2018年1月15日 07:00
「The First Tree」はとてもユニークなアクションアドベンチャーだ。プレーヤーは“キツネ”となって、森の中を進んでいき、いなくなってしまった自分の家族を探す。
このキツネはある青年・ジョセフの夢の中に出てくる存在だ。キツネの足跡を追いながらジョセフは自分の人生、そして父親との関係を見直していく。そしてその思い出を傍らにいる彼女・レイチェルに語っていくこととなる。
本作は2017年9月に発売されたインディー作品だが、1月9日に日本語を含めた複数の言語に対応した。これにより日本語で物語の隅々まで楽しめるようになった。また、本作はStemで1月16日午前3時まで20%オフのセールを行なっている。本稿で興味を持ったユーザーはぜひ手に取って欲しい。早速、「The First Tree」の魅力を紹介していきたい。
キツネとなって美しい自然の中を旅する。語られる青年と父の物語
ジョセフは夢を見ている。夢の中では1匹のキツネが出てくる。彼女はお母さんで、子供を探している。しかし彼女が見つけたのは冷たくなった我が子の姿だった。キツネは悲しむが、他の子供の姿を求め森の奥へ進んでいく。森の奥にはいにしえの記憶を宿した「The First Tree(原初の樹)」がある。キツネはその樹へと進んでいく……。
プレーヤーが操作するのはキツネである。キツネはカーソルキーや、WASDキーで操作可能で、マウスで視点移動する。走るための左シフトや、ジャンプするためのスペースキーも設定されている。ゲームコントローラーを使うことも可能で、筆者はコントローラーで本作をプレイした。
本作はアクションアドベンチャーだが、ゲームのメカニクス的には非常にシンプルで、ジャンプでのアクションのみだ。キツネは素早くジャンプボタンを2回押すことで2段ジャンプが可能だ。フィールドに点在している「光の点」を集めるためや、地形を進むのに2段ジャンプを活用していく。
もう1つのシステムが“蝶”だ。フィールドにいる蝶の群れに触れると蝶はキツネの周りを飛ぶようになる。蝶に囲まれている状態だと大ジャンプができ、複数の蝶を集めることで壁を越えることができる。
フィールドには光の点の他に、「光の柱」もある。この光の柱が出ているところでアクションボタンを押すと、キツネは地面を掘り返す。それをきっかけにジョセフは過去のことを語っていくのだ。画面には見えないが、夜寝る前の静かな時間に、ジョセフは夢を思い出し、傍らにいる彼女・レイチェルに自分のことを語っているのだろう。プレーヤーはキツネを操作し、フィールドを進んでいきながら、ジョセフとレイチェルの会話を通じて、ジョセフのこれまでの生き方を知っていくこととなる。
ジョセフには父親がいて、彼の父親はアラスカで林業を営んでいること、父親は木切れでヨットや、機関車など玩具を作ってくれたこと。ジョセフはそれが大好きだったが、小学校で「宝物を持ち寄る」という課題があったとき、お気に入りの父親が作った機関車を持っていったのだが、作りの粗さをからかわれ、「友達がふざけて作ったのをもらった」と嘘をついてしまったことなどを語っていく。
さらにジョセフは父親との関係にも踏み込んでいく。実は不器用な父、アラスカという田舎町の閉塞感から荒れていく自分の子供時代。レイチェルと語りながら、ジョセフは自分のこれまでと、父への想いに向き合っていくこととなる。
面白いのはジョセフの話とフィールドがリンクしているところだ。ジョセフが学校の話をすると机や椅子がフィールドに落ちている。父とキャンプに行った話をするとテントが見つかったりする。「壁を越えなくては」と語るところでは、高い壁があって、キツネはそれを越えるために努力するのである。プレーヤーはキツネとしてフィールドを進むが、語られるジョセフのストーリーの先が気になって、彼の物語を聞きたいがためにフィールドを探索していくことになるのだ。
ゲームだからこそ伝わるテーマがある。ユニークな表現に考えさせられる作品
「The First Tree」が狭い意味での「ゲーム」であるかは議論されるところかもしれない。2段ジャンプ、フィールドの探索というシステムそのものはアクションゲームの手法を踏襲しているが、ストーリーに分岐はなく、ゲームとしての駆け引きもフィールドを進んでいくものだけで、時間制限などもない。
ボリュームに関しても3時間ほど、クリアだけならもっと早く最後まで行けるだろう。本作はアクションアドベンチャーという“手法”を使ったデジタルノベルというのが正しいかもしれない。ジャンプのタイミングはシビアではないし、敵との戦いといった要素もない。クリアの爽快感や分岐の面白さなど、ゲームとしての駆け引きを求めるユーザーに応える部分も存在しない。淡々と、ゲームは進んでいくのである。
しかしそれでも、この手法だから本作は面白いのだ。ジョセフが断片的に語っていく物語は、我が子の姿と、原初の樹を求めて進むキツネの姿、フィールドに点在する光の点と、物語を進める光の柱を探すゲームの手触りを通して語られるからこそ、想像力が刺激され、より共感ができるものになっている。
ジョセフと父は2人ともお互いを大事に思っていながらも、うまく繋がることができず、今は離れて暮らしている。ジョセフは父との距離に心の中に強い寂しさを抱いている。話を聞いているレイチェルは、良い聞き手だ。自虐的になり、自分の殻に閉じこもりがちなジョセフの心を支え、語ることを促す。プレーヤーは2人の会話を通じ、レイチェルもまた心に葛藤を抱えていることを知る。寂しい思いを共通して持っている2人だからこそ、2人の繋がりを実感できる。そして一層彼らの物語へと惹かれていく。
何より本作はグラフィックスと音楽が良いのだ。人がいない、どこか幻想的な風景、ジョセフの思い出とリンクしている奇妙なオブジェクト、雪山から草原、鬱蒼とした森や、水の流れる岩場など様々な自然がシンプルなグラフィックスで描かれる。光の点や光の柱は遠くからもキラリと光りプレーヤーにその存在を主張する。
キツネの操作はレスポンスも良く、何もないところでジャンプをしたくなるし、光の点をより多く集めたくなってジャンプのタイミングを工夫したりする。「ゲームの手法」がプレーヤーの気持ちを押してくれている。ゲームであるからこそ、本作の物語がすんなりと心に入ってくるのである。
音楽は静かなピアノ曲がメインで、寂しい風景と、ジョセフの物語にマッチする。場面が変わったり、視界が開けたときの音楽の盛り上がりも良い。全体的に非常に「雰囲気」にこだわって作られている。「ストーリーテリングの手法は、こういうやり方もあるのか」と強く感心させられたタイトルだった。
「The First Tree」はこれまで語ってきたように、ゲームというよりデジタルノベルに近いものである。ボリュームもたっぷりとは言えないが、物語の表現や、ゲームとしての手法、演出など、様々なことを考えさせられる作品であり、開発者のセンスと挑戦心に強く感心させられる。何度かプレイし、本作の表現や開発者の想いや、こだわりを確かめたくなる。
そしてキツネのかわいさ、キツネとなってフィールドを進んでいくというコンセプトが面白い。「これこそインディーゲームだ」という楽しさもある。何よりもこのしっとりとした感触と雰囲気が良い。ちょっと触れてみて、「ゲームの表現」という興味深いテーマについて、じっくりと考えて欲しい。ゲームというのは、本当に多彩な可能性を持ったジャンルなのだ。
(C)2016 David Wehle