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【特別企画】順当に第2世代に進化したHTC「Vive Pro」は今度こそ“買い”なのか

CES 2018でケーブルレス&高解像度化した新VR HMDの実力とは!?

1月7日~1月12日開催

会場:Las Vegas Convention Center(アメリカ、ラスベガス)

Viveコントローラやトラッカーで作られたViveロゴ

 CES2018会期中の1月8日の14時ごろ、CES会場のひとつであるWynn HotelでNVIDIAの内覧会を取材しているとき、NVIDIAのスタッフがツイッターからニュースを拾っていた。彼は少し声のトーンを上げて同僚に声をかけた。「お、HTCがViveの解像度を高めた新ハードを出すんだって」。

 そう、2016年のCESで大々的にプロモーションを展開したコンシューマVR HMDの第1世代機である「HTC Vive」が「Vive Pro」となってバージョンアップするのだ。幸運なことに、15分前に偶然通りかかったHTCの内覧会場で、飛び込みアポイントを済ませていた筆者は、それから3日の間、はやる気持ちを抑えて待ち続け、11日の午後にようやく「Vive Pro」と対面することができた。

 限られた時間、限られたコンテンツの展示ではあったが、早速、新生「Vive Pro」のファーストインプレッションをお伝えしていきたい。

【HTC VIVE Announces the VIVE Pro - CES 2018】

ライバルに差をつけた「Vive Pro」を選択しない理由はない

「Vive Pro」の外観。今回も各種アワードに輝いている

 VR HMD第1世代を敢えて見送ったゲーマーにとって、この「Vive Pro」は“買い”なのか。結論を先に言うと、販売価格次第では購入に踏み切ってもいいのではないかと思う。「Vive」から約2年が経ち、コンテンツの充実が著しい今、PCゲーマーなら、Oculus「Rift」との間で、非常にわかりやすい差別化がなされた「Vive Pro」を選択しない理由はないように思う。コンシューマ向けのVR HMDが、どんどん馬群に沈んでいる昨今、たとえ商業的に成功とは言えなくても、HTCは継続してVRに投資していく覚悟の証として「Vive Pro」を示してくれている。

 現時点で「Vive Pro」の発売時期と価格は未定だ。これが現在の「Vive」の価格と同額の84,110円前後に「Vive Pro」の価格が設定されて、現行の「Vive」が59,800円に値下げされて併売という価格戦略が取られるとすると、両製品ともに相対的な割安感が出て、大いに購買意欲を刺戟するだろう。加えて、発売当初3カ月~6カ月程度、別売りとなってしまった「VIVE Wireless Adapter」とセットで89,800円あたりに設定されると、これはもう買うなら今しかないな、という気分にさせてくれるに違いない。

頭頂部にYの字に付加されているのが「Vive Wireless Adapter」写真のように「Vive」にも対応する

 筆者が“買い”だと判断した1番の理由は、むしろ別売りとされてしまったケーブルレス化キット「Vive Wireless Adapter」(以下「Vive WA」)の方にある。この「Vive WA」導入のおかげで、「Vive」最大の弱点がクリアされる。今までは“紐付き”だったせいでケーブルさばきに気を取られてしまい、どうしても没入感を阻害されてしまう嫌いがあった。本来の空間内を自由に動き回れるというルームスケールVRのメリットがスポイルされてきたのだ。この「Vive WA」は、従来機「Vive」にも追加できるから、今回の製品拡充は既存ユーザーにもメリットがある。

【Vive Wireless Adapter】
トランスミッター部はベースステーション同様高所に設置する
トランスミッターにはPCから有線での給電とHDMI接続ケーブルの取り回しが必要

 ワイヤレスの使用感には、従来の環境と比較して、まさに天と地ほどの差がある。没入感が格段に増しているため、VR空間の認識限界をユーザーにフィードバックするソフト側の措置が甘いと、以前にも増して、思わず現実世界の壁に突進したり、腕をぶつけたりといったハプニングが起きてしまいそうだ。

