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【SIGGRAPH2017】「Unreal Engine」から「V-RAY」レンダラーが利用可能に!!
今後のCG制作はモデリングが不要になる!? 可用性を拡充する「UE」最新動向
2017年8月2日 12:02
7月30日(現地時間)より、米国ロサンゼルスにて、例年通り世界最大のCGの祭典、「SIGGRAPH」が開催されている。近年の「SIGGRAPH」では、AR、VRや、その他先端テクノロジに関する展示、発表を内包し、取り扱うテーマが多岐に及んでいることから、相対的にゲームに関連したトピックが減少傾向にあった。ところが本年は、非ゲーム分野でも、“リアルタイム”をキーワードに、ゲームエンジンやゲームグラフィクス発祥のテクニックが注目されていることから、ゲームCGと非ゲームCGの垣根がいよいよ下がった印象を受ける。
そんな変化の中で、「SIGGRAPH 2017」会場からダウンタウンの中心アリアに位置する劇場に舞台を移して、Epic Gamesは、「UNREAL ENGINE SIGGRAPH USER GROUP Make It Unreal」と題した「Unreal Engine」(以下、「UE」)ユーザーを集めたイベントを開催した。筆者の知る限り、Epic Gamesが、こうしたユーザーイベントを「SIGGRAPH」会期中に行なうのは初めてのことだ。来場者に特に制限はなかったが、やはり何らかの形で「SIGGRAPH」に参加している人が多数を占めており、イベントのトピックも主としてアーティストに向けたものになっていた。
本イベントにおけるゲーム関連情報は必ずしも多くはなかったものの、いくつか目新しいものが披露された。本稿では、ゲームに関連するトピックにフォーカスを絞って、「UE」の最新動向としてご紹介したい。
イベントの冒頭、イベントの全体進行を務めるEnterprise GMのMarc Petit氏に招かれる形で登壇したCEOのTim Sweeney氏からは、「UE」を活用したコンテンツが次々と紹介されていった。紹介されたコンテンツのうちゲームタイトルは「Fortnite」、「PARAGON」「ASTRONEER」、「Lineage II REVOLUTION」、「Robo Recall」で、どれもスマッシュヒットを記録した華々しいラインナップではあるが、GDCの時点で紹介されたものとほぼ同じで、残念ながら新タイトルの発表はなかった。
GDC以降の情報アップデートとして目新しいのは、マーベルヒーローものの「POWERS UNITED VR」、「SPIDER-MAN Homecomming VIRTUAL REALITY EXPERIENCE」、「BLADE RUNNER 2049: Replicant Pursuit」で、いずれも6月~7月にかけて発売や発表といった動きがあった新作VRタイトルだ。加えて、6月に開催されたAppleのイベント「WWDC 2017」で発表された「UE」をエンジンとして採用するILMxLABの「Star Wars VR」についても紹介された。「WWDC 2017」では、Appleが明らかにしたMac OSのVR対応に呼応する形で、Epic GamesもMac VR向けに対応を表明している。
時間の関係からか、多数のコンテンツを矢継ぎ早に紹介していったため、Sweeney氏のスピーチでは、タイトルのキービジュアルを紹介するにとどまった。通常のイベントだと、いくつかピックアップしてデモ映像を見せるなり、ステージ上でライブデモを行なったりするところだが、今回のイベントではゲームに関するアピールは控えめだった。
その一方で、こうしたコンテンツを裏で支える「UE」そのものの情報には、いくつか目新しいものがあった。そのうちゲームに関連する情報は大きく2つだ。
1つ目は、3Dリソースを製作するDCCツールからのデータ可搬性を向上させる「DATASMITH」という一連のツールキットおよびそれらを活用するワークフローだ。「DATASMITH」は、8月からクローズドなベータテストが開始される予定で、すでに登録が可能になっている。20種を超えるCADやDCCツールのサポートが予定されており、本イベントでは、「DATASMITH For 3ds MAX」と「DATASMITH For CAD」として紹介されていた。
