「Marvel's Spider-Man」レビュー

Marvel's Spider-Man

“ゲームとの相性抜群ヒーロー”を鮮やかに調理。何より爽快感が一級品!

ジャンル:
  • オープンワールドアクションアドベンチャー
  • オープンワールドアクション
発売元:
  • ソニー・インタラクティブ・エンタテインメント
開発元:
  • Insomniac Games
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
6,900円(税別)
 
7,452円(税込)
( ダウンロード版)
9,612円(税込)
( デジタルデラックス版)
発売日:
2018年9月7日

 ビル群がそびえるニューヨークを、素早い影がギュインギュイン駆け回る。街で事件が起これば真っ先に駆けつけて、困っている人を次々に救っていく。両手から出た蜘蛛の糸が悪党の自由を奪い、強烈なキックとパンチがその顎を砕く。そう、彼はスパイダーマン。我々の“親愛なる隣人”だ。今日も街の平和は、スパイダーマンによって守られた……!

 9月7日に発売となったプレイステーション 4用オープンワールドアクションアドベンチャー「Marvel's Spider-Man」は、そんなイメージ通りの“スパイダーマン”を体験させてくれるゲームだ。ビルの壁を駆け上がり、建物の間をスイングし、都会をターザンのように飛び回っていく。マーベルコミック出身のスパイダーマンだが、この爽快感はゲームならではの味わいだ。

スパイダーマンのゲーム最新作、堂々登場!

 これまで何度もゲーム化されてきたスパイダーマンだが、それはゲームとスパイダーマンの相性がどこまでも良いからだろう。移動は爽快だし、戦闘もトリッキーかつスピーディーで、さらに魅力に溢れたキャラクターが大勢いる。映画で“見て”楽しむスパイダーマンももちろん良いが、本作の“プレイする”スパイダーマンは格別の面白さがある。

 本作を開発したのは、「ラチェット&クランク」シリーズなどで有名なInsomniac Games。アクションゲームに定評のある彼らはスパイダーマンの特性を鮮やかに調理して、「今スパイダーマンをゲーム化するならこうだよね」という納得度の高いゲームへと仕上げている。筆者の考える本作のポイントは3つ。それは「移動」、「戦闘」、そして「ストーリー」だ。さっそく、その見どころをご紹介していきたい。

【「Marvel's Spider-Man」“ヒーロー”トレーラー】

“高速の気持ち良さ”を極めたくなる爽快な空中散歩

 「Marvel's Spider-Man」は、スパイダーマンを操作してニューヨークで次々に起こる事件を解決していくアクションゲーム。高層ビルが立ち並ぶ金融街から緑の広がるセントラルパークまで、街を立体的かつ縦横無尽に移動しながら数々のミッションをクリアしていく。

舞台となるニューヨーク。地面から高層ビルの頂点まで、自由にアクセスできる

 まずお伝えしたいのは、本作は移動そのものの操作が本当に楽しいこと。移動の基本は糸を使った「ウェブ・スイング」で、糸を建物の側面などにくっつけ、空中ブランコのように街中を滑空できる。操作も簡単で、R2ボタンを押して左スティックで行きたい方向を入力しておけば、あとは自動でビルからビルを渡り、壁を駆け上り、「これぞスパイダーマン!」というアクションが堪能できる。

 さらに操作に慣れてくれば、空中で進む方向を急転換したり、狙った場所に着地したり、スピードを追求したスイング方法を編み出したりと、スパイダーマンになりきった気分で自由にニューヨークを空中散歩できるようになる。

 こうしたオープンワールドタイプのゲームでは、マップが広いだけに移動に疲れを感じることがしばしばある。割とあるパターンとして、ゲームが終盤に入るとより移動が面倒になって、結果としてファストトラベルに頼りまくる……ということがある。しかし「Marvel's Spider-Man」の場合、「いかに空中を気持ち良く駆け抜けるか」を極めたくなるような移動の爽快さがあるので、プレイが進むほどむしろ積極的に移動したくなるのが面白い。

