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【GDC 2019】「ヒットマン」シリーズのレベルデザインは"社会空間"によって行なわれていた!

難易度と密接に関連する「公」と「私」の舞台

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 デンマークのゲームデベロッパーIO Interactiveが開発する「ヒットマン」シリーズは、禿頭のエージェント47となってターゲットの殺害を目指すステルスアクションだ。「ヒットマン」、「暗殺」というとつい「スナイパーライフル」、という武器が連想されるが、本作では殺害までの解法が無数に用意されており、様々な場所、様々な経路、様々な道具を用いた暗殺が楽しめる。

 GDC 2019ではIO InteractiveのレベルデザイナーMette Podenphant Andersen氏によって「LEVEL DESIGN WORKSHOP: 'HITMAN' LEVELS AS SOCIAL SPACES: THE SOCIAL ANTHROPOLOGY OF LEVEL DESIGN」と題したセッションが行なわれ、難易度と社会的な舞台設定との関連、そして"場"の持つゲーム的な役割が解説された。

 「ヒットマン」ではミッション毎にその舞台となる一定の区域と、ターゲットやそこに生活する人々が用意される。様々なロケーションや人=NPCを利用して暗殺を成功させる、というゲーム性を演出するためには、その舞台にリアルさや説得力がなければならない。

 そこでAndersen氏は大学時代に学んだという、社会学者のピエール・ブルデューの「社会空間」やアーヴィング・ゴッフマンによる「表舞台と裏舞台」といった学説を応用して、「ヒットマン」の舞台を作り上げていった。

いかにして"自然な日常生活"を演出するか?
大学時代に学んだピエール・ブルデューとアーヴィング・ゴッフマンの学説に着想を得る
「ヒットマン」の様々なロケーション

 ヒットマンの"社会空間"は大きく「公の場(Public)」と「私的な場(Private)」の2つから成り立っており、それぞれ行動の難しさによる3つの段階が設定されている。

公的な場はスタート地点として設定できる程度の難易度だが、私的な空間にアクセスるには変装や潜入が必須となる

 「公の場」はその性質からして開放的で注目を浴びづらく、行動を厳しく咎めるような監視者はいない。つまりはゲーム的に言うと安全地帯というわけで、特別な装備や変装などを要求しない場所だ。また、プレーヤーの緊張感をほぐし、まずその舞台の世界観を表現するのにも適している。「公の場」における3段階の具体例としては最も公的な「街角」から、少しのルールが生まれはじめる「裏道」、強い社会規範に縛られる「教会」が挙げられた。

 一方の「私的な場」は常にその場のルール、あるいは常識と人の目に縛られることになり、変装によるステルスやロールプレイングが求められる。そこでいかにスムーズに行動できるかがプレーヤーの腕の見せ所であり、つまりはゲーム的な難易度の高い場所となる。具体的なロケーションとしては監視の目が光る「私道」、そこで働く人々に怪しまれないような衣装やふるまいが求められる「キッチン」、そして最も警戒が厳しい「監視モニタールーム」などだ。

 レベルデザインの観点からみると、これらの6つの段階の場を配置していくことで、装備も何もないところから徐々に敵地のプライベートな場所に潜入をしていく……という難易度の設定を容易に行なうことができるとともに、その組み合わせによって舞台のリアリティやバリエーションの演出が可能となる。もちろん「裏舞台」つまりは重要人物や組織の「私的な場」でのプレイには、その難易度に応じてポイントや情報などの報酬が用意され、プレーヤーの向上心を掻き立てる。

 セッション終盤には実際のゲーム内マップを難易度に応じて色分けをした資料なども提示されており、難易度がどのように設定されているか、プレイの導線がどのように引かれているかが一目瞭然となった。ゲームにおける難易度は"敵の強さ"や"謎の難解さ"などで設定されることが多いが、「ステルス」を旨とする「ヒットマン」シリーズでは人の目や場のルールといった社会的な舞台設定によって難易度が規定されている、ということが明かされたセッションとなった。