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【SIGGRAPH ASIA 2017】「Unity」最新デモ映像「Adam: The Prophet」が公開
実用域に到達した「Unity 2017」によるリアルタイム映像製作
2017年12月4日 11:52
Unity TechnologiesとOats Studiosは、「SIGGRAPH ASIA 2017」最終日の11月30日、同社のゲームエンジン「Unity」で製作されたリアルタイム映像コンテンツ、「Adam」の最新エピソード「Adam: The Prophet」を公開した。
先にお伝えした通り、「SIGGRAPH ASIA 2018」初日の27日には、早々にプレス向けのカンファレンスにて本作を先行公開したのだが、全世界に向けての配信が開始されたのは日本時間の30日からだ。
本稿では、27日のカンファレンスに続いて、28日に行なわれたチュートリアルセッッションの模様を踏まえ、「Unity」の現況と「Adam: The Prophet」に関する追加情報をお伝えしていきたい。
プレスカンファレンスでは「Adam: The Prophet」を先行プレミア上映
11月27日のカンファレンスは、「Adam: The Prophet」の先行プレミア上映会といった性格が強く、映像製作を担当したOats StudiosのChris Harvey氏をゲストに迎え、Unity TechnologiesのRiva氏、Muller氏と共に、エピソード2「Adam: the Mirror」およびエピソード3「Adam: The Prophet」製作時を振り返りながら、終始リラックスムードでトークを進めていった。
Harvey氏のコメントからは、高品質が求められるプロダクションレベルの映像製作においても、「Unity 2017」のレンダリング品質は、十分実用に耐えうるということ、プリビズ段階からすべての作業を一貫して「Unity」環境で完結させられるメリットの大きさを、強く感じとることができた。
とりわけ、キャラクターやカメラのアニメーションが印象を大きく左右する映像作品では、すぐに繰り返しレビューできるゲームエンジンのリアルタイムレンダラーは大きな武器になる。レンダリング品質とフレームレートは、常にトレードオフの関係にあるが、「Unity」は良好なレベルでこれらを両立させている。
「Unity」へのツール環境の置き換えにより、既存の映像製作環境にないゲームエンジン固有の事項を理解する必要はあるものの、全体の工程としては既存のCGアニメーションのワークフローと大きく変わることはないから、ゲーム開発経験を持たないスタジオでも比較的容易に導入が可能だ。
Harvey氏によると、Oats Studiosが担当した「Adam」の続編2作品では、ライトやシャドウをベイクしないで、すべてランタイムでダイナミックライティングを用いているが、それでも高フレームレートを維持できているとのこと。超重量級の背景やキャラクターデータ場合、カットによってはゲームエンジンならではのトリックを多用してリアルタイムを維持する必要もでてくるだろうが、ことPCベースの環境においては、昨年あたりから一段と高パフォーマンス化が進んでいることもあって、特に問題にならないようだ。
また、仮に「Adam」エピソードの各映像作品のように、リアルタイム実行可能であることの優先順位が高くない場合、つまりゲームエンジンをレンダラーとして活用して、ポストエフェクト以降の工程を既存のワークフローに乗せる場合には、多少のフレームレートの低下は問題にならない。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンからは、フレームバッファやGバッファの内容をOpenEXR形式などで出力するプラグインも提供されている。
時系列的に、エピソード1ラストでのアダムたちの解放シーンと直接的な連続性を持つエピソード2とは異なり、エピソード3では、新たな場面に転換する。エピソード3のタイトルにもなっている預言者、元はコンソーシアムに対する反逆者でアダム同様に肉体を奪われたヤコブ(ジェイコブ)、ヤコブと兄妹で病に侵され預言者にすがるマリアンが登場し、物語は新たな展開を見せる。物語のラストシーンにはサプライズが用意されており、また新たな謎が深まっていく……といった内容のストーリーだ。ショートフィルムながら、ゲームエンジン「Unity」のデモに留まらず、SF的な設定や、作中に登場するキャラクターの感情的な部分を、より一層深めた作品に仕上がっている。
基本的に、ストーリーの解釈については視聴者に委ねられており、本セッションでも多くを語られることはなかったが、さらなる続編で次第に謎が明らかにされていくことだろう。
なお、Unity Technologiesからは、すでに「Adam」に使用されているアセットが配布されている。非商用に限定して使用することができるから、映像、ゲームを問わず、パフォーマンステストや「Unity」導入のためのワークフロー検証等の目的には活用できるだろう。
他方、Muller氏によると、Unity Technologiesでは、「Adam」の続編を、もはや技術デモとしては位置付けていないとのことだ。物理ベースレンダリングをサポートした「Unity5」のリリースから3年近くが経ち、モダンな視覚表現が当たり前になったことから、必ずしも最新の実装をアピールすることの優先順位は高くはなく、あくまで映像の演出目的に合わせて「Unity」の機能は活用されるべき、という考え方だ。
