2017年10月13日 00:00
「シャドウ・オブ・モルドール」がパワーアップし「シャドウ・オブ・ウォー」となって帰ってくる! 2017年のE3で筆者はその興奮をかみしめていた。前作である「シャドウ・オブ・モルドール」は「ファンタジー世界の戦争」をテーマにこれまでにないゲーム性を盛り込んだ作品で、海外のゲーム制作者に高く評価され、GDC2015で「Game of the Year」を受賞した。
本作「シャドウ・オブ・ウォー」はオークの性格付けや特性、そしてクライマックスである“攻城戦”を大きくパワーアップさせた作品なのだ。オークは個性豊かで、特性や弱点などゲーム的な要素だけでなく、性格や言動まで細かく設定され“兵士”としての個性が増した。彼らを率いての大戦争は、格別な楽しさがある。
「シャドウ・オブ・ウォー」は「指輪物語」の物語世界の“外伝”として綿密に作り込んでいる作品だが、作品の知識がなくても楽しめ、深くやり込めるゲーム性を持っている。優秀なアクションゲーム、シミュレーションゲームがそうであるように「ずっとやり込める」ゲーム性を実現している。レビューでは本作の魅力を紹介していきたい。
闇の国でタリオンが再び立ち上がる。滅び行くミナス・イシルを救えるか!?
「シャドウ・オブ・ウォー」は、「ホビット(ホビットの冒険)」と「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)」の間の物語だ。主人公はレンジャーのタリオン。彼は冥王・サウロンの復活を監視していたが、冥王軍の襲撃に遭い、妻や子を目の前で殺され、自身もサウロンの配下である“黒の手”に呪いをかけられてしまう。
タリオンは呪いにより記憶喪失のエルフの幽鬼と結びつけられ、死んでも蘇る呪われた存在になってしまった。しかしタリオンはこの力と、蘇るエルフの記憶を使い復讐を決意する。彼は幽鬼の力を使いオークを支配下に置き、軍勢を率いて黒の手を追い詰める……というのが前作「シャドウ・オブ・モルドール」のあらすじである。「シャドウ・オブ・ウォー」では記憶を取り戻したエルフ“ケレブリンボール”が“指輪”を作るシーンから物語は始まる。
そう、ケレブリンボールはかつてサウロンと共に「力の指輪」を作ったエルフだったのだ。彼はエルフや人間、ドワーフに力を与えるために指輪を作ったのだが、サウロンはそれらを支配する「1つの指輪」を作り、大きな戦争を起こした。今作でついにサウロンが復活。ケレブリンボールとタリオンは新たに作りだした指輪の力で、サウロンを倒すために活動を開始する。
「シャドウ・オブ・ウォー」は前作のゲーム性を引き継ぎ、様々なポイントをパワーアップしている。本作は非常に複雑なシステムを持った作品だが、長めのチュートリアルとその後も広大なモルドールでの攻防が用意されており、非常にボリュームのある作品で、たっぷりと“闇の軍勢の戦争”を楽しめる作品となっている。
チュートリアルに当たる序盤部分では「ミナス・イシル(月の出の塔)」という都市を防衛する物語が展開する。イナゴのように襲いかかってくるオークに人間達は追い詰められていく。タリオンはこのオークの勢いを食い止めようと奮戦するが、敵の数はあまりに多く、そして戦いは厳しい。
このミナス・イシルの攻防戦は映画「ロード・オブ・ザ・リング」の大きな山場となるシーン、ローハンとミナス・ティリスの攻防戦を思わせる。“盾の乙女”と呼ばれるミナス・イシルの副隊長イドリルは映画で印象的なヒロインの1人エオウィンをイメージさせるキャラクターとなっており、原作ファンの心に強く訴えかけるものとなっている。
物語の鍵を握る蜘蛛の怪物であるシェロブは本作では妖艶な美女の姿で登場する。彼女はサウロンと深い繋がりを持つ人物で、強い恨みを持っている。ステージには「シェロブの記憶」という収集要素があり、語られなかった物語のバックボーンが描かれる。それは映画よりもずっとずっと前の時代の物語であり、こちらも非常に興味深い。
もう1つ、本作は音声も日本語吹き替えであり、声優陣の熱演も注目である。特にゴラム(ゴクリ)を映画と同じくチョーさんが演じているところが筆者にはグッときた。各地で入手できるゴンドールの宝物の解説をイドリルがしてくれるところも聞き応えがある。そしてオーク達のエキセントリックなセリフの数々を声優がノリノリで演じてくれるのがたまらない。
