ニュース
10周年を飾る「SIGGRAPH ASIA 2017」がバンコクで開幕
「Unity」、「Unreal Engine」共にリアルタイム映像をアピール
2017年11月30日 07:00
コンピュータグラフィクスの祭典「SIGGRAPH(シーグラフ)」のアジア版、「SIGGRAPH ASIA 2017」が11月27日よりタイのバンコクにて開催されている。本家の「SIGGRAPH」がロサンゼルスとその他の北米都市で交互に開催されているのに対し、「SIGGRAPH ASIA」は、特にベースと言える都市はなく、毎年アジア各国の主要都市をサーキットする形で開催されている。「SIGGRAPH ASIA」10周年となる本年は、バンコクでの初開催となった。
「SIGGRAPH ASIA」の傾向として、従来より、夏に「SIGGRAPH」で行なわれた発表、展示内容をアジア地域の人々に改めて紹介する、といったものが多く、北米や欧州発の情報には新規性が乏しいものの、アジア独特の特色を持った情報発信も行われており目が離せない。本稿では、カンファレンス初日の27日と、1日遅れの28日から始まったエキシビションから、ゲーム関連トピックをピックアップしてお伝えしたい。
ゲームエンジンはリアルタイム映像をアピール
ゲーム関連ということで、最初にお伝えしたいのは、ゲームエンジンの出展動向だ。Unity Technologiesは、会期初日の27日に、プレス向けのトークセッションを開催し、同社のリアルタイムデモ映像「Adam」の最新エピソード「Adam: The Prophet」を先行公開したほか、セッションルームの一室を確保して「Unity 2017」のキーフィーチャーを、連日テーマ別に紹介している。
残念ながら、「Adam: The Prophet」の詳しい内容は、一般に公開される日本時間の30日の16時までお伝えすることができないのだが、すでに公開されているダイジェスト版トレーラーに含まれていた新キャラクターが、さらに物語の伏線を膨らませる内容になっていたので期待してほしい。
制作を担当したのは、10月に開催された「Unite Austin」に合わせて公開されたエピソード2「Adam: the Mirror」と同じくOats Studiosで、製作環境も同じく「Unity 2017.1」だ。両作は、ほぼ同時進行で製作されており、活用されている「Unity」エンジンの機能や製作環境には、ほとんど差がない。
Unity Technologiesでは、すでに「Adam」プロジェクトは単なる技術デモの領域を離れ、「Unity」環境のみで映像プロダクションレベルのクオリティのものを、しかもリアルタイム映像として製作できることを証明する、具体的なショーケースとして認識している。
対するEpic Gamesのほうは、サンドボックスバトル「Fortnite」のリアルタイムトレーラー映像を紹介するブースをエキシビション会場に構えている。「Fortnite」のトレーラー映像は、7月の「Chaina Joy」において「SIGGRAPH」に先立って公開されたもので、ゲーム中のデザインを継承し、インゲーム用のグラフィックリソースを原点にして製作されているものの、トレーラー映像用にかなり手が加えられたものだ。
アジア地域の人々に「Unreal Engine」のリアルタイム映像を披露するという出展目的のため、昨年のVRゲーム「Robo Recall」とは異なり、残念ながら、ゲームそのもののプレイアブル展示はなかったが、PC環境でリアルタイム処理されている様子が確認できた。
なお、ゲームの開発状況は、7月25日の有料のアーリーアクセス版のリリースに加えて、9月26日には無料のバトルロイヤル版がリリースされており、以後ウィークリーでアップデートが行われている。
CGに関連する幅広い領域をカバーする「SIGGRAPH ASIA」ということもあって、両社とも、ゲームコンテンツにフォーカスした講演、展示は行なっていないが、これらリアルタイム映像製作環境の拡充は、そっくりそのままゲームのカットシーン製作環境の拡充をも意味する。
Ubi Soft、Activision、Electronic Arts、スクウェア・エニックスといった、傘下に多くの有力スタジオを有し、独自ゲームエンジンのエンジニアリングが可能な人材を確保しているゲーム会社でなくても、少なくともPCプラットフォームにおいては、ゲームエンジン採用によるビジュアルクオリティの底上げが加速するだろう。
エキシビション出展者は増加傾向か
エキシビション会場の全体感としては、商用エリアのほうはCG製作の受注を目的とした出展がかなり多く、決して狭くはない会場に大小数多くのブースが軒を連ねていた。そんななか、Tencent Labによる研究成果の展示は、他のブースとは一線を画している。
展示の主体は、カメラとセンサーによる撮像から自己位置や空間を把握する技術で、Tencent Labの技術は従来のアルゴリズムより高速に処理することができるとしていた。QQを始めとして、多くのネットワークサービスを展開するTencentは、以前にも「SIGGRAPH ASIA」でイメージ中の顔や標識といった意味を持つ物体の認識に関する研究成果の発表を行なっている。今回の発表内容は、同種の技術で先行するGoogleの改良といえるが、やはり同種の地図サービス「Tencent Map」を展開する同社が、Googleに先んじてマップサービスを進化させる可能性を感じた。
また、エンターテイメント分野では、GoogleよりTencentのほうがサービス事例が多いことから、現実世界の要素をリアルタイムに取得して動的に変化し続けるロケーションベースのゲームアプリを登場させるかもしれない。
一方で、AR/VRショーケースやエマージェントテクノロジの展示は、大学の研究室からの出展が大多数で、製品化やその後の商業的な成否はともかく、多種多様なアイディアを素直に形にした試作品が多く好感が持てる。注目が一巡した「視覚」「聴覚」に続き、未開拓領域がまだまだ残されている分野であるためか、今年はバイブレーション以外のHaptics(皮膚感覚フィードバック)の研究がトレンドで、この傾向は、夏の「SIGGRAPH」から続いている。
なかでも、「Bits of Elements」と命名された台湾大学の研究室の出展が目を引いた。試作品は、HTC「Vive」のコントローラの周囲にPC用の小型ファン、電球、噴霧器を取り付けたもので、それぞれ風、熱、水濡れを感じることができる。実になんのことはない既存部材の集合体に過ぎないハンドセットだが、いわゆる4Dシアターで体感できる要素のうち“臭い”以外はすべて取り込んでいる。既存部材で実現可能なことが実証されていることと、視覚的な情報とともに類似はするが異なる刺激を与えて、脳の錯覚を利用するような技術と異なり、実際の刺激そのままなので、技術的な問題点も少ないように思える。
ご家庭のリビングサイズの空間でも手軽にリアルな体感を、という想いを結実させて、ぜひ実用製品化にこぎつけていただきたいものだ。
本年の「SIGGRAPH ASIA」は、10周年ということもあってか、例年より出展者、来場者ともに増加しているように感じる。また、開催地がバンコクということもあってか、今年はインドや欧米からの来場者をちらほらと目にする。例年多数を占める中国本土、香港、台湾を始め、アジア一円の中国系来場者が、相対的にやや減ったように感じるから不思議なものだ。
何れにしても、エンターテイメント分野において、製作と消費の両面で成長を続けるアジアで開催される「SIGGRAPH ASIA」が、国際的なイベントとして重要度が増しているのは素直に喜ばしい。すこし駆け足になってしまったが、取り急ぎ、これにて本年の「SIGGRAPH ASIA」の第一報としたい。