ニュース

【SIGGRAPH2017】BtoB市場に注力! いまだ熱の冷めやらぬAR/VR

エキシビションにみる最新AR/VRコンテンツ、ハードウェア動向

7月30日~8月3日開催

会場:Los Angeles Convention Center

エキシビション会場を入り口付近から撮影

 7月30日から8月3日までの会期で開催された世界最大のCGの祭典「SIGGRAPH 2017」。本年もあっという間にすべての日程を消化して幕を閉じた。本イベントは、広くCGがテーマであることから、特定のゲームタイトルにフォーカスしたセッションや展示は限られていた。

 その一方で、映画やテレビ番組用映像製作といったエンターテイメント産業のみならず、産業デザインや設計、建築ビジュアライゼーションといった、おおよそゲームからかけ離れた分野では、ゲームで培われた技術を応用したリアルタイムCGを取り込もうという機運が、いよいよ高まっている。

 また、エンターテイメント施設に向けたVRコンテンツが引き続き数多く製作されており、VR HMDの需要が一巡して落ち着きを取り戻したゲームとは対照的に、いまだその熱は冷めやらない。

 加えて、今回の「SIGGRAPH」開催に合わせて、昨年とは比較にならないほど多くのコンテンツクリエイター向けPCやGPU製品、AIを活用した新技術のお披露目があったことも無視できない。

 本稿では、「SIGGRAPH 2017」の振り返りとして、いくつかの発表会と商用製品のブースが立ち並ぶエキシビションの模様を、ひとまとめにしてお伝えしたい。

最新VRコンテンツを展示したIntelとHP


Intelブースの模様

 まず、紹介したいのは、Intelブースで体験することができた、ふたつのVRゲームだ。ひとつは、「SPIDER-MAN Homecomming VIRTUAL REALITY EXPERIENCE」で、30日のUnrealユーザーイベントで、Sweeney氏から紹介されていたものだ。

 本作は、6月30日に、Oculus Rift、HTC Vive、PlayStation VRと、すべてのプラットフォームに向けてリリースされたばかりのVRゲームで、米国での原作映画公開に先立って公開されている。

 スパイダースーツを着用するという、VR世界では、プレーヤー、イコール、スパイダーマンだと認識させる“儀式”の後、プレーヤーは、連射弾、タメ弾、ロープと、3つの異なる“クモの糸”のの使い方を学ぶ。とりわけ“クモの糸”のロープ状に伸ばして行なう攻撃は、フィールド内のオブジェクトに先端を粘着させてから、大きく振り回すというアクションが可能で、スパイダーマン気分を高揚させてくれる。

 ステージをつなぐ短いカットシーンで、プレーヤーカメラをプレーヤーの意図に反して動かすという強引さはみられたものの、極端に気分を害するほどではない。思わず足がすくむような高層ビルの突端で、空中から飛来する敵を倒し、倒れかけた鉄塔をロープ状の“クモの糸”で引き寄せてから、タメ弾で固結させるとクリアとなり、空中に飛翔しつつ体験は終了した。

 ごく短い時間のスパイダーマン体験はあるが、映画プロモ用にしては、非常に力の入ったコンテンツだ。3プラットフォームすべてで無料でプレイできるため、気軽に試すことができる。

【SPIDER-MAN Homecomming VIRTUAL REALITY EXPERIENCE】

 ふたつ目は、「FOGLANDS」という新興ゲームスタジオWELL TOLD GAMESによるホラーアドベンチャーだ。冒頭、突然深い穴に落ちたプレーヤーは、「Long Road Home」のサブタイトルの通り、我が家への長い長い道のりを歩むことになる。ゲームそのものは、オーソドックスなシューターだが、銃を投げ捨てて、迫り来る敵を拳で殴り倒すこともできる。銃によらない攻撃が己の拳というのは、位置や向き、加速度といった情報を取得することができるハンドセットを活用したVRコンテンツらしいゲームデザインだ。

 その一方で、ちょっと残念なところも散見される。移動は、左手側のトラックパッドにバインドされており、前後左右といった方向に対して、入力した通りに、そのまま素直に移動してしまう。右手側が空いているのにもかかわらず、左右旋回を行なうことはできないため、進行方向を変えるには、自分の向き(正確には、HMDの向き)を変える必要がある。もちろん、移動先をポインティングしてワープする、といった機能も実装されていない。フィールドと自分との衝突判定に、フィールドの見た目のポリゴンモデルをそのまま使用しているため、ちょっとした出っ張りの部分にも引っかかったり押し出されたりしてしまう。

