2018年9月13日 07:00
「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」が、9月13日に発売となった。本作はスクウェア・エニックスから発売された「ヒットマン ザ・コンプリート ファーストシーズン」のDLCを全部盛り込み、追加コスチュームも封入した“全部入り”バージョンだ。発売元がワーナーとなり、11月15日に発売決定となった「ヒットマン2」へ繋がる作品である。
「ヒットマン」シリーズは伝説の暗殺者47となり、世界中の様々な場所で暗殺を行なっていくステルスアクション。「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」では、緻密なフィールドを舞台に暗殺を繰り広げていく。ファッションショーが行なわれているパリの会場、美しい港町の観光地サピエンツァ、住民達の抗議デモで揺れているマラケシュなど、様々なシチュエーションで47は暗殺を遂行する。
プレーヤーは無数にあるヒント、様々に絡み合ったイベントを読み解き、マップを把握し、奇跡とも言える暗殺を成し遂げていくこととなる。じっくりと攻略し、それらを組み合わせ、誰も暗殺に気が付かない「サイレントアサシン」を目指すのだ。ボーナスコンテンツにより、同じマップでもシチュエーションが全く違う要素や、世界中のプレーヤーと“暗殺競争”を行なう「コントラクト」など様々な要素がある、ひたすらやり込める作品である。
どこで何ができるか、全てを把握し、最高の暗殺を成し遂げろ
弊誌では以前「ヒットマン ザ・コンプリート ファーストシーズン」をレビューしているので、こちらも参考にして欲しい。今回改めて「ディフィニティブ・エディション」として本作をしっかりプレイしてみたが、その面白さに本当に感嘆してしまった。
「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」の面白さは、パズル的な緻密さと、奇跡とも言える暗殺を成し遂げる伝説の暗殺者になりきれるところにある。FPSやアクションとは一味違う。マップの中の世界観やストーリーを楽しむと言えばアドベンチャーゲームではあるが、ストーリーを解き明かすだけでなく、「どう組み合わせていくか」が楽しいゲームなのである。
ミッションの1つ、「明日の世界」を例に取ろう。舞台となるサピエンツァは「アマルフィ海岸の宝石」とも呼ばれるイタリアの美しい町。この町に大きな邸宅を持つ地方貴族の末裔シルヴィオ・カルーソーは、世界的に優れた幹細胞研究者だが、今はDNAを標的としたウィルスを作るため邸宅の地下を改造し、恐ろしい研究をしている。ミッションはカルーソーの暗殺、ウィルスの消去、そして研究を受け継ぐ可能性のある研究班リーダー・フランチェスカの暗殺だ。
ミッションでは、まずどうやって邸宅に入るかが鍵となる。邸宅の右側では事故を起こした車があり、この車はカルーソーに注文された花を届ける予定だった。また、右側には言い争っている姉弟がいる。弟が姉の口利きでカルーソーのコック見習いとして務める初日のようなのだ。47は花屋やコック見習に成り代わって潜入することができる。また、右側の城壁には穴が開いている。海岸側をぐるりと進むと崖から邸宅へ続く道もある。もちろんそれらには銃を持った用心棒がガードしており、彼らの目を逃れるか、倒して進まねばならない。
47は銃器を全て使え、超人的な体力、格闘能力を持つ。しかし最も優れているのが擬態とすら言えるレベルの変装だ。コックの服、ハウスキーパーの制服、用心棒達の服装……それらを着るだけでその職業の雰囲気をまとい、見る人を欺くことができる。全ての部下の顔を覚えている様なリーダークラスの人は欺けないが、多くの人の目をごまかすことができる。47はある時はロッカールームから制服を奪い、ある時は気絶した人から服を剥ぎ取りながら姿を変え、敵陣深くへ潜入していき、目的を果たすのだ。
殺し方も実に多彩なものが用意されている。カルーソーに毒入りスパゲッティを食わせ、1人で吐いているところを狙えるほか、スナイパーライフルで仕留めたり、高所から突き落としたりもできる。47が室内に飾られている鎧に隠れてカルーソーを背後から襲うこともできるし、巨大な物体をカルーソーの頭上に落とすこともできる。使われなくなった昔の大砲に弾を込め、カルーソーを吹き飛ばすことすらできるのだ。こういった暗殺はプレイをしていくことで凝ることができる。初心者は「アプローチ」という項目を利用することでいくつかの暗殺の方法が提示されている。
