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何だこの挙動は!? 「グランツーリスモSPORT」プレビュー
レガシーを排除し、一から作り上げた全レースゲームファン待望のリアル系レースシム
(2016/5/20 19:57)
英国ロンドンで開催された「グランツーリスモSPORT」アンヴェイルイベントでは、ついに発売日が11月15日と告知されただけでなく、実際に、今回のチャンピオンシップ プレシーズンマッチで使用された最新のビルドを体験することができた。
試遊台は、ソファでリラックスしながらPS4コントローラーで遊べるタイプと、Thrustmasterのステアリングホイールが固定された専用の試遊台で遊べるタイプの2種類があり、その両方で体験することができた。
初公開のプレイアブルながら、1日遊んでも遊びきれないほどのコンテンツボリュームがあり、パフォーマンスの点でも良好で、11月15日の発売日は努力目標ではなく、確実に発売されそうだという手応えを感じた。
今回体験できた車は、「MAZDA ROADSTER S(ND)'15」から「BUGATI VISION GRAN TURISMO GR.1」から23台、コースについては、新収録されるNorthern Isle Speedway、Tokyo Express Wayに加え、お馴染みのBrands Hatchからインディーサーキットとグランプリサーキットの2パターン、ニュルブルクリンク(北コース)、Willow Springs International Raceway - Big Willowの計6コース。
ゲームモードは、アーケードモードから19台のAIカーと共に走行するシングルレースと、自社単独で最速ラップに挑み続けるタイムトライアルの2種類を体験することができた。残るドリフトトライアルと2プレーヤーバトルはマスクされてプレイできず、「グランツーリスモSPORT」アンヴェイルイベント詳報でお伝えしたキャンペーンモードやスポーツモードもまだプレイできなかった。
ただ、「グランツーリスモSPORT」というドライビングシミュレーターを試すには十分すぎるほどのボリュームだ。今回筆者は1台の試遊台に陣取り、車を変え、コースを変えては、走りに没頭し続けた。本稿ではレースゲームでもっとも大事な“走り”の部分についてインプレッションをお届けしたい。
挙動がこれまでの「GT」と違う!
まず最初に感じたのは、グラフィックスの美しさだ。「GT」シリーズはグラフィックスの美しさもウリのひとつだったが、3年前にリリースされた「GT6」は、PS3でリリースされたため、マシンスペックの制限から、いち早く今世代機に対応した「DRIVECLUB」や「Forza Motorsport」などの後塵を拝してしまっていたが、「GT SPORT」では同等の水準まで一気に引き上げられた。
後は味付けの違いで、「Forza Motorsport 6」のコックピット内まで太陽光が踊る感じに慣れていると「GT SPORT」のグラフィックスは静的な印象を受けるが、Tokyo Express Wayの首都高トンネルに入る際の漆黒の闇や、抜ける際のまぶしい表現などは抜きん出て素晴らしく、これまでの「GT」シリーズにはなかったメリハリが付けられている。
また、収録車数はローンチ時で137台と大幅に絞った代わりに、インテリアビューはすべて「GT SPORT」向けに開発し直され、1080pクオリティでクッキリしたコクピットや後部座席が描かれている。「GT6」では多くの車が「スタンダードカー」で、黒ベタ塗りの内装で残念だったが、「GT SPORT」では乗ってみたら内装がない、ということはなくなっている。これはコクピットビューが好きなレースゲームファンには朗報だろう。
そしてシリーズの伝統であり、ウリでもあるリプレイモードも、グラフィックスの進化により、また魅力が一段と上がった印象で、自分の下手な走行でもついつい見直したくなる魅力がある。抜群のカメラワーク、被写界深度シミュレーションなどのエフェクトを交え実写さながらのリアルな映像、そしてリアルになったエンジン音、やはりリプレイは「GT」が素晴らしい。ただ、これでもまだ完成には遠いようで、ベストな視点、カメラワークをコース毎にギリギリまで調整を加えていくという。
