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「Detroit」、物語の分岐をあえて提示することで可能にする新しいストーリーテリング
シナリオライターによるプレゼンテーション開催
2018年4月23日 23:00
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、メディア向けの「Detroit: Become Human(以下、「Detroit」)」のクリエイターによるメディアプレゼンテーションを開催した。このイベントでは、開発元であるQuantic DreamのCEOであり本作の脚本家/ディレクターを務めるデイビッド・ケイジ氏が、作品のテーマを語った。
そして今回、3時間近くプレイすることで、ゲームの序盤を体験することができた。体験できたゲームの感触と、システムを紹介したい。体験した部分は登場キャラクターの役割がはっきりし、「これからどうなってしまうのか?」というところではあるが、アドベンチャーゲームの性格上、どうしてもネタバレ的記事になってしまうので、注意していただきたい。
プレーヤーが選んだ行動が物語の主張となる。議論や思考を誘発する作品に
「Detroit」は現在から20年後の米国のデトロイトを舞台としたオープンシナリオ・アドベンチャーだ。この時代は人間そっくりなロボット「アンドロイド」が普及し、公共事業から個人の手伝い、ハウスキーピングなど様々な用途で使用されている。アンドロイド達は感情や意志などは「持たないもの」とされ、そういった行動をとる者はプログラム上のバグを持つものとされ、排除される。
一方で優れたアンドロイド達は人間達の職を奪い、社会の不満をぶつけられる存在となっている。人間による虐待、差別も強く描かれ、ショーウィンドウのように飾られ、“もの”と同じような扱いで売買されるシーンや、バスでも乗る場所が厳しく制限されていたり、様々な場面で抑圧される存在として描かれている。彼らが何を思い、どう行動していくのか。プレーヤーは3人のアンドロイドを通じ、考えていくこととなる。
ケイジ氏は、本作は「ネオノワールスリラー」というジャンルの作品となると語った。本作は「アンドロイドの目を通して物語を体験する」ということを重視し、「アンドロイドとなってプレイする」作品となるという。
中心となるのは老画家の世話をするために作られながら革命のリーダーとなっていく「マーカス」。少女の世話をする役割だが、少女を連れて家から逃げ出してしまう「カーラ」、異常行動をとるアンドロイドをとらえる捜査官「コナー」。この3人としてプレーヤーは物語を展開させていく。
ケイジ氏は本作の大きな特徴として「分岐の多さ」を上げた。「私達は本作を作るにあたり、私達がこれまで制作した作品の中で、最も分岐の多い作品にしようと思いました。プレーヤーの選択は物語に影響をもたらします。その違いは表面的なものにとどまらず、大きく異なる違いになります」とケイジ氏は語った。
さらに「ゲームプレイを通じて物語を語る」というところが本作では重要だという。シネマティックなキャラクターの行動や台詞ではなく、プレーヤーが選んだ行動が物語の主張となる。プレーヤーの行動が物語を形作っていくということを見て欲しいという。
こういった要素により、「Detroit」はプレーヤーごとに大きく異なる印象を持つ作品になるという。「そしてこの『Detroit』は単なる娯楽として楽しいものだけではなく、議論や思考を誘発して欲しいと考えています。人によっては現実の問題と関連づける人もいるでしょう。皆さんご自身が本作を体験し、何を感じるか、それが1番重要なことだと、私達は考えています」とケイジ氏は語りかけた。
コナー、マーカス、カーラの3人の視点を通じて語られる物語
ここからはゲームプレイを書いていこう。弊誌でも何度か紹介したコナー捜査官。ビルの屋上で少女を人質に取っているアンドロイドに、コナーが“交渉人”として向き合うシーンはいわばチュートリアルとしてプレイできるようになっている。
「Detroit」はアドベンチャーゲームだ。プレーヤーはキャラクターを様々な場所に移動させ、証拠品などを捜していく。何かインタラクティブなオブジェクトがある場合、マークが表示される。そこに近づき右スティックでものをとったり、調べることで交渉に有利なデータが見つけられる。
