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「サガ」30周年! 史上最高に豪華な“下水道”が披露された「ロマンシング サガ オーケストラ祭」コンサートレポート

2020年2月16日開催

会場:東京芸術劇場 コンサートホール

 スクウェア・エニックスは2月16日、「ロマンシング サガ」シリーズのオーケストラコンサート「ロマンシング サガ オーケストラ祭」を東京芸術劇場で開催した。

 「サガ」シリーズは、1989年12月にスクウェア(現スクウェア・エニックス)から「魔界塔士Sa・Ga」が発売されて以来、ヒットを続けている人気RPGシリーズであり、ユニークな成長システムやシナリオ、敵味方問わず魅力的なキャラクター達、そしてゲームを彩る名曲の数々が好評を博しており、今年は「サガ」30周年のメモリアルイヤーとなる。

 それを記念して企画された「ロマンシング サガ オーケストラ祭」では、数ある「サガ」シリーズの中の「ロマンシング サガ」シリーズからピックアップされ、5人の編曲者がそれぞれの持ち味を生かしてオーケストラ用にアレンジ、東京ニューシティ管弦楽団が演奏を行なった。「サガ」シリーズのオフィシャルなオーケストラコンサートは2016年以来の4年ぶりとなるが、公演会場は3階席までびっしりと埋まっており、この公演に対するファンの期待度の高さが窺えた。

会場内に展示してあった「SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~」で使われていた舞台衣装

 「ロマンシング サガ オーケストラ祭」のセットリストならびに出演者は以下の通り。

【ロマンシング サガ オーケストラ祭 セットリスト】
<第1部>
 1 オーバーチュア ~ オープニングタイトル 【ロマンシング サ・ガより】
 2 迷いの森 ~ 下水道 メドレー 【ロマンシング サ・ガより】
 3 バトル1 ~ バトル2 メドレー 【ロマンシング サ・ガより】
 4 遥なる戦いの詩  【ロマンシング サ・ガ2より】
 5 帝都アバロン ~ 皇帝出陣 メドレー 【ロマンシング サ・ガ2より】
 6 バトル1 ~ 七英雄バトル メドレー 【ロマンシング サ・ガ2より】
 7 プロローグ~死食の脅威~ 【ロマンシング サ・ガ3より】
 8 フィールド ~ バトル1 メドレー 【ロマンシング サ・ガ3より】
 9 アビスゲート ~ 四魔貴族バトル1 ~ 四魔貴族バトル2 メドレー 【ロマンシング サ・ガ3より】

<第2部>
10 オーバーチュア 【ロマンシング サガ ミンストレルソングより】
11 巨人の里 ~ 邪聖の旋律 メドレー 【ロマンシング サガ ミンストレルソングより】
12 最終試練 ~ 死への招待状 メドレー 【ロマンシング サガ ミンストレルソングより】
13 クイーン誕生~オープニングアクト 【SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~より】
14 テンプテーション♥ -RS Version- 【SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~より】
15 愛の歌 ~ 満ち足りた二人:ノエルとオアイーブ 【SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~より】
16 侯国の旗のもとに 【ロマンシング サガ リ・ユニバースより】
17 頂を目指して ~ Grave Battle メドレー 【ロマンシング サガ リ・ユニバースより】
18 再生の絆~Re;univerSe~ 【ロマンシング サガ リ・ユニバースより】

<アンコール>
19 最終決戦! -ラストバトルメドレー from ロマンシング サ・ガ1~3- 【ロマンシング サ・ガ1、2、3より】
20 エンドタイトル 【ロマンシング サ・ガ3より】

<出演者(敬称略)>
 内藤彰(指揮)
 東京ニューシティ管弦楽団(演奏)
 大嵜慶子(ピアニスト)
 真部裕(ヴァイオリンソリスト)
 伊藤賢治(作曲・ゲスト)
 結(MC)

<編曲(五十音順・敬称略)>
 伊藤賢治(10)
 岩城直也(2、8、15)
 亀岡夏海(4、9、18)
 タカノユウヤ(5、6、11、14)
 真部裕(12、17、20)
 山下康介(1、3、7、13、16、19)

 歴代「ロマンシング サ・ガ(以下、ロマサガ)」シリーズから発売・発表順を追ったタイトルに、シリーズ内での曲もストーリーを追った曲順となっており、ロマサガミュージックヒストリーをオーケストラで追体験するような形になっていた。

オーケストラコンサートでは初お披露目の下水道!

