「T300RS GT Edition」レビュー

T300RS GT Edition

プレミアムなハンコン。ひとつ上の選択肢

ジャンル:
  • ステアリングホイール
発売元:
  • Thrustmaster
開発元:
  • Thrustmaster
プラットフォーム:
  • PS4
  • PS3
  • Windows PC
価格:
49,800円(税別)
発売日:
2017年1月27日

今回ご紹介する「T300RS GT Edition」

 今年のレースゲーム大作ラッシュの目玉のひとつ「GT SPORT」の発売ももうすぐということで、レースゲームファンの皆さんはプレイ環境やデバイスの準備にも関心が向いているころではないかと思う。

 先般、ステアリングホイール型コントローラー(ハンコン)の鉄板のひとつとしてロジクールの「G29 Driving Force」をご紹介したが、今回は、もう少し上のグレードとなるThrustmasterの製品「T300RS GT Edition」をご紹介してみよう。

 「T300RS GT Edition」は2017年1月27日に発売されたハンコンで、PC、プレイステーション 4、プレイステーション 3の3プラットフォームに対応。基本的に、前モデル「T300RS」をPS4対応にしたものと見ていい。

 本製品は上位機種の「T500 RS」と同様のフォースフィードバック(FFB)機構を備え、ハンドル直径も実車並の30cmというサイズを持つ、本格派だ。10月19日発売予定のPS4「グランツーリスモ SPORT」の公式推奨デバイスとしてもリストアップされている。

 価格は49,800円(税別)と、価格帯としてはロジクール「G29」と同等だ。しかしその性能はライバルを上回る水準にあり、PS4、PCといったプラットフォームを問わず、本格的なレーシング環境を構築したいバーチャルドライバーにとって見逃せない選択肢のひとつとなっている。

安定感のあるホイールベース。ハンドル、ペダルともに高精度の入力が可能

ステアリングユニット
「G29」より一回り大きく、重い
ステアリングリムは直径30cm。ほぼ実車サイズ
リム表面はハードラバー素材。質感、グリップ力ともに良好
こちらはペダルユニット。奇をてらわないデザイン

 「G29」のレビュー記事では、ハンコンに求められる性能を4つの項目にわけてご紹介した。1.入力精度、2、FFBのパワーと精度、3.質感の高さ、4.マルチプラットフォームだ。「T300RS」は、そのすべてが本格ハンコンとして申し分のない出来栄えとなっている。

 まずは外観を見ていこう。

 ステアリングユニットでまず目立つのは、その大きさだ。フォースフィードバックモーターを搭載したベース部分は「G29」のものよりも一回り大きく、重量もある。ガワはプラスチックでまとめられているが、つや消しの落ち着いた質感もあいまって、十分すぎるほどのプレミアム感を醸し出すデザインだ。

 標準付属しているステアリングリムは直径30cmのサイズで、「G29」の直径28cmを上回り、ほぼ実車サイズとなっている。デザイン的には特にどの車のレプリカでもなく、オリジナルデザインのようだ。PS4の標準コントローラーであるDUALSHOCK 4と同等のボタン機能が配置されており、ステアリングだけでゲーム内のあらゆる操作ができるようになっている。

 ただ、ボタン類の配置が中央寄りすぎて、リムをしっかり握った状態では指が届かないのが難点。走行中に利用するハンドブレーキ、DRS、KERSといった機能を割り当てた場合、リムに指をひっかけたまま親指をぐっと伸ばすとか、いっそ片手で操作するといった形で、やや苦しい体勢でボタンを押すことになるのは避けられないところだ。

 次にペダルユニットを見てみよう。凝りに凝ったデザインのステアリングユニットに比べ、こちらはシンプルなデザイン。アクセル、ブレーキ、クラッチの各ペダルが等間隔に並ぶ。ペダル尖端のプレート部分はアルミ製で、質感は上々である。ステアリングユニットとの接続は、直付けされたRJケーブルで行なう。単体使用はできない。

 大きな特徴としては、全てのペダルのスプリングテンションがほぼ同一であり、アクセルもブレーキもクラッチも、同様に軽めである。「G29」のような2段階テンションのような仕組みもなく、踏圧に対する反応はごく素直だ。その代わりストロークが長めで、それによって思い通りの操作精度を実現するというコンセプトになっている。

 これには利点と弱点がある。スポーツドライビングで特に素早い操作が必要となるのはブレーキだが、ストロークが長いと、0%から100%へ入れるスピードがやや遅くなる。いっぽう、ストロークが長いことにより、数%単位で踏力を調整するのは容易だ。ブレーキング中にタイヤがロックしないギリギリの踏力に調整し続けるという、いわば人力ABSみたいな精密操作は、「G29」のものよりも、こちらのほうがやりやすい。

