女性キャラクターがたくさん登場するのは事実であり、作品の大切な魅力の1つになっている。ただ、それが主となる作品ではない。
物語の舞台は基本的に現代だが、科学によって開発された超能力と、宗教を母体とした魔術が共存する世界。主人公の「上条当麻」は、超能力者を育成する「学園都市」に住む学生で、異能の力に右手で触れると、その力を打ち消すという能力がある。しかも打ち消せるのは超能力だけでなく、魔術も含まれる。
超能力者も魔術師も、どちらも人知を超えた破壊的能力を持つ者もいる。「上条当麻」は右手の力を除けば単なる学生なのだが、あらゆる異能を右手でさばきつつ、時に頭脳プレイも見せながら、強力な能力者達を相手に自分の正義を貫いていく。
1人で戦争ができそうな能力者に素手で挑むかのような無謀さで、世界の存亡をかけるような戦いに臨み、何度も倒され傷だらけになりながらも、最後は右手で殴って昏倒させるという学生の喧嘩レベルまで落としてくる。戦いの中で相手の心を揺さぶる熱弁もあいまって、「上条当麻」は熱血系のヒーローであり、冴えない学生でもあるという、魅力的なキャラクターになっている。
他にも、長い作品の中で多数のキャラクターが登場しており、主人公のような熱いキャラクター性で人気を集めるものもいるし、萌えキャラ的な存在もいる。ただ、物語の根幹は異能バトルの熱血ファンタジーである。また科学と魔術を包含する世界設定だけに、舞台としての懐が深く、「バーチャロン」の世界と混ぜても何とかなりそうな希少な作品だと言える。
本作の物語について1つ付け加えると、本作の物語の鍵を握るキャラクターとして、「富良科凛鈴(ふらしなりりん)」が登場する。「バーチャロン」のファンであれば、この名前でピンと来るはずだ。
完全新作で変わるもの、変わらないもの
「バーチャロン」はこれまでにアーケード向けの初代「バーチャロン」、「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム」(以下、オラトリオ・タングラム)、「電脳戦機バーチャロン フォース」(以下、フォース)と、先述の「電脳戦機バーチャロン マーズ」の計4作がある。各タイトルはバージョン違いがあったり、様々なプラットフォームに移植されたりしているが、本作はオリジナルとしての5作目である。
ここで1つ、はっきり言っておきたい。本作はあくまでも新作であり、過去のシリーズ作品と同じものを求めるのは間違いだ。2作目の「オラトリオ・タングラム」から、3作目の「フォース」においては、1on1から2on2に変わったことで、全体のスピードを落としたり攻撃の種類を減らしたりといった調整がなされた。それをネガティブに感じた人もいるが、筆者は2on2で生まれた駆け引きが十分すぎるほど面白かった。感じ方は人それぞれだろうが、今回も新たな作品としてフラットに評価して欲しいと願う。
バーチャロイド(「禁書目録」の項では、ロボットと呼称してきた)の操作については、ダッシュとジャンプを組み合わせた移動に、左、右、中央の3種の武器を組み合わせる。ターボショットは各武器に1つずつ(左右ターボの使い分けはない)。近接攻撃は1種類。しゃがみの概念はなくなった。ゲームパッドでの操作を前提としているため、操作が簡略化された部分もあるが、新要素も多い。
「バーチャロン」シリーズにおける駆け引きで最も重要なのは、硬直の概念だ。ダッシュ攻撃後やターボショット等の強力な攻撃の後には、操作不能になる硬直時間がある。その隙をいかに突くか。後の先を取り合う駆け引きは日本の格闘ゲームの伝統であり、本作もそれを踏襲している。長年培った駆け引きのノウハウは、本作でもきちんと活かせる。それゆえに本作は正しく「バーチャロン」の続編である、と言いたい。
「敵を見失ったらジャンプしろ!」ではなくなった
もちろん違う部分もある。本作の新たなシステムとなるのが、「トランジション」と「ブースト・ウェポン」だ。
トランジションはダッシュ中に発動でき、バーチャロイドがスライディングするような動きをする。スピードはダッシュとほぼ変わらず、発動時に方向転換もできる。さらにトランジションからダッシュに移行することも可能で、ダッシュ並の高速移動を延々と続けられる。元々の移動もかなり高速で、各種操作の反応もキビキビしているので、上級者同士の対戦では過去のシリーズにも勝るスピードでバトルが展開される。