 加えて、リアルな実感を与えたい、という意図によるものだと思うが、弾丸のリロード動作にも難がある。リボルバー式拳銃の弾倉に弾丸を込めるために、右手を勢い良く左側に降り、シリンダーを引き出すところまでは雰囲気もあって良いと思うのだが、8発の弾丸を込めるために、左手で弾丸をつまんでシリンダー位置まで持っていくという動作を8回繰り返さなければならない。標準的なシューターのイージーなリロードに慣れているプレーヤーにとって、この“儀式”はちょっと余計だ。

 本作は、ビジュアルクオリティもさることながら、その操作性にちょっと疑問な点が目立っていたが、筆者からのプレイ後のフィードバックに対しては、一考の余地があると、しきりにうなずいて耳を傾けてくれていた。正式なリリースは未定ながら、2カ月のうちにテスト版の公開を目指しているという彼らには、公開までにより一層の改良を期待したいところだ。

【FOGLANDS】

 その他、Intelブースでは、定番VRシューター「Arizona Sunshine」がプレイアブル展示、「DUNKIRK VR EXPERIENCE」が映像とポスターのみの展示といった状況であった。

【Intelブースのその他展示】


HPブースの模様

 続いては、エキシビション会場の入り口で、ひときわ目を引いていたHPブースを紹介しよう。HPブースでの展示のうち、視覚的に目立ったのは、8月1日に発表されたばかりのビジネス向けVRバックパックPC「HP Z VR Backpack PC」だ。同様のコンセプトのバックパックPCは、MSIやZOTACの発売済み製品もあり、またHP自身もコンシューマ向けプロダクトとして「Omen X Compact Desktop(Omen X VR PC Pack)」を準備してきた。ところが、「Omen X Compact Desktop」は発売が遅延しているようで、7月に2,499ドルで発売と発表したものの、8月4日の時点になっても米HPダイレクトでも購入することはできない。「HP Z VR Backpack PC」は9月発売で3,299ドルと発表されており、HPの製品としては、ビジネス向けモデルが先行するかもしれない。

【HP Z VR Backpack PC】

 この「HP Z VR Backpack PC」とHTC「Vive」の組み合わせ活用事例として、火星探索ミッションをテーマにしたVRコンテンツ「MARS HOME PLANET」のデモが体験できた。この「MARS」プロジェクトは、HPとNVIDIAが共同で進めるプロジェクトで、Autodesk、Fusion、Launch Forth、Technicolor、Epic Games、HTCといった名だたる企業が協賛を表明している。

 ただ、実際に体験できた中身のほうは、まだまだこれからといった状態で、火星大気圏突入のシネマティックの後、火星探査船周辺をウォークスルーできるだけにとどまっている。重力や光量といった部分は、宇宙服を着用して火星に降り立った場合の現実の火星環境をリアルに再現しているのだと思われるが、実際のところVR体験コンテンツとしてはエンターテイメント性に欠け、非常に退屈だ。

 操作性は非常に悪く、先に触れた「FOGLANDS」をシンプルにしたような移動で、HMDを向けた方向に自分自身が向きを変えて、右手側パッドの下を押すと前進できるようになっている。移動速度は、広大な空間に対して、火星での正しい人間の速度を維持しているせいか、非常にもっさりとしている。

 最も火星らしい“楽しい体感”を起動するジャンプに至っては、もっとも入力しにくい右手側のグリップボタンのみにバインドされており、せっかくの体感がスムーズに得られず、残念でならない。すぐさま“できること”も、探索船そばにあるフラッグポールを掴んで、任意の場所に立てることくらいで、ほかに何ができるのかわからなかった。

 教育要素とエンターテイメント性の落とし所というのは、非常に難しい問題だと思うが、退屈なあまり科学に対する知的好奇心をそいでは意味がない。こちらも今後の開発に期待したい。

【UE採用VRコンテンツ】

 同ブースには、視野角210度を誇るVR HMD「StarVR」も展示されていた。長らくコンシューマ向けの続報がなかったが、それもそのはず、StarVRはHMD「StarVR」の製造に際してAcerの支援を受け、昨年末ごろからロサンゼルスにあるIMAX VR Centre向けに製品の出荷を開始している。引き続きニューヨーク、ロンドンにもあるIMAX VR Centreへの供給が最優先で、今後の事案もVR体験を提供する商業施設に向けたものになる。これまで幾度か期待を持って取り上げてきた「StarVR」だが、コンシューマ製品としての一般販売はなさそうだ。

