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【開発者インタビュー】スタッフ一丸で作る「ハースストーン」カードパックの完成度
機能とストーリーの一貫性で魅せる「妖の森 ウィッチウッド」の秘密
2018年4月14日 22:38
Blizzard Entertainmentが配信するPC/Android/iOS用対戦型カードゲーム「ハースストーン」において、新カードパック「妖の森 ウィッチウッド」が4月13日に配信された。
4月14日には「妖の森 ウィッチウッド」の配信を記念したファンイベントが開催され、イベントに合わせてBlizzard Entertainmentよりアートディレクターのベン・トンプソン氏、アソシエイト・ファイナル・デザイナーのステファン・チャン氏が来日。両氏からは「妖の森 ウィッチウッド」のポイントや背景となるストーリーなどが語られた。
プレゼンテーションなどの模様は別記事|にてご紹介しているが、この内容を聞いていて改めて感じたのは、「妖の森 ウィッチウッド」が土台としているストーリーや世界観と、実際に落とし込まれたカードの機能が見事にマッチしているということだ。
両氏からは、「妖の森 ウィッチウッド」では「侵略する魔女 VS 抵抗する狼人間」がテーマになっているという話があった。中でも特に面白かったのは「偶数コストのカード」に狼人間を象徴させ、「奇数コストのカード」に魔女が操る生物を象徴させているという点。今回の目玉には、デッキに偶数/奇数コストのカードのみを入れることでヒーローパワーが強化される「ゲン・グレイメイン」、「月を食らうものバク」というレジェンドカードがあり、どちらも強力なデッキを構成する鍵となっている。
もちろんあらゆるデッキが考えられるが、もし偶数カードを率いた「ゲン・グレイメイン」デッキと奇数カードを率いた「月を食らうものバク」が対戦するならば、狼人間軍団と魔女軍団がぶつかり合う「妖の森 ウィッチウッド」のストーリーをまさに対戦画面上で再現することになる。
魅力的なストーリーを語り、新要素との一貫性を持たせ、あらゆるバランスを考慮しながら何よりゲームを面白く刷新していく。この完成度の高さが「ハースストーン」の魅力だと改めて気付かされたプレゼンテーションだった。今回はイベントに登壇した両氏に「妖の森 ウィッチウッド」についてインタビューできた。「妖の森 ウィッチウッド」の最新情報と合わせて、その辺りの秘密も少しだけうかがってきたのでぜひお読みいただきたい。
開発初期からアート、性能デザインの両方を作り込む
――まずは「妖の森 ウィッチウッド」のリリースおめでとうございます。今回はリリース前から徐々にカードの内容を公開されていましたが、プレーヤーの反応はいかがでしたか。
トンプソン氏: ありがとうございます。確かに今回はシーズン中に少しずつカードの内容を明かしてきて、みなさんからのフィードバックを色々といただきました。ぜんぶのカードを1度オープンにしたことで、プレーヤーの方々が、どうクリエイティブにデッキを作っていくかが見られました。それが1番楽しかったですね。
今は実際にリリースされて、プレーヤーの方々は「妖の森 ウィッチウッド」を色々と探求されているところだと思います。しかしもうすでに素晴らしいセット作り、デッキも登場しています。多くの方々に楽しんでいただけて嬉しく思います。
――実際プレイしてみると、「月を食らうものバク」と「ゲン・グレイメイン」がとても強力に思います。これはやはり狙い通りなのでしょうか。
チャン氏: もともとのアイデアというのは、新しいデッキ作りが好きなプレーヤーに対して、何か作ろうと思って取り組んだんです。
トンプソン氏: バクとゲンを使おうと思うプレーヤーは、難しい判断が求められます。今まで持っていたカードの半分は使えなくなるわけです。その代りとして、私たちは非常に強い、ヒーローパワーの強化というパワフルな能力をこの2つのカードに付与しました。
――私はまだこの2つのカードを持っていないのですが、あまりに強いのでバクやゲンが出てきた瞬間に心が折れそうになります……。
トンプソン氏: ハハハ(笑)。ただ、相手がバクやゲンを持っているというのをヒントとすれば、全カードの半分は使えないということです。だからこそ色々手を打つことができると思うので、めげずにプレイするといいと思います。
――参考になります! 他にプレーヤーに注目されていると感じるカードはありますか。
チャン氏: プリーストのレジェンドミニオン「カメレオス」です。手札にある時に、毎ターン相手の手札1枚に変身するというカードですが、プレーヤー自身のプレイ能力をテストするようなカードとも言えます。相手の手の内を知るために使うのか、相手の手札を利用するパワフルなカードとして使うのか、色々とやり方があります。
もう1つは「アッシュモア伯爵夫人」ですね。場に出すと、自分のデッキから「急襲」、「生命奪取」、「断末魔」を持つカードをそれぞれ1枚ずつ引いてくるカードです。強力で、とても注目されています。
――今回改めて素晴らしいなと感じたのは、ストーリーとカード機能の一貫性です。バクとゲンのデッキが対戦すると、まさに「妖の森 ウィッチウッド」のストーリーと同じ状況になりますよね。それに気づいて、とても美しいカードパックだと思いました。
トンプソン氏: そのように感じていただけて非常に嬉しいです。
――こうしたアイデアはどのように組み立てているのでしょうか。