ちなみに本作ではバーティカルターン(ダッシュ中の方向転換)が1回のダッシュ中に1回だけ、かつ後方や急角度にはできないという制限があるが、トランジションを使うことで移動の自由度は格段に上がっている。
さらにトランジション中は、敵を自動的に正面に捉え続けるという性質がある。「敵を見失ったらジャンプしろ!」という伝統的操作が、本作ではトランジションで代用できるシーンもある。また立ち状態でもボタン1つで敵を正面にしてロックオンできるので、敵をとらえるためのジャンプ操作は不要になった。
トランジション中も攻撃はできるが、ダッシュ攻撃とは違う低威力の攻撃が出る。ただし近接攻撃は別で、トランジション中にすぐさま通常と変わらない近接攻撃を出せる。敵の方向を向いたまま距離を詰められるので、近接戦闘向けのバーチャロイドにはとても重宝する。
また戦闘開始時に、「スマート」と「ベテラン」という2つの操作方法を選択できる。「スマート」は、状況を問わず敵を正面に捉え続けてくれる。極めて便利な機能だが、旋回操作を受け付けなくなるため、敵の移動方向を読んで攻撃を置いておく、といった戦術は取れなくなる。
「ベテラン」なら旋回が可能だが、従来通りに敵を捕捉する行動が必要だ。ベテランプレーヤーは「ベテラン」を選ばねばならない、というわけではないので、使用する機体やプレイスタイルによって使い分けるといい。筆者は最初、意固地に「ベテラン」を選び続けていたが、「スマート」を試してみたら操作がものすごく楽で、使用するバーチャロイドによって使い分けている。
「バーチャロン」に「禁書目録」はマッチするのか
もう1つの新要素であるブースト・ウェポンは、「バーチャロン」と「禁書目録」のコラボ要素とも大きく関わる。
本作では、バーチャロイド1体ごとに、対応する「禁書目録」のキャラクターが設定されている。ブースト・ウェポンは、いわゆる必殺技に相当するもので、キャラクターのイメージに合った特殊な攻撃が発動する。発動にはブーストゲージがフルになっている必要があり、ブーストゲージは主にダメージを受けるなどした時に貯まるので、逆転要素と言うべき存在だ(それで逆転した時には、相手のブーストゲージも貯まっているはずだが)。
ブースト・ウェポンは、「テムジン」は「上条当麻」のイメージから、前方へ高速ダッシュしながらのパンチ。「ライデン」は「御坂美琴」の持つ能力である「超電磁砲(レールガン)」をイメージして、正面に一瞬で伸びるビームを放つ。また全てのブースト・ウェポンは、発動から一定時間、機体性能が向上する。
発動すると、バーチャロイドの背中にあるコンバータが光り、キャラクターがカットインする演出が入る。その間はゲームの進行が一時停止する。対戦中に操作を受け付けなくなる時間が発生する演出は過去のシリーズにはなかったので、慣れないうちはちょっと戸惑う。ただ遊びこんでいくとわかるのだが、発動した瞬間に命中が確定している状況も多く、うまく出せた時のしてやったり感もあったりして、違和感が薄れて好印象になってくる。
他にもプレイ中、ダウンした時などにキャラクターがカットインしたり、セリフが聞こえたりする。初めて見た人にはこれも違和感として映ると思うが、プレイに支障が出るような邪魔な演出にはなっていないし、プレイ中は忙しくて気にしていられない。
確かに過去のシリーズ作品にはない演出が急に増えてはいるのだが、ゲームの進行を妨げるようなものではない。「バーチャロン」を含め、数多くの対戦ゲームを作ってきたセガの作品なのだから、対戦ゲームの邪魔をするようなものは作らないという点は信じていいと思う。
ポイント制導入の是非
本作をプレイした「バーチャロン」ファンが、最も強い違和感を覚えるところは、おそらくポイント制の導入だろう。
これまでのシリーズでは、先に相手を倒すか、制限時間切れの時にライフが多い方が勝利した。しかし本作では、先に敵を倒すか、制限時間切れの時にポイントが多い方が勝利となる。倒されない限り、ライフの残量は勝敗に影響しない。
ポイントは、敵からダウンを奪った時などに得られる。しかし、ポイント優勢側が敵に攻撃を当てられない時間が続くと、徐々にポイントが減っていく。そのまま放っておくと、ポイントは同点になるまで減り続ける。
過去のシリーズでは、ライフで優勢になったら無理に攻撃をせず、ひたすら回避に専念して時間切れを待つという戦術が有効になる場面が多かった。例えばライフが50%を切ると能力が上がる「フェイ・イェン」に対し、ライフが50%強になるまでダメージを与えたら、それ以上攻撃せずに逃げ回るという、通称「50%止め」はプレーヤーの間では有名だ。