さて、早速走ってみてすぐ気づいたのが、挙動がこれまでの「GT」シリーズと違うということだ。もちろん、「GT」のウリであるリアルな挙動はそのままで、実際のドライビングメソッドに則ったドライビングが楽しめる点は従来の「GT」シリーズと変わらない。ただ、明らかに前作「GT6」と、つまり従来の「GT」シリーズと挙動が異なるのだ。
ただ、何がどう変わったかを表現するのは非常に難しい。うまく表現するのが難しいが、「GT6」の感覚で走ると、多少きついカーブではスコーンと抜けてコースアウトしてしまう。基本的なハンドル操作も若干重い感じがあり、一言で言うと“曲がらない”レースゲームになっている。
担当者に聞いた限りでは、「GT SPORT」は、挙動周りも含めてすべて一から開発されており、とりわけタイヤ周りのシミュレーションがよりリアルになっているという。具体的にはタイヤの荷重に対するシミュレーションが変わり、これまではそこそこのブレーキングで曲がれたものが、しっかりブレーキングしないと横移動を許さない挙動に変化しているようだ。
今回プレシーズンマッチで優勝した日本から来たT.Takahashi選手に挙動の変化について聞いてみると、驚いたことに実はこの挙動の変化に最後まで対応できなかったという。今回のプレシーズンマッチでは、トッププレーヤーですらスピンするケースが目立ったが、やはりそれぐらい挙動に変化があるわけだ。Takahashi選手は、「タイヤ周りが大幅に変わっていて、縦と横のブレーキを合わせた“斜めのブレーキ”と呼んでいる『GT6』では使えたテクニックが効かなくなっている」と独特の表現で挙動の変化を語ってくれた。
担当者によれば、挙動についてはまだ調整中ということでこれでfixではないようだが、リアルドライビングシミュレーターとしてこの味付けはおそらく残されると思われる。「GT」ファンは、車の挙動が「GT6」と若干異なるという点、他のレースゲームファンは、ブレーキングをしっかりしないと曲がらないという点を覚えておいて欲しい。
アシスト機能「ドライビングアシスト」がもたらす初の全年齢向けの「GT」
そして今回体験できた「GT SPORT」の最大の変化が本格的なアシスト機能の搭載だ。「GT」シリーズには、通称「スキリカ」と呼ばれるスキッドリカバリーをはじめ、いくつかのアシスト機能が搭載されているが、他のレースゲームと比較すると補助的なアシストに留まり、コアなレースファンに受け入れられる一方で、ビギナーを寄せ付けなかったきらいがある。
「GT SPORT」では、アシスト機能「ドライビングアシスト」が「なし」、「ブレーキ」、「ブレーキ/ステアリング」の3段階から選ぶことができる。オプションで選択すれば有効になるというような消極的なものではなく、今回体験したアーケードモードでは、ATかMTのトランスミッションタイプを選んだ次に強制的に選ばされる仕様となっており、メインフィーチャーとしてクローズアップされている。
余談だが、筆者はレースゲームが好きで、どのシリーズだけという遊び方ではなく、出た新作をその都度遊ぶという遊び方をしている。その際にいつも痛感するのは、リアル系シミュレーターの高クラス帯車の制動の難しさだ。「DRIVECLUB」や「Need for Speed」のようなカジュアルな挙動のレースゲームはどのランクの車でもアクセルを踏めばまっすぐ走ってくれるし、ハンドルを切ればぐいぐい曲がってくれる。収録車種に極端な偏りがあったり、30fpsなのが気に入らないが、あこがれのスーパーカーを手軽にぶっ飛ばせるという点ではアリだと思う。