ステアリングユニットを別の角度から
これといって特徴のないペダルユニットだが、素直な仕様のおかげで高精度の入力ができる

全軸16ビット、ロックトゥロック1080度の入力精度

PCにおける設定画面。ロックトゥロック角やFFBの強度を設定できる

 本製品では、他の高級ハンコンと同じく、すべての入力軸に16bitの精度を確保している。また、ステアリングのロックトゥロック角度は1080度で、900度の「G29」よりもやや長い。ただ、レースゲームで操作するGTカーやオープンホイールといったカテゴリーでは、540度~360度程度のロックトゥロック角での運用が主となるため、実質的な差はないと見ていいだろう。

 いっぽうペダルユニットの方は、大きめのストローク、リニアなスプリングテンションのおかげで、上述したように正確なブレーキング調整をやりやすい形になっている。練習を積むことで、かなりハイレベルなアクセルワークを行えるようになること間違い無しだ。

ステアリングとペダルの背面。ステアリングは付属のバイスでテーブルに固定するか、2つのM6ネジでレーシングリグに固定する。ペダルもそうだが、ネジ穴が2つしかないため、リグに固定する場合、縦に揺れないよう、別途ハーネスで固定するなどの工夫が必要かも

ステアリング、ペダル、その他、幅広いカスタマイズが可能

 「T300RS GT Edition」と「G29」をライバルとして考えるなら、両者を大きくわかつのはカスタマイズ製の有無だろう。本製品では、ステアリングリムやペダルを、より本格的なものに換装したり、Hシフターを取り付けて拡張することが可能だ。

Thrustmaster謹製のカスタムパーツを利用可能

着脱可能なステアリングリム
この部分を回転させると固定・解除ができる

 特にステアリングリムには幅広い選択肢がある。標準ではPS4ボタンレイアウトに準拠したリムが付属しているが、Thrustmasterがオプションとして販売している実車レプリカの様々なリムに取り替えることで、より本格的なレーシング環境を構築できる。使えるのはThrustmasterのものだけだが、ラインナップとしてはGTタイプ複数に加えてF1タイプのFerrariレプリカリムが用意されており、様々なシチュエーションに対応できる。

 リムの着脱も簡単だ。取り付けは、端子方向を確認してリムをホイールベースに突き刺したあと、大きなネジ穴の切られたホイール軸部分を時計回りにグルグル回転させるだけ。グラつき等もなく、激しい操作を行なってもビクともしない剛性が確保されている。工具いらずで楽ちんだ。

 ペダルが交換可能なのも非常に大きなポイントだ。本製品の場合は、「T3A-PRO Thrustmaster 3 Pedals Add-On」に付け替えることが可能。このオプションペダルは前モデル上位機種の「T500RS」付属のペダルと同じもので、全金属製かつ実車同様の吊り下げペダルポジションでの使用も可能という本格派。これよりいいペダルはFanatecのClubsport Pedalsシリーズしかないであろう。

もちろん、マニュアルシフト操作を楽しみたい人向けには、しっかりとした作りのシフターユニット「TH8A Add-On Shifter」もある。全部そろえたら10万円近くかかる勘定となるが、まずはそのベースとして「T300RS」をしっかり使いこなしたうえで、必要に応じて拡張できるというのは、長くレースゲームを楽しむ人にとって極めて大事なことだと思う。

背面にはペダルユニットおよび別売のシフターを接続するための端子、そして電源端子。USBケーブルは埋め込み型

肝心要のフォースフィードバックはどうか:数字とシムで試す

力こそパワー!ということで手製のレースリグに取り付けてテスト実施

 さて、高級ハンコンでは高いレベルで求められるフォースフィードバック(FFB)機能。本製品のFFBはThrustmaster独自のデュアルベルトシステムで実現されており、パワー十分ながら駆動音が静かであることと、なめらかなフォースの入りが特徴といえる。

 特に、純粋なFFBの出力は「G29」のものをやや上回っており、応答特性もよりリニアに近づいていることがアドバンテージだといえるだろう。路面形状の凹凸や、タイヤが向きたがっている方向、といったゲーム側から伝わってくるインフォメーションを、しっかりと感じ取ることができる。その感触も滑らかで、上質な印象だ。

