死と再生のRPG「ザンキゼロ」レビュー

ザンキゼロ

人類に残された残機はわずか8人……。人類存亡を賭けたサバイバルが始まる

ジャンル:
  • サバイバルRPG
発売元:
  • スパイク・チュンソフト
開発元:
  • スパイク・チュンソフト/ランカース
プラットフォーム:
  • PS4
  • PlayStation Vita
価格:
7,200円(税別)
 
6,800円(税別)
 
発売日:
2018年7月5日

 7月5日、「ダンガンロンパ」シリーズのスタッフが開発する完全新作RPG「ザンキゼロ」がプレイステーション 4/PlayStation Vita用ソフトとしてスパイク・チュンソフトより発売された。

 「ダンガンロンパ」シリーズは、どの作品もが斬新な要素を盛り込み、プレーヤーを驚かせてきたが、本作もそのエッセンスを色濃く継承しており、謎が謎を呼ぶストーリー展開と他の作品に類を見ない個性的なゲームシステムを備えている。ネタバレを抑えつつ、本作の魅力とプレイ感を伝えていければと思う。

【PS4/PS Vita「ザンキゼロ」ゲーム紹介映像】

いきなり人類滅亡!? 人類最後の男女8人のサバイバルが始まる!

 物語は衝撃的なシーンから始まる。月明かりに照らされたとあるビルの屋上で、1人の男――「日暮ハルト」が後悔の念を抱いて下界を覗き込む。表情には涙を浮かべ、“世界なんて、終わってしまえばいい”と祈りながらその身を投げ出してしまう。

 地面と接触するその瞬間、ボチャンと水面に着水した反応。ビルから見下ろした先は水面などではなく、間違いなくコンクリートだった。人生に幕を下ろしたはずのハルトだったが、目を覚ますとそこは青い海に囲まれた見知らぬ孤島、「ガレキ島」に流れ着いていたのだ。

 ハルトの他にも、気がついたらこの島にいたという男女が7人。8人の主人公による、ガレキ島を舞台にした極限のサバイバル生活が始まる。見知らぬ男女が見知らぬ地に集められるという、「ダンガンロンパ」を彷彿とさせる謎の多いスタートだ。

全てを終わらそうとするハルト。しかしそこは絶望の始まりだった
朽ち果てた文明が残るガレキ島で、ゴールの見えないサバイバルが幕を開ける

 まだまだ衝撃の事実は続き、本作は主人公ら8人を残して人類が滅亡した世界なのである。生き残りの8人も普通の人間ではなく、なんと全員が“クローン人間”。クローン体の寿命は短く13日しか生きられず、14日目には死を向かえてしまうというハードな設定なのだ。

 死亡しても8人が全滅しない限り「エクステンドマシン」という機械を使うことで何度でも蘇ることができる。死亡と復活を何度も重ねてダンジョンを攻略していくのがゲームの基本の流れとなる。じっくりと腰を据えて楽しめるタイプのRPGだ。

 繰り返しの探索と聞くと“めんどうくさそう”とマイナスのイメージを受けるかもしれないが、繰り返すことに作業感を感じさせないための工夫が驚くほどしっかりしている。メニューから1ボタンで拠点からダンジョンへ飛べて、その逆のワープもバッチリ。行き帰りの移動の煩わしさが皆無で、テンポよくサクサク遊べるのだ。

 そして、死んで生き返る度にキャラクターは成長するので、強くなっていく達成感を味わえ、同じダンジョンに潜り続けることも全く苦にはならない。“繰り返す”という作業になりがちなことをここまで面白くさせるゲームバランスはさすがと言いたい。

みんなのヘソにつけられた“ペケ字キー”がある限り、何度でも蘇ることが可能だ
復活すると幼年期の状態からのスタート。ここから13日間生きることができる

 ダンジョンに何度も繰り返し潜って攻略していくことを前提に作られているのもあり、歯応えのある難易度で1回の探索で攻略するのはかなり難しい。

 ダンジョンの中にはもちろん敵も存在する。戦闘はその場のフィールドでリアルタイムで行なわれる。アクション性もあり、戦いでは敵の攻撃をかわしながらこちらの攻撃を食らわせていく、ヒット&アウェイの戦い方が基本となる。アクション性はあるが特に難しい操作は要求されないのでそこは安心してもらいたい。

 プレイしていて恐ろしいと感じたのは、複数体の敵に襲われたときの脅威だ。狭い小部屋などで敵に囲まれてしまうと一切の身動きが取れなくなり、敵の攻撃を受ける一方になってしまう。敵は基本攻撃力が高いので追い込まれるとまさに絶望的。このような状況に陥らないよう、身動きが取れる広い場所をキープして1体ずつ確実に処理していくのが重要だ。戦闘システム自体はシンプルだが、地形や敵の数などを状況ごとに判断して戦うという深みのあるバトルが楽しめる。

ザコ戦でも、相手によっては1発・2発の攻撃で戦闘不能にされることも。常に油断はできない!