【StarVR】

 その他、HPブースでは、VR映像コンテンツ「Raising A Rukus」も展示されていた。昔からあるアーケードのライド型ゲームや、テーマパークの4Dシアターやライド型アトラクションに近い体感を、小型の体感シートと360映像を組み合わせるアイディアで、こちらはVR特有のフィールをよく考慮して製作されている。映像の完成度とシナリオの良さも相まって、純粋に最も楽しめるコンテンツに仕上がっていた。同作を体感シートで楽しめるのは、やはりIMAX VR Centreということになるが、映像のみならOculus「Rift」だけで楽しむことができる。

【Raising A Rukus】

ゲーム関連情報はNVIDIAはソフト、AMDはハードが中心に


NVIDIAブースの模様

 NVIDIAのブースでは、31日のプレス向け発表会で披露した内容を常設展示する形で、盛んにデモンストレーションを行なっていた。NVIDIAリサーチによるCGに対するAI技術のうち、今後のゲームグラフィクスに影響しそうな新機軸は、大きくふたつある。

 ひとつ目は、AIを応用して、画像解像度はそのままに、画像からジャギーを除去しスムーズで解像感の高い画像を得るというものだ。たとえば、旧作のリメイクなどで、テクスチャ画像のソースデータが残っていない場合でも、GameWorksに含まれるMaterials & Texturesツールを使えば高品位のテクスチャ画像が得られる。本ツールは、3月のGDCの際に、すでにリリースされていたものだが、AIアルゴリズムのサポート度合いは、バージョンアップを重ねるごとに常に改良されている。

 加えて、今般SIGGRAPHに合わせて、上記ツールと同種の方法論で、AIを活用して最終レンダリング結果のスムージングを行なうものも発表されている。具体的に、どういったレンダラーにこの機能が実装されるのか、後述するOptix5.0と一体で透過的に導入されるものなのか、その詳細は明らかにされていないが、サンプルイメージにEpic GamesがNVIDIAに供与したデータが使われていることから、「Unreal Engine 4」が、その実装になんらかの形で関与しているかもしれない。

【Materials & Texturesツール】

 AIを活用したグラフィクスのもうひとつの新機軸は、レンダリング速度の向上だ。プリレンダリング用のレンダラーでは、一口に同じGIと言っても、複数のアルゴリズムを組み合わせたり、ゲームエンジンのGIと比較して真面目に計算して高品質を目指すことが多いため、1フレームのレンダリング結果を得るだけでも、非常に長いレンダリング時間が必要になる。

 プリレンダとはいえ、作業スピードの観点から、レンダリングの高速化のために、これまでにもゲームエンジンが採用する高速化の手法と本質的にはさほど変わらない技法が採用されてきた。レイトレースの簡略化や、静的な部分をプリコンピュートしてキャッシュやマップに格納するといった手法である。

 今回NVIDIAが発表したものは、これまでの簡略化により計算コストを低減する方法論とは異なり、すでに計算された結果イメージを材料に、最終イメージを得るのに必要な光源計算だけをAIが推定して、現在レンダリング中のイメージに不要な光源計算を省略してしまおうというものだ。

 要するに、似ているけれど同じではないイメージをレンダリングするために、過去に光の計算を真面目にたくさんやってしまっているとして、そのうちで無駄だった計算は考えればわかる。それなら現在レンダリング中のイメージでは必要な計算だけを行なうことにして、新しく計算する量を大胆に減らしてしまいましょう、ということである。

 有益な光源計算の選択と適用はAIが上手にやってくれるから、出来上がりのイメージ品質は、真面目に精一杯多方向からの光源を計算したものと比べて遜色がないというのがNVIDIAの主張だ。このテクニックは、11月にリリースされるOptiX 5.0に実装されている。

 新しい高速化のアプローチとして、ゲームのリアルタイムレンダリングでも期待の持てる新技術ではあるが、現時点では、NVIDIAのOptixを採用するゲームエンジンは存在しない。また、たとえ今後AIレイトレースをサポートするOptix5.0がゲームエンジンに採用されたとしても、AI由来の高速化という特性上、リアルタイムレンダリングする必要があるゲームでは、すぐさま応用できるものではないだろう。というのも、このAIレイトレーサーに対して最低限の結果サンプルを機械学習させる必要があるうえ、より多くの結果を学習させればさせるほど、良好な結果と速度をもたらすからだ。

