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デザイナー・河森正治氏はいかに“世界”を生み出すのか? 「河森正治EXPO」、40年のプロとしての活動を振り返る展示会が東京ドームシティで開催!

5月31日~6月23日開催

会場:東京ドームシティ・Gallery AaMo

入場料:1,800円(税込)より

 「マクロス」、「アクエリオン」、「エウレカセブン」といったアニメ作品の監督を務め、「ダイアクロン」、「アーマードコア」など様々な作品に関わるデザイナー・河森正治氏。その河森氏のプロデビュー40周年を記念したイベント「河森正治EXPO」が、東京ドームシティ・Gallery AaMo(ギャラリー アーモ)で5月31日から6月23日まで開催される。チケットは1,800円(税込)より。

 河森氏は多彩な知識と独特のセンスを持ち、作品世界ごとに頭を切り換えて仕事に向き合っているという。これまでの彼の仕事を一堂に展示するこのイベントでは彼が思い描く様々な世界を見ることができる。それは河森氏が子供の頃にいった大阪で開催された日本万国博覧会を思いださせ、今回のイベントを河森氏が生み出す世界の”博覧会”として、想いを込めて「河森正治EXPO」という名前を決めたという。

 今回は開催に先立ち行われた内覧会で、河森氏自身が展示物やコーナーに対しての想いが語られた。これからイベントに向かう人へ、河森氏の想いをピックアップしていきたい。

内覧会では、グラビアアイドルの喜屋武ちあきさんを司会に、河森正治氏に話を聞いた

 「河森正治EXPO」は4つのパビリオンと、半円の天井に大きな映像が展開する「K-40ドームシアター」、ショップ「K-40ショップ」で構成されている。ドームシアターは別途料金が必要だが、特別な映像体験ができる。「マクロス」、「アクエリオン」など河森作品の様々なキャラクターが一堂に会し強大な敵に立ち向かうインパクトの強いムービーが体験できる。

 東京ドームと同じように内側と外側で気圧の差を作ることで膨らました半円形のドームでは空いっぱいに迫力のある映像が展開、来場者は地面に座って見上げる形で映像を楽しむ。視界いっぱいに広がるド派手な世界、そして各作品を彩る“歌”が流れ、来場者を一気に河森ワールドに引き込む。河森氏はVRなど新しい表現にも強い意欲を持っており、その意欲が感じられるシアターだ。

入り口では河森氏が関わった仕事の様々な文字が並ぶ

 メインとなるのはバルキリー、アクエリオン、マクロスなど様々な立体物で河森ワールドを体験できる「メインパビリオン」。デザイン画や絵コンテなど河森氏がどのような仕事をしているか、またボツになった企画メモなども見ることができる「クリエイティブパビリオン」。様々な世界との出会いや、河森氏の仕事机、これまでの仕事の年表などを見ることができる「インスピレーションパビリオン」。そして今河森氏が進めている仕事を見ることができる「フューチャーパビリオン」を見ることができる。

 また料金を払えば「音声ガイド」を受けることが可能で、河森氏自身、声優の中村悠一さん、東山奈央さんの3種類の音声を聞くことができる。今回は河森氏の音声を聞くことができたが、作品のこぼれ話や思い入れの強い部分など以上に興味深い話を聞くことができた。音声ガイドは「河森正治EXPO」の面白さを一層膨らませてくれる。

今回撮影可能だった「メインパビリオン」。アクエリオンやエウレカセブン、マクロスの巨大フィギュアが並ぶ

 今回は撮影不可だったのが、やはり最大の目玉は「クリエイティブパビリオン」だ。河森氏がプロデビューした「超時空要塞マクロス」の絵コンテから、彼の様々な仕事を見ることができる。驚かされるのはその情報と思い入れの密度だ。作品内の設定の場合、美樹本晴彦氏の描き出したラフスケッチの周りにみっちりと、絵の場所がどこなのか、人物が何を考えているのか、このシチュエーションは何を現わしてしているのか、地面の設定、世界の設定、その絵から広がる様々なアイディアがみっちりと描き込まれている。

 アニメを作る上での絵コンテの情報量もすさまじい。画面のカット割り、動き、セリフ、さらには流れる歌のテンポや効果音、彼らの気持ちなど、こと細かに描き込まれ、その絵がどんな場面なのかををものすごい情報量で補完している。様々な仕事の仕方があると思うが、河森氏が作品に向けどんなことを考え、どういう思いでその場面を生み出していくかぐぐっと伝わるコンテになっている。

