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【CEDEC 2018】「FFXV」仲間の魅力を最大化する“キャラクター体験”のデザイン

プロンプトを具体例に、「愛されるキャラクター」作りを解説!

8月22日~24日 開催

場所:パシフィコ横浜

 「キャラクターをもっと大事にしましょう!」。登壇者は、講演の冒頭で開発者たちにいきなり呼びかけた。そもそもゲームを「面白い」と思うとき、ゲーム性以外に何がポイントになっているだろうか。多くの人は「ストーリー」と答えるかもしれない。では「ストーリーが面白い」とは何か。よくよく突き詰めてみると、物語のことだったり、世界観のことだったり、キャラクターのことだったり、実のところ人によってバラバラなのではないだろうか。

 その一方で、優れていると言われるストーリーには、魅力的なキャラクターが必ずいる。キャラクター。「ジョジョの奇妙な冒険」などを生み出してきた漫画家、荒木飛呂彦氏も「魅力的なキャラクターがあれば世界観もストーリーも必要ない」と言うほど、キャラクターこそが大事だと言っている。ゲームの文化を振り返ってみても、キャラクターは欠かせない存在だ。B級でもAAA級でも、タイトルの規模は関係ない。新たなゲームが開発されるたびに、新たなキャラクターが生み出されている。そういう意味でゲーム開発者は、全員がキャラゲー屋だ。だからこそ、ゲームキャラクターは大事にするべきだ……。

 講演の冒頭からゲームキャラクターの大事さを熱っぽく語ったのは、Luminous Productionsシニアゲームデザイナーのサン・パサートウィットヤーカーン・パサート氏。タイ出身のサン氏はLuminous Productions発足前、「ファイナルファンタジーXV」の開発チームに所属していた。専門はAIで、「FFXV」では主人公と仲間たちのAI、思考、言動、動き、喋りなど、仲間にまつわるすべてのシステムに関わってきた人物である。

Luminous Productionsシニアゲームデザイナーのサン・パサートウィットヤーカーン・パサート氏
荒木飛呂彦氏の言葉も引用しながら、ゲームにおけるキャラクターの大事さを語っていった

 サン氏が講演で最も強調していたのは、ゲーム内でキャラクターを魅力的に描くことの大事さだ。それは見た目やカットシーンのセリフだけではない。特にゲームという複合的なメディアでは、ゲーム内に存在する様々な要素から、キャラクターを幾重にも「体験」することになる。その「体験」の中でプレーヤーが少しでも違和感を感じてしまえば、キャラクターの魅力は一気に失われる可能性がある。逆にその「体験」が常に効果的なものであれば、プレーヤーの心を掴んで離さないキャラクターになってくれるだろう。

 サン氏はこうした「体験」を「キャラクター・エクスペリエンス(CX)」(=キャラクター体験)と定義して、ゲームデザインに組み込むためのアプローチを行なっている。CEDEC 2018のサン氏の講演ではこの「CX」を軸として、「FFXV」の仲間をより魅力的にするために実施した取り組みと、その効果が語られていった。

「関心」を「魅力」に、「魅力」を「愛」に変えるキャラクター作り

 まずサン氏が踏まえたのは、ゲームにおけるキャラクターとストーリーの関係だ。いわゆる「リニア体験」と呼ばれる映画、漫画、アニメ、小説などのメディアでは、視聴者・読者はストーリーが展開する中でキャラクターを体験してくことになるので、「キャラクター=ストーリー」と言うことができる。しかし「ノンリニア体験」であるゲームでは、ストーリー以外でもプレーヤーがキャラクターを体験する場面がある。そのため、決して「キャラクター=ストーリー」とは言えないメディアだとした。

 しかもゲームのスペックが上がり、要素が複雑になるにつれ、その傾向は顕著になる。たとえば「FFXV」の仲間にはプロンプトというキャラクターがいるが、プロンプトはカットシーンだけでなく、バトルシーン、フィールドマップ、メニュー画面など様々な場面で登場する。プレーヤーは常にプロンプトと一緒にいるプレイ体験を得ることになるが、サン氏が「恐ろしい」としたのは、各シーンを制作する担当者は、何もしなければプロンプトの魅力については何ら責任を負っていないこと。もし意識がバラバラのままで各セクションの開発を進めた場合、プレーヤーが感じるプロンプト像はボヤケたものになり、きっと心に残らないキャラクターになっていたはずだ。