トンプソン氏: 開発のよりはやい段階で、アートチームとゲームザインチームが一緒に仕事をしているからだと思います。我々Blizzardの中で段々と浸透してきたことで、その表われではないでしょうか。ゲームのデザイナーがメカニクスや1つ1つのカードを作り込んでいる時から、我々アートチームが全体のセットに対してのビジュアルに携われるようになっているということですね。これが大事な鍵です。ですからどの拡張版のセットでもアートとデザインが融合して、世界観がしっかり作り込まれているのです。それはカードアートや機能面のデザインだけでなく、ビジュアルエフェクトや、カードごとのボイスといったカードパック全体に反映されています。
――アイデアが生まれたとしても、バランスを取るのはものすごく大変だと思います。特に今回は新しい「ワタリガラス年」の始まりで、2016年にリリースされた3つのカードパックがスタンダードでは使えなくなりました。どのように調整したのでしょうか。
チャン氏: チームワークも大事なことの1つですが、現状の把握も大事です。カードセットのデザインをしている際、常にその時の状況がどうなっているかは知るようにしています。加えて、「妖の森 ウィッチウッド」をリリースしたら、その時の環境がどのように影響を受けて変わっていくかについても確認しながら決めていきます。
そしてバランスの調整で重要な過程がプレイテストです。私自身の開発チームはもちろん毎日プレイテストしていますし、「ハースストーン」のチーム全員が毎週テストしています。このテストのフィードバックがとても重要なのです。それぞれの意見を反映して、バランスの調整に取り組んでいきます。
――ちなみにですが、「妖の森 ウィッチウッド」でのお気に入りのデッキやカードはありますか。
チャン氏: 私の1番のお気に入りのカードは「テス・グレイメイン」です。彼女は「ゲン・グレイメイン」の娘です。私は本当に「盗人ローグ」のスタイルが好みで、今回のエキシビションマッチでもファンの方と対戦する時にあえて「テス・グレイメイン」を選んでいました。プレーヤーの好みに合わせて、「ハースストーン」では多くのデッキを作れるのが気に入っています。
「ワタリガラス年」は驚きで溢れた年にしたい!
――少し話を変えて、「ソロ・アドベンチャー」モードについてお聞かせください。まず「妖の森 ウィッチウッド」でリリースを控える「怪物狩り」のポイントはどこでしょうか。
トンプソン氏: 「怪物狩り」は、「コボルトと秘宝の迷宮」での「ダンジョン攻略」と似ているところがあります。40以上のモンスターが登場するところ、クリアごとにデッキを構築するところ、毎回違う体験になるようなところもそうですね。ただ違うところは、ヒーローを普段の9つのクラスから選ぶのではなく、特別な4人の“モンスターハンター”から選ぶことです。この4人のハンターはすでにカードとしてもプレイできますが、「怪物狩り」の中ではまったく異なるパワーを持っています。「怪物狩り」が始まる時には、無料のカードパックもプレゼントされますよ。
――「ソロ・アドベンチャー」としては、「コボルトと秘宝の迷宮」から内容がガラッと変わりましたよね。ここを変えた理由を教えてください。
トンプソン氏: 我々が各セットを開発する際、心がけているのは1つ1つのカードパックがまったく違う印象、まったく違う行動ができるところです。ソロモードでのミッションコンテンツは、その方が「ハースストーン」のストーリーをよりよく伝えられるだろうと思って入れています。ですから、コンテンツそのものが、カードパックの内容に寄り添った形になっているのです。ストーリーに寄り添うことが目的なので、「コボルトと秘宝の迷宮」であれば「ダンジョン」がぴったりだと思いましたし、「凍てつく玉座の騎士団」であれば順番に攻略する方式にするのがぴったりだと思いました。背景のストーリーをプレーヤーに体験いただける最高のものがこの「ソロ・アドベンチャー」モードだと思っておりますので、カードパックの内容に合ったミッションにしているのです。
――次のカードパックになったら、まったく違うコンテンツになる可能性もあるということですね。
トンプソン氏: それを決めるのは、どういったセットとストーリーにするかによります。ダンジョン式にするか、順番式にするか、また新しいものを作るのか。その時になって決めていくと思います。
――ところで「ダンジョン攻略」から、難易度がぐんと上がったような気がするのですが……。
トンプソン氏: そうですか(笑)。確かに「ハースストーン」は、みなさんに対してのゲーム作りを心がけています。ですから異なる体験をあえてゲームの中にも入れ込むようにしていますね。
――本日のイベントはいかがでしたか。
トンプソン氏: このような日本のファンの情熱を体感することができたのはある意味で驚きでもありましたし、非常に心温まる経験をさせてもらいました。今回のカードパックだけでなく、「ハースストーン」そのものが日本のファンに愛されていることの証だと思います。
――この「ワタリガラス年」は、どのような1年にしていきたいでしょうか。
トンプソン氏: 良い質問ですね。ぜひ「ワタリガラス年」が、プレーヤーにとっても我々にとっても常に驚きで溢れた年であってほしいと願っています。そういう経験を積むことで、私たち自身が作品作りに緊張感をもって取り組めると思いますし、「ハースストーン」熱がこの先より上がっていくと思います。
チャン氏: 私としては、今年もさらに「ハースストーン」のストーリーを伝えられればと思っております。もちろん「妖の森 ウィッチウッド」もそうです。多くのストーリーラインが「ハースストーン」の中にはありますので、それをきちんと伝えて、新しいセットをみなさんに紹介し、加えて新しいメカニクスも紹介したいと思います。
――これからも楽しみにしています。ありがとうございました!