とはいえ、「Adam」においても、皮下への透過光を表現するサブサーフェーススキャッタリングやボリューメトリックフォグ、各種ポストエフェクトといったモダンな機能が、映像品質の向上に寄与していることは間違いない。タイムラインエディタや、撮影素材から光源影響を除去してアルベドを生成するDe-Lightingツールのリリースもあって、Muller氏は、ハイエンドで先行していたEpic Gamesの「Unreal Engine」を完全にキャッチアップした、という認識を示していた。
事実、歴史的な経緯、思想や概念、実装の差異や、それらに起因するパフォーマンスの違いはあれど、やや乱暴に言ってしまえば、ことグラフィクス描画に関しては、現世代のゲームエンジンなら「Unreal Engine」であれ、インハウスの「Frostbite」であれ、もはやそれほど大きな機能差はないと言えるだろう。
目新しい機能差でアピールするのが困難なら、具体的な活用事例を示すのが効果的だ。ゲームより映像のほうが誰もが簡単に視聴することができるから、潜在顧客にリーチしやすい。また、映像作品そのものも、Unity Technologiesがリリースし続けるより、フィルムプロダクションの手によるものの方が説得力がある。Unity Technologiesが、映像スタジオを主役に立てて、バックアップに回った理由はここにあるのだろう。
さらに言うなら、Unity TechnologiesのビジネスモデルはEpic Gamesのそれと異なり、顧客の業種業態が何であれ、ツールを売れば売るほど収益が拡大するモデルだ。顧客のセールス状況にはまったく依存しない。近年、メジャーな製作ツールが次々とサブスクリプションモデルに移行したことから、同種のサブスクリプションモデルに移行した「Unity」に対しても理解が得やすい。モバイルを中心に、需要が一巡したゲーム業界とは異なり、まだまだ開拓の余地がある映像業界にアピールすることは、ビジネス展開としても非常に理にかなっている。
セッションでは「Unity」での映像製作ワークフローを詳説
翌日の28日には、Muller氏が、より実践的な内容でセッションを行なった。このセッションでは、「Adam」モデルとアニメーション、サウンドエフェクトといったリソースと共に、フリーのBGM音源を用いて、Muller氏オリジナルのミュージックビデオを製作するという趣向で「Unity」での映像製作手順が解説された。
GIとライティングの解説では、ライトベイクやライトプローブ、リフレクションプローブについて、比較的多くの時間を割いていた。「Unity」に限らず、レンダリングのリアルタイム性と品質を両立させる必要のあるゲームCGでは、プリコンピュートによってライトマップ用意したり、ライト影響や反射すべき環境をプローブでサンプリングしておき、ランタイムで動的に変化する要素を加味して、最終出力を求めるやり方が一般的だ。
それに対して多くの計算コストをかけて、より真面目に計算するプリレンダリングが主流のCG映像では、基本的にはライトベイクしたり、プローブを配置したりする作業は発生しない。本セッションが映像製作者を対象にしていることからくる配慮がうかがえる。
アニメーションの解説では、キャラクターへのモーションアニメーションのバインド、カメラの配置とカメラパスの設定に始まり、タイムラインエディタでのアニメのブレンド、テキストやサウンドの配置といった一連の作業が解説された。リニアに流れる映像シークエンスでは、やはりタイムラインベースのエディタは使い勝手が良い。「Unity」のタイムラインエディタは、同種のタイムラインベースのツールで、映像製作やゲームのカットシーンのシーケンス組みの作業を行なったことのある人にとって、十分に理解しやすいものだ。
ポストエフェクトでは、被写界深度、モーションブラー、ブルーム、レンズ汚れ、色収差、グレイン、カラーグレーディング、ヴィネットといった、すっかりお馴染みとなった各種効果を適用してみせてくれた。今や映画のみならず、テレビドラマやアニメでさえ、何かしらの視覚効果が適用されているのが当たり前となっている。ゲームにおいても、計算コストの増大に対して得られる映像効果が大きいことからも、やはり多用される傾向にある。「Unity」には、イメージエフェクトという呼称でポストエフェクトが豊富に用意されている。
さて、これらの映像製作者向けセッションを、ゲーム開発者はどう受け止めれば良いだろうか。これほどの映像作品を見せつけられ、また、これだけエディタやツール環境が整ってくると、かつてのように「Unity」の製作環境を理由にして、ゲームグラフィクスの出来不出来に対する安易な言い逃れは、そうそう簡単にできなくなってきていると言えるだろう。もちろん、ゲームの楽しさを決定づけるのは、必ずしもグラフィック品質ではないが、かと言っておざなりに済ませてしまっていいものではない。
ゲームエンジンを活用したゲーム開発では、それぞれのゲーム固有のコンセプトの率直な具現化と、実装したコンテンツに対する冷静な評価と粘り強い修正といった一般的な鉄則に加えて、ゲームエンジンプロバイダから提供されるツールやエンジンが要求するお作法を、正しく習得して実践することが求められる。「Unity」が得意とするグラフィック表現を「Unity」が推奨するアプローチで開発するだけで、一定のレベルに達することが期待できるのだから、素直に活用するのが得策だ。
もちろん、ゲーマーにとっても、間接的にメリットがある。「Unity」ベースのゲームビジュアルの底上げが進み、一定レベルをクリアしたゲームばかりになれば、「Made with Unity」のキーワードが信頼の証となり、より安心感も増すだろう。こうした流れこそがゲームエンジンの隆盛がもたらす恩恵と言えるだろう。