ところが「GT」シリーズや「Forza」シリーズのようなリアル系シミュレーターは、そうはいかない。しっかりブレーキングしないと全然曲がらないし、荷重を考えずにハンドルを切ろうものなら簡単にスピンしてしまう。そもそも高ランクのレーシングカーになってくるとフルアクセルにしただけでいきなり制動不能になったりする。これを1つずつクラスを上げながらレーシングカーの制動技術を身につけ、少しずつ最速の車を目指すのがリアル系シミュレーターの醍醐味だが、それが通用するのはコアなレースゲームファンだけで、普通のゲームファンにとってはとんでもないじゃじゃ馬ぶりをリアルにシミュレートされても、「凄い! 驚いた!」とは思っても、「楽しい! やりこみたい!」とは思わないだろう。
だから個人的には、レースゲームの裾野を広げるためには、リアル系シミュレーターこそ強力なアシスト機能が必須だと思っている。「GT SPORT」でアシスト機能が実装されることは山内氏のプレゼンテーションではクローズアップされなかったが、実装を知ったときは非常に嬉しかった。実際に体験してみたら、高ランクカーを楽しく乗りこなすためのアシスト機能になっていることがわかり2度嬉しかった。
具体的に説明すると、「ブレーキ」に設定すると、ブレーキングが必要なタイミングで、適切なレベルまで自動的にブレーキが掛かる。アクセルを踏んだままだと相殺されてやっぱり曲がれないぐらいの味付けだが、「しまった、ここは曲がりきれない」というタイミングでもこのアシストがあればコースアウトせずに綺麗に曲がることができる。このアシストがあればフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーも楽しく走れるだろう。
「ブレーキ/ステアリング」は、「GT」シリーズでいうビジョングランツーリスモ(VGT)クラスのさらにパワフルなオリジナルレーシングカーを、シンプルなアクセルとブレーキ操作で走行可能にするというものだ。カーブでの自動ブレーキに加え、ステアリング操作もサポートしてくれる。荷重を無視したハンドル操作を行なって通常ならスピンするような状態でも、ある程度ググッとグリップしてくれるし、S字やヘアピンカーブでもぐんぐん曲がることができる。これがあれば憧れのVGTも楽しく乗りこなせるに違いない。
ただ、これらのアシスト機能は、あくまでレーシングカーのじゃじゃ馬ぶりを若干大人しくするものであって、タイムを縮める効果はない。たとえば収録コースの中でも屈指の高難易度コースとして名高いニュルブルクリンクを、今回最速の車だった「BUGATI VISION GRAN TURISMO GR.1」で走ると、フルアシストでも難易度はほとんど変わらないし、依然として呆然とするような高難易度を保っている。ニュルブルクリンクで必須となる細いコースを保ったまま高速走行を維持し続ける繊細なハンドル操作まではアシスト機能は助けてくれないからだ。
それでもアシスト機能という“補助輪”で、スーパーカーやレーシングカーが誰でも気軽に乗りこなせるようになったのは嬉しいところだ。ビギナーなら、不慣れな操作でも、アクセルと左右移動さえできればそれなりの走りができるし、レースゲームファンでも、まずは「ブレーキ/ステアリング」でコースや新しい車の挙動に慣れてから、少しずつ補助輪を外していくという段階を踏んだ遊び方ができる。
今回アーケードモードをプレイした限りでの「GT SPORT」のファーストインプレッションは、“キッチリPS4/Xbox One世代に底上げされた手堅いリアル系シミュレーター”というものだ。総合評価は、山内氏のプレゼンテーションで発表されたその他の豊富なゲームモードを試してみないと下せないが、基本的な走りは、グラフィックス、車の挙動、ライバルカーのAI、リプレイ、どれをとってもそつなくまとまっている。
逆に言うと、突き抜けた部分もないため、そこをどう評価するかというところだが、「GT SPORT」にはスポーツモードやスケープスなど、レースゲームにおいて未知の領域のモードがまだまだたくさんある。それらを体験する日が一レースゲームファンとして非常に待ち遠しい。
「GT SPORT」は後日、日本でも改めて一般ユーザー向けにお披露目を行なう予定だということで、そう遠くないタイミングで、体験する機会がありそうだ。レースゲームファンはもちろんのこと、車に関心のあるゲームファンはぜひ一度体験してみて欲しい。