 ではサン氏はどうアプローチしたのか。まずはプレーヤーに届けたいキャラクター像をはっきりと決めて、そこから逆算的に各セクションに落としていく方法を取った。最初のステップは、全体CXデザイン。つまり主人公たち全体がそのゲームの中でどういう役割を持っているのか。またキャラクター体験はプレーヤーにとってどのような意味があるかを考えることだ。

ノンリニア型のゲームはストーリー以外でもキャラクターが語りだす。だからこそ「体験のデザイン」が必要なのだという
体験のデザインは「プレーヤーにどんなキャラクターを届けたいか」から考える

 サン氏はもとから「FF」シリーズの大ファンで、「ファイナルファンタジーVII」に衝撃を受けて以来「いつか『FF』を作りたい」とずっと憧れ続けていたという。「FF」のキャラクター体験はいつも「仲間」が大きな存在だった。かわいい女性もいて、華やかで、仲間がだんだん増えて、なんとカッコいい主人公たち。そしてやっと「FFXV」の開発チームに参加してサン氏の念願が叶うわけだが、サン氏を待っていたのは「仲間は男だけ」、「衣装が黒い」という2重の衝撃。「え、女の子は?!」と最初は思ったそうだが、想像とギャップがありすぎて「これは新しい体験を作り出すチャンス!」と逆にポジティブになったという。

 ではこの主人公たちで、どういうキャラクター作りを目指すべきか。サン氏が考えたのは、「クラスの仲良しイケメングループ体験」だ。男同士だからこそのバカ騒ぎもして、イケメンなのに仲良しすぎて憧れの的になっている……というイメージだそうだ。サン氏がポイントとしたのは、これはあくまで「表面」ということ。彼らの「内面」には信頼、絆、犠牲心など、お互いを心から信じ合う熱い感情があるとすることで、「FFXV」ならではの主人公が誕生した。その時、スタッフと決めたのは「最も近く、最も心地良い」という4人の絆を表すコンセプト。その後に続く数行の文章も含めて、「当時から今まで1ミリもずれていない」という。

理想(左)と現実(右)。だがそのギャップがサン氏を燃えさせた
ただの仲良しではなく、もっと深くまで根ざした関係性まで考え抜いた。迷いが出たときは、いつも最初に決めたコンセプトに立ち返っていたという

 全体のコンセプトが決まったら、次は個別の魅力を上げていく。サン氏が日々感じているのは、「設定の多さ」は必ずしも魅力にはつながらないということ。実際の人間にも数多くの「設定」があるが、魅力がある人もいれば魅力がない人もいる。つまり、それと同じなのだという。

 では何が魅力になるのかというと、「関心を持たせてくれるキャラクター」だとサン氏は答えた。好意でも敵意でも、「キャラクターを無視できずに何かしらの感情が沸いてしまう」ことが最も大事だとした。避けるべきは「どういう感情を抱いていいかわからない」こと。そうしたキャラクターはプレーヤーにとって「どうでもいい相手」になってしまうからだ。

とにかくプレーヤーの感情を動かすこと。それが「関心」になり、「魅力」へとつながっていく

 またキャラクター作りの肝として、主人公たちに「表面」と「内面」の2つの魅力を付けたように、個別のキャラクターにも「表面的魅力」と「本質的魅力」を考えておくべきだとした。

 この理由を説明するために、サン氏は人が人を好きになる過程を分析し始めた。いわく、「恋と愛の違いについて」だ。サン氏は、恋は盛り上がった後にだんだんとなくなっていくものであり、愛は徐々に形成されてなかなかなくならない。別れてしまうカップルと結婚に至るカップルの違いは、「愛が生まれる前に恋がなくなった」か、「恋がなくなる前に愛を築き上げた」かの違いだとした。