 まずはウェルカムミュージックとして「ロマサガ1」からオーバーチュアからのオープニングタイトル。オーケストラ編成にアレンジされたそれは、美しくも優しい弦楽器、勇壮な管楽器、迫力のある打楽器を身近に感じることが出来、ゲームを起動してからしばらくコントローラを触らずにオープニングを見ていた記憶が色鮮やかに蘇るようであった。

 拍手の中、司会進行役の結氏が登壇し、「ロマサガ」シリーズの作曲者でもある伊藤賢治氏がゲストとして登場すると、会場は待ってましたとばかりに拍手で出迎えた。伊藤氏の挨拶の後、次曲に紹介された「下水道」のワードで沸き立つ場内。

 伊藤氏のコンサートではもはや鉄板とも言える名曲「下水道」だが、オーケストラコンサートでは初披露ということでどのような下水道ワールドが繰り広げられるのか固唾をのむ中、迷いの森~下水道メドレーが始まった。

 静謐な迷いの森から一転してトランペットをはじめとする金管を前面に押し出したオーケストラが奏でる下水道はまさに「豪勢な下水道」とも言うべきであろうか。下水道に圧倒されるという筆舌に尽くしがたい展開から一拍おいてロマサガバトル1~バトル2へ。やはり「ロマサガ」音楽の醍醐味はバトルだろう。それはオーケストラ編成にあっても原曲の輝きが失われることはなく、バトルの疾走感を見事に表現してみせた。バトル2原曲のベースパートはピアノが担当していた。

司会進行役の結氏(写真左)と伊藤氏(写真右)。伊藤氏は本公演にあたり、何度も「あまり喋って進行遅らせないように!」と釘をさされていたこともあり、若干おとなしめのトーク内容であった

 続いて「ロマサガ2」からオープニングデモである「遥なる戦いの詩」。先ほどと同様にオープニングから入って来、帝都アバロンから皇帝出陣へと繋がっていく。帝都アバロンでは管楽器と弦楽器の力強い掛け合いが聴きどころであった。そしてバトル1、「ロマサガ」シリーズ通常戦闘曲のお約束とも言うべきトランペットが担うメロディライン、下地を支える弦楽器という構成はそのままに、先ほど同様ピアノがベースラインを担当、オーケストラらしく様々な打楽器で盛り上げた。間髪入れずに七英雄バトルへと続くが、今までベースラインだったピアノがメロディラインへと転化し多彩な展開を見せた。

 そして「ロマサガ3」、こちらもオープニングデモからフィールド・バトルと、「ロマサガ1・2」を踏襲した形を徹底しており、シリーズごとの区切りを明確にしていたが、それら6曲を一気呵成に演奏するというてんこ盛りな内容に会場がどよめいた。

 「ロマサガ3」のバトル1も「ロマサガ1・2」同様の構成かと思いきや、3ループ目にガラっと変えてきた。バトル1のメロディラインはトランペットのソロと思いきやハモリを加えたツートップ、後半はトランペットと入れ替わる形でストリングスがメロディラインに出張ってくるという飽きさせない構成で観客の耳を存分に楽しませた。

 第1部クライマックスはアビスゲートからの四魔貴族バトル1・2。四魔貴族バトル1のキモともいうべきアルペジオ部分は原曲通りハープが担当するかと思いきやストリングスが担当するという意表をついた構成だったが、走るストリングスはバトルの緊張感をより際立たせていた。

ゲスト演奏者が続々登場!

 休憩を挟んで第2部は「ロマサガ1」のリメイクである「ロマンシング サガ ミンストレルソング(以下、ミンサガ)」から始まった。最初の「オーバーチュア」は「ミンサガ」の原曲と同じ編成かつ編曲等も一切行わない、まさに「ミンサガ」そのものを忠実に再現していた。続いて巨人の里から邪聖の旋律メドレー、東京芸術劇場コンサートホールステージ上部で存在を主張していたパイプオルガンが、オルガン奏者中澤美帆氏の手によって厳かだが不穏な旋律を奏でた。

邪聖の旋律演奏時、観客の視線は斜め上へ釘付けとなり、それに呼応するかのごとく巨大なパイプオルガンを操った中澤氏

 次なるは最終試練~死への招待状(デス戦)である。「ミンサガ」3大ボスといえばデス、サルーイン、シェラハだが、オーケストラ編成ではやはりデス戦であろう。メロディラインのコーラスパートは管楽器が担当し、ヒット気味の金管と打楽器が被さり圧倒的な恐怖と絶望感が迫ってくるようであった。

 そして「ロマサガ2」の七英雄をテーマに描かれた物語を舞台化した「SaGa THE STAGE ~七英雄の帰還~」から数曲を演奏。BGMも伊藤氏が手掛けており(伊藤氏はこの舞台BGMのため短期間で多数の曲を書下ろしており、本人曰く「神がかっていた」と振り返りコメントしていた)、ところどころに伊藤氏が手掛けたと分かってしまう特徴的なメロディ(俗に言うイトケン節)がそこかしこに感じられる上に、「ロマサガ2」のフレーズがふんだんに盛り込まれている。

 また、「サガ」シリーズ伝統の1曲である「涙を拭いて」も入っており、初代からの「サガ」ファンにとっては感涙モノであろう。「愛の歌」ではヴァイオリンソリストの真部 裕氏が登場、繊細でたおやかに、そして時折軽く床を靴でタップしアクセントをつけつつ見事なソロを披露した。

右足で軽くタップしつつソロを務める真部氏(写真中央)