 将来的に、ゲームエンジンがOptix5.0を採用し、なおかつ開発段階で大量の学習を行わせたうえで、初期学習データとしてキャッシュした状態で出荷すれば、オフラインのゲームでもレンダリングを高速化する手段として活用できる可能性はある。高速回線にオンラインの状態で、キャッシュをアップデートして、さらに良好な結果をもたらす、といったソリューションも考えられる。

【Optix5.0の高速レンダリング】

 その他、NVIDIAブースでは、多人数同時のリアルタイムモーションキャプチャや、産業向けVRビジュアライゼーションのデモ、昨年の2K解像度から4K解像度に進化した360映像のリアルタイムスティッチングや8K動画のリアルタイム編集環境といった非常に多くの展示がなされていた。

【NVIDIAブースのその他展示】


AMDイベントで発表を行なうRaja氏

 もう一方のGPUの雄、AMDのほうはゲームに関連する発表は皆無といっていい。7月30日に開催された恒例の「Capsaicin」イベントでは、新製品の「Radeon RX Vega Nano」の動作サンプルをApic GamesのTim Sweeney氏に贈呈するという、恒例のセレモニーが行なわれたが、Epic Gamesの話題は、もっぱら映像やビジュアライゼーションに関する話題で、強いてゲームに関連する話題といえば、トレーラー映像版の「Fortnite」を披露するにとどまった。

【Radeon RX Vega Nano贈呈の模様】

 ただし、ハードウェア新製品の発表や展示のほうは旺盛で、Intelからのシェア奪還で波に乗るCPU「Ryzen」のハイエンド製品「Ryzen Threadripper」(以下「TR」)に16コア32スレッド版の「TR1950X」、12コア24スレッド版の「TR1920X」、8コア16スレッド版の「TR1900X」を投入する。価格は、それぞれ999ドル(税別日本価格145,800円)、799ドル(税別日本価格115,800円)、549ドル(日本での販売価格は未発表だが79,800円程度と推測される)で、「TR1950X」と「TR1920X」が8月10日に発売決定、「TR1900X」は8月31日に発売が予定されている。

 Intel「Core i9 7900X」に対して「TR1950X」は最大で38%高速だと主張する通り、AMDのデモによると、「V-RAY」でのレンダリングに必要な直は「Core i9 7900X」の56秒に対して、「TR1950X」なら45秒と24%以上高速な結果を叩き出している。

 さて、このCPUをゲーマーはどう考えればいいだろうか。AMDがハイエンドデスクトップ向けというように、ゲーマーはこのCPUに特に関心を向ける必要はないと思われる。「TR1900X」なら、背伸びすれば購入可能な価格帯ではあるが、8コア製品でいいなら性能的にさほど変わらない「Ryzen 7 1800X」のほうが、499ドル(税別日本価格59,800円)とお値打ち感がある。さらにいうなら、6コアで12スレッドの「Ryzen 5 1600X」が、249ドル(税別日本価格30,800円)とコストパフォーマンスに優れているため、そこまでマルチスレッド対応が進んでいないゲームプレイが主な用途なら、「Ryzen 5 1600X」で十分だ。さらに言うなら、同価格帯のIntel CPU「Core i5 7600K」のほうが高クロックであるため、ことゲームプレイにのみ関して言うなら、CPUの選択には注意が必要だ。

【Ryzen Threadripper】

 GPUのほうに目を向けると、年始のCES会期に発表された“Vega”アーキテクチャに基づいた新GPU製品「Radeon RX Vega 64」の空冷版と水冷版、「Radeon RX Vega 56」が発表されている。それぞれに、34インチのSamsung「CF791」曲面モニタの$200ディスカウントに加えて、CPU「Ryzen 7 1800X」または「1700X」と、ASUS「ROG Crosshair VI Extreme X370」、GIGABYTE「GA-AX370-Gaming K7」、MSI「X370 XPOWER GAMING TITANIUM」の3つの370Xマザーボードのうちひとつをセットにして$100のディスカウントが受けられるパッケージが用意されている。さらに、2タイトル合わせて$120の価値がある「Wolfenstein II:The New Colossus」と「Prey」が無料でバンドルされる。

 水冷版「Vega64」の「Aqua Pack」は$699、空冷版「Vega64」の「Black Pack」は599ドル、「Vega56」の「Red Pack」は499ドルと、モニタやCPUのリプレイスを合わせて行うなら、なかなかに魅力的なプロモーションだ。すべてのディスカウントを活用し、バンドルゲームにも価値を見いだせるなら、「Vega56」の「Red Pack」場合、79ドルで手に入るのと等価になる。