とにかく移動が楽しい。操作を極めるほどスピードが乗ってきて、さらに楽しさが増してくる

 個人的に移動操作の中で最も気に入っているアクションは「ポイント・ジャンプ」だ。プレイ中、○マークが出る高い場所などにジップ(瞬時に移動)して、着地の瞬間にジャンプ操作をすると、そこを蹴ってさらに速度を上げて前進できる、というもの。移動のスタートダッシュにも使えるし、空中移動時に組み込めばスピードがグンと上がる。テクニカルな分、速度と操作の深みが増すアクションだ。

 またプレイを進めて開放できるスキルには「ポイント・ジャンプ」を強化するものもある。強化版では、タイミング良く「ポイント・ジャンプ」を決めると「ドンッ」とブーストがかかってさらに速度が上がる。移動しながら連続でブーストを決められれば、ニューヨークの空中を制したような気分になれる。プレイの大半を移動に費やしてもまったく損した気がしない面白さは、まさにスパイダーマンならではだ。

これは強化版「ポイント・ジャンプ」。煙のエフェクトと共に前にバンッと打ち出されるイメージ。本作には経験値とレベルの概念があり、成長させることでアクションの幅が広がり、移動スピードも上がっていく

 本作では、最初マップの詳細はすべてが開放されておらず、各地の拠点にアクセスすることで周囲の詳細が見えるようになる。「アサシン クリード」シリーズや「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」でも見られたゲームシステムだ。まずは周囲を固めながら、徐々に行動範囲を広げていく楽しみ方もアリだが、本作の場合は移動があまりに快適なため、いきなりすべてのマップ開放に取りかかれる。むしろプレイを進めると、新たなミッションが全マップを覆うように追加されることもあるので、全マップを開放してからが本番とも言える。

 とはいえ、スパイダーマンと行く快適な空の旅を楽しむには、まずは移動操作に慣れることが大事だ。プレイの実感として、特に序盤は操作方法の把握が難しく、なかなか移動速度が出ないかもしれない。筆者も最初こそ上手く操作できなかったが、メニュー画面の「技リスト」で操作方法を確認しつつ移動を繰り返すことで、途中からギュンギュン滑空できるようになった。こうなると、日々ニューヨークの街を飛び回るスパイダーマンの気持ちがわかってきて、プレイの面白さは数段増す。ニューヨーカーの“親愛なる隣人”として、人々を救うヒーローになりきれることだろう。

こちらが本作のマップ画面。操作の練習がてら、まずすべての詳細をオープンするのも一興だ
操作を間違えて地面に降りてしまうと、周りの注目を浴びて結構恥ずかしい
街に隠されたアイテムを見つける、というミニミッションもある
ランドマークを写真で撮影するミッションもある。ちなみにこちらは「ワカンダの大使館」だそう
移動が瞬時に終わるファストトラベル機能もある。使用すると「電車に普通に乗るスパイダーマン」というシーンが見られる

大勢の敵を一網打尽。糸+ガジェット+手数で手応えバッチリの戦闘に

 プレイの爽快さという点で、次に挙げたいのは「戦闘」だ。ここでも、やはりキーになるのは「糸」。スパイダーマンはパンチとキックの連続攻撃だけでなく、糸を使って敵に巻き付けたり、周囲のものを掴んで敵に投げつけたり、遠くの敵に一気に近づくこともできる。さらに敵を打ち上げて空中コンボをつなぎ、そこから糸を使ったアクションへも移行する、というようなアクションもできるので、状況に応じて様々な選択肢が生まれてくる。