「シャドウ・オブ・ウォー」は原作を知らなくても楽しめるが、「ロード・オブ・ザ・リング」の時代ではミナス・イシルはすでに陥落し、ミナス・モルグルになっている。ゲームでその顛末が描かれたり、様々な要素でこの世界を掘り下げており、原作への興味をかき立てるものとなっている。
もちろんアクションゲーマー、シミュレーションゲーマーにグッとくるゲーム性の高さも大きな魅力だ。ただ、複雑なゲーム性を持つ作品だけに本作の大きなウリである「オークの軍勢を率いて城を攻める」という要素は10時間程度プレイしないと到達できないが、その後はいくつもの地域で戦う事ができる。敵を総崩れにさせてから攻め込むもよし、あえて厳しい道を進むもよし。様々なことを楽しみたくなるだろう。さらにオンライン要素もあるのだ。次の章からはこのゲーム性を掘り下げていきたい。
個性豊かなオーク達を従わせ、最強の軍隊を作り出せ
「シャドウ・オブ・ウォー」の冒険の地モルドールはオークの厳しい階級制度で支配されている。おびただしい数の一般兵、それらをまとめる「小隊長」、そして砦を防衛する「軍団長」、砦を支配する「首領」がいる。タリオンは新たな指輪の力を使ってオークを従属させ、反乱させる軍を創り出す。
小隊長は非常に強力で一筋縄ではいかない。しかも周囲にいるおびただしいオーク全てが敵であり、正面からの正攻法では倒すのすら難しい。そこでまず必要なのが“虫”と呼ばれるオークだ。彼らは頭上に緑のマークがあって、彼らを従属させることで小隊長の情報が得られる。強さや特殊能力だけでなく、弱点もわかる。
小隊長の情報を得たら彼らに対応したクエストに挑戦する、もしくは直接彼らを探し出し戦いを挑んでもいい。クエストの場合は小隊長同士が戦っていたり、何らかのイベントがおき、狙う隙が作りやすくなる。戦ってるところに介入し2匹のオークを仕留めるということすら可能だ。
襲う場合は「致命的な弱点」を持ったオークから始めるのが有効だ。また凶暴な獣カラゴルを捕まえた檻や、彼らを呼び寄せる肉片があったり、巨大生物グラウグを引きつける肉塊があったりするこれらを使い混乱を起こし、それに乗じて小隊長を攻撃することも可能だ。
小隊長は弱った場合自軍に従属させることができる。対象のオークが自分よりレベルが低い場合のみ可能なので、「恥をかかせる」ことでレベルを下げることも有効になる。従属させた小隊長は軍団長の下につけ、土壇場で裏切らせるのも有効だ。また他の小隊長を襲わせたり、自分の護衛につけ、いざというときに呼び出すこともできる。
こうして地域内の小隊長をある程度従属させれば砦に攻め入ることが可能となる。その際は選んだ小隊長を「支持者」として一緒に攻め込むことができる。支持者には強力なオークやカラゴル、さらには攻城兵器を積んだ巨大な怪物「シージビースト」をつけることができる。この軍団のカスタマイズと、敵の防御兵器のせめぎ合いが「シャドウ・オブ・ウォー」の最も面白いところである。
敵もまた軍団長が生きていればシージビーストや様々な特殊なオークを使って防衛してくる。このため、事前のミッションで軍団長を倒してしまうのが有効だ。ただ、敵を倒しすぎ、こちらが有利になってしまい過ぎるとちょっと歯ごたえが足りない場合もあった。このバランスはぜひ考え、迫力の合戦シーンを演出したいものだ。
タリオンのレベルが上がると、参加できる軍団長も増え、軍も多彩になる。敵は非常に強力でこちらが有利になっていないと味方が倒されかなり不利になる。時には倒れた味方を復活させ、うまく集団を率いて進軍していきたい。弓兵や盾を持った兵士、投げやりの兵士などオークは多彩であり、これに火炎弾や毒液を発射するシージビースト、騎兵のようにカラゴルに乗る兵士や、強力なグラウグ、さらには空を飛ぶドレイクまでも戦場で活用でき、これらが交差する戦場は非常に派手だ。
さらに「シャドウ・オブ・ウォー」にはオンライン要素がある。今回は発売前のため体験できなかったが、オンラインで他のプレーヤーの砦と戦えるのだ。このオンライン対戦はリアルタイムではなく、ユーザーが設定したオークの兵士が配置された砦に、自軍を率いて戦う事になる。ゲームのステージの枠を超えた「終わりなき戦い」が楽しめるのだ。こちらは発売後ぜひ体験してみたいところだ。
装備や宝石でさらなるパワーアップが可能。スキルも豊富に
そしてタリオンのパワーアップ要素も豊富になった。タリオンは剣、短剣(折れた剣)、弓、鎧、ローブ、指輪を装備でき、これらは倒した小隊長がドロップする。レジェンド、エピックと言ったランクがあり、「毒状態の敵にヘッドショットを決める」といった指定された条件をクリアすることでパワーアップする。
