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【特別企画】アクセスブライトは、どうやって中国で海賊版を一掃したのか?
中国ネット著作権保護連盟が奏功。“海賊版ビジネス”の現状と残る課題とは!?
(2014/11/13 12:00)
中国をベースに活動するゲームパブリッシャー 上海アクセスブライトは10月、MAGES.のアドベンチャーゲーム「STEINS;GATE」の海賊版を、独自の取り組みにより中国29のアプリ配信プラットフォームから一掃したことを発表した。今回、アクセスブライト代表取締役社長 柏口之宏氏に、その取り組みについて取材することができたので紹介したい。
GAME Watchではたびたびお伝えしてきているように中国のゲーム産業は、海賊版と切っても切れない関係にある。ゲームハード、ゲームソフト、周辺機器に至るまであらゆる海賊版が存在し、すべてがインターネット上でやりとりされ、コピーし放題とあって、メーカーの頭を悩ませ続けている。ゲームのメインストリームがスマートフォンに変わってもその状態は変わっておらず、海賊版専用のアプリ配信プラットフォームも存在するほどで、基本プレイ無料ではない有料販売タイトルは、ゲームをはじめとしたあらゆるアプリに海賊版が存在するといっても過言ではないほどだ。
海賊版を取り締まるにも、中国ではiOS、Android共に、単一のプラットフォーマーが管理する体制になっていないため、管理が行き届かず、実質的に無法地帯になっている。このため、中国ではスマートフォンの時代においても有料アプリの収益化は難しい。だからFree to Playが大前提というのが常識だった。
ところが、今回、アクセスブライトは、すでに海賊版が蔓延するなかで「STEINS;GATE」のスマートフォン版を中国市場でリリースし、中国で流通しているすべての海賊版を取り下げるか、正規版に置き換えて貰い、市場を正常化させることに成功したという。
これまでの海賊版との戦いは常にイタチごっこで、最後はメーカー側が負けてしまうのが通例だった。なぜならメーカーは1社なのに対して、海賊版業者はいくらでもいて、対策に乗り出しても手を変え品を変えされて何度でも復活し、結局は根負けしてしまう。ところが今回根絶やしにすることができたという。
「本当です」と言う柏口氏に、その方法について尋ねたところ、実にユニークなアプローチで海賊版対策に望んでいることがわかった。やりかたは非常にシンプルだった。海賊版を掲載しているアプリストアに対し、スクリーンショットを送付する形で証拠を提示し、アプリやページの配信停止を促す。必要に応じてアクセスブライトが正式な権利保持者であるという証明書を見せ、それでも応じない場合は、弁護士の警告書などを送付する。
おそらく、これまで海賊版対策に携わった関係者はこう言うだろう。「そんなことはウチでもやってるよ!」と。それではこれまでのやり方とアクセスブライトのやり方は何が違うのだろうか。
これまでと大きく異なるのは中国ゲーム市場の取り巻く環境の変化と、アクセスブライトの立場の違いの2つだ。まず、2013年2月に、中国ネット著作権保護連盟と呼ばれる団体が産声を上げた。新浪(Sina)、捜狐(Sohu)、奇虎(Qihoo)、百度(Baidu)、騰訊(Tencent)、盛大(Shanda)、完美世界(Perfect World)といった大手メーカー20社以上が参加する団体で、その目的はネット著作権侵害からメーカーを守ること。参画メーカーと著作権者が手を携えて、ネット著作権保護に共同で取り組むことが大原則となっている。
もちろん、かけ声だけではどうしようもないが、この団体には中華人民共和国新聞出版総署と国家版権局に所属する中国版権代理センターが後ろ盾として存在するため、仮に海賊版アプリを提供したり、プラットフォーム上に放置したりすると、ライセンスの取り消しや、運営停止処分といった中国ならではの“強権”が発動される可能性がある。
