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【ChinaJoy 2014】上海アクセスブライトCEO秦智勇氏インタビュー
日本のIPは欲しいが中身はどうでもいい!? 中国ゲームビジネスのご意見番が語る“中国ゲーム市場の光と闇”
(2014/8/3 00:00)
上海に本社を置く上海アクセスブライトは、稲船敬二氏のcomceptが制作したモバイルゲーム「おっさん☆たまご」や、マーベラスAQL(現マーベラス)が開発していた「コインサーガ」などを中国展開しているゲームパブリッシャーだ。現在、中国市場向けに「クレヨンしんちゃん」のモバイルゲーム「クレヨンしんちゃんのアドベンチャー」を自社開発している。
さらにマジンガーZなどを美少女化したアニメ「ロボットガールズZ」や、「シュタインズゲート」のモバイルゲームを開発し、こちらも中国でサービスしていく予定だ。今回、上海にあるオフィスに赴き、上海アクセスブライトCEOの秦智勇氏と、その親会社に当たるアクセスブライトの代表取締役社長 柏口之宏氏に中国ゲーム市場の最新動向を取材した。
インタビューでは、アクセスブライトの戦略だけでなく、長年中国のゲーム市場を見てきた秦氏から、中国市場の状況が説明され、さらに中国と日本のIPへの考え方の違いなど、さまざまな話を聞くことができた。日本と中国のコンテンツのとらえ方や、ビジネスへの取り組みなども、中国人側の見方や意見をしっかりと聞くことができ、非常に興味深いインタビューとなった。とりわけ、なぜ中国のユーザーが日本を含む海外のIPの獲得に血眼になり、その一方で、中国独自のIPが育たないのか。その理由がよくわかったのは収穫だった。ぜひご注目いただきたい。
日本以上にコストのかかる中国でのユーザー獲得。自社開発こそが突破の鍵
――中国全体のゲーム市場の現状を教えてください。
秦氏: まずモバイルの市場規模は、昨年は総額120億元(約1,920億円)から今年は260億元(約4,160億円)と2倍以上の規模になりました。これまでオンラインゲームなどをやっていた一流のゲームメーカー、パブリッシャーなどもこぞって、モバイルゲーム業界に参入しました。
現在、毎月200から300のモバイルゲームがサービスされています。現在の主流は、カードバトルゲームですが、RPG、とくにARPG(アクションRPG)が増えています。ARPGはカードゲームに比べ開発の難易度は高いが、来年はARPGの数がカードバトルを超えると見ています。
一方、パズルなどの“レジャーゲーム”については、課金システムがはっきりしていなため、ゲーム業界に影響を与えていないと感じます。また、オフラインで遊べるゲームについては、有名なゲーム以外は数字を出していませんので全体像はわかりません。
次にゲームの配信状況ですが、Android版の売上はiOS版を超えつつあります。ユーザーの数だけ見れば、Androidを使っているユーザーが全体の2/3で、iOSを使うユーザーの倍以上いますが、iOSを使っている人の方が課金をする割合が多いですが、使っている売り上げの総額はAndroidが多くなりつつあります。
次に、“地域”という視点から分析すると、北京、上海、広州といった“一流”の街のユーザーの課金率も課金の金額も多い傾向があります。2流というのはそれ以外の省都と地方都市ですねが、それ以下になるとネットの状況が悪く、オンラインゲームがプレイできず、オフラインゲームなどを遊ぶのが中心となっています。また個人の経済状況も悪く、課金まで繋がらない場合が多いです。
そして中国市場を語る上で欠かせないのが「プラットフォーム」です。360はモバイルゲームのシェアが50%、91が20~25%、ほかはもろもろというところです。これはユーザーの状況、課金の状況から判断できます。このシェアの話はAndroid版の状況です。
一方、iOSはテンセントが独占しています。ただ、Appleがルールを変えてから状況が変わってきました。APP Store売上ランキングから見れば、月商5,000万人民元(8億円)以上のものが10個ぐらいあり、半分はテンセントのゲームです。これほどの売上を到達しているのはテンセントが大量のユーザーを持っているからです。一方、他のメーカーのアープや継続率はテンセントよりも高めというデータもあります。
――テンセントや360がこれだけ高いシェアを維持している理由は?