 まだ進むか、それとも一旦戻るか……? ダンジョン探索ではそんなジレンマがつきまとう絶妙なゲームバランスもたまらない。可能な限り1回の探索で奥まで進みたいと思うのだが、そう単純にはいかないのが本作の面白いところでもある。サバイバルRPGと銘打っているだけあり、生き残るためには様々な問題をクリアしていかなければならない。

 キャラクターの寿命はもちろんのこと、ストレスや空腹、さらには“便意”など様々なパラメーター管理が大事になってくる。ストレスや空腹は食事をすることで解消されるが、厄介なのが便意だ。便意は数値が一定を超えるとその場で漏らしてしまい、パーティメンバーのストレス上昇と悪臭により敵を呼び寄せてしまうというダブルデメリットを受けてしまうのだ。スタミナと違って画面に数値が表示されていないので、気がついたときには限界ギリギリなんてことがままある。

 ダンジョン内にあるトイレを利用すれば数値を下げられるが、トイレの数はそう多くはないので必要なときに近くに無い場合が多い。そういった際に役立つのが「ペットボトル」だ。筆者も偶然発見したのだが、用途不明だったアイテムのペットボトルをキャラクターに使用したところ便意の数値が下げることができた。これを発見したときは「なるほど、こういう使い方もできるのか!」と感心してしまった。ペットボトルはダンジョン内のいたるところで拾えるので、これを覚えておけばトイレに困ることも少なくなるはずだ。

 探索のスタイルはプレーヤーの性格がよく出るのだろうとプレイしていて思う。筆者は食料の残りが心許ない状態や仲間が数人死亡しても割と強引にグイグイ進んでしまう方なのだ。しかし“超”がつくほど貧乏性な性格ゆえに、アイテム所持量がマックスになって持ちきれなくなったときは迷わずに、即! 拠点に戻っている。そんなにいらないであろうアイテムでも道中に落ちているとついつい拾ってしまい、そして捨てられない性分なのでダンジョンと拠点を頻繁に行き来させられている。そういった遊び方なので1つのダンジョンを攻略するのに結構な時間をかけている。このようにプレーヤーごとのスタイルで自分に合った遊び方ができるのは実に面白い。

長いダンジョン探索のお供に、ペットボトルは数本携帯しておくと安心だ
幼年期や老年期だとアイテムを持てる限界量も少ないので注意が必要

 ゲームを進めていくと“クリオネ”と呼ばれる触手をパーティメンバーに移植できるようになる。クリオネによる特殊能力は強力で、敵へ大ダメージをを与えたり、味方の強化や回復を行なうこともできる。

 クリオネを使いこなせば攻略がさらに有利になるのだが1つ難点があり、寄生生物であるクリオネは使えば使うほど侵食度が上がってしまい、最終的には暴走して宿主の命を奪ってしまうのだ。とても強力だが使いどころを見誤ると痛い目を見る、いわば諸刃の剣とも呼べるシステムだ。

クリオネには複数の種類が存在し、様々な効果を発揮する
敵に寄生しているクリオネを部位破壊することで奪うことができる
クリオネは強力だが使いすぎは厳禁。“DANGER”と警告が出たら使わないようにしよう

プレーヤーを引き込む、魅力あるキャラクターとシステム!