もちろん、以前よりFBXデータフォーマットを介して、こららのツールから「UE」に対してデータをインポートすることは可能だったわけだが、この「DATASMITH」によって、より容易に、素早く、ツール上のデータ要素を失うことなく「UE」に取り込むことができるようになる。実際、現時点では、マテリアル等のデータを適切にDCCツールから移行することができないため、「UE」エディタ上での追加作業を行なうことなく、DCCツールのビューポートでの見た目を、そのまま「UE」で得ることはできない。こういった問題を解決してくれるのが、この新しい「DATASMITH」というわけだ。
アーティストの作業効率が上がるとともに、使い慣れたDCCツール上で完結する作業項目が増えることで、あらゆるゲームにとってクオリティの向上が期待できる。ゲーマーにとっても、大いにメリットのある話だ。
この「DATASMITH」は、建築や工業デザインの分野でのビジュアライゼーションに主眼が置かれているが、ひょっとするとゲームの3Dモデリングを大きく変えることになるかもしれない。というのも、もしCADデータの再現性が格段に向上するとなると、極端な話、フォトリアルなゲームでは、一切モデリングを行なわなくなることすらあり得る。例えば、実在する自動車が登場することに意義があるレースゲームなどでは、名称やデザインの使用許諾のみならず、自動車メーカーからCADデータの提供を受ければ、そのデータをそのまま利用できることになるからだ。
ゲームの価値を左右するほどにはCADデータに価値がないとしても、すでに存在するCADデータを安く買って済ませられるなら、それに越したことはないアセットはいくらでもあるだろう。大道具小道具を問わず、背景に配置するオブジェクトを中心に、あたらにゲーム用モデルを供給する事業者が異業種から登場する可能性も生まれる。
「DATASMITH」が、多少使い勝手がいいだけのインポートツールなら過度の期待は持てないが、ゲーム同様にリアルタイムなレンダリングを求められつつあるビジュアライゼーションの分野に向けたものであることから、精密すぎるCADデータを「DATASMITH」がインポートする際に、「UE」が描画時に速度が出るように、自動的にパフォーマンス最適化が加わることが考えられる。もしそうなら、モデルの売り手にも買い手にも、予想外のコストが発生することもなく円滑な取引が可能になるだろう。
ふたつ目は、真面目なレイトレースを行なっているレンダラーとしては、古くから速度に定評のある「V-RAY」レンダラーが「UE」から利用できるようになる話題だ。「UE」はゲームエンジンであるとともに、グラフィックス描画エンジン、つまりレンダラーであるとも言える。「UE」がレンダリング品質を向上させるにつれ、「V-RAY」の守備範囲を侵食する格好になっており、両者は次第に競合する関係になってしまってきたと言える。
このまま何もしないでいれば、「UE」やその他のゲームエンジンによって、近い将来「V-RAY」はシェアを大きく失ってしまうことを危惧したのかもしれない。実際、プリレンダリングが主体であった頃は、ゲームグラフィクスにおいても高速な「V-RAY」は積極的に活用されてきたが、最近はゲーム開発に「V-RAY」を使っている話題を耳にすることは、ほとんどない。
「UE」にとっては、あまりメリットがあるように思えないが、レンダラーに選択肢が増えることは、特にマイナスにもならないという判断なのだろう。映像や、建築、工業デザインの分野でさらに「UE」のシェアを伸ばすためには、「V-RAY」でレンダリングできるようにすることは、十分にプラス要因になるのかもしれない。
両者ともに、何から何まで自前で用意することを信条とはしておらず、必要に応じて他社と協業する文化が醸成されてきたということも背景にはあるのだろう。「V-RAY」が選択肢に加わることで、ゲームにおいても、また新たなビジュアル表現が増えることを期待したい。
以上が本イベントのゲーム関連トピックだ。「SIGGRAPH」の会期に合わせて開催されたイベントということで、ゲームやUnrealエディタのゲーム向け機能の紹介といったことに時間が割かれることはなかったが、逆に普段のゲーム中心のイベントではあまり多く時間が割かれることのない話題も多く聞くことができた。
年を重ねるごとに、急速に応用分野を広げる「UE」。競合する「Unity」と、ゲームのハイエンドCGにおいて“できること”の差が縮まる一方で、その他の分野で差を広げようとしているということだろう。今後も、我々を驚かせる新たな展開に期待したい。