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【GDC 2013】Zynga、「FarmVille 2」の開発コンセプトを語る

大成功した続編を生み出した3つのキーワードと5つのコンセプト

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

「FarmVille 2」のデザインディレクターWright Bagwell氏
クリエイティブディレクターのMike Mccarthy氏

 「FarmVille 2 Postmortem: What Great Wild & What Witherred Away」というセッションでは、Zyngaがfacebookでサービスしている農場系ソーシャルゲーム「FarmVille 2」の開発がどういったコンセプトで行なわれたのかを、Zynga サンフランシスコで「FarmVille 2」を開発したデザインディレクターのWright Bagwell氏とクリエイティブディレクターのMike Mccarthy氏が講演した。

 「FarmVille 2」はZyngaが昨年6月にサンフランシスコのZynga本社で開催されたプライベートショウ「Zynga Unleashed」でサプライズとして発表。9月にFacebook上でサービスを開始した。前後して登場した人気タイトルの続編が軒並み失速していく中、facebookアプリのランキングではDAU(デイリー・アクティブ・ユーザー)、MAU(マンスリー・アクティブ・ユーザー)ともに上位をキープするなどVille系では久々の大ヒットとなっている。

 前作の「FarmVille」は2009年6月にサービスを開始した後、Zyngaの名前を世界に知らしめることとなる前人未踏のヒット記録を打ち立てた。今年の6月には4周年を迎えるが、“ソーシャルゲームは短命”というサービス開始当初の考え方を裏切って、今でもZyngaの柱の1つとして多くのユーザーに支持されている。それだけに思い入れの強いファンも多く、続編を作ることになったスタッフの最大のライバルになった。

 失速しない続編ソーシャルゲームがどんなコンセプトから誕生したのか。本稿では、カジュアルな画面の裏側に隠された、緻密な計算と心使いを紹介したい。

【Zyngaパーティー】
会場からほど近い場所にあるZyngaの本社ビル。斜め前には、Adobeの本社がある
エントランスは1階から上までが吹き抜けになっていて、働いている社員の姿を垣間見ることができる
パーティー会場には、大勢の参加者が集まってビールやワイン片手にぎわっていた。参加費は無料

フルポリゴンの3D農場ソーシャルゲーム「FarmVille 2」

「FarmVille 2」の基本画面。フルスクリーンでもプレイ可能だ

 「FarmVille 2」を知らない人のために、まずはどんなゲームなのかを紹介しよう。本作は、自分が農家になって野菜や果樹を作ったり、家畜を飼うことでレベルを上げていくシミュレーションタイプのゲーム。畑に種をまいて水をやると、一定時間で作物が収穫できるようになる。動物は餌をやるたびに牛乳や羊毛などを獲得でき、果樹は水を撒いておくとやがて実がなる。

 こうして手に入れた農産物は、農場内の作業所やキッチンで加工品にして販売する。加工には段階があり、最終加工品にすれば売った時の値段が高くなる。近くのおじさんが経営している店に卸すこともできる。

 畑や果樹園から収穫したものは、動物の餌に加工することもできる。餌を食べた動物からは肥料が手に入る。その肥料を使うと収穫量が2倍になり、時折特大のボーナス作物が穫れるようになる。作物を植えて、収穫して、家畜を育てるというルーチンが1セットのエコシステムを作っており、常に農場全体が稼働していることになる。

 ゲーム内には他にも、レベルによって進行していくクエストと、季節感を織り込んだ期間限定クエストがあり、これらがプレイの牽引役になっている。クエストには友達にアイテムや建造の手助けを頼むソーシャル要素も含まれている。ソーシャルな要素として他に、友達を農場アシスタントとして雇ったり、友達の農場に手伝いにいくという前作でもおなじみだった機能ももちろん備わっている。

 課金要素は、有料の家畜や野菜、家具、クエストスキップ、時間短縮など多岐に渡るが、課金がなければ進むことができないという要素は1つもなく、お財布にもカジュアルなゲームになっている。

「FarmVille 2」の農場を遠景から見た所。自分の農場が広大な農村風景の一部になる
畑や牧場、果樹園から収穫した農産物で作った加工品を売ってゲーム内通貨を稼ぐ
友達を自分の農場アシスタントとして雇うことができる

大ヒットソーシャルゲームの続編を作る難しさ。ユーザーの声から方向性を導きだす

パッケージゲームとソーシャルゲームの違い。同じヒット作の場合、パッケージゲームの方が続編開発のハードルは低め

 パッケージゲームの場合、続編は前作のファンが待ち望んでいる所へ投下される。そのため、投資に対してある程度安定したリターンを期待できる。しかしソーシャルゲームの場合、続編が作られるような人気タイトルはサービス継続中である可能性が高く、その前作を超える要素を1から作り上げなくてはならない。現在もZyngaのトップ10にはいるゲームであり、1億人のプレイヤーと10億円の利益をあげるビッグゲーム「FarmVille」を、そのイメージを継承しつつプレーヤーが驚くような新要素を盛り込んで成功するゲームを作るというのは非常に困難な仕事だ。

