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ブロックチェーンとNFTが作るかもしれない、今とは全く違うゲームの可能性【CEDEC2022】
2022年8月26日 10:50
- 【CEDEC2022】
- 開催期間:8月23日~25日
ここ数年、IT界隈をにぎわせているNFTやメタバースなどのワードは、「web3」というキーワードに凝縮される。しかしウェブの民主化とも言われるweb3が一体どういった状態を指すのかと言われると、なかなかに説明が難しいのではないだろうか。
CEDECセッション「NFTやメタバースで注目されるWeb3分散型ゲームの未来」では、DeNA技術統括部技術開発室でブロックチェーン技術の研究開発を行っている緒方文俊が、ブロックチェーンとゲームという切り口からweb3とは何なのかを、技術面とその意図から解説した。
ビットコインが生み出したデータ所有の新しい在り方
本論に入る前に、改めてブロックチェーンについて簡単に説明しておこう。
2008年にサトシ・ナカモトと名乗る謎の人物が、ビットコインの構想を論文として発表した。そこには、世界で初めての暗号通貨。この論文には完全なる自治権を持ち、改ざんされることのない、数量を限定したP2Pオンライン決済システムの必要性が書かれており、翌2009年には世界で初めての仮想通貨ビットコインがリリースされた。
ビットコインを使った取引はブロックチェーンという技術によって管理されている。ブロックチェーンは、中央集権的な管理者を持っていない。世界中に分散したノードに取引を記録するという分散管理システムによって、多数のユーザーが同一のデータを検証することで、改ざんが困難な強固なセキュリティを実現している。
発行される上限はあらかじめ2,100万枚と決まっており、変更することはできない。また半減期と呼ばれる仕組みにより、4年ごとにネットワークに追加されるビットコインの量は半減している。このことが通貨としての希少性を維持している。
その後、イーサリアムのような新たな仮想通貨が大量に生み出され、資産として取引されるようになっている。さらにブロックチェーン技術が、デジタルデータを分散管理できる仕組みに応用できることが明らかになり、NFT(Non-Fungible Token)というデジタルデータにオンリーワンのお墨付きを与える技術が生み出された。世界最大のNFTマーケット「OpenSea」、「Rarible」などイーサリアムを使って様々な商品を展開することができる。
当初は怪しげなイメージを持たれていたブロックチェーン技術だが、現在は大手ゲーム会社やメガバンクもNFT市場への参入を企図しており、経済産業省が大臣官房Web3.0政策推進室を設置して、事業環境課題を推進するなど、国内の事業環境を整える動きが加速している。
企画を統一することで相互運用性を生み出す
現在のオンラインゲームの契約はプレイをする権利で、集めたアバターやアイテムはプレイヤーの所有物ではない。だからもしゲームがサービス終了するとすべて消えてしまう。緒方氏が関わっていた中にもサービスが終了してしまったソーシャルゲームがあるが、ユーザーが時間をかけて育ててきたキャラクターやアイテムをできることならユーザーに戻したいというアイデアは出ていたものの、現実的には難しかったのだという。
だが、ブロックチェーンで分散管理されるデータは、複数のアプリケーションから参照、更新することが可能だ。ブロックチェーン上で分散管理され、自律的に契約を実行するプログラム、スマートコントラクトによって実行されるアプリをDapps(Decentralized Applications)と呼ぶ。
「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」や「Axie Infinity(アクシー インフィニティ)」など、Dappsゲームと言われるジャンルのゲームでは、ゲーム内のアイテムをNFTとしてイーサリアムで購入し、所有し、販売することができる。また、現在メタバースというジャンルに含まれる「Decentraland」や「The Sandbox」といったバーチャルプラットフォームでも、バーチャル空間内の土地やアバター、アイテムをイーサリアムで取引できる。
NFTの規格を統一することで、様々なプラットフォームでの運用を可能にする相互運用性はブロックチェーン技術のメリットの1つだ。例えばネコを繁殖させて取引する「CryptoKitties」には、様々なサービスを連携した「The KittyVerse」がある。