しかしあまり調査に時間はかけられない。コナーと犯人アンドロイドの息詰まるシーンはムービーで公開されているので未見の人はぜひ見て欲しい。そして驚かされるのはこのシーンが終わった後、「チャート」が表示されるのだ。「Detroit」はチャプターが終わるごとにこのチャートが表示され、選択しなかった方向での物語の広がりや、結末の数などがわかるようになっている。これを参考に、選択肢を埋めるようなプレイも可能なのだ。
コナーと犯人のシーンが終わると、本作の本当の始まりとなる。カーラがアンドロイドショップから家に引き取られるシーン、マーカスが画家のための絵の具を買いに行くシーンなどを経て、それぞれの物語が始まっていく。プレーヤーは、コナー、マーカス、カーラの3人の視点を通じ、「アンドロイドと人」というテーマへ深く深く切り込んでいくのだ。
各キャラクターの物語そのものは連続しているものの、細かくチャプターに区切られていて、カーラ、マーカス、コナーなど巡回していく。それぞれ場所も時間もばらばらなため、彼らの物語がどう混じり合うか興味深いところだ。
カーラの場合はアンドロイドショップからのスタートになる。アンドロイド一体が数千ドル(数十万円)で買えるということがわかったり、“もの”そのままの扱いを受けていることなどもわかる。そして陳列されているカーラの前に現われるのが、「アリスの父親」である。
だらしない姿をした太った男で、店員との会話から陳列されている自分(カーラ)は、修理され、工場から送り返されてここにいること。自分は「車に轢かれて」ひどく損傷し、メモリーを消される処理をされて再びこの父親に引き取られることがわかる。カーラという名前は、アリスがつけてくれたようだ。
カーラはアリスの待つ家に向かう。男の家はひどい状態だ。床やテーブルはピザのパッケージがうずたかく積み上げられており、床はビールの空き瓶とゴミだらけ、洗濯物は干してあるものをもう1度洗濯をしなくてはいけない状態だ。男は妻に逃げられアリスと2人暮らし、アンドロイドに職を奪われ、ドラッグにおぼれ情緒不安定になっている。
このとき面白いのは、プレーヤーがコントローラで細かく「家事」をするところ。瓶やゴミをゴミ箱に集め、袋に入れ、外の回収ボックスに運んだり、床のモップがけをしたり、こういった作業を右スティックを動かしたり、タッチパッドをこすったりする。ロボットを使った家事の便利さはちょっと憧れてしまうが、確かにこれをロボットがやってくれる世界があったら、人間はどうなってしまうのか、という不安もある。
その中で明らかになってくるのが、父親の悲惨な生活である。仕事もなく、ドラッグにおぼれ、イライラが解消できない彼のフラストレーションは娘のアリスへの虐待に向かう。そのときカーラはどうするか。プレーヤーは選択を迫られる。そして、カーラが発現させる命令違反と、アリスのための行動はプレーヤーの「意志」で行なわれるのだ。プレーヤーの選択の結果だが、今回のプレイで筆者はアリスを救うため父親と戦うことになった。
このアクションはQTEとなっている。初見の筆者はどのボタンを押すかわからず、かなり失敗しながら、なんとか父親からアリスを救い、アリスと共に雨の中家を出て、バスに飛び乗った。この行動のチャートは、父親の前にアリスの部屋に行くなどいくつもの分岐がある。選択によっては力及ばず父親に壊されてしまう場合もあるようだ。それでも物語は続いていくという。
「マーカス」篇では執事ロボットとして老画家カールをフォローする。車いすの老人であるカールを運んで入浴させたり、朝ご飯を用意したり、階段の昇降装置に車いすを運んだり、ここでもリアルな彼らの生活が垣間見える。
マーカスのパートで印象に残るのは彼が街へ買い出しに行くシーンだ。街にはバスの停留所のようなところにアンドロイドが立っている。これはどうやら「フリーアンドロイドステーション」のようで、命令を待つアンドロイド達が立って待っており、利用したいユーザーが自由に使えるようなのだ。また店員アンドロイドとマーカスの「売買取引」はこめかみのランプを明滅するだけでお金のやりとりをしているのが面白い。こういった未来描写も本作では見所である。
カールはアンドロイドに独特の価値観を持っている。カール老人はロボットであるマーカスに自分で考えることを教え、彼に絵まで描かせようとする。それはまるでマーカスの中の何かを目覚めさせようとするかのようである。ケイジ氏によればマーカスは「革命のリーダーになる」ということで、その考えのきっかけが、カール老人のマーカスへの接し方にあるのかもしれない。
