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【CEDEC 2018】「モンスターハンター:ワールド」“密度の高い生態系”のデザイン方法
カプコンの“モンスターマスター”が「『モンハン』の次の10年」を生み出す!
2018年8月24日 18:19
CEDEC 2018の最終日となる8月24日に、プレイステーション 4用ハンティングアクション「モンスターハンター:ワールド」のゲームデザインに関する講演が実施された。登壇したのはカプコン第二開発部「モンスターハンター:ワールド」(MHW)ディレクターの徳田優也氏。徳田氏は2004年に新卒でカプコンに入社後、プレイステーション 2「モンスターハンターG」を始めとして数多くの「モンスターハンター」シリーズに携わってきた人物だ。
徳田氏はもともと動物が大好きということで、初代「モンスターハンター」のプロモーション映像を見たときに「モンスターを生態系の一部として扱おうとしているコンセプト」に感銘を受けたのだという。カプコンに入社した徳田氏は一貫して「モンスターを作りたい」と言い続け、携わった「モンスターハンター」シリーズでは数多くのモンスターを生み出してきた。
「MHW」は、カプコンの“モンスターマスター”と言える徳田氏がついにディレクターとなったタイトルである。講演では、徳田氏が「MHW」を作る上で何を狙いとし、どう実現していったか。長年のキャリアがディレクターという立場でどう活かされているかが語られていった。
「モンハン」開発キャリアが「MHW」で花開く!
徳田氏が携わった「モンスターハンター」シリーズ中でも、特に「モンスターハンター3」と「モンスターハンター4」での経験はとても大きなものだったという。
プランナーとして参加した「モンスターハンター3」では、徳田氏は全モンスターの企画、システム設計のほか、他のプランナーによる制作物の監修などを行なった。中でも印象的だったのは水中戦闘のシステム設計で、自由に動ける中でも陸上でのバトルと近いプレイ感を考えたり、縦の回避を入れることで水中ならではのバトルにするなど、様々な考えを巡らせたという。ここで徳田氏が思ったのは、「モンスターを最大限活かすにはフィールドも一緒に設計する方が良い」ということだったそうだ。
また種類も含めて数多くのモンスターを考え出していった徳田氏は、モンスターの特徴を活かすためのクエスト設計にも興味が湧いてきたという。そこで徳田氏は「クエスト間をまたいで進行できるサブクエスト」を設けたり、「注射器などの特殊な武器を持ち込んで、モンスターからエキスを抜き取る」のような特殊クエストを提案したという。その時点では採用されなかったが、この「サブクエスト」は「MHW」における「バウンティ」の元ネタとなっており、過去のアイデアは決して無駄になっていない。なお「注射器」はまだ実現していないが、「どこかでいつかやりたいと思っている」と今もしっかり暖めているそうだ。
メインプランナーとなった「モンスターハンター4」では、モンスター全体を設計したほか、クエストの全体設計、フィールドルールの設計なども担当している。今作でテーマとなっていたのは、「高低差のあるフィールドと高低差を活かしたアクション体験」。ここで面白いのは、徳田氏が本来の担当ではない「ハンターのアクション設計」をあえて提案していることだ。
「高低差を活かすにはハンターのアクションも大事」と考えたそうで、アンカーと呼ぶ紐付きのフックを発射し、空中ブランコ用に移動しながらモンスターを攻撃する、というような武器を提案している。この提案は紆余曲折あって、操虫棍として実装されることとなるが、この出来事から徳田氏はゲームの根幹となる「コンセプト作り」に関心が向いていったという。
そしてディレクターを務めることになった「MHW」では何をしたのか。まず徳田氏は、さらに上の立場から提示される「MHW」のミッションの確認から始めることにした。上の立場とは、つまりプロデューサーの辻本良三氏のこと。辻本氏から与えられたミッションは、「据え置き機向けの次世代の『モンスターハンター』にすること」、「日本でも海外でもどちらのプレーヤーも楽しめる作品にすること」などが示されたそうだ。