 というのも、HMDを固定するベルトやクッション、加重位置や重心配分が見直されたこともあってか、「Vive WA」を追加しても、ほとんど重量の増加を感じないのだ。HMDの頭頂部に設置するのは映像信号の受信機本体部分だけで、HMDや「Vive WA」への給電を担うバッテリー部分は、ポケット内やベルトに引っ掛けてしまいこむ。バッテリー部分は、スリムタイプの大容量モバイルバッテリーくらいのサイズ感だから、上着でもズボンのポケットでもすっきりと収まってくれる。ちょうど放送やイベント会場で使用するワイヤレスマイクのトランスミッターの装着イメージで、給電ケーブルを後ろから洋服背中を通してズボンの後ポケットにバッテリーをしまいこむのが良さそうだ。

 送信機側は、「Vive WA」があくまで別オプションであるため、ルームスケールの対角に設置するベースステーションとは別に設置しなければならないが、両者が干渉することはないから、スタンドで中空に設置している場合、一方のスタンドにクランプをかませるなり、ベースステーションの上部に両面テープで止めるなりして設置しても問題なさそうだ。

外界を遮断するクッションが肉厚になり、装着もノブを回転させるだけ快適になった

 そして“買い”の2番目の理由は、解像度向上による高精細化だ。「Vive」と「Vive Pro」のFoVに差はなく、むしろ画面サイズは0.1インチ小さくなっているから、解像度の増加以上にppiが増加している。同一FoVを達成していることから、凸レンズによる光学的な拡大率に変更が加えられていることになる。この0.1インチの差異は、パネル調達コストありきのものだと思われるが、高精細化が圧倒的に勝っていることから、拡大率の増加はまったく気にならない。

 カタログスペックのppi37%増ピクセル数78%増という数字だけを見ると、その程度のほどは今ひとつピンとこないが、体感してみるとその差は歴然としている。内覧会場でも最初に体感すべきものとして、空間内のインフォメーションスポットにワープするとテキストウィンドウがポップするだけのデモを、わざわざ見せていたのもうなずける。

 オリジナルの「Vive」の解像度は片目あたり1,080×1,200ドットと、Oculus「Rift」と同じでPSVRの960×1,080ドットを上回るものだった。それを1,440×1,600ドットに引き上げてきたのだから、ライバル勢を大きく引き離したと言っていいだろう。ハードウェア性能だけを見ると「Vive Pro」を選択しない理由は何もない。

前面中央には2つのカメラがセットされており視差を利用した測距が可能に

 3つ目の理由は、新たに搭載されたステレオカメラセンサーの存在だ。ステレオカメラセンサーは「Vive Pro」前面に取り付けられた2個のカメラの“視差”を利用するもので、このわずか数センチの設置位置の差によって、撮像した物体までの距離がわかる。基本的な原理は、人間の立体感や距離感の認識と同じものだが、センサーで機械的に測距しているため、人間のざっくりとした感覚とは異なり、センサー精度に応じて正確な距離を計測することができる。

 ステレオカメラセンサーついて詳しいことは明らかにされていないが、いわゆる3D立体写真やムービーの撮影ができたり、外界空間のZ深度がわかると考えられ、この一点のみについて、「Vive Pro」は「Vive」とは大きく異なる。「Vive Pro」は、ビデオシースルー型AR HMDとなったのだ。

 ステレオカメラセンサーによって、外界のリアルタイムイメージを取り込みつつ、PCで作り出したCGと合成し、しかも正しく遮蔽を処理するAR/MR空間の実現ができるはずだ。また、動体の位置や回転の認識にも活用可能だと思われ、既存の「Vive Tracker」を使った動体認識とは別の仕組みが提供される可能性がある。マーカーなどのヒントがあったほうが正確で高速な処理が可能になるとは思うが、近年はマーカーレスの技術も進んでいるため、コンシューマ機として、ユーザーに負担の少ない形のソフトウェアが提案されるかもしれない。

 「Vive Pro」が完全に「Vive」の機能をカバーした上位互換であるのに対して、ステレオカメラセンサーの機能をフル活用したコンテンツを製作した場合、下位互換性は失われ「Vive」をもサポートすることはできない。

 「Vive」は、Canalysのリサーチによると、2017年3Qの販売台数は20万台程度にとどまっているとみられることから、「Vive」をもカバーして少しでも広いマーケットに対してコンテンツを供給するのが得策なのか、あるいは、現状の増加ペースが20万程度なのだから「Vive」ユーザーを切り捨てて、「Vive Pro」専用コンテンツとして新しい体験を訴求したほうが得策なのか、コンテンツ供給側も難しい判断を迫られそうだ。