数字で見るFFB応答特性

「iRacing Force Feedback Tester v1.72」

 こちらの画像は、ロジクールの「G29」、本製品「T300RS」、Fanatecの「CSL Elite for PS4」のそれぞれで、「iRacing Force Feedback Tester v1.72」にて応答特性を出力し、数値をグラフにプロットしたものである。横軸はプログラム側からのフォース入力で、縦軸がデバイスによる出力応答だ。

ロジクール「G29 Driving Force」
Thrustmaster「T300RS GT Edition」
Fanatec「CSL Elite for PS4」

 これによると、フォース入力0~10,000の全域でほぼ完璧にリニアな応答を示しているFanatecは別格として、「T300RS」は「G29」よりも優れた応答特性を持つことがわかる。

 まず、入力フォースが低い値(2,500以下)の段階では、「G29」が1,000~1,500あたりまで無応答であることに対し、「T300RS」は1,000以下でも(リニアではないにしても)きちんと応答している。これは、わずかな力がタイヤにかかっている際の、細かな振動の精度として現れてくる。

 また、入力フォースが大きな値(5,000以上)となった段階で、「T300RS」の優勢が顕著だ。「T300RS」のほうは入力フォース4000程度までほぼリニアな応答を示しているが、「G29」のほうは3000程度で頭打ちとなり、そこから先は緩やかにパワーが上昇していく形となっている。曲線の形自体は両者ともほぼ同じだが、「T300RS」のほうが最大パワーが高く、そのぶん、全体の再現度も高まっているという形だ。

 ただし、グラフからは見えない弱点もある。「T300RS」は、駆動音を抑えるためか、加熱等を防ぐためかはわからないが、FFBの立ち上がりがやや遅い。「G29」よりはパワーがあるが、ゼロからフルパワーになるまでのラグが若干ある感じで、結果として滑らかな感触になっているという形である。このため、縁石に乗り上げた時の“ガンッ”というような衝撃も、反応は「G29」のほうが鋭く、「T300RS」を通すとややヌルい印象になるのは否めない。

 これは「T300RS」にかぎらず、「T500RS」でも同様の特性があるため、ThrustmasterのFFB機構特有の特徴といえるだろう。「GT Sport」向けにカスタムされた新製品「T-GT」ではこのあたりどうなるか、いずれ試してみたい。

FFB表現に定評のある「Assetto Corsa」で試す

路面とタイヤの再現が緻密で、FFBの表現に定評のある「Assetto Corsa」

 前回の「G29」レビューに引き続き、今回も「Assetto Corsa」での走行テストを行なった。これはイタリアのKunos Simulazioniというスタジオによるレースシミュレーターで、圧倒的に説得力のあるドライビングモデルと、非常に高い表現力を持つFFBの実装で定評のある作品だ。高級ハンコンのFFBを試すならまずこれ、という1本である。テスト走行中の動画はこちら。

【T300RS GT Edition テスト走行】

「T300RS」でのテスト走行の模様

 ニュルブルクリンク北コースを数週したところの感触は、非常に良好なものだった。「T300RS」のパワー・精度ともに高いFFBにより、路面の状況がよく伝わってくる。とくに、「G29」ではわかりにくかった、細かな路面変化についても「T300RS」なら読み取れる感触だ。

 特に面白いのは、高速コーナーの内側などで、路面が一部、なだらかに凹んでいるところに車輪を踏み入れた瞬間。ズズッと車輪が沈むのにあわせて、ハンドルのほうもグニュッと応答して、路面がどれくらいの角度で、どれくらいの面積、へこんでいるのかというのがよくわかるのだ。ニュルブルクリンク北コースはこういう凹凸がやたらと多いだけに、コースに習熟するためにも「T300RS」のFFBは役に立つ。

 ただ、前述したように、「T300RS」のFFBは、立ち上がりがやや遅い傾向がある。縁石に乗り上げた時の反応が特に顕著だが、限界近くでコーナリングしているときなど、タイヤが突然トラクションを失ってスピン挙動に入る瞬間、ハンドルにかかる力が突然に変化するその一瞬というのを、「T300RS」は捉えにくい。反応の鈍さを計算にいれて走行することになるため、コーナリング時のブレーキやアクセル操作はいつもより慎重になった。

 とはいえ、走行全体の体験の質という点で「G29」を上回るのは間違いなく、20キロのコースを走りきったあと、手に残るFFBの感触が心地よい。これで満足できないなら、あとはさらに上位の……ホイールベースのみで5~6万円以上、という超ハイエンドのステアリングコントローラーに手を出すしかあるまい。「T300RS」は、ノーカスタムの箱出しの状態から、ほとんどのバーチャルドライバーにとって、これで充分という性能を備えていることは間違いない。