 ただし、「RAREON RX」のサイトの記載によると、残念ながらSamsung「CF791」の200ドル割引が実施されるのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、シンガポールのみで、その他の地域を選択すると、ゲームのバンドルと、CPUとマザーボードのセットを100ドル割引する施策しか表示されない。Samsungディスプレイの訴求力を考慮したプロモーションということなのだろうが、日本を含むその他の地域において200ドルのディスカウントに相当する代替策が講じられるのか、現時点では不明だ。記載がないということは実施されないと考えていたほうがよさそうだが、日本AMDからの正式な発表を待ちたい。

 なお、「Radeon RX Vega」は、もちろんビデオカード単体でも販売され、「Vega56」は399ドル、空冷版の「Vega64」は499ドルの価格が発表されている。ただし、水冷版の「Vega64」単体販売は明言されていないため、現時点では単体販売されるのかどうか不明だ。

【Radeon RX Vega】

 その他、シングルラックでFP32の演算性能1ペタFLOPSを達成したスパコン「Project 47」のお披露目に加え、V-RAMの一部にSSDを採用して映像編集に特化するというユニークな特徴を持つ「Radeon Pro SSG」や、16GBのHBM2をV-RAMに採用した「Radeon Pro WX 9100」といったハイエンドGPU製品が9月13日に発売されることが発表されたが、プロのコンテンツクリエイターでも両製品が必要になるようなケースは限定的だ。「Radeon RX Vega」製品のコストパフォーマンスが良好であることから、多くの場合、プロユースでも「Radeon RX Vega」製品を選択したほうが良さそうだ。

【AMDのその他の発表内容】

Precision20周年を機に新ハードを多数投入するDELL


PrecisionブランドPC20年の歩みがボードに

 最後に、ゲーマー向けにはAlienwareのブランドを展開するDELLのブースと、同社のビジネスPCブランド「Precision」の20周年記念の模様をお伝えしたい。

 ライバルのHPが入り口付近で、派手なパフォーマンスを行なっている一方、DELLのブース展示は比較的おとなしいもので、同社の製品を落ち着いてゆっくりと触れ、必要な説明を受けられる環境が整えられていた。

【HPブースの模様】

 ブース展示、20周年記念での展示ともに、最も目を引いたのはMetaのAR HMD「Meta 2」だ。「Meta 2」のスペックを先行するMicrosoftの「HoloLens」と対比させると、1度あたりのピクセル数は、「HoloLens」の47ピクセルに対して「Meta 2」の20ピクセルと少ないが、その代わりに視野角は「Meta 2」が「HoloLens」の2倍の90度と広いのが特長だ。また、「Meta 2」は「HoloLens」のようにデバイスそのものがコンピュータの機能を持つわけではなく、現世代のVR HMDのようにPCに接続して使用するタイプのAR HMDだ。PCの機能を内包しないことから、開発者向けキットの価格は949ドルと「HoloLens」の開発版の1/3の価格だ。

 実際に装着して体験してみたところ、「Meta 2」の表示は良好で、医療学習用途の人体断面の立体視映像を操作して、インタラクティブに断面を変えたり、地球儀を取り出して回してみたりするといったARらしいコンテンツに加え、ウェブブラウザを起動してYouTubeビデオを閲覧したりといった日常的なアプリケーションをAR空間に表示することもできる。ブラウザ操作では、文字を読もうとすると、普通のモニタと比較して確かに精彩さに欠けるところがあるが、空中に浮かび上がる虚像としては及第点を超えていると言える。

 その一方で、HMDを使ったARの課題を実感してしまった気がする。というのも、実用的なアプリケーションを使おうとすればするほど、腕を大きく動かして行なうジェスチャー操作に対するフィードバックの物足りなさを実感してしまうのだ。視覚的には操作に応じて妥当なフィードバックを受けるものの、キーボードやタッチパネルを操作するような物理的な接触による確かな“手応え”は、当然のことながら一切感じられない。そもそも、ハンドジェスチャーやボイスコマンドといった、他人から見ると瞬時に理解しがたい奇異な行動を、密室ならまだしも路上で堂々と行なう気にはなれない。

 この問題の解決策としては、グローブにフォースフィードバック機能を内蔵した入力デバイスを装着して、指の曲げ伸ばしや、指先をこすり合わせるような動き、手の甲をパッドに見立ててなぞるといった、もっと小さい動きで入力できるようにするアイディアが考えられるが、いずれにしても現行のデバイスからの単なる移植ではない、AR HMDにフィットする新たなUIとHUDの開発が必要になるだろう。