秦氏: もともと360は携帯でのセキュリティソフトを作っていたからです。iOS版と違って、Androidは開放的で、いかさまやハッキングが蔓延する状況が生まれてきました。360のセキュリティソフトはそれを防ぐことができたので、シェアを伸ばしました。
また、テンセントはSNSのWeChatを持ち、このソフトの人気でシェアを伸ばしました。SNSとセキュリティはユーザーにとって重要です。他のプラットフォームはそうした強みがないので、どんどんシェア率が下がっています。他の強いプラットフォーマーも何らかの強みがあります。現在中国では、400のプラットフォームがありますが、シェアの85%は大手の3~4のプラットフォーマーが占めています。
――多くのプラットフォーマーは苦労している状況にあるといえますね。
秦氏: プラットフォーマーだけでなく、我々のようなパブリッシャーもかなりコストの面で苦しい思いをしています。まず日本のようにテレビを使った広告が自由に打てないため、ユーザーにアピールがしにくい。中国ではTVCMでゲーム関連は審査が厳しくほとんどできないのです。
売り上げに関しては、中国はプラットフォーマーに50%の売上を払う必要があります。さらに課金の手数料が5%とられますし、20~25%はCP(コンテンツプロバイダー)にロイヤリティを支払う。海外でプラットフォーマーのGoogle Playが30%をとって、残る70%は自分のものという状況を考えると、大きな違いです。
また、先ほども触れましたが、App Storeが、ランキングの計測方式を「ダウンロード数」ではなく、「1回でも課金したユーザー数」に切り替えられたため、ダウンロードだけをしてランキング上位を狙うという安易な方法ができなくなりました。各社ともダウンロードすると報酬が貰えるキャンペーンを行ない、ダウンロード数を水増しをしていたんです。しかし、ユーザーは報酬を目当てにダウンロードし、2日目から遊ばなくなるので継続率は非常に悪い。その現在、ユーザー獲得単価が30元(約500円)にまで上がっている。
ARPU(average revenue per user、通信事業における、顧客一人当たりの平均売上高)で言うと、日本と中国と比較すると、8倍ぐらいの開きがある。しかし、ランキングを通じてユーザーを集めるのは30元(約500円)、CPCや広告を買って獲得すると50元(約800円)から60元(約960円)のコストが1人あたりかかる。中国の売り上げは日本の1/8なのに、コストそのものは日本と同じくらいかかるのです。かなり苦しい状況にある、というのがパブリッシャーの現状です。
――悲観的な話が多い印象ですが、中国ゲームメーカーあ、中国に進出を目指す日本のメーカーの活路はどこにあると考えていますか?
秦氏: 活路は“IP”をゲーム化することだと考えています。先ほど話したとおり、ユーザーを獲得するためのコストを減らすことが重要だと思っています。ゲームのTVCMはできませんが、アニメのゲームを作れば、知名度はコストをかけずに得られます。
統計があって、IPもののゲームと、ノンIPものを比較すると、ユーザー数が5~6倍の差があったのです。コストをかけず、ユーザーが増やせるというのは、獲得単価が低くなることです。通常のノンIPのコストが1人が20元(約320円)だったら、1/5なので4元(64円)ぐらいになる。
ただし、出すゲームは品質が良くなくてはいけません。品質が高ければプラットフォームも協力してくれます。もし協力が得られなければ、自分で全部お金を出してゲームを配信しなければならない。そうすると商売になりません。中国ではコストを下げて、ARPUを高めるというのが成功の道なのです。
――コストを下げるためにIPを使う、というのは一見矛盾しているようにも感じます。有力IPを使うとその分、ロイヤリティの分だけ、トータルのコストが上がる印象があるのですが。
秦氏: 確かに利益率は下がりますが、IPものは息が長いのも特徴なのです。IPの魅力がある限りユーザーは継続するのです。現在は、ロイヤリティよりプロモーションコストのほうが掛かります。IPだと一定層確実にユーザーを確保できるので、獲得単価を下げられるのです。
柏口氏: 新規IPのゲームだと、まずプロモーションがお金がかかるんです。アニメなど他のコンテンツの知名度に乗っかる方がプロモーション費用がかからない。TVではゲームは宣伝できないけれど、テレビでアニメは流せる。うちならば、「クレヨンしんちゃん」、「ロボットガールズZ」、「シュタインズゲート」さらに、「デジモン」です。SMG、アニメ動画配信サイト15社と組んでいます。
アニメ配信サイトと組むのは「海賊版を取り締まれる」というところも魅力なんです。配信サイトが扱うアニメは、海賊配信を取り締まってもらえる、というところがあり、アニメを輸出する側にもメリットがあります。しかも、配信サイトの広告はうちのゲームなんです。動画配信サイトにとっては、自社のキラーコンテンツとして正規品のアニメが欲しい。提供側は海賊版が取り締まれる。間の私たちはゲームの広告も展開できると、そういったビジネスを進めています。このビジネスは、アクセスブライトがはじめ、KADOKAWA、東映といったメーカーのコンテンツを取り扱えるようになってきました。
クレヨンしんちゃん
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK
ロボットガールズZ
(C)ダイナミック企画・東映アニメーション
(C)松本零士・東映アニメーション
(C)ロボットガールズ研究所