「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」の楽しさはどこまでもやりこむことができるところだ。クリアだけならアプローチの提示方法に従うだけでいい。しかしそれでは本作の楽しさはわからない。例えばカルーソーの母親への愛は実は憎しみの裏返しだったり、子供の頃の思い出を大事にしていたり、そういった秘密も明らかになってくる。フランチェスカの秘められた恋なども興味深い。これらは暗殺方法へのアプローチを変えることで様々な秘密が明らかになっていくのだ。そしてアプローチを超えた暗殺方法を思いつくようになる。目指すは殺した姿を発見されず、事故死にしか見えない暗殺を行なう「サイレントアサシン」である。
最初の頃は不可能に見える暗殺もマップを攻略して行けば道筋が見えてくる。秘密の通路の場所、制服が手に入りやすいロッカー、部屋の鍵の多くを開けられる鍵はどこにあるかなどマップの隅々まで歩き、確認することで方法が見えてくるのだ。そしてそのプレイの経験を活かした上でより暗殺をスマートにしていく。47であるプレーヤーはマップで何が起こり、どうすればターゲットが移動するかを全て把握する。そう、まるで「ループものの主人公」のように、何度も繰り返した経験を活用して、最適の行動と大胆な手口で暗殺を成功させるのである。この凝りに凝ったゲーム性は、ぜひ体験して欲しい。
「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」の楽しいところは、基本となる6つのロケーションを舞台にしたキャンペーンだけでなく、さらなるキャンペーンや、ボーナスミッションまで収録しているところだ。マップは同じなのに、全く違うシチュエーション、全く違うシナリオが用意されているのである。本作のゲーム性を気に入った人ならば、ずっと、ひたすら、本作だけをプレイし続けるものすごいボリュームと、遊びごたえを持ったゲームなのである。
「俺のような暗殺ができるか?」、世界に挑戦するコントラクト
前回のレビューで触れられなかった、オンライン要素も語っていきたい。「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」は、セーブデータをオンラインとオフラインそれぞれ独立したデータとして管理しており、オンラインの場合は、ミッションをクリアすることでスコアが得られ、累積スコアに応じた特典がある。
ミッションは「不審行動未発覚ボーナス」、「被害者隠蔽ボーナス」、「監視カメラペナルティ」などの項目があり、これらでスコアが上下する。そして累積のスコアで“マスターレベル”が上がり、様々な項目がアンロックされるのだ。アンロックされることでステージの様々な場所に武器や道具を隠すことができるようになり、これらを活用することで暗殺の自由度がさらに上がる。
また、各ロケーションには「エスカレーション」という項目があり、こちらは本編とは別のターゲットを暗殺する。クリアするとより難易度の高い暗殺に挑戦できる。暗殺を極めたいプレーヤーには挑戦心を刺激させられるコンテンツだ。またボーナスとなる「チャレンジ」も把握しておけばよりスコアが稼げる。
もう1つ、“真のやりこみ要素”として、「コントラクト」がある。このモードは、オンラインでプレーヤーがミッションを作成できるモードだ。ターゲットや殺害状況を設定し、それをミッションとして全世界のプレーヤーに発信できるのである。
コントラクトミッションの作成方法は「自分で実現すること」。そう、このミッションは世界の誰かのプレーヤーが実現した暗殺なのだ。コントラクトを通じて「俺がやった殺し方を、君たちができるかい?」と世界に挑戦できるモードなのだ。そしてプレーヤーはこの挑戦状を受け、試行錯誤をすることとなる。
実際プレイすると難しい。「この建物にはどう入るんだったかな?」、「ここはこんな繋がりがあったのか」、「ここにこんなキャラクターが?」などなど新たな発見も多い。マップをさらに理解し、じっくり攻略法を考えて挑むことができるモードなのである。そしてやりこむことで、自分なりのミッションを考えるのも楽しくなってくるだろう。