 サン氏が説明するのは、恋=表面的魅力であり、愛=本質的魅力ということ。まずはキャラクターの表面的魅力でプレーヤーの感情を動かして、そのブースト期間が終わる前に本質的魅力を気づかせる。この2段階構成で魅力を伝えることで、プレーヤーはキャラクターに愛を持つことができるのだとした。

体験の変化は時間の変化。恋がなくなる前に愛を築けるかどうかで、キャラクターが魅力的かどうかが決まる

 ではより具体的に、プロンプトの場合はどのように魅力をデザインしたのだろうか。ここでのステップは3つ。「ステレオタイプ」、「人間味」、「葛藤」だ。

 「ステレオタイプ」は、なるべくプレーヤーと接する最初の機会に、「インテリメガネ」、「ムードメーカー」といったわかりやすいステレオタイプの行動や仕草をちらっと入れておくこと。プロンプトは「ムードメーカー」として、一生懸命、お調子者、社交的という一面を取り入れた。かわいいと思われてもウザいと思われても、とにかくプレーヤーの感情を動かせれば第1段階成功だ。

 次は「人間味」。プレーヤーはプロンプトのことを「ムードメーカーっぽい」と思っているはずだが、ここで少しのギャップを出していく。プロンプトの場合は「オタク気質」だ。実はゲームオタクで、機械に強く、流行りに敏感だったりする。プロンプトとある程度一緒に過ごしていないと見えてこない一面であり、「ただのお調子者だと思っていたらどうも違うらしい」という感情が起こってくる。このギャップが、「このキャラクターを自分はまだ理解していないのでは」という思いもプレーヤーに持たせることになる。

 どうなんだろう……と思っていると、最後に「葛藤」がやってくる。つまり、プロンプトの本心が見えてくる場面だ。テーマは「せつない」。実は自信がなかったり、昔は太っていたり、本人は本人で葛藤していることがだんだんとわかってくる。長い時間を一緒に過ごさないとわからなかったような濃い感情が本人からさらけ出されることで、「ああ、プロンプトは本当はこういう奴だったんだ」と理解する。プレーヤーがプロンプトのことを「完全に理解した」と思うとき、プレーヤーとキャラクターの関係性が成立する。恋がなくなる前に、愛が勝ったわけだ。

プレーヤーがキャラクターに愛を抱くまでの過程。こうしてチャート形式で見ても、1度ギャップを見せることで人間的な深みが出ているとわかるところが面白い

 ここまで作り込んだら、今の3ステップの要素から、キャラクターがどのような行動を取るか具体的に書き出してみる。プロンプトなら、「チョコボ大好き感を可能な限りアピール」(ムードメーカー)、「機会があればすぐにゲームをやる」(オタク気質)、「時々1人で空を見る」(せつない)といった感じだ。書き出したら、今度はそれらの行動をキャンプシステムやワールドマップAIなどのシステムと結びつけて、行動を実装していく。

 多くの場合、プレーヤーはこうした1つ1つの仕草に注意を払うことはない。しかし色々な側面に少しずつ触れることで、だんだんと1人の人間が浮かび上がってくるような構成だ。キャラクター作りの軸がしっかりしているからこそ、効果は最大限に発揮されるのではないだろうか。

人物像から考えた具体的な行動を各システムへと結びつけていく。確信を持って作られたキャラクター描写があるからこそ、プレーヤーは一貫性を感じることができる

 サン氏としては、本当であれば開発チームにCXを司るディレクターや担当者を置くのが理想だとしながら、そうでない場合も「1人1人がCXに貢献できる」とした。担当者のそれぞれがCXを考えていけば、キャラクターの魅力は上がり、それはゲーム体験の向上にもつながっていく。

 それにしても講演中、キャラクターの大事さを訴え続けるサン氏の姿は非常に印象的だった。サン氏は現在どのようなゲームに携わり、どのようなキャラクターをデザインしているのか。それが明かされることはなかったが、どんな作品になるのか今から楽しみだ。Luminous Productionsが開発中であろう作品に、思わず期待を寄せてしまうような講演だった。

このほか、CXを向上させる具体例も挙げられていった。特に強調されたのは、「なんとなくでデザインしてはダメ!」ということ