カール老人にはろくでなしの息子がいる。息子レオは財産を持つカールにたびたび金をせびる。レオはマーカスに嫉妬している。「俺はこいつのように完璧でなくて悪かったなあ!」。カールと老人の信頼関係は強い嫉妬を生んでいる。そしてその醜い嫉妬が悲劇を呼び込むこととなる。
そしてコナーの道は過酷だ。狂ってしまったアンドロイドを追い詰めるのが彼の任務だ。彼がアンドロイドに対して非情な、人間に対して有益な行動をするとき、画面の右端に「プログラム異常」という表示が出る。それは何なのか、コナーはどうなっていくのか、興味が惹かれる。
コナーは捜査官である。その優れた能力はゲーム性にも表われている。彼は倒れた被害者のデータをとることで、彼が犯人とどうもみ合ったのか、持っていたものをどう落としたかなど、まるで現場をその場で見ていたかのようにデータ化し、動画を再生するように巻き戻し、再現できる。そして様々な手がかりを探し出すのだ。
なめるだけで被害者の血やアンドロイドの体液「ブルーブラッド」を分析でき、アンドロイドのストレスなども計測できる。犯人を捕らえた尋問パートでは相手のストレスを見ながら手順を変えることもできる。コナーの優れた能力は「これぞロボット捜査官」という感じで、アドベンチャーゲームの醍醐味を楽しめる。
そして気になるのがコナーの相棒となるハンクである。彼はアンドロイド嫌いであり、コナーにも冷たい。しかしプレーヤーの選択で彼の中でのコナーへの感情が変化していくのである。この感情の変化は大きく物語に影響を与えそうだ。そして様々な犯人との出会いの中で苦しんで行くであろうコナーどう接していくのか、注目したいところだ。
3時間のプレイは非常に濃密で、書けないことも多かったが、ここはまだ序盤である。ケイジ氏によれば1プレイでまず10時間、そこから様々な選択肢をプレイすれば30時間かかるという。とても濃密なプレイ体験ができそうだ。
今回筆者が1番気になったのが、「チャートを表示すること」だ。ここにこの分岐がある、物語はこう変わるといういわば「ネタバレ」を表示させたのはどうしてだろうか。ケイジ氏は「今回そこは悩んだ部分だ」と語った。彼はこれまでの作品の中で、プレーヤーがコンテンツの一部を見ただけで全部を体験したように感じているところが残念だったという。「まだこんなに話があるんだ」ということを提示したかったとのことだ。
そして「ほとんどの人が選ばない選択肢」もその先があることで選んでもらえる、その先にストーリーがある、ということも提示することで、遊んで欲しかったという。このチャートでプレーヤーは本作の奥深さ、楽しみ方を把握することができる。しかしケイジ氏は、あえて最初のプレイはプレーヤーの心の赴くまま、選択肢を気にせずに、自分で選んだ道を進んで欲しいと語った。
それはプレイすることで実感できる。「抵抗しない/する」、「アンドロイド側に立つ/人間側に立つ」、「命令に従う/従わない」……。こういった決断を経て物語は展開するのである。どのように物語が転がっていくか、プレーヤーの決断は物語にどんな結末をもたらすか、まず、最初は思うままにプレイし、それから本作の“幅”を楽しむのが本作の本当の楽しみ方かもしれない
正直「ロボットと人間」というのも、「差別問題」というのも、古くから繰り返し語られているテーマである。筆者もプレイする前は「ちょっとレガシーな物語じゃないか」と思っている部分があった。しかし、多彩な選択肢、物語の可能性を全て描き、異なる結末、変わっていくテーマをこのように並べることで、1つの物語を越えた楽しみ方、「多重のストーリーテリング」ともいえる本作のアプローチに強い興味が惹かれた。
本作はつまり「パラレルワールドもの」の要素もあるのだ。もしあのときこうしていたらどう変わるか、こういう動きがあると話がここまで変わるのか、など、幅広く、そして想像もつかない「物語り」が可能になるかもしれない。テーマやキャラクターも非常に魅力的な「Detroit」だが、「ストーリーテリング」という手法そのものへの挑戦も、見逃せないところだと思う。
©Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.
©2016 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.
画面は開発中のものであり、最終仕様とは異なる場合があります。