ニュース

宇多田ヒカルの魅力がここに詰まっている!「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」配信開始

制作秘話「1センチ毎にカメラを移動して撮影し、1番ドキドキするポイントを探った」など披露

1月18日 配信開始

 ソニーは、1月18日より本配信が開始されたPlayStation VR用ソフト「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018-“光”&“誓い”-VR」の体験会を、東京の渋谷モディ1階にある「ソニースクエア渋谷プロジェクト」にて開催した。

 さらに同イベントには、宇多田ヒカルさんのMVを多数手がけてきた映像ディレクターの竹石 渉氏、本コンテンツのプロデュースを担当したソニー・インタラクティブエンタテインメントの多田浩二氏、技術面をサポートしたソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズの林 亮輔氏、宇多田ヒカルさんを担当するソニー・ミュージックレーベルズの梶 望氏によるトークショーも開催され、製作過程などが明らかになった。

左からMCを担当したDJ太郎さん、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの多田浩二氏、ソニー・ミュージックレーベルズの梶 望氏
左から映像ディレクターの竹石 渉氏、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズの林 亮輔氏
【ローンチトレーラー】

 「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018-“光”&“誓い”-VR」は、2018年の冬に行なわれた宇多田ヒカルさんのライブツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」で、「KINGDOM HEARTS」テーマソングの「光」と、「KINGDOM HEARTS III」のエンディングテーマソング「誓い」の2曲を、PS VR用に収録したコンテンツ。2018年12月25日からPlayStation Plusの会員限定で公開されていたが、1月18日から全世界無料で配信が開始となった。

 作品は、VRならではの仕上がりで、宇多田ヒカルさんが目の前にいるかのような臨場感の中、ライブの風景を3パターンのアングルから鑑賞することができることはもちろん、視線をあちこちに向けることで会場全体の演出も見ることができる。「ソニースクエア渋谷プロジェクト」では、PS VRを持っていない人でも体験することができる。

 実際に体験してみたのだが、通常視点から寄りの視点に移した瞬間、誰もがのけぞるように「近い!」と驚きを感じることだろう。3つめの視点は2つめの視点に比べ若干引いた視点となっているが、プレーヤー自身がカメラを寄せたり引いたりすることができる。このギミックでカメラを寄せると本当にドキドキした気持ちになった。

 このほかにも、宇多田さんが歌っているステージの周りには調整卓などがあり、宇多田さんの後ろにあるライブ会場の大きなスクリーンにはリアルタイムに宇多田さんの動きが映っており、ライブ会場の雰囲気を感じることができる。

 体験前は、実に乱暴な言い方をすれば、ライブ映像を単純にVRコンテンツに落とし込んだだけだろうと思っていたが、そんな単純な仕上がりではなく、まさにその場にいる空気感をそのままパッケージングしたすさまじい仕上がりとなっている。そこまで仕上げるための苦労話がその後のトークショウで1つ1つ紐解かれていき、実に興味深いイベントとなっていた。

竹石 渉ディレクター「これは映像作品ではない、体験を作る作品」

 同プロジェクトのスタートは、宇多田ヒカルさんがソニーミュージックに移籍するところからは始まったという。梶氏は「ソニーならではのヒットを作り出そうと思った。ソニーは(グループ各社が集まり)『One Sonyで売る』というのがある。これまでできなかった色々なことができるかもしれない」と感じ、グループの色々な人たちと話をしながら様々な企画を実現することができたという。

 そしてこれまでも楽曲を提供してきた「KINGDOM HEARTS」シリーズの最新作となる「KINGDOM HEARTS III」の発売日が見えてきた中で何かしたいと考えたときに、色々と考えた末に「やっぱりVR」という所にたどり着いたのだという。

グループを横断する形で、宇多田ヒカルさんが様々な作品を実現していった
ソニーミュージックの知見を集結し、さらにグループの協力を得ながら、VRによる新しい体験を伝えていく「PROJECT LINDBERGH」

 そしてディレクターとして白羽の矢が立ったのが竹石 渉氏。しかし梶氏によれば「アーティストのことを知っていて、VRコンテンツの制作経験もあり技術的に蓄積のある竹石氏しか選択肢はなかった」という。そんな竹石氏は今回のVRの企画について「ライブを無垢なままにVRで伝える。これは映像ではない、体験を作る難しさがある」と感じていた。そして仕上がった作品を見て「宇多田ヒカルさんに、こんなに見つめられることはないわけですよ。もう僕たちは直視できないほどに恥ずかしい!」と感じ、そう感じるところまで到達できたことこそが、“体験を作る上げられた”という自信に繋がった。