本作で導入されたポイント制により、長時間に渡って攻撃せずに逃げ回るという行動は難しくなった。ポイントで大幅に差をつければ不可能ではないが、過去のシリーズに比べれば格段に難しい。
実はこの設定は、先に登場したコラボ小説の中で盛り込まれたもの。eスポーツとして観戦するのに、消極的な戦いはよろしくない、といった考え方だ。筆者は過去のシリーズで、開幕から1発もらえば負けという戦いも山ほど経験していて、これはこれで神経をすり減らすかのような静かで熱い戦いだと知っている。だが、ひたすら爆風に隠れている姿が見る人から退屈だと言われれば、その通りだなとは思う。
筆者の思いはどうあれ、本作はポイント制である。実際の対戦においては、概ねライフを削り切ることの方が多いのだが、相手をあと一撃まで追い込みながらタイムアップでポイントで負けということも確かにある。最初は理不尽だなあと思ったが、やっているうちに違う駆け引きがあることに気づいた。ライフの削り合いと、ポイントの取り合いが、別軸で動くという点だ。
バーチャロイドによって、ダウンしやすい機体もあれば、近接攻撃のダメージが小さいものもある。それでも1回のダウンは30ポイント、近接攻撃でのダウンは50ポイント、などと決まっている。序盤に大ダメージをもらってしまったら、いったん敵の攻撃から逃げ回って敵のポイントを減らし、無理に攻めてきたところに近接攻撃でカウンターを取れば、ライフで負けつつポイントで勝つ状況が出来上がる。
自分はタイムアップでいいからポイント優勢狙い、相手はポイントよりもライフを削って倒しに来る……といった具合に、互いの勝利条件が揺れる。しかも残り時間やポイント差、ライフ差によって、狙いは刻々と変化していく。ペナルティで減るポイントと残り時間を計算しながら、状況に応じて何が最善か考える。結果的に、過去の作品よりも駆け引きの度合いが増している。しかも攻撃的な形でだ。
ちなみにダウンに関しては、ライフの他に「スタビリティゲージ」というものが存在する。敵の攻撃を受けるとこのゲージが減少し、0になるとダウンを取られる。相手のスタビリティゲージも見えるので、ちょっとした攻撃でダウンを取れそうな時は軽めの攻撃を当てに行くなど、戦術的にも取れる幅が広がっている。
ツインスティック不在問題
長年の「バーチャロン」ファンにとって、ツインスティックの不在は大きな問題だ。発売当初、PS4用ツインスティックは発売されないとアナウンスがあり、基本的にゲームパッドで操作することになる。
その後、健康器具を販売するタニタが、クラウドファンディングを使ってツインスティックを新規開発しようとしたが、1度は目標金額に未達でファンド失敗。しかし設計を変更するなどして単価と目標金額を下げると同時に、セガゲームスからアーケード3部作がPS4に移植されるという発表があり、2度目のファンドは何と半日足らずで達成した。
ではツインスティックは手に入るのかと思いきや、クラウドファンディングに出資した人に向けた先着1,000台のみの生産となっており、追加生産があるかどうかは未定(10月19日時点)。筆者はファンドに出資できたが、製品の発送は2019年11月以降とされており、まだ1年以上は待たねばならない。最新情報はタニタの公式サイトをご覧いただきたい。いずれにせよ、今すぐツインスティックでプレイするのは極めて困難だ。
ではゲームパッドでの操作がどうなのかという話だが、これが思いのほか良好だ。ダッシュやジャンプ、トランジションからブースト・ウェポンまで、ボタン1つで発動できるお手軽さ。アナログスティックによる移動や、LRボタンを使ったショットも決して難しくない。ボタン配置を覚えてしまえば、特に困ることはない。
過去のシリーズに存在したしゃがみショットは削除されているし、ツインスティックがないので「漕ぎ」と呼ばれる特殊操作も(筆者の知る範囲では)できない。それは先に述べたとおり、本作は新作であり、従来のシリーズ作品とは別物だと思うべきだ。
筆者の体感としては、ゲームパッドの操作は数時間で慣れる。特に練習を積んだりせずとも、ストーリーモードを一通り終わらせた頃には、満足のいく操作ができるという印象だ。もっとも、本作はゲームパッドでプレイするように作られた作品なのだから当たり前だ。上級者の対戦動画では、「この動きはツインスティックでは無理なのでは?」と思わされるような素早い動きも見られるほど。あとはプレーヤーの腕次第だ。