「LOOT NFT」は「The KittyVerse」の思想を受け継いだゲーム。アセットは提供されず、設定だけがテキストで与えられた状態になっている。サードパーティのアプリはこの設定を受け取って、様々な色付けをして新たなゲームを自由に生み出すことができる。
「VeryLongAnimals」という国産のNFTは、本家IPの知名度向上を狙って二次創作を推奨している。これまでのゲームは来訪してきた人だけをターゲットに、ゲーム内を回遊させてきたが、web3ではユーザーを外に誘導し次々に連鎖反応を起こしていく。
デジタルがフィジカルに近づいてきた
EUでは2018年にGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、その中で「データポータビリティ権」を定めている。これはあるサービスが特定のユーザーに対して収集、蓄積した利用履歴などのサービスを、他のサービスでも利用可能にするための新しい権利を意味する。
例えばあるECサイトが蓄積していた個人の購買記録を、別のサービスに持っていけば新しいサービスでも自分の好みに合わせた商品を提案してくれるだろう。ただしこの場合、後発のより利便性の高いサービスが、先発のサービスからユーザーを吸い上げてしまうヴァンパイアアタックという手法の横行が懸念される。
しかし、それ以上に勝者総どりになりがちなネットビジネスで新興勢力が戦えるチャンスを作ることが期待されている。そして小さな新興企業でもサービス次第でGAFAのような巨大企業とも戦うチャンスが生まれるのがweb3の特徴でもある。
こういったデータの連携を実現するためには規格の統一化が必要になる。それがイーサリアムであれば イーサリアム改善提案(EIP)と呼ばれる標準規格であり、NFTを扱うためのERC721やERC1155といった規格になる。緒方氏によれば、これらはコンテナ船に積まれた鉄のコンテナに相当する。頑丈な鉄のセキュリティに守られた同じ形のコンテナに様々なデータを詰め込むことで、コストを抑えて運用することができる。
web3でこれだけの熱狂が起きているのは、「デジタルという概念がリアルなフィジカルに近づいてきたからだ」と緒方氏は言う。所有権があいまいで、コピーされてしまう。1つのゲームのデータはそのゲーム内でしか使用できず、ゲームが終わればデータを失う。そんな、これまでの常識がweb3によって大きく変わろうとしている。
ゲーム業界がNFTに否定的な理由
ここまでブロックチェーンの簡単な仕組みや現在の立ち位置を説明してきたが、実際にゲームに活かすとなると簡単ではない。その大きな原因はゲーマーコミュニティからの拒否感だ。
「マインクラフト」がNFT禁止を発表したり、老舗のVRプラットフォームである「VRChat」がNFTとの統合を行なわないと発表するなど、既存のコミュニティは否定的な反応を示している。
ゲームコミュニティの人たちがNFTに嫌悪感を抱くのは、RMTへの嫌悪感が根底にあるからではないかと緒方氏は分析する。「ウルティマ オンライン」や「リネージュ」など最初期のMMORPGが最盛期の時代、ネットオークションでゲームのアイテムや権利を売るRMT(リアルマネートレーディング)が生まれ、問題になっていった。
現在ではほぼすべてのゲームで、RMTはゲームバランスを崩す行為として禁止されている。ブロックチェーンを使ったゲームを開発するにあたり、DeNAの社内でも賛否両論があったのだそうだ。
2017年にブロックチェーンを使ったプロトタイプゲーム「Planet Travelers」が作成された。このゲームは惑星を探索し、発見したら惑星の所有権をもらえるという内容。
本開発をするために社内で協議をしたが、当時、業界団体のホームページにはRMTの規制について記述があり、RMTができないようにする必要があるという方針になった。だが、NFTの仕組みを作るとRMTになってしまうため、実際には困難だった。
DeNAがサービスしている3つのNFTアプリ
現在DeNAでは「NFTコレクション」、「PLAYBACK 9」、「PICKFIVE」という3つのNFTアプリを運営している。これらのアプリはすべてのアセットがLINEブロックチェーンで管理されており、ユーザー自身がウォレットで売買することができる。LINEブロックチェーンを選んだのは、国内のユーザーを対象していること、イーサリアムを使うためのウォレット導入は慣れていない人にはハードルが高いうえに、ガス代と呼ばれる取引の手数料がかかるためだ。LINEブロックチェーンは、LINEアカウントがあればNFTのやり取りができ、APIでの開発もしやすいという。