 制作にあたっては、まずは幕張メッセのホールを貸し切って、ライブツアーと同じセットを組み上げ、カメラの動きなど入念にテストが行なわれた。基本的にVRは「VR酔い」への対策から固定カメラで撮影されることが多いが、今回は動いていることに気付かない程度にカメラを寄せるなどの動きを取り入れているという。技術を担当した林氏によれば初めての経験で、カメラを動かすというシステムの作成なども独自に行なわれ、かなりのチャレンジだったという。

実際の撮影風景。多田氏にとってもVRの撮影でカメラを移動させるといったことは考えていなかったという。撮影機材はかなり大がかりなものとなった

 これ以外にも暗い背景の中で宇多田ヒカルさんに光を当てての撮影ということで、高解像度であるにもかかわらずダイナミックレンジが広く、さらにノイズも押さえなければならないとあって、通常ではトレードオフとなるところを、すべてを引き上げていかなければならない苦労は並大抵のことではなかったようだ。またVR作品なので、VRを体験しながらチェックしたいという竹石ディレクターの要望から、その場でVRでチェックできるシステムの構築も一から作り上げられた。しかしこういった現場での開発は林氏にとっても刺激的だったようで「クリエイターと一緒でないと開発できない」と語った。

業務用の4Kカメラを2台に加え、6Kの映画用のカメラを使用して撮影に挑んだ

 カメラはいわば視聴者そのものということで、宇多田ヒカルさんにも実際にVRを体験してもらい、カメラと1対1で撮ることの意味を理解してもらったという。また、ライブを再現するという点で、アーティストのメンタル感も再現するために、撮影スケジュールはライブツアー期間中にライブ会場で撮影するという点にこだわったと梶氏。時間との戦いとなったが、クオリティのために目に見えない点にまで気を配り、妥協を許さない姿勢がすさまじい。

宇多田ヒカルさんもVRでチェックして、どのように撮られているかを理解して本番に挑んでいる

 妥協を許さないという点では、映像の隅々にまで気が配られている。カメラの高さ、アーティストとの距離感などについて何度もトライアンドエラーを繰り返して最適なものを作り上げていったと多田氏。竹石氏は「(カメラの位置など)どこがベストなのか見極めたかった」という。真正面から撮ることがベストであるかどうかはわからないということで、なんとカメラの位置を1センチずつずらして撮影し、どこが1番ドキドキするのかチェックしたのだという。「“体験”を作るので、どれくらい近いとグッとくるのか……1センチで感覚の差はあります」と竹石氏は熱く語った。

 これまでも多数のMVを手がけ、宇多田ヒカルさんとの付き合いも長い竹石氏だが、今回のVR作品の撮影を通じて初めて「歌っているときに、マイクであんな風にリズムを取っていることに初めて気付いた」のだという。このエピソードはそれだけVRの“体験”の深さを物語っており、非常に興味深い。

【メイキング映像】

 梶氏は、今回のVR作品は宇多田ヒカルさんにとってベストの表現だったと考えるが、同時に、その方法論が他のアーティストでも通用するとは考えていないようだ。「VR作品において、ライブ映像はポテンシャルがある」としながらも、「どういった内容を視聴者に体験してもらうのかはアーティストによって違い、どういったストーリーで体験させるのかが重要だと思う」とコメント。コンテンツを作れば良いのではなく、そのアーティストの魅力を伝えるために、どういった風に見せるのか、どのタイミングで見せるのかが重要だと語った。

 ラストに梶氏が竹石氏に「宇多田ヒカルの魅力を伝えたいと言うが、どういった所に魅力を感じるのですか?」と質問すると、竹石氏は今回のVRタイトルの制作を振り返りながら、「不思議な体験だった。宇多田ヒカルさんは繊細じゃないですか? 表情や声はもちろん、動きとか。その繊細さが魅力的。今回のVRタイトルには、アーティストのパフォーマンスの魅力が十二分に入っている。ぜひこの作品を体験して宇多田ヒカルさんを好きになって欲しい」と語り締めくくった。