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【GDC 2019】「Marvel's Spider-Man」が“スパイダーマンらしさ”を得た理由

アニメーションチームが達成した「信じさせる」挑戦とは?

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 2018年、「これこそスパイダーマンのゲームだ!」話題を席巻したプレイステーション 4「Marvel's Spider-Man」。世界の累計実売は驚異の900万本超えと発表されており、名実ともに特上の大成功を収めたゲームだ。

 開発を担当したアメリカのInsomniac Gamesが「Marvel's Spider-Man」の開発をスタートさせたのは、PC/Xbox One「Sunset Overdrive」を完成させた直後のこと。スパイダーマンのようなゲームは作ったことがないし、プレッシャーは激重だし、そもそも何から手を付けていいかわからない。

 「なので、とりあえずググりましたよね」と語ったのは、Insomniac Games Animation DirectorのRobert Coddington氏。その状態から世界の絶賛を受けるまでにはどんな過程があったのか。GDC 2019の本講演では、特に戦闘とトラバーサル(街中などでの高速移動)のアニメーションに焦点を当て、本作ならではのスパイダーマンがいかに作られていったかが語られた。

Insomniac Games Animation DirectorのRobert Coddington氏
「Marvel's Spider-Man」のアニメーションチーム。33名のチームだったそうだ

アニメーションの工夫が“リアル”なスパイダーマンを生む

 「Marvel's Spider-Man」の開発で驚くべきは、開発に取り掛かった最初の4日でいきなりデモを作っていること。流石に見た目は簡素で動きも洗練されてはいないが、空中、壁の張り付き、ぶら下がり、立ちといったポージングはいい線を行っている。

 こうした作業に役立ったのは、過去のゲーム、映画、コミックといったありとあらゆるスパイダーマン作品。映画は制作の裏側を映したドキュメンタリーも参考にしたそうだ。デモの目的は、スパイダーマンらしいアニメーションの「コア」を作ること。このコアを元に、修正やリファインを繰り返していくこととした。

 そして精神的にもっとも大事だったとしたのは、「信じさせること」。リアリティや重力、そしてキャラクターにリスペクトを持って接すること。そうすれば、ファンが待ち望むスパイダーマンができるはず。完全なリアル以上にスパイダーマンがそこにいると「信じさせることが大事」だとした。

戦闘シーンのプロトタイプ

 試行錯誤段階では、多くの失敗を重ねたという。そこからわかったのは、スパイダーマンの動きには即興性と多様性があり、予測性が持続し、想像以上にパワフルで、重く、何より速くないといけないといったこと。制作過程では多くを学んだことで、「スパイダーマンらしさ」の条件が少しずつわかっていったとした。

 そこからはひたすら動きを検証していき、2016年のタイトルお披露目を迎える。この映像公開は大きな反響があり、「参考のためにスパイダーマンを検索すると、自分たちの作品が出てくる」という今までにない現象が発生。「名誉だけど困った(笑)」、とRobert氏は話した。

重ねられる戦闘とトラバーサルのテスト
顔の作りまでそのまま活かされている俳優陣。Robert氏はスタントアクターにも感謝を述べた

 ここでRobert氏は、本作の戦闘シーンが「Amazing」になったポイントを話した。それまでの地上戦はキックとパンチが主な戦闘手段だったのだが、ここにウェブを使った戦闘、空中コンボなど、よりスパイダーマン的な戦闘要素を組み込んだという。

 さらにアクションを磨き、糸を使ったアクションは敵を「引き寄せる」だけでなく、敵のもとに「瞬時に寄る」要素を入れた。すると戦闘に一気にスピード感が出て、「スパイダーマンだこれ!」と盛り上がったという。ほかにも、フィニッシュでカメラがグッと寄ってスローになる演出、壁際など環境に合わせて変化する敵のリアクションなどを加えていくことで、戦闘シーンのスパイダーマンらしさが劇的に改善していったとした。

敵にギュンッと近づく戦闘アプローチは大きな発見だったという
力の入っているフィニッシュ演出

 フィニッシュ演出は地対地、空対地、空対空とスパイダーマンと敵の位置関係によっていくつか用意されているが、さらに寄るカメラ位置も何パターンも用意しているという。同じフィニッシュ演出でもカメラの角度が変わることで、違う味わいになる。そのことでプレーヤーも飽きずに戦闘を楽しめるというわけだ。

 また即興性を演出するために、スイングキック、敵の下をくぐるスライディング、壁蹴りからの攻撃などバリエーションを用意。「ウェブアタック→グイッと引っ張って→壁に投げつける」と組み合わせ自由な戦闘体系を作り上げた。そして2017年のE3にて、本作の戦闘デモがお披露目されることとなる。

カメラをいくつも用意して、演出にランダム性を入れた
敵の攻撃を避けるパーフェクト・ドッジは、当初近接攻撃だけだった。その後遠距離かつどの角度からでも可能なように改善。反撃のウェブシュートのため、体と腕をどんな方向にも向けられるシームレスな3D制御機能を入れている

 トラバーサルについては、まさにアニメーションの工夫が役立ったという。本作のウェブスイングは、その過程をダウンスイング、キック、アップスイングと3つに分け、「キック」のときにスピードが上がるようにしている。

 これはPS4の性能制限によって、スイング全体のスピードを上げることができないことから取られた措置だそう。ただ、スイングを3つのパートに分けたことで各パートごとのアニメが作りやすくなったともいう。そのために状況に合わせた多様なスイングアニメーションが生まれていったとした。

 またスイングを途中で止める場合、スイングの角度が下向きか上向きかるかでスパイダーマンの動きを変化。つまり重力のかかり方でアニメーションを変えることで、アクションのリアリティを演出したとした。

トラバーサルの動きの改善

 Robert氏は「この講演が皆さんの役に立てば」と述べると同時に、再び「信じさせることが大事!」と強調した。Robert氏の信念がファンに届いたかどうかは、結果を見れば明らか。本セッションはアニメーションがテーマだったが、Insomniac Gamesのゲーム作りにかける燃えるような熱心さがうかがい知れた講演であった。

Robert氏は補足的にドクター・オクトパスにも言及。戦闘シーンのために200以上の新規アニメーションが必要で、しかも4本の触手があるために他のキャラクターの約3倍の長さのアニメーションが必要だったという。下の図は触手のみのリグ制御マップ。これとは別に、体の制御も行なっている