 河森氏は「機動戦士ガンダム 0083」でメインの機体「GP-01」と「GP-02」をデザインしているのだが、現在の形になる前の様々なアイディア、“幅”を見ることができる上、ボツになった「GP-03」なども見ることができる。

プラモデルの箱を使ってアクエリオンの「無限拳」を再現
「DX超合金 VF-1J バルキリー(一条輝機)」を何台も使い変形プロセスを描く豪華な描写
河森作品のフィギュア達
カーデザイナーになりたかったという夢を叶えた「サイバーフォーミュラ」

 ボツの企画としての注目は「マクロス」の後に富野由悠季氏と河森氏が進めていた「アステロイド1」というSFアニメ企画のデザイン。「マクロス」のデストロイドを細身にしたような、「リアルロボット」というジャンルにさらにエッジを効かせ、本格SFに挑戦する意欲が感じられる奇抜で独特なメカデザインになっており、とても冒険的な企画だ。ボツになったもの、アニメになったもの、デザイナーとして関わったもの、監督や演出を務めたもの、そのアプローチで河森氏が何を目指したかが伝わってくる。

 内覧会では河森氏の「企画」への姿勢も聞くことができた。1つの企画があった場合、河森氏はいくつものアイディアをぶつける。その企画に対してストレートなものから、変化球的なものなど、できるだけ多くのアイディアをぶつける。ボツになることを恐れず、多角的で盛りだくさんなアイディアで検討していく。それらのアイディアはまた他の者へと繋がっていくという。

 また、世界の様々なものを見ていく。“取材”というよりハンティングに近く、世界を回り、様々なものから、様々な事柄を学んでいく。世界を巡るという意味ではいくつもの企画を動かしている現在の状態も“世界旅行”の様なものだと河森氏は語る。作品世界ごとに河森氏は人格を使いわけて違う世界をのぞき込みながら広げて表現していっているとのことだ。

今回は河森氏の仕事の取り組みや、彼の考えなどを聞くことができた
可変戦闘機・バルキリーを一堂に展示
「デビル メイ クライ 5」の左腕の変形は河森氏のデザインだ

 その河森氏の話を聞いた後で河森氏の仕事を見ると彼の作品の作り方が「世界」へのアプローチだというのが伝わってくる。一枚の絵が生むすさまじい情報量、立っている人物の立ち位置や役割、立っている場所、周りを包み込む自然現象、遠くの建物、空や海……1枚の絵で作品世界を描き出してからより細部へフォーカスしていく。メカやキャラクターも世界の一部として描き出してからすさまじい量のディテールを書き加えていくのだ。

 河森氏は学生などに講義をするとき「好きなことをして生きていこう」と語ったが、それでは言葉が足らないと思い始めたという。好きなことではなく、できること。好きなだけでは、スキルや実力が足りず、できないことがある。河森氏自身は“デザイン”ができる。学生時代は絵のデザインだったが、プロになり、脚本や演出、監督に仕事を広げていく中で求められたことをこなすのに足がかりになったのは「デザイン」だったという。

 ものを表現するときに何の要素が必要か、何が求められるか、それをデザイン、世界を描き出す方法で形にしていく。できることと、好きなことが重なれば最高だが、自分が何ができるかをちゃんと見て、できることから広げていくことというのを学生に語るようになったという。

レゴ、世界の歩き方、膨大なメモなどが並ぶ河森氏の机
アニメーター板野一郎氏を初めとした仲間達と学生時代に遊んだ花火

 「河森正治EXPO」は河森氏というデザイナーを描き出す非常に貴重な場だ。「インスピレーションパビリオン」ではミサイルが乱れ飛ぶ「板野サーカス」を生み出したアニメーター板野一郎氏を初めとした仲間達と学生時代に遊んだ、ものすごい量の花火を設置した台なども展示されている。このときの経験がきっかけとなり「マクロスでミサイルを大量に飛ばそう」となったという。河森氏がどんな仕事をしているのか、何を生み出したのかそれが伝わってくるイベントである。

河森氏が世界で撮ってきた写真
河森氏の年表
河森氏が現在取り組んでいる仕事。「マクロスΔ」の新作映画も制作中だ
BANDAI SPIRITSの担当者が出展に間に合わせたという「DX超合金 劇場版VF-1Sバルキリー(一条輝機)」の試作品