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2年で2,000校を目標に! 「全国高等学校eスポーツ連盟」設立会見レポート
eスポーツ業界の宿願である“裾野を広げる取り組み”がついに具体的な形に
2019年11月7日 17:34
- 【全国高等学校eスポーツ連盟】
- 11月1日設立
毎日新聞社とサードウェーブは11月7日、国内初となる高校生を対象としたeスポーツ団体 一般社団法人 全国高等学校eスポーツ連盟(Japan High School Esports Federation:JHSEF ジェセフ)設立に関する発表会を開催した。
JHSEFは、全国高校eスポーツ選手権を共催する毎日新聞社とサードウェーブが今年6月に発表し、8月1日を目処に設立を準備してきた一般社団法人。「関係各所への調整に予想以上に時間が掛かった」ということで、当初の予定より3カ月遅れでの船出となった。
理事は6名で、毎日新聞社とサードウェーブより2名ずつのほか、理事長に元文部科学省スポーツ青少年局長を務めた 尚美学園理事長 尚美学園大学学長の久保公人氏が就任したほか、スポーツ医学的な見地から牧田総合病院 脳神経外科脊椎脊髄センター部長の朝本俊司氏も名を連ねるなど、多方面から人材を起用している点が特徴となっている。
発表会には、団体関係者やメディアに加え、eスポーツ業界からも日本eスポーツ連合(JeSU)関係者をはじめ、ゲームメーカーのeスポーツ担当、eスポーツチームのオーナーなどが招待され、会場後方には見知った顔ぶれが揃っていた。
肝心の統一eスポーツ団体であるJeSUとのリレーションについては、JHSEFのほうから岡村秀樹会長らJeSU関係者に説明を行ない、「理解を頂いた」という。JeSUとしては表向き統一団体として全面的なウェルカムはできないが、JeSU自身がカバーできていないアマチュアeスポーツの領域を振興してくれる団体として、棲み分け可能と判断したのではないだろうか。
団体トップとなる久保理事長は、挨拶の中で、11月より予選がスタートする「第2回全国高校eスポーツ選手権」について報告を行なった。参加チーム数が前回は「ロケットリーグ」で60チーム、「League of Legends」で93チームだったところ、第2回は106チーム、119チームに増大し、「eスポーツへの関心が急速に高まっていることを実感した」と語った。
その一方で、日本ではまだゲームをスポーツとして取り組むことに対して、ゲーム依存や社会的な理解のなさといった課題もある中で、世界的には新しい時代の競技として認知され、賞金もスポーツに並ぶ規模になりつつある。そこでJHSEFでは、eスポーツを性別、年齢、障碍の有無等を問わず万人が楽しめる「ユニバーサルスポーツ」であることを前面に押し出し、「日本の未来を担う高校生の人間的な成長の一助を担う」ことを団体理念として、JHSEFの活動を通じて高校生eスポーツを様々な形で支援していく方針を明らかにした。
また久保氏は、「連盟は個々の企業の利益代表ではなく、中立公正な機関」とし、高校生eスポーツを応援するすべての関係者と協力し、eスポーツへの社会の理解促進や課題克服を図りながら、eスポーツを楽しむ高校生の裾野拡大、課外活動としてのeスポーツの発展に努めていく」と力説。営利団体ではなく、あくまで高校生の文化・教育を主眼とした団体であることを強調した。
続いて、大浦理事からは、JHSEFの基本的な活動方針と、組織体制、会員制度などが紹介された。大浦氏は、元サードウェーブで、「GALLERIA GAMEMASTER CUP(現GALLERIA GLOBAL CHALLENGE)」や「第1回全国高校eスポーツ選手権」のプロデューサーを務め、同社のeスポーツを統括するeスポーツ推進部部長だった人物。まさにJHSEFの中核となる人材だ。
大浦氏が語った基本的な活動方針は、高校生を対象にeスポーツを通じて個人の能力を磨き、協調性を高める環境を整備することで、eスポーツが日本の新しい文化として社会に根付くことを目指していくというもの。これ自体は「全国高校eスポーツ選手権」の開催理念と同じで、JHSEFが異なるのは“その先”があることだ。
“その先”とは、それを実現するためにどうするか。言いっぱなしで終わりではなく、それを実現するための部門がキチンと用意されている。JHSEFは、高校生eスポーツの支援を行なっていくだけでなく、その教育的価値、社会的意義を広く検証し、啓発していく役割も同時に担っていく。
それを実現するためにJHSEFの組織体制も独特なものになっている。eスポーツ部設立支援や学校会員連携、広報活動などを担う「広報・普及部」、全国高校eスポーツ選手権大会運営や、部活動ルール、審判/コーチライセンス策定などを担う「競技部」に加え、各種実証研究・調査、国内外研究機関との連携を行なう「教育・医科学部」が存在する。