このミッションを踏まえた上で徳田氏が考えたコンセプトは、世界でも最高レベルのAAAタイトルとしての「モンスターハンター」にすること、古くなったシステムを刷新して“次の10年を目指す”「モンスターハンター」にすること、そして日本でも海外でも初めて触れる人がすぐに楽しめる「モンスターハンター」にすることの3つ。そして作品テーマは、「モンスターの生態系を重視する」というものにした。
このコンセプトは、世界観作りにも反映されている。「MHW」では舞台をまったく新しい「新大陸」と定め、さらにプレーヤーは「調査団」の一員としている。新しいプレーヤーもすぐに馴染めるようにあえて「おなじみの舞台」は避け、様々なものを発見するプレーヤーを「褒める」ために調査団のメンバーを置いたという。徳田氏がここで大事だとしたのは、「味あわせたいゲーム体験」の上に、すべてのシステムを構築しているということ。この世界観の設定1つでも、ゲーム全体でやりたいことが明確にあるからこそだとした。
プレイ中で大切にしたのは、プレイに連続性を持たせること。それまでのシリーズ作では1度動きが途切れるようなアクションが見られたが、回復しながらでも動けたり、リロードしながらでも動けるようにして、アクションが止まらないように工夫した。
またフィールドの中には罠になる地形や隠れるような地形など、様々な仕掛けを「密度高く」設置することで、フィールドの環境を利用した攻略方法を可能にした。エリアごとのロードをなくし、マップ全体で生体環境を管理することで、アプトノスを刺激して肉食モンスターをおびき寄せるなど、プレーヤーの行動でダイナミックに変化していく生体環境を表現した。
「MHW」におけるフィールド、モンスターはどのように設計されたのか?
さらに徳田氏は、実際のフィールドの設計手順も公開した。それぞれのフィールドは、地形に合わせてどんなモンスターが生きているかを考えるところから始めたという。
たとえば「古代樹の森」では、草食のアプトノスが生息している場所があって、奥へ進むとアンジャラフなどの肉食生物も登場する。さらに奥に行けば、この生態系で最も強いリオレウスがいる、という感じだ。
そこから、どのモンスターが生息しているかで難易度を区別。「古代樹の森」では難易度が低い場所では比較的開けているが、中難易度になると森の奥に1歩踏み入れるような、危険な感じも出している。モンスターの配置が終わったら、バランスを見ながら環境の仕掛けをどこに置くかも考えていく。配置すべきものが今まで以上に増えたために、要素ごとに分解して設計することが何より大事だったとした。
またモンスター作りで大事にしているのは、「気持ち良く倒せること」だという。「モンスターハンター」シリーズでは何度も同じモンスターと戦うことになるため、何度戦っても「気持ち良い」と感じもらうことが大切。そのために必要になるのが、「インパクト」と「攻略」という要素だそうだ。
「インパクト」は、巨大な石を持ち上げるなど、プレーヤーの感情を動かすもの。「MHW」ではイビルジョーを例として挙げ、あまりに獰猛なので他のモンスターを咥えて攻撃してくるという特徴を持つ。こうしたインパクトを意識してコントロールすることで、倒したときの気持ち良さは増幅するとした。
また「攻略」は、あるモンスターのアクションに対して、プレーヤーの選択肢が多くあること。パターンが豊富になるほど「攻略性が高い」ことになり、「何度遊んでも楽しい」と思えるモンスターになる。「MHW」のネルギガンテは意図的に攻略性の高いモンスターとして設計しており、部位ごとに防御力と攻撃力が変化していく「白いトゲ」と「黒いトゲ」の要素は特に上手くいったとした。
最後に徳田氏は会場のゲームデザイナーやプランナーに向けて、ある企画を提案するときは「前提条件を確認すること」、「『インパクト』と『攻略』を使うこと」、「アイデアを諦めないこと」を自らが学んだこととして提示した。
前提条件を知っておけばより納得度の高い企画を生むことにつながり、その企画が心を動かし(インパクト)、行為そのものが楽しければ(攻略)、内容が面白いことを示す。また1つのアイデアが採用されなくても、条件が整うことで「MHW」の「バウンティ」のように過去のアイデアが生き返ることもある。徳田氏はモンスターとモンスターの生態系を考え続け、ついには生態系を管理するトップにまで上り詰めた。モンスターのことを常に考え続けてきた徳田氏だからこそ、「MHW」が生まれたのだと改めて良くわかる講演だった。