 現時点では、スマートフォンやタブレットのディスプレイというウィンドウを覗き窓にしたARのほうが、はるかに人間にとってわかりやすいし、現実世界を立体的にキャプチャするためのカメラやセンサーを搭載したモバイルデバイスが登場していることからも、当面はモバイルを活用したARが主流になるだろう。

 AR HMDには、本体サイズ、視野角、解像度、入力方法、入力に対する視覚以外の応答、最適なUIの工夫といった、時間の問題で解決するものではあるが、確実に解決していかなければならない課題だ。

【Meta 2】

 DELLの製品で、もう一つ注目に値するのは、27インチのワークスペースデバイス「Canvas 27」だ。ワークスペースデバイスというのは、耳慣れない言葉だが、要するに液晶タブレットのことである。北米では、SIGGRAPH会期中の8月1日から1,799ドルで発売が開始された。日本での価格は未発表ながら、20万円前後と推測される。

 タブレット型の入力デバイスは、液晶モニタを搭載しないペンタブレットのみの時代から、長くWacomの独占状態が続いている市場で、新春のCESでDELLがこの「Canvas 27」を発表したことで、にわかに注目を集めている。競合するWacomの「Cintiq 27QHD touch」は、北米では$400ディスカウントして2,399.95ドルで販売されているため、本製品のほうが600ドルも安いことになる。

 「Canvas 27」には、Microsoft「Surface Studio」に付属するものと同様のダイヤル型インターフェイス“totem”が付属する。Wacomの「Cintiq 27QHD touch」にも、ダイヤル型インターフェイスに加えてショートカットキーを搭載し、ワイヤレスで自由に配置できる“ExpressKey Remote”が付属するため、入力できる内容はWacomのほうが多彩だとも言える。ただ、ショートカットキーはキーボードで代替可能なことと、「Canvas 27」はダイヤルをディスプレイの上に“totem”を置いて使用する特性上、表示を伴ったサブメニューを展開することが可能で、ダイヤルひとつのシンプルな入力デバイスでありながら、アプリケーション側のサポートがあれば、こちらも入力可能な内容は多彩になるだろう。

 ホビーとしてコンテンツ製作を楽しむ層の選択肢としては、さらに価格的に安い中国や台湾メーカーの液晶タブレットも販売されているが、いくつかの製品は正規の代理店を持たない輸入品であるため、故障時の修理や交換に不安が残る。そういった心配もDELLの製品であれば皆無だ。プロのコンテンツクリエイターにとっても、触ってみればWacomのものと遜色ないと感じられるはずだ。

 本製品の登場によって、液晶タブレット市場におけるWacom優位の状況が大きく変わるとは思えないが、それでも今後は競争原理が働くことが期待できる。実際、Wacom製品のディスカウントが始まっているわけだから、「Canvas 27」の登場は意義深い。是非とも一定のシェアを握って、Wacomに常にプレッシャーをかけ続ける存在となって欲しいものだ。

【Canvas 27】

 その他にも、DELLは、「SIGGRAPH」開催に先立つこと3日前、7月27日には、AMDの「Ryzen Threadripper 1950X」を搭載した「Alienware AREA-51 THREADRIPPER EDITION」を北米市場に投入している。日本での展開に関する情報はなく、日本のDELL直販サイトでも製品は確認できないが、特段に日本で販売しない理由も見当たらないため、近日発売される可能性はある。

 加えて、8月1日からは、ノートPCの「Precision 5520」が349,980円~(税別)の価格で、10月3日からは、デスクトップワークステーションの「Precision 5820/7820/7920 タワー」、ラックマウント型ワークステーションの「Precision 7920 ラック」が発売される。こちらは確定事項だ。

【Precision 7920 タワー】

 本年の「SIGGRAPH」エキシビションは、出展社数も多い上に、産業、映像分野ではVR/AR熱が続いていることもあってか、例年と比較してゲーム関連の出展も充実していた。ゲームCGは、依然としてCGのうち主要な地位を占めていることに変わりはなく、異分野のCGがリアルタイムへの関心を深める中、よりゲームCGのテクニックが求められていくだろう。逆もまた真で、ハードウェア性能の向上に伴い、よりリッチなデータへの関心が高まっている。今後、さらに業界の垣根が下がり融合が進んで行くのは間違いないと感じられた。