 RPGとしての面白さもさることながら、登場人物のキャラクター性の強さも、このゲームに引き込むパワーを持っていると感じた。主人公が8人と少々多いのだが誰1人空気になっておらず、全員が全員しっかりとキャラが立っているのだ。

 本作はスポットの当たるメインキャラクターがチャプターごとに変わり、その人物の物語が掘り下げられていく。初めは表面上しかわからなかった部分も、内に秘める過去の罪やトラウマが明らかになっていき、その人物がどういった人間なのかを知ることができる。本質を知ることでより一層キャラクターに感情移入ができる。

 公式ホームページのキャラクター紹介でも確認できる、“キャラクターの肩書き”がエピソードのテーマとなってくる。ハルトなら“怠惰の編集者”、玖保田ゼンは“憤怒の農家”など、どういったエピソードなのかをキーワードから断片的に読み取ることができる。中でも気になるのが“色欲の花屋”の芒野リンコと“原罪の少女”比良坂サチカのエピソードだ。キーワードを見たら、このキャラクターたちにどんな秘密が隠されているのか気になって仕方が無い。

キャラクターたちの生前の記憶が語られる。どれも心をえぐるエピソードばかり

 キャラクター繋がりの話でいくと、主人公たちにミッションを下すテレビ番組「エクステンドTV」の住人も独特な存在感を放っている。

 番組MCは可愛らしい羊のマスコットキャラクター「ミライ」と、アシスタントの少年「テラシマショウ」の2人。1980年代風のキャラクターデザインで、ゲームの世界観からはかなり浮いている存在だ。

 そしてこの2人の個性を確立させているのがキャラクターボイスだ。声優を務めるのは野沢雅子さんと中尾隆聖さんという、どこかで見たことある組み合わせの大御所声優だ。

 「スーパーダンガンロンパ2」のモノクマとモノミの掛け合いもそうだったが、大ベテラン声優2人の声でブラックユーモアあふれる会話を繰り広げるのは正直ズルい! こんなの面白くならない訳が無い。

 筆者がプレイしている進行状況では、この2人が何者なのかは不明だが、果たして正体は明らかになるのだろうか。気になるところである。

MCの草食系マスコット。人類再生のためと言い、主人公たちにミッションを下す
番組進行のアシスタント。ぶっ飛んだ発言が多い
「ダンガンロンパ」シリーズに劣らない、ブラックでシュールな掛け合いは必見

 ゲーマー心をくすぐるやり込み要素ももちろん詰まっている。キャラクターが死亡して復活させた際、死んだ状況に耐性が付くようになる。これが死をバネにする「シガバネ」システムだ。殺された敵からのダメージを軽減するなど死因によって得られるシガバネボーナスは様々。

 シガバネボーナスが付与される死因はかなりの数があり、条件を達成したものはシガバネのリストに記される。こういったリストを埋めるような要素があるとゲーマーとしては本編そっちのけで死にまくってコンプリートを狙いたくなる。付与されるシガバネボーナスの数に制限はないので、条件を満たせば満たすほどたくさんのボーナスが得られるのも特徴。単なるやり込み要素ではなく、キャラクターがどんどん強くなっていくのでやり甲斐は十分にある。

死ねば死ぬほど強くなるという斬新で素晴らしいシステム。これにより、敵にやられる事へのフラストレーションが全く溜まらない

 面白いシステムはまだあり、休むと体力とスタミナを回復できる寝室では1人で休む以外に、好きなキャラクター同士を同じ部屋でソイネさせることができる。

 ソイネを重ねることで2人の絆が深まり、キャラクター同士の特殊イベントが見られるのだ。発生するイベントはキャラクターの組み合わせで変化するので、イベントの数はかなりの量が用意されている。ギャルゲー好きの筆者にとって、フラグを立てることでイベントがオープンになっていく、こういった要素があるのはかなりポイントが高い。

 ソイネはただイベントが見られるだけではなく、互いのキャラクターに様々な能力が付与されるのだ。しっかり実用性もあるので、ダンジョン攻略にうまく利用するのをおすすめする。

本編のストーリーでは見られない、仲間同士の意外な一面も見られる
ソイネマッチングは同性同士だってできる。好きなカップリングでソイネさせよう

 今回プレイして、長い歴史のあるRPGというジャンルを、よくもここまで真新しさのあるゲームデザインに構築できたものだと感心させられた。プレーヤーを飽きさせない斬新なシステムや、ダンジョンをクリアしたときの達成感を感じさせる絶妙なゲームバランスなど、どこを切り取っても妥協が感じられない作りだ。

 RPGの面白さを決定づける要素である“ゲームシステム”と“ストーリー”。その両方が高水準の出来であり、時間を忘れてプレイに没頭してしまうパワーを持っている。特に「ダンガンロンパ」シリーズのファンなら、本作の独特な世界観にもすんなりと入り込んで楽しめるだろう。

 本作を遊んでみて、この作品にはRPGの新たな可能性を感じた。今まで見たことのない世界に触れてみたいゲームファンにはぜひ遊んでもらいたい作品である。

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