小隊長がよりよいアイテムをドロップする方法の1つは……タリオンを“殺させる”ことである。タリオンを殺したオークは仲間達からの評判が上がり、レベルアップする。このオークに“復讐”することでよりよいアイテムを手に入れるのだ。
もう1つが“虫”を通じて小隊長に「死の宣告」を届けること。これにより小隊長のドロップアイテムのランクが上がる。また良いアイテムを持っている小隊長は軍団メニューでも表示されるので、彼らと戦う場合はあえて仲間にせず倒す、という手もある。
装備には「宝石」がセットできる。この宝石も新要素だ。一般のオークの中には虫だけで亡く頭上に白いマークのついたオークがいる。彼らを倒すことで宝石が得られるのだ。宝石は「富」、「生命力」、「戦士」の3種類があり、3つの宝石を合成することでより上位の宝石にアップグレードしていく。より強力な宝石にするには膨大な数の宝石が必要となる。
特に面白いと感じたのは指輪のスロットだ。富の宝石を入れると支配した小隊長のレベルが上がり、味方としてパワーアップできる。戦士の宝石は支持者のダメージをあげ、生命力なら受けるダメージが低減される。攻城戦の時は指輪の宝石を付け替えるのが良いだろう。他にも鎧にも戦士をつけてダメージを底上げするなど様々なカスタマイズが可能だ。
タリオンのスキルも非常に豊富で目移りするほどだ。強力な攻撃に炎や毒を付与するなど属性も増え、戦略性が増している。カラゴルやグラウグをうまく活用したり、連続して敵をドレインするなど、もっともっとうまくなればさらに戦いの効率を上げて行けそうである。空中から矢を射ることが可能になったり、ドレイクを乗りこなしたりと、戦略の幅も広がっている。これらをいかに活用していけるか、ゲームをさらにやりこみ、どこまでもタリオンを強くし、「シャドウ・オブ・ウォー」の“奥深さ”を堪能したくなる。
どこまでもやり込めるボリューム。モルドール全土で戦え!
「シャドウ・オブ・ウォー」は、重厚な「ロード・オブ・ザ・リング」の世界を舞台に、凝りに凝ったオークとの戦争システムが魅力であるが、その分本シリーズを未体験な人にはハードルが高いと感じられるかもしれない。しかし本作は原作ファンや、前作のファンに限定されない幅広い魅力を持っている作品である。
闇の軍勢を率いる資料と一体化した男、というところはダークヒーローの雰囲気たっぷりだし、例え自身は暗黒の力を使う存在となっても、仲間のために戦うミナス・イシルの人々に手を貸してしまう情の厚さも好感が持てる。彼らの物語がどうなっていくか、というのもゲームを進めていく重要な要素だ。
また極めて可燃性が強い酒グロックを飲み、飽くことない上昇志向に身を焦がし、同族同士の闘争と裏切りを繰り返す弱肉強食のオーク文化も極めて面白い。彼らとのドラマはランダム性も高い。オークの中には何度倒しても蘇ってくる存在までいるのだ。不死の存在という意味ではタリオンがそうなのだが、復活したオークと出会う不気味な感じは本当に怖い。殺したはずのタリオンが目の前に現れるというオークの気持ちに共感できる要素だ。
オークには相性がある。炎が弱いオークに、火を使う味方のオークをけしかけるなど、オークに思い入れが生まれる。強いオークと戦うために有利なオークをボディガードにするなど組み合わせていくのも楽しい。攻城戦用にオークをリクルートしたり、彼らのミッションに協力しパワーアップさせると言うこともできる。「オークとのドラマ」こそが本作の大きな魅力である。
そしてくり返しになるがボリュームこそが本作の最大の魅力だ。オンラインで他のプレーヤーの砦に挑戦できることも含めればまさに「終わりなき戦い」を楽しむことができる。攻城戦用により優秀なオーク、そして装備を集めるなどやりこみもいくらでもできる。
個人的にはGDCでクリエイター達が前作を評価したのは、本作のシステムの将来性だと思っている。本作のゲームシステム「ネメシスシステム」は、今後他のゲームにも取り入れられていくのではないかという予感がある。ランダムで構成される小隊長の能力を自軍に引き入れ、攻城戦でぶつけ合うという楽しさは、今後の“戦争”を扱うゲームに影響をもたらしていくだろう。このユニークなゲーム体験は、ぜひ味わって欲しい。
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