マップが大きく意味を変えるボーナスミッション、新キャンペーン
そして「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」の大きな楽しみと言えば、収録されているDLCだ。4つのエピソードからなるキャンペーン「ペイシェント・ゼロ」に加え、「ザ・アイコン」、「砂上の家」、「地すべり」などのボーナスミッションなど様々なコンテンツをプレイできる。これらのミッションはマップを同じにしながらも、シチュエーション、展開するストーリーが大きく異なるのである。
例えば「ザ・アイコン」はサピエンツァを舞台に、事故に見せかけ主役の映画スターを暗殺するというエキセントリックなものだ。美しくのどかなサピエンツァがいきなり巨大なマシンとヒーローの対決という撮影現場にかわるのが面白い。「砂上の楼閣」の舞台はマラケシュ。夜の市場とカフェという、観光気分がさらに強まった町で、企業引き抜きの陰謀が繰り広げられる。
キャンペーン「ペイシェント・ゼロ」の最初のミッションはバンコクが舞台となる。巨大なホテルの上階を借り切り、カルト教団「リベレーション」のイベントが開催されている。非常にうさんくさいが、絶大な財力が“ホテルの会場の貸し切り”を実現させているのが確認できる。展示品なども凝っていて、信者達の熱心さと、教祖の権力がわかる。実はリベレーションは、自らの終末思想を実現すべく、バンコクで生物テロを実行しようとしているのだ。ターゲットは教祖とその相棒である女だ。
教団のイベントスペースはホテルの客であれば誰もが入れるが、会場の上階は信者用スペース、さらに上は教団スタッフしか入れない。突破口の1つは入信をためらっている男。彼女の熱心な勧誘に会場まで来てみたが、尻込みをしている。彼の部屋の鍵が入手できれば中で信者の服を見つける事ができる。
会場の上階は信者用の瞑想部屋になっていて、教祖はここで実にうさんくさいパフォーマンスをする。手を燃えさかる炎にかざし、全く熱くない、とその能力を誇示するのだ。……もちろんこれには裏がある。このトリックをうまく破ることができれば、信者の前で教祖は“手品”に失敗し、彼を火だるまにさせることもできる。教祖が死んだ後の相棒の女の行動は非常にドライだ。彼女が何をするか、そして教団の後ろ盾は何なのか、それがキャンペーン「ペイシェント・ゼロ」の鍵となる。
実はこのミッションをプレイしているとき、ホテルの1階の警備が妙に厳しいと思ったことがあった。実はこここそが、教祖の相棒の女がパイプ役となっているある勢力が拠点としているところだったのである。物語に応じて現われるのではなく、マップにすでに配置されている、それが「ヒットマン」の面白さであり、独特のストーリーテリングだ。
配置されているキャラクターやオブジェクトに意味があるが、それらはストレートには語られない。プレーヤーは47としてマップを歩き、NPC達の会話やオブジェクトなどの情報から物語を読み解いていく。そこに大きな物語と、設定、そして陰謀がある。「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」はその隠された物語が明らかになっていくところに大きな楽しさがある。
「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」はステージクリア型のアクションゲームやFPSに比べ、プレーヤー自身の創意工夫を必要とするゲームである。本作ならではのルール、マップの細かい把握、NPCの行動の予測など考えなくてはいけないことが多く、プレイ中は緊張感がある。しかし、そうして情報を集め、テクニックを磨くことでたまらない爽快感と達成感を味わうことができる。理想的な暗殺を成功させ、犯人とは気づかれずに人々の間をすり抜け、脱出ポイントに到達した時の気持ち、これは他のタイトルでは味わえないだろう。
そしてこのたまらなく楽しいゲーム性をそのまま、さらに凝ったステージとストーリーを用意した「ヒットマン2」が11月15日に発売される。筆者自身、発売日が楽しみでたまらない。まだ本作を未プレイの人は、「ヒットマン2」の前に「ヒットマン ディフィニティブ・エディション」を隅の隅までたっぷりプレイし、本作のルール、楽しみ方をしっかり把握しておこう。
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