 「FarmVille」はプレーヤーの62%が女性で、中心となる年齢層は20歳から45歳。そのほとんどは、これが初めてのゲームだと言うカジュアルゲーマーだ。チームは、彼女たちがなぜ「FarmVille」を続けているのかを、データとアンケート、そして直接意見を聞くディスカッションで調査し、3つの要素にまとめた。

 1つめは現実逃避。ゲームをしている10数分の間は育児や家事のことを忘れられる。2つめは農場を奇麗に作り上げていく変化の面白さ。そして3つめは友達や家族と一緒に楽しめるコラボレーションだった。現実の農家は、のんびりした農村風景の中で、生命を育み、加工し、周辺の人々がコミュニティを作って暮らしている。それらの要素はプレーヤーがゲームに求める3つの要素とそれぞれリンクしており、そこから「Relax」、「Create and Nurture」「Be with Friends」というキーワードにまとめられた。

 さらにキーワードから、実際のゲーム制作で指針となるコンセプトが作られた。当初は「Your farm is alive」、「Your farm is an ecosystem」、「You're part of a living community」、「Everything levels up」と「Your farm is unique」の5本柱だったが、「Everything levels up」と「Your farm is unique」という柱はゲーム性との整合性や、不必要な複雑さを避けるため、またリソースの問題から削られた。代わりに「The good life on the farm」という新たなコンセプトを含む4本柱に落ち着いた。これは開発当時「FarmVille」がどんどんファンタジー要素を濃くしていた中で、これ以上ファンタジー要素を入れないで欲しいという声があったのを反映したからだ。

「FarmVille」は女性のカジュアルゲーマーが多い
そのため女性が喜ぶようなゲームを続編として企画した
なぜ農家なのか? という質問から導きだされた3つのキーワード
初期のイメージ画像。のどかな風景は2Dで描かれていて、いかにも続編という感じだ
機械を使った大農家。当初は農場作りにバリエーションを持たせることが模索されていた
最終的に固まったキーワードとコンセプト

目指したのは、リアルな生活とともにあるリアルで生き生きとした農場

2Dと3Dの動物の差は一目瞭然。3Dの動物が見せる可愛い仕草が人気だ

 最初のコンセプト「Your farm is alive」は、農場をリアルなものにするためのビジュアル的なリアルさと、ゲームが現実世界と一緒に生きているという2つの意味を持っている。

 「FarmVille 2」の農場には四季があり、クエストをこなすと雪を降らせることもできた。クリスマスやニューイヤー、旧正月にイースターと四季折々のイベントのたびにその季節にあったオブジェクトが追加される。農場に置いたオブジェクトは、プレーヤーがインタラクトすると揺れたり、音を立てたりと反応を返す。農場内をうろついている家畜も、マウスのアイコンが触れると驚いた顔で反応を返し、餌をやると喜んで踊りだす。

 この細かい動きを作り上げるために「FarmVille 2」では3Dが選択された。3Dにするにあたっては、プレーヤーの持っているPCのスペックが懸念だったが、アンケートから85%のユーザーは15FPSで満足しているというデータが出て、また 多くのプレーヤーがいる地域でFLASH11がハイスピードで普及していることから、FLASH11を使ったレンダリングを採用することになった。

 動物の鳴き声や音楽、SEにも非常に力が入っている。「FarmVille」ではBGMがずっと流れていたが、「FarmVille 2」ではBGMは最低限に抑えられ、SEや環境音を多様したリアルな風景を作っている。

 プレイを快適にするため、マウスだけで操作できるUIにもこだわった。息抜きの時間に飲み物を持ったり、電話をしながらでもプレイできるように、片手で操作できることが原則になっている。

Flash11を採用したことで、レンダリングが早く、美しくなった
アンケートでは80%が15FPS出ていればいいという解答
休憩のかたわらちょっと遊べるよう片手での操作にこだわった

ゲーム内のすべての要素がシンプルな流れの中に組み込まれたエコシステム

「FarmVille 2」の基本画面。フルスクリーンでもプレイ可能だ
例としてだされた「SPACE DINO FARMING」。同じサイクルでも馴染みのない要素だと直感的に理解しづらい