戦闘ではアクションに様々な選択肢がある。まともに戦うだけでなく、周囲を飛び回って翻弄するのも作戦の1つ

 戦闘では複数人に囲まれることが多いが、たとえば1人の敵を空中へ打ち上げて自身も飛び上がり、敵からのめった打ちを回避しつつ、その敵に空中コンボを叩き込むことができる。敵を吹き飛ばし、そのまま他の敵を糸で空中に引き寄せて、さらにコンボを打ち込む。敵が倒れたら、今度は少し離れた敵に一気に近づいて、連続攻撃を続けていく……といった感じだ。

 壁際で敵に糸を巻き付ければそのまま壁に貼り付けて倒せるし、糸が巻き付いて動けなくなった敵は投げ飛ばすことができる。敵の攻撃を回避しながら、いかに隙を突いていくか。状況に応じた戦闘をいかに進めていくかが対戦中のポイントになる。

大抵の場合、戦闘は大勢の敵に囲まれる。敵の攻撃を避けながらいかに立ち回っていくかが大事だ
壁際で敵に糸を当て続ければ、壁にベタッと貼り付けられる。貼り付け技は様々に用意されているので、特に雑魚敵はどんどん貼り付けていきたい

 さらに本作でのスパイダーマンは科学者でもあるので、数々のガジェットを駆使して戦う。敵を感電させたり、壁に糸の罠を仕掛けたり、効果は様々あって、プレーヤー独自の戦闘スタイルを築いていける。特に感電は糸と同じく敵の自由を奪う効果があるので、戦闘中は大きく役立ってくれるだろう。

 敵は銃を撃ってくるし、ロケットランチャーもバンバン飛ばしてくる。盾を持っている敵、剣で攻撃してくる敵などがわんさか出てきて、しかも大勢が同時に攻撃してくる。なので、戦闘シーンの難易度は決して低くない。

 街中で発生する軽めのミッションで倒されることもしょっちゅうあり、なかなか苦戦を強いられるのだが、1人で大勢の敵を翻弄してこそのスパイダーマンだ。猛烈な攻撃をかいくぐって全員をやっつけたときは、手応えをバッチリ感じるだろう。そして悪い奴らを一網打尽にしたら、あとは警察に任せてすぐに次の現場に向かっていく。スパイダーマンなら、現場は颯爽と過ぎ去るものだ。

メニュー画面から見られる技リスト。操作に慣れない序盤は特に要チェック。スキルを成長させると、リストの項目も増えていく

 そうした派手なアクションができる一方で、静かに敵に忍び寄って攻撃するステルスプレイも可能だ。後ろからこっそり近づいて敵を倒すこともできるが、本作では梁や街灯などの上から、下にいる敵を糸で吊るして倒す「ハング・フィニッシュ」ができる。とてもスパイダーマンらしいステルス攻撃で、特定のミッションでは非常に役立つ。派手なアクションが多めの本作の中で、アクセントになっている要素と言える。

こっそりと敵を倒す「ハング・フィニッシュ」。敵の上を取るのがコツ。派手なアクションとは対象的だが、1人ずつ静かに敵を葬っていくのもスパイダーマンらしい攻撃方法だ

“地味な活動”こそゲームならでは。スパイダーマン的日常を堪能する

 そして本作最後のポイントは「ストーリー」だ。色々とネタバレになってしまうので多くは話せないが、とにかく強調しておきたいのは「Marvel's Spider-Man」は本作だけのオリジナルストーリーを貫いていること。キャラクターは共通するものの、過去の「スパイダーマン」作品とは世界がまったく切り離されているので、初めて「スパイダーマン」に触れるという方にもおすすめできる。

 本作でのスパイダーマンは、ヒーローとして活動し始めてすでに8年ほどが経っていて、スパイダーマンに成り立ての苦悩や葛藤がすべて過去となった状態からスタートする。これは絶妙な設定だ。そのため最初からベテランのスパイダーマンとして爽快なアクションが可能になっているし、本題までの話がはやい。ニューヨークの人々の認知もあるので(公式SNSのファンは1,530万人)、人助け活動も初めから違和感がない。