存在感を増すトレーニング環境としての「Vive」

CXC Simulationsのドライブシミュレータ

 会場内の各VR体験ブースのうち、最も目を引いたのは、フォーミュラーカーのドライブシミュレータだ。やはりこういったイベントの場では、物理的に大きな入力デバイスは目立つし華がある。

 筆者も早速プレイしてみた。CXC Simulationsのシミュレータには、コクピットの前後左右移動と傾斜に加え、シートベルトを締め付けて加速感やブレーキングと慣性が相克するさまを演出する。

 かれこれ20年近くまともに車を運転していないばかりか、この手のライド型のVRシミューレーターは初体験であったこともあって、かなりグダグダのドライブになってしまい恥ずかしい走行だったのだろうが、幸か不幸かVR HMDを装着していると、周囲で見ている人の反応が気にならない。

 シリアスな産業用のトレーニング用シミュレータの体験ブースもあった。フォークリフトの操作学習用シミュレータでは、もうほんとうに真面目に操作の習得に励むことができる。技術的に他のブースと異なっていたのは、HMD前面に取り付けられていたセンサーによる、シミュレーション体験者自身の手の動きをキャプチャしてVR世界にリアルタイムフィードバックする機能で、マーカーやグローブなしに手の位置の変化や指の関節の動きが取得できる。

 今回は、別途サードパーティ製のセンサーを使用していたが、これと同様のことが「Vive Pro」単体でも可能になると思うと、夢が広がる。

【RAYMONDのフォクリフトトレーニング】

 さらにもっとシリアスなトレーニング環境のデモも存在した。外科医療の体験シミュレーションで、その内容から医学生となったごく初期の段階で医療現場の雰囲気をつかむために使用したり、小中学生に医者という職業を体験させて漠然とした将来の進路イメージを持たせたりといった用途に役立つ。

 実際に体験してみると、ちょっと世界の分解能が不足していて、どうにもお芝居感というか、作り物感が払拭できていないのだが、それでも患者にカテーテルを挿入する段取りは本格的だ。ブースにアテンドしている担当者がチューターとなり、彼の指示に従って、消毒、メスでの切開、注射針の刺突、カテーテールの挿入といった外科手術の過程を繰り返す。

 突然、注射針から血が吹き出したときには、視覚的にそれほどリアルではないのに、わずかながら動揺して眉をしかめてしまった。シューターでクリーチャーを撃ったときのほうが、よほど血がドバドバでているわけだが、その際は敵を倒したときの記号とか認識しておらず、血が出ているという意識はない。状況が人間に与える心理的な効果を、改めて認識させられた。

 これらのシリアスなシミュレータからは、何かに気を取られては危険だったり、本番でしっかりと本来の力を発揮できないと困る作業には、HMDを装着した閉鎖世界でのトレーニングがむしろプラスに働くことを実感できた。

【SimforHealthの医療トレーニング】

 一方で、本内覧会がエンドユーザーをターゲットにしたものではなかったせいもあるだろうが、率直に言って、ゲームコンテンツの存在感がかなり希薄だった。純然たるゲームとしてデモを行っていたのは、伝統のシューター「Doom VFR」のみで、純粋なゲームプラットフォームとしての訴求だけでは、普及が伸び悩んでいることを暗示しているように感じられた。

【DOOM VFR - E3 2017 Reveal Trailer】

「Doom VFR」は台湾から訪れたHTCの取引先ビジネスマンにも人気

 「Doom」はVRになってもやはり「Doom」で、確かに楽しいのだが、「Doom」以上でも「Doom」以下でもないわけで、シューターというジャンルは、ソロプレイでは世界観を楽しむゲームなのだなと思う。強いて言えば、従来のような移動に加えて、伝統の「Doom」にまでVR定番の異動先を放物線状に伸ばしたレーザーポインタで指してそこに瞬間移動するという操作が採用されていたことに驚いた。

 誰にでも簡単でVR酔いが起こりにくいとされる操作だが、空間内での自分の位置の把握が困難になるという弱点もある。また、物理的な移動には時間がかかり、その道程には阻害要因があることを前提にしたゲームデザインを無効化してしまう。

 さらに付け加えるなら、新作なら世界設定でカバーできる問題ではあるが、全員フラッシュ、全員クイックシルバー、全員ドラゴンボールの登場人物状態が、何の説明もなしに当たり前なのには激しく違和感を覚えた。「Doom」よ、それでいいのか。