 2番目のコンセプト「Your farm is an ecosystem」は、ゲームメカニクスの中心となるもので、上でも紹介した種から始まるゲーム内の生態系のことだ。種や苗に水をやって農作物を作り、それを餌として家畜にやって肥料や産物を手に入れる。ここで重視されたのは、システムが直感的に理解でき、覚えやすいことだ。Bagwell氏は「SPACE DINO FARMING」という架空のゲームを例に出して、同じことをやっていても直感に理解しづらいと難しいということを説明した。ゲーム内ではそう明言されていないが、家畜の糞から堆肥を作るという知識があるなら、家畜から肥料が穫れることに納得がいく。ゲーム性が現実の事実とリンクしていることが、わかりやすさにつながっている。

 ただし、ただわかりやすいだけの浅いシステムでは飽きられてしまう。そこで「FarmVille 2」では水の数、農作物の収穫量、家畜のレベル、使える肥料の数、販売用の加工品というエコシステムを形作っている要素すべてに成長性ややり込みの余地が作られている。

 水はどれだけレベルを上げても1度に持てる量には30という上限があり、井戸を大量に建設することで集められる絶対量をあげなければいけない。レベルとともに作れる作物が増えていくが、作物にもマスタリーがありレベルを上げることでより大きなサプライズ作物を収穫できるようになる。また、作物から作れるえさの量や収穫までの時間をみながら、いろいろと調整する必要もある。家畜はずっと育て続けるとレアになり、より高く売れる生産物の材料を生み出すようになる。ただし1度レアになると、それまで穫れていたものは撮れなくなるので、また新しい動物を育てる必要が出てくる。

 プレーヤーは水の量、作物の収穫時間などのバランスをとりつつ、その傍らにクエストをこなしていく。レベルが上がると、周辺の土地を買うことができるようになるが、結構なお金が必要になるため、常に金策を意識する必要があり、それがモチベーションにつながっている。

 このエコシステムは決して複雑にしてはいけない。ソーシャルゲームを作る上で忘れてはならないのは、カジュアルゲーマーはコアゲーマーのようにゲームを分かっていないということだ。カジュアルゲーマーにはゲームの常識が通用しない。だからといって必死でやり込んで攻略方法を探してくれる訳でもない。

 彼らは暇つぶしにゲームを選んでいるのだということを忘れず、常に彼らの気を引いていなければならない。画面から離れていても勝手に作物が実るというシステムはまさにカジュアル向けの要素だ。

リラックスできるようアルファ波が出やすいアニメーションや音楽を工夫

GFPSやRTSはベータ波の出るゲーム、「FarmVille 2」はアルファ波でリラックスさせる。睡眠中に出るシータ波やデルタ波が出るのは寝てしまうクソゲーということだろう
「FarmVille 2」の要素は、脳をリラックスさせるリズムを計算して動かされている

 最後に脳科学的な見地からゲームのリズムを構築する必要性に触れた。人間の脳波には、リラックスしている時にでるアルファ波、活動的な時に出るベータ波、睡眠中のシータ波と、新睡眠中のデルタ波がある。リラックスがキーワードの「FarmVille 2」では作物の動きや、動物のアイドリング中の動きなどゲームで遊んでいる時にもっともよく目にする動きではアルファ波が出やすいと言われている、60BPMを基本にしている。

 また、マウスオンしたときの動きは120BPM、作物を収穫したり経験値を獲得した時に出てくるエフェクトの動きは240BPMと、プレーヤーが積極的に関係するほどオブジェクトの動きが速くなるように緩急をつけている。

 「FarmVille 2」を形作っている要素はすべて、プレイの心地よさにつながっている。鳥の鳴き声やウインドチャイムの音を聞きながら、動物たちの可愛い動きにじっと見入っているとそれだけで時間が経っていき、ポンポンと勢い良く動く収穫物の軽快さがクセになる。良いゲームと言うものは、ただシステムが良いだけではなく、操作する快感やエモーショナルな部分に訴えかけるだけの説得力を持っている。

 ソーシャルゲームはデータドリブンで作られ、ゲーム性はあまり関係がないと思われがちだが、成功しているソーシャルゲームが持っている楽しさは、コアゲームと同様にゲーム性への追求から生まれている。ただ目指す方向性が違っているだけだ。

 上場後はなにかと不振が報じられることが多かったZyngaだが、常に新しいことに挑戦し、ソーシャルゲームの地平を切り開いてきた開拓者の精神は健在だ。「GDC 2013」では、本社が会場から歩いていける距離にあることもあり、27日には「GDC 2013」の参加者を対象にしたパーティーを開催。さらにアフターパーティーも予定していたりと、賑やかしに一役買っていた。

 ビル内には、これまでリリースしてきたゲームのイラストがそこかしこに貼られ、若い社員がパーティーに混じって参加者と交流していた。その出会いからまた新しい何かが生まれるかもしれない。Zyngaには、常に新しい才能とアイデアを求め続ける企業であり続けて欲しい。

(石井聡)