「NFTコレクション」は過去のモバゲーで活躍したキャラクターを集めて楽しむアプリ。集めて楽しむというコレクタブル性にフォーカスされており、12種類のNFTを集めることで、特別な13枚目のNFTを手に入れることができる。NFTはガチャで手に入れるが、被ったキャラは友達に渡したり、マーケットで売買できる。
コミュニケーションを介して集めるという体験は、初期のソーシャルゲームのようなコミュニケーションを大事にするという側面を持っているかもしれないと緒方氏。
「PlayBack9」は、横浜DeNAベイスターズの試合で選手たちが活躍した場面を、動画NFTという形でファンに保有してもらうことがテーマのアプリ。特定の期間に限定枚数だけ販売されるNFTは抽選方式を採用している。決められた発行枚数を超えると抽選となり、当選した人だけがNFTを購入できることで希少価値を担保している。人気がなく予定枚数に満たないNFTは、応募数が発行数の上限となっている。
NFTというと高額なイメージだが、「PlayBack9」は1,000円前後という価格で気軽にショート動画を手に入れることができる。
「PICKFIVE」は欧州サッカーの「Sorare」というアプリを参考に、プロバスケットボールチーム川崎ブレイブサンダースを応援するためのアプリ。このジャンルは、海外ではファンタジースポーツとして古くから人気がある予測ゲームとしての側面もある。
ユーザーは試合で活躍する選手を5人のカードをNFTとして購入し、チームを作る。実際の試合でその選手が活躍すると、自身が作ったチームにポイントが入る。もともとはコロナ禍の中、会場で応援ができなかったため、家で試合の生中継を見ながらファン同士のエンゲージメントにつなげてもらうための施策でもあった。
「PICKFIVE」の「今日のイチオシ!」機能は、今日活躍する選手を選び、予想が当たったらポイントを獲得できる。貯めたポイントは豪華景品の抽選に使うことができる。
これらNFTを使ったブロックチェーンでは、取引が発生するたびに一次流通者にロイヤリティが入る仕組みになっている。そのため二次流通を盛んにする必要があり、日々試合が行われるスポーツのようなジャンルとの相性がいいと言われている。
また、スマートコントラクトという自立化した取引が行なわれることで、データの権利関係が整理される。スポーツ業界では、お気に入りのスポーツチームが発行する仮想通貨を所有するファントークンが注目を集めている。
ファントークン所有者には限定特典が与えられるほか、クラブの運営に対する投票権を獲得することで、運営に参加することができる。この仕組みはトークンを発行して分散型で運営するDAO(分散型自立組織)と呼ばれる仕組みとも共通する。
緒方氏は、いつか予想結果を基に、実際のチームの作戦立案に参加できるような仕組みが作られれば、監督が不在のチームも可能性としてはあり得るかもしれないと語った。
ブロックチェーンが生み出す連動が新たな価値を生むかも
音楽やイラスト、CGといった様々なジャンルのクリエイターが自らの表現で利益を得るクリエイターエコノミーという新しい経済の在り方が提唱されている。古くは個人ブログのアフィリエイトからCreemaやBooth、BASEなどのECサイト、YouTubeの収益化システムやnoteなどの有料コンテンツなど、個人のアイデアが作り上げる経済圏が注目を集めている。NFTもその経済を支える1つのオプションとして選ばれつつある。
台湾のオードリー・タン氏が影響を受けたと自著で言及している、日本の哲学者で文芸評論家の柄谷行人さんが提唱した「交換モデルX」では、経済学とは、既存の資源をどう分配するかではなく、人が協力することでより多くの価値を生み出すことができると説いており、これはブロックチェーンにおけるDappsの考え方の根幹になると緒方氏。
可処分時間を奪い合うのではなく、食事や街歩きとゲームを連動することによって、さらに多くの価値を生み出すことができると緒方氏は考えている。
現在のデジタルネイティブ世代が大きくなるころには、デジタルとフィジカルの境目はもっと近づいているかもしれない。そして、ブロックチェーン技術の相互運用性の中から全く新しいゲームが生み出されているかもしれない。