 第二部もいよいよ大詰め、「ロマンシング サガ リ・ユニバース」からホーム画面の「侯国の旗のもとに」、通常戦闘曲の「頂を目指して」、トゥ・クアイ戦の「Grave Battle」、最後にタイトルBGMの「再生の絆~Re;univerSe~」と、オリジナルBGMを中心に演奏された。「頂を目指して ~ Grave Battle メドレー」では真部氏が再び登場し、繊細なタッチはそのままにバトル曲の勇壮なリズムに乗りメロディパートを務めあげた。「ロマサガRS」だけはタイトルBGMを最後に持ってきているのは「完結していない現在進行形のタイトル」だからであろうか。機会があればぜひ伊藤氏に訊いてみたいところである。

 演奏が終わるや否や、会場中が万雷の拍手に包まれた。拍手に応えながら退場していく指揮の内藤彰氏。鳴りやまない拍手の中、ステージ左側のバイオリンパートだけが中座してそのスペースを空けた。何だろうと拍手しながら見ていると、左端に置かれていたピアノがスタッフの手によって中央に移動され、バイオリンが戻ってきた。そしてピアノ奏者の大嵜慶子氏も中央のピアノに着席する。否が応にも高まるアンコールへの期待感。果たして内藤氏が戻ってくるとアンコールが始まった。

心臓破りのアンコール!

 さてここまでで「あれ、何か足りないのでは?」と思った観客もいたかもしれない。「通常バトル」、「中ボスバトル」ときて肝心の「ラストバトル」が登場していないのだ。会場内もそれを感じ取ったかもしれないが、その心配はアンコールが始まって数秒で霧散することになる。「ロマサガ1・2・3」のラスボスバトルBGMをメドレー形式で一気に演奏するという荒業に出たのだ。

 ラスボス曲に相応しく金管を中心に激しい演奏を見せた。伊藤氏も演奏後に「これをここに持ってくるか!?金管の皆様すみませんでした!」と自省気味のコメントをしていたが、決して短時間ではないこの公演の最後に激しい曲を持ってくるという無茶振りに見事に応えきったのは、東京ニューシティ管弦楽団メンバー及び指揮の内藤氏の高い技量があってのことであろう。

「FINAL FANTASY XIV」コンサートでもお馴染みのピアニスト大嵜慶子氏(写真中央)。今回も流麗な手さばきで観客を魅了した

 待ちかねたかのような観客の拍手の中、大嵜氏は退場し入れ替わるように結氏と伊藤氏が登場、ここでスペシャルゲストとして「サガ」シリーズの総合ディレクターである河津秋敏氏が登場、大きな拍手を以て迎えられた。

 河津氏と伊藤氏が並び立つシーンは「サガ」ファンにとっては幾度となく見てきたであろうが、この両雄がオフィシャルの場に現われる時は大抵ワクワクするような発表がある時である。そんな期待感が溢れる会場の中、河津氏の口から飛び出した情報は「ロマサガ」シリーズ舞台第3弾「SaGa THE STAGE ~約束のマルディアス~」の上演決定であった。さらには今回の舞台は「ロマサガ」と「ミンサガ」双方をベースにした物語になることも判明した(参考記事)。

「サガ」生みの親である河津氏(写真左中央)から新たな「SaGa THE STAGE」の作曲をその場で依頼され、驚きつつも快諾する伊藤氏

 河津氏・伊藤氏両名が締めの挨拶を終えたところで結氏が本公演最後の演目を紹介する前に「皆さんお気づきですか?ピアノがセンターに移動されているんですよね」とフリが始まった。観客席からも何かを察したようで笑いが起きる。河津氏もフリに乗っかる形で伊藤氏を煽り、伊藤氏も「ずっと緊張していたんですが、オーケストラの足を引っ張らないように演らせていただきます!」と最後の最後で伊藤氏自らピアノパートで演奏に加わることになった。

 「よし!」と拍手を打って気合を入れつつピアノに向かう伊藤氏。最後の曲は「ロマサガ3」から「エンドタイトル」である。伊藤氏はライブ等も精力的に行っており、主にバンド編成でキーボードを(時にはショルダーキーボードをかついで)披露している。今回は大編成のオーケストラをバックにしての演奏だったので緊張もひとしおであっただろうが、ソロをはじめとしたピアノパートを見事なパフォーマンスで大役を果たした。演奏後はゲストメンバー全員がカーテンコールに登場、いつまでも鳴りやまない拍手に何度も応えて本公演は大盛況のうちに幕を閉じた。

「ラスボス」としてステージ中央に君臨した伊藤氏。実は開演当初からずっと緊張していたらしい

 「ロマサガ」シリーズは今年で30周年を迎え、奇しくも伊藤氏も音楽家として活動を始めて30周年、そして1990年に設立された東京ニューシティ管弦楽団も30周年と、偶然を超越したメモリアル尽くしの公演だったが、まだメモリアルイヤーは始まったばかりだ。ステージ上で河津氏は「今後も色々発表していきたいと思うので楽しみにお待ちください」とコメントしており、これからの「サガ」ワールドの展開に大いに期待したい。

Photo by Shinjiro Yamada