スパイダーマンの本当の姿、ピーター・パーカー。天才的な科学の才能があり、その知識がスーツやガジェットづくりに活かされている
ピーターの親代わりであり心の拠り所でもあるメイおばさん。本作では、「F.E.A.S.T.」というシェルターで支援活動に従事している
「F.E.A.S.T.」を創設したCEOのマーティン・リー。メイおばさんのボスであり、著名な慈善活動家でもある。しかしそれは表の顔であり……
ピーターの元カノでジャーナリストのMJ。危険を冒してでも悪事を暴こうとするため、未練タラッタラのピーターは常に冷や冷や。本作において、ピーターとMJの関係はストーリー上もゲームプレイ上も重要だ
スパイダーマンは「イェーイ」という自撮り写真を掲載したSNSもやっている。SNSには色々なつぶやきが投稿され、そこからスパイダーマンに対する世論もわかる

 公式サイトでも紹介されている通り、話の中心になってくるのはフィスクやミスター・ネガティブなどのヴィラン(スーパーパワーを持った凶悪犯)との対戦だ。物語は冒頭から一気に動き出すので、テンポ良く楽しむことができる。街に迫る危機にスパイダーマンがどう立ち向かっていくのか。その行く末はぜひプレイして楽しんでいただきたい。

 本稿で注目したいのは、この「メインミッション」を取り巻く「その他のミッション」におけるストーリーだ。本作で登場するミッションにはギャングと戦うだけでなく、水漏れを直したり、逃げた鳩を捕まえたり、かなり地味な活動もある。しかし、スパイダーマンの日常が「人助け」だと考えれば、多くのサブミッションに囲まれた生活はむしろスパイダーマンらしさがある。メインミッションと合わせてその他のミッションをプレイすることで「街を守っている感」とニューヨークに対する愛着が強まっていくのは、本作ならではの体験だと感じた。

 それと、ミッションの中にはヴィランたちの“イタズラ”のようなものも含まれている。敵味方含めて、スパイダーマンの愛されっぷりを堪能できる点でも楽しい。スーパーヴィランと真剣に戦うスパイダーマンも格好良いが、軽口を叩き合いながらイチャイチャするようなゆるめの対決も捨てがたい。映画などではあまり重点が置かれない「凶悪犯がいないときのスパイダーマンの日常」をじっくり体験できるという点で、興味深いスパイダーマン作品になっているだろう。

尾行を頼まれるスパイダーマン。窓から犯罪計画を覗く……というユーモラスなミッションもある
ハワードさんからは、ニューヨーク中に逃げてしまった鳩の捕獲を依頼される
市民の安全を守るため、環境汚染を食い止めるのも仕事の1つ
スパイダーマン稼業の基本は人助け。軽口を叩きつつ、スーパーパワーを困っている人のために使うのが本来のスパイダーマンの日常だ

 冒頭でスパイダーマンとゲームの相性の良さに触れたが、「Marvel's Spider-Man」はゲームとしてもスパイダーマン作品としても質の高い作品だ。ゲームシステム自体は他作品でも見かけるものが採用されているが、そこをスパイダーマンならではの能力とキャラクター性で突破し、本作ならではのスピード感と爽快感を形作っている。エンターテイメントとして一級品に仕上がっているので、ゲームファンはぜひチェックしていただきたいタイトルだ。

【まだまだある見どころ!】
ゲームにはシルバー・セーブル、ショッカー、バルチャー、エレクトロなど、多くの名キャラクターが登場する。それぞれ独自の描かれ方をしており、彼らがどのようにストーリーに絡み、どのような演出で表現されるかも見どころだ。個人的には、ショッカーにさらりと酷いことを言うスパイダーマンがお気に入り
他にも潜入ミッション、パズル、ガジェットを使った特殊ミッション、それにスーツのアンロックなど、様々な要素がある。単調なアクションゲームに留まらないよう、細かい気配りも感じる作りだ
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