バーチャロイドは「オラタン」ベース。オンライン対戦も完備
登場するバーチャロイドは、主役機の「テムジン」は型番が「MBV-707-G/VSL」であったり、「アファームド・ザ・ストライカー」等が登場するところからも、シリーズ2作目の「オラトリオ・タングラム(Ver5.66)」をベースにしているのがわかる。ただし「シュタインボック」と「10/80 SP」は登場しない。
型番の「VSL」というのは、「バーチャロン・スポーツ・ライン」の略。作中において「バーチャロン」は流行のeスポーツという設定で展開されており、爽やかなカラーリングが特徴だ。デザインはシリーズ初期から手掛けているカトキハジメ氏によるもの。高性能・高解像度化した今時のゲーム機ならではの、細かい色分けやデカールが施されている。
システム面の特徴としては、1on1だけでなく、2on2にも対応している。他のプレーヤーと共闘でCPUと戦うCo-opモードも搭載。さらにストーリーモードや、決められた課題をクリアしていくミッションモードも用意されており、1人で多数の相手と戦うようなステージも登場する。過去のシリーズとは比べ物にならないほど柔軟だ。
PlayStation Networkを使用したオンラインプレイも可能。利用にはPlayStation Plusの契約が必要(1カ月514円~12か月5,143円)になる。対戦モードは、1on1または2on2。対戦は全国のプレーヤーとランキングを競うものと、友達同士でプレイできるものを選択できる。
実際に試したところ、対戦相手によっては通信ラグが発生して動きが一瞬止まることもあるが、概ね快適で遅延は感じられない。特に回線環境が良好な知り合いとプライベートマッチを組むと、常に快適な対戦が実現できていた。プライベートマッチでは、待機中に他のプレーヤーの対戦をライブで見られるのもいい(古くからの「バーチャロン」プレーヤーにとって、ライブモニターは憧れの存在なのだ)。
新しい「バーチャロン」を信じて欲しい
「バーチャロン」ファンに向けて言いたいことは、究極的には1つしかない。本作は旧作のアレンジでもリメイクでもない。「バーチャロン」の最新作だ。違うものだということを受け入れて、ニュートラルな目線で本作を評価して欲しい。15年ぶりの新作を食わず嫌いしてしまうのは、あまりにももったいない。
その上で、本作は確かに「バーチャロン」だ。ツインスティックがない、アニメとコラボしたからイヤ、ポイント制がややこしい、昔あったアレがない、コレがない……。文句を言いたい部分がいっぱいあるのは、筆者も本当によくわかる。それでも、せめてプレイ動画を1度見てみて欲しい。それだけで、本作が「バーチャロン」なんだということは十分伝わると思うし、「バーチャロン」経験者にはそれ以上語る必要もないと信じている。
「禁書目録」を知らずに本作を始めたとしても、ブースト・ウェポンを始めとした演出は新鮮で見ごたえがある。お気に入りのバーチャロイドを使っていて、何やらカットインしたり喋ったりするキャラクターが気になったら、ぜひ「禁書目録」の小説なりアニメなりにも手を伸ばしていただきたい。特に「バーチャロン」の重厚な設定が好きな人は、高確率でハマると思う。長年の「禁書目録」ファンとして心から歓迎したい。
「バーチャロン」と「禁書目録」のコラボが生み出したもの
本作は「バーチャロン」、あるいは「禁書目録」のどちらかの興味がフックになる作品なのだが、「バーチャロン」に「禁書目録」のキャラを出せば終わりと言えるような簡単なコンテンツではない。
「バーチャロン」は、アーケードに登場してからずっと、替えの効かない独自路線を走ってきた。操作が複雑だったり、動きが鈍重だったりするロボットゲームの中にあって、破格のハイスピードと洗練された操作系を導入した功績は極めて大きい。それだけに、ファンにとっては一種の聖域とも呼ぶべきコンテンツであり、他と組み合わせると言うだけで拒否反応が出てしまうのも致し方ないと思う。
「禁書目録」は、日本一の人気を誇ると言ってもいいライトノベル作品。過去にはオリジナルのゲームがいくつか発売されているが、融合と呼べるほど深くコラボしたゲームは過去にない。取り組みとしてはチャレンジングなのだが、相手は15年も新作が出ていない、マニアックなロボットゲームとなると、コラボの価値を見出すのは容易ではなく、興味を持つのも難しい。