中国ネット著作権保護連盟そのものは、まだ歴史の浅い組織であるため、実際にそうした処罰を受けたメーカーはまだないということだが、中華人民共和国新聞出版総署と並ぶ、もうひとつのゲームビジネスの監督官庁である中国人民共和国文化部は、過去に様々なメーカーやゲームを処分してきており、これ以上の後ろ盾はないと言える。ついに中国に実効を伴う業界団体が誕生したことになるわけだ。
そして2014年9月に理事が改選され、その1社にアクセスブライトが加わった。外資系企業では初の理事就任であり、理事就任後の最初の成果が、自社タイトルであるスマートフォン版「STEINS;GATE」の海賊版排除ということになる。
スマートフォン版「STEINS;GATE」は、現在主流のFree to Playタイトルではなく、1章いくらのモデルを採用している。0章、1章は無料で、その後は章によって18元(約300円)~25元(約400円)で有料販売される。一括購入だと198元(約3,000円)となる。Free to Playタイトルは海賊版を作って売っても、それそのものは無料であるためそれだけでは効果が薄いが、有料タイトルは海賊版を作って安く売ればボロ儲けできる。だから海賊版業者が血眼になって狙うわけだ。
アクセスブライトでは、9月以降、本格的に海賊版対策に乗り出し、法的手段ではなく、上述のような“友好的なアプローチ”で、29のアプリ配信プラットフォームから海賊版を一掃することができたという。これはスマートフォン版のみならず、PC版やブラウザ版、PSP版なども含まれており、これらがすべて同社が展開する正規版に置き換わったという。
同社では、海賊版が排除できた要因として、中国ネット著作権保護連盟理事に就任したことに加えて、上海アクセスブライトが完全に現地化し、中国人によって運営されている会社であることを挙げてくれた。担当者が、プラットフォーマーの多くに知り合いがいて話が迅速に進んだという側面もあったようだ。
ところで、海賊版が駆逐された結果、ビジネス面においてどのような影響があったのだろうか。実数については契約上の理由から教えて貰うことはできなかったが、基本的には大きな影響はなかったという。というのも、正規版の展開を始める前から、すでに市場に海賊版が出回っていたことと、内容は基本的に海賊版と変わらないため、海賊版が一掃されても、大きく売上が伸びる結果とはならなかったという。それでも中国でのリリース直後にはApp Storeの有料アプリランキングの12位を獲得し、「有料タイトルでもビジネスになることをアピールできたことと、海賊版はこの時代にあっても撲滅は可能なことを証明できたことが大きい」と胸を張る。
ちなみに、これで中国における海賊版の問題が解決に向かうかというと、そうでもないようだ。アクセスブライトのケースは、あくまで中国ネット著作権保護連盟理事が、他の連盟理事とリレーションを取りながら海賊版対策に取り組んだら大きな効果が上がったという一例であり、これにて海賊版問題が全面的に解決に向かうという話ではない。
実際、今もなお、有力なプラットフォームに様々なタイトルの海賊版が掲載され、多くのユーザーがそれをダウンロードして遊んでいる現状がある。ひとくちに“海賊版”といっても、「STEINS;GATE」のような完全なコピー品から、キャラクターの無断使用、こちらは日本でも散見されるゲームデザインのパクり(パクりゲー)など様々だが、二重三重に著作権を侵害している点では共通しており、とりわけ中国未進出タイトルの海賊版は野放しになりがちであり、中国ネット著作権保護連盟の活動を通じて厳重な対処が求められるところだ。
そうした中で、アクセスブライトが、著作権保護の総本山である中国ネット著作権保護連盟理事の地位にあり、実効を伴う形で対策に臨んでいるのはひとつの朗報と言える。現在同社では、次のタイトル「デジモンクルセイダー」(バンダイナムコゲームス)において、同様の海賊版対策に乗り出しており、すでに実効を上げつつあるという。同社の今後の取り組みに注目したいところだ。
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