大浦氏は「教育・医科学部は“本連盟の心臓部”」とまで語り、その役割の重要性を力説したが、実際にその教育・医科学部を担う朝本理事は、日本スポーツ協会の公認スポーツドクターとして、20年近く日常の臨床業務を含めて多くのスポーツ選手を見てきたなかで、プロスポーツを熟知する立場から「既存のスポーツとeスポーツはまったく同じ」と言い切った。
朝本理事は、驚くほど“eスポーツ医学”への参入に対して前のめりで、「eスポーツに携われることを本当に嬉しく、光栄に思っている」と語り、朝本理事の周囲には、スポーツには関心がないが、eスポーツには関心を持っているドクターが数多くいるということで、「そういった仲間を引き込み、医学的見地からeスポーツをサポートしていきたい」と抱負を語った。
朝本理事のロジックは単純明快だ。スポーツとeスポーツはまったくイコール。ということはスポーツで起こっている医学的な諸問題は、今後必ずeスポーツでもクローズアップされてくるが、eスポーツはスポーツと同じなので、スポーツの解決法と同じアプローチで解決することができる、というわけだ。
朝本理事は、ゲーム障碍、ゲーム依存といったeスポーツに立ちはだかる諸問題を解決するために、「教育・医科学部」の中に医科学管理グループを立ち上げ、そこに先述したようなドクター仲間の中から、専門性の高いドクターを引き込み、様々なデータを蓄積、検証し、丁寧に考察した上でeスポーツの諸問題に対して「真正面から向き合い、1つずつ解決していきたい」と自信たっぷりに語った。
日本では、医学的なアプローチからeスポーツを支援していく取り組みはまだほとんど行なわれていないが、欧米では今回の医療や、メンタルケア、カウンセリングなどが遙かに発達し、“結果”に結びついている。こうしたアプローチが日本で、しかも高校生に向けて行なわれるというのは実に画期的な試みと言える。
そして今回、もう1つ画期的な発表だったのは、eスポーツ先進国であるアメリカの高校生向けeスポーツ団体NASEF(North America Scholastic Esports Federation、ナセフ)との提携だ。
JHSEFとしては、先行者であるNASEFのノウハウを学べるだけでなく、JHSEFの活動内容の1つである「高校生の国際性を育む活動」の一環として留学先や日米共同での高校生シンポジウムやセミナーなどで協力し合える。NASEFのメリットはというと、NASEFの活動そのもののグローバル化だ。すでにイギリスと提携関係にあり、今回アジアでは日本と提携することになる。
NASEFの発表の中でユニークだったのは、その成長スピードだ。2018年4月の時点ではカリフォルニア州のみで28校、38チームの規模に過ぎなかったが、2019年11月の時点で、42州、450校、500チーム、そしてカナダにも3州、7クラブ、加盟生徒数4,500名の規模にまで成長した。
この背景には、eスポーツ先進国であるアメリカでも、“親”という最強のラスボスを攻略できていないことがある。NASEFが掲げる“ゲームは教育にプラスの効果がある”というリサーチ結果は、eスポーツを学内で推進したい先進的な教員や校長のニーズに合致するわけだ。実際に、NASEFではいくつかの研究成果を発表しており、英語を母国語としない生徒の英語能力や、社会的感情学習、つまりコミュニケーション能力が向上することが確認できたという。
JHSEFでは、このNASEFの成長スキームをそのまま取り入れる。朝本理事率いる「教育・医科学部」の医科学管理グループより、eスポーツの教育的効果を発表し、ゲームやeスポーツに対してネガティブな印象を持っている親や教育関係者への印象改善を図っていく。これは時間の掛かることで一朝一夕にはいかないが、健全な発展のためには誰かがやらなければならないことで、その成果発表に期待が集まるところだ。
そしてJHSEFの目標は、「2年間で2,000校」。2,000校と言えば、現在日本に存在する約4,800校の半数近くに達し、非常にハードルの高い目標と言わざるを得ないが、これまで凄まじい速さでeスポーツ事業を手がけてきたサードウェーブ伝来のスピード感なら、あるいは実現できるかもしれない。
もっとも、JHSEFは11月1日に発足したばかりの組織で、いわゆる加盟校となる学校会員制度もスタートしていない段階だが、2020年1月にはオフィスも完成し、現在の設立準備室ではなく、完全に独立した団体として活動がスタートするという。本格始動はそれからということになりそうだが、JHSEFのeスポーツを裾野から広げる取り組みをあたたかく見守っていきたいところだ。