もしかすると、どちらのファンもコンテンツを愛するがゆえに、思い入れが強すぎるのかもしれない。「バーチャロン」に15年ぶりに新作が出たことを素直に歓迎して欲しいし、「禁書目録」のオリジナルストーリーが展開される作品をシリーズの一部として楽しんで欲しい。各々のコンテンツを愛している方々なら、ただ本作に触れてもらうだけで良さがわかってもらえると思う。そして、もう一方のコンテンツも気に入ってもらえたら嬉しい。
本稿はレビュー記事としてはちょっと変な内容かもしれない。でも筆者はこの記事を書きたかった。結局のところ、「スルーするのはあまりにもったいないよ!」と双方のファンに呼びかけたかっただけなのだ。
「バーチャロン」ファンの皆様へ
記事としてはここまでなのだが、よろしければ変な記事のついでに、筆者の昔話に少々お付き合いいただきたい。
遡ること22年。当時18歳だった筆者は、石川県の大学に進学し、友人から「ゲームセンターに面白いゲームがあるから行かないか」と誘われた。ド田舎出身の筆者はゲームセンターに行くということ自体に馴染みがなく、付き合い程度で行ってみた。そこで出会ったのが初代「電脳戦機バーチャロン」だ。
3D空間で繰り広げられる高速なバトルに一目で魅了され、その後の大学生活はまさに「バーチャロン」一色だった。大学の講義が終わったら、ゲームセンターに閉店まで入りびたり、友人たちとひたすら対戦した。長期の休みになると、強いプレーヤーが集まるという都会のゲームセンターへ“遠征”にも行った。いい勝負はできたが、全国トップクラスのプレーヤーに敵うほどまでは至らなかった。
地方格差とも呼ぶべき状況がとても悔しくて、「オラトリオ・タングラム」の稼働が始まる頃に、一計を案じた。ネット上で全国のプレーヤーを集めて、情報交換できる場を作る。そうすれば、自分のような地方のプレーヤーでも全国レベルの最新テクニックを知れるかもしれない。
自分のホームページに誰でも投稿できる掲示板を用意し、全国の「バーチャロン」を扱うホームページの管理者に、「うちのホームページにある掲示板へ、直接リンクを貼っていただけませんか?」とメールを投げまくった。少しずつだが賛同してくれる人が出てきて、やがて全国津々浦々のプレーヤーが集まる場ができた。
これは「共有掲示板」という名前で、本当に多くの「バーチャロン」プレーヤーが情報を交換し合ってくれた。それでも残念なことに、筆者の腕前は全国トップレベルとまではいかなかったかもしれない。しかし筆者もここで多くのプレーヤーと出会ったし、全国のプレーヤーを繋ぐ場を作れたということは、今でも誇りに思っている。
その後、雑誌や攻略本などにホームページを紹介させて欲しいという声がかかるようになり、そこで知り合った佐伯氏と数年後に再会して、「マーズ」の攻略記事を担当することに。さらにその後はGAME Watchの記者となって、現在は退職してフリーランスでジャーナリストをしている。「バーチャロン」があったからこそ、筆者の今の人生がある。
「禁書目録」を読み始めたのはGAME Watchの記者になったころで、今でも「禁書目録」を含む鎌池氏の作品のファンだ。実は筆者に「禁書目録」を薦めてくれた友人というのが、「バーチャロン」に誘ってくれた友人と同一人物なのだ。彼には礼を言うべきか、「よくも誘ってくれやがったな」と怒るべきか判断がつかないのだが(笑)、何にしても筆者にとって「バーチャロン」と「禁書目録」は単なるファンという以上の作品である。
それにしても、15年という月日は長い。筆者もその間に、記者に転職し、独立し、結婚して子供ができたりした。「人生で最も愛するゲームの新作が出たそ! 今度こそ全国トップ目指して対戦しまくろうぜ!」……などとは到底言えない状況で、この原稿を書き上げるのにも、気づけば発売から半年も経ってしまった。
しかし、この半年の間に、学生時代に「バーチャロン」で遊んだ仲間とSNSでグループを作ることができた。筆者は1人1人とうっすら繋がってはいたのだが、本作が出たのをきっかけに、また一緒にやろうという話になって、みんなが集う場所ができた。本作が出なければこんなことは起こらなかっただろう。この調子で、およそ20年前に戦い、出会った方々と、本作をきっかけに再会できることを願っている。
皆様にも思いがけない再会がありますよう。
©SEGA CHARACTER DESIGN:KATOKI HAJIME
©2017 鎌池和馬
キャラクターデザイン・原作イラスト/はいむらきよたか
Licensed by KADOKAWA CORPORATION ASCII MEDIA WORKS