 ちなみに筆者が会場を訪れたとき、1番人を集めていたのが、海外ラノベ「Ready Player One」(邦題「ゲームウォーズ」)の同名VR化タイトルだった。なかなか空かないので、しばらく見ているほかなかったのだが、サバイバルアドベンチャーのように感じられた。これが3月に公開されるスピルバーグ監督作の同名映画のプロモ目的の一時的なコンテンツなのか、それとも同一世界観に根ざした独立したコンテンツとして継続して配信されるものなのかはわからなかった。本コンテンツのオフィシャルな動画は公開されていないため、映画のトレーラーとユーザーの体験動画のなかで1番再生回数の多いものを引用しておきたい。

【READY PLAYER ONE - Official Trailer 1 [HD]】

【Aech's Garage VR Experience Ready Player One】

 あの「セカンドライフ」を運営していたLinden Labが開発に参画しており、ベータテスト中のVRメタバース「Sansar」のシステムを活用して製作しているとWarner Bros.とIntelからもCES2018期間中に発表されている。少々嫌な予感がしないでもないが、原作小説からして何でもアリの世界観であるため、映画化の後押しのあるうちに、本格的なアドベンチャーが楽しめるVR空間となってくれることに期待したい。

【Ready Player One】

VR空間でコンテンツを選択するUIを提供する「Vive Port VR」

 その他、vrAMPの出力と思われるミュージックビジュアライザーのデモや、新しい「Vive Port VR」のデモを行なっているブース、グリーンバックと合成してデモを行なっているブースがあり、バリエーションに富んだ内覧会となっていた。

 ただ、いつもこのグリーンバック撮影ブースを見るたびに思うのだが、あくまでVRコンテンツ体験者は自分の視点でVR空間内に存在しており、合成された映像がプレーヤーのVR体験にフィードバックされているわけではない。大掛かりな装置はイベント向けの人の目を引く展示方法であるし、配信用の素材にしたり来場者向けのモニタに投映したりして、VRコンテンツの雰囲気を伝えるには良い手段だと思うが、VRコンテンツのプレイフィールを誤認させる可能性もあるため、そのあたりは出展者側にも配慮を求めたい。

【vrAMP】
【その他のデモブース】

 ここまで見てきたように、くくりをエンターテイメントまで拡大すると展示の多数派となるが、ご家庭のリビングで手軽にVR体験ができるのがコンシューマVR HMDの真骨頂であるはずなので、この傾向は寂しい。

 筆者は、現状のVRゲームの問題点を、ゲーマーにとって多大な初期投資をした上に装置の準備に手間も時間もかかるくせに、VR体験の量的質的満足が伴わないことにあると考えている。従来のゲームコンテンツは、投資額に対して質的にも量的にも非常に高い満足度が得られるものであった。ゲーマーは今までと同じかそれ以上の満足を期待して、コントローラーとディスプレイだけのインタラクションを上回るVRに飛びついてしまったが、すぐにわかる相対的な“物足りなさ”を、自分のなかで消化しきれないでいる。

 このあたりは、スマホ世代や、映画や音楽を日常のエンターテイメントの中心に、非日常はテーマパークのアトラクションを純粋に楽しめる層は、異なった受け止め方をしているかもしれないが、彼らがどこかの体験会でVRコンテンツに触れたとしても、自室に対して「Vive」環境を整えるとは思えないから、個人的にはターゲットの絞り込めていない体験会には、プロモーションとしての意義を見出せない。

 VRに今必要なのは、これぞゲームの常識だと言わんばかりに作り込まれた、質、量でプレーヤーを圧倒する本格的なコンテンツだ。コアゲーマーの心を掴まない限り、ゲームプラットフォームとしての成功はないから、HTCのゲーム開発者支援も、今以上に選択的なもので構わないだろう。

 実験的なものであっても許されるVR参入第1弾のゲームは、そろそろ一巡した。今回のHTCの展示会は、多様な可能性を提示する必要性があったことと、現実にコンシューマ向けエンターテイメントVRだけではビジネスにならないことを、素直に表した結果だということはわかる。今後のゲームに対しては、後発のゲームタイトルが、既存VRゲームを超える質と量を兼ね備える良いループが生まれるように、HTCがもっと主導的な役割を果たして、新たな仕組み作りが行なわれることに期待したい。