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【GDC 2013】米Zynga、ゲーム内広告の取り組み事例を公開

ビデオ広告に高い効果、今後はユーザー別に刺さる方法の確立を目指す

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 GDC 2013が開幕した。初日の3月25日は、グラフィックス、ゲームデザイン、AI、モバイルなど特定の分野を1日ないし2日間かけて掘り下げていくチュートリアルやサミットが実施される。本稿では、昨年まで実施されていた「Social & Online Games Summit」と入れ替わる形で新設された「Free to Play Summit」から、Zyngaのセッションをピックアップしてお届けしたい。

Zyngaのポテンシャルはまだまだ高い
ZyngaのJoshua Burgin氏
Zyngaのゲーム内広告への取り組み
もっとも効果が高かったのは動画だという

 2012年の世界のゲーム産業におけるミステリーのひとつが、米Zyngaの凋落である。2011年12月の上場直後からモバイル対応への遅れ、新規タイトルの会員数の伸び悩みが指摘され、頭打ちの懸念もあったが、GDC 2012ではマネタイズセッションの基調講演で、当時COOだったJohn Schappert氏がそうした疑念を払拭するかのように「ゲーム産業はソーシャルゲームにより黄金時代に突入した」と宣言し、ソーシャルゲームと、その旗頭であるZyngaの明るい未来を提示した。

 しかし、当のJohn Schappert氏が、その数カ月後に古巣のEAとの関係悪化によりZyngaを退任してからは、坂を転げ落ちるように業績が落ち込み、既報のように、大規模なリストラを実施。今年1月には日本法人ジンガジャパンを閉鎖し、2月には大型タイトル「CityVille 2」のサービス終了も発表するなど、その落ち込みは留まるところを知らない。ここまでの落ち込みは誰が想像できただろうか?

 しかし、今回Zyngaの複数のセッションに参加してみて、当たり前の事実に気づかされたが、「だからといってZyngaが終わったわけではない」ということだ。第4四半期のデータで、5,600万のDAU(Dairy Access User)、600億単位のデータ処理、そして300億円近くの売上を擁しており、何人かのエグゼクティブはZyngaを去ったものの、その下の優秀なスタッフは今なお在籍している。にも関わらず、まだ50億円近くの赤字というよくわからない状態さえ片付けば、Zyngaはまだまだ成長の余地を残している。

 今回Zyngaは、「Free to Play Summit」においていくつかのセッションを実施したが、初日のメインとなったのは、ZyngaがWebとモバイルで展開しているゲーム内広告ビジネスに関するセッション「Put the Payer in Player: Monetizing Games Through Scalable Advertising」だ。

 日本では「Free to Play(F2P)」のゲームというと、アイテム課金のことを指すケースがほとんどだが、北米では古くから広告ベースのF2Pビジネスが展開されており、中でも圧倒的なユーザー数を背景に多彩なゲーム内広告を展開してきたのがZyngaだ。今年のGDCでは、Zyngaのこれまでの広告ビジネスの取り組みが披露された。

 ZyngaのWeb広告の取り組みは、創業翌年の2008年から始まっており、見せ方やアプローチの点で進化を続けながら現在に至っている。

 まず2008年に始めたのはCPA(Cost Per Acquisition:獲得単価)ベースのOfferWalls。広告を見たユーザーがウォールに書かれた各種オファーを完了することで広告主から一定のフィーが支払われるタイプの広告で、Zyngaが大きく成功できたのはリワード型だったためだと言われる。つまり、オファーを満たすことで、ゲームのコインやバーチャルアイテムが手に入る仕様になっていたため、ゲームにあまりお金を払いたくないという層でも、生活に密着したサービスならばと、契約する例が多かったという。ただし、他の広告と比較するとその効果は限定的となる。

 2010年からは、圧倒的なユーザーベースを活かし、ゲームそのものに、ブランドを表示させたり、広告主に関連したキャラクターを登場させたりといったタイアップ系の広告をスタートさせる。これもまたリワード型になっており、ユーザーにとってもメリットがあったため、多くのユーザーに利用されたという。ただ、これについても必ずしも、ターゲットにあった広告ばかりが出せたわけでもなく、その効果は限定的で、市場的にもあまり盛り上がらなかったという。また、ゲーム的にも、経済バランスに悪影響が懸念されるため乱発は難しい。Zyngaはこの面では、PC向けのWebとスマートフォンアプリの両方に出すクロスプロモーションのビジネスを自社で立ち上げ実現している。

 こうした取り組みの中で比較的高い効果を上げたのが動画だという。Zyngaでは15秒や30秒といったTV広告に近い形で動画を流したというが、技術的にもスケーラビリティが高く、ユーザーへの効果も高く、メーカーも動画広告に関しては最初から予算を持っている場合が多いため、非常にやりやすかったという。

 そして現在は、複数の広告手法を組み合わせて相乗効果を上げる手法に取り組んでいるという、セッションの中で紹介されたのは、HOG(Hidden Object Game)スタイルのミニゲーム、Interstitial(インタースティシャル広告:ローディング中などすきまに挟み込む広告)、通常バナーの組み合わせで、画面が遷移するWebゲームならではの広告展開と言える。

 今後のチャレンジとしては、オンラインゲームならではのエンゲージメントや、多様な層のゲームファンへ個別にリーチする方法の確立の2つを挙げた。

 Zyngaの場合、モバイルゲームへの対応の遅れが経営の悪化を招いたため、皮肉っぽく聞こえてしまうが、たゆまぬWebベースのソーシャルゲームへのこだわりが、こうした多彩なWeb広告を生んだと言えそうだ。明日以降もZyngaのセッションがいくつか予定されているため、できる限りフォローアップしていきたい。

【Zyngaのゲーム内広告の代表例】
通常のバナー広告。3つの基本ルールがおもしろい
ビデオ広告
インゲームリワードが貰える広告
Offerwallスタイルの広告
Webとアプリのクロスプロモーションスタイルの広告
ゲーム内に広告主が登場するスポンサーシップ広告

【Zyngaのゲーム内広告の傾向と対策】
現在のバンドル型に落ち着くまでに紆余曲折があり、それぞれ一長一短あったことが語られている

【How Zynga Created Performance Analytics for Web Games】
いかにも西海岸のエンジニアといった風貌のZynga David Grunwald氏のセッションでは、Webゲームにおけるパフォーマンスの最適化の手法が紹介された。基本は、Adobe Scoutを使って遅延の発生を把握し、ひとつずつ堅実にバグを潰していく。雪を降らせるなどのイベント等で新たな負荷が発生する場合は、数パターンをあらかじめシミュレーションし、見た目の効果と、パフォーマンスの悪化について妥協点を見つけるという話が興味深かった。Webベースのゲームは、Webならではのシビアな戦いが行なわれていることがよく理解できた

(中村聖司)