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AMD、ニコニコ闘会議2018に賞金として1,000万円を拠出

日本での高額賞金付きe-Sports大会の先駆けとなるか

11月17日 発表

 デジタルメディア協会(以下、AMD)は11月17日、「日本eスポーツの夜明け ~AMDによるeスポーツ振興に向けた新たな取り組み~」と題する記者発表会を開催した。

 AMDは総務省のもと、国内デジタルコンテンツのグローバルな普及と発展に寄与する活動を行っている団体。発表会では2018年2月10日と11日に開催予定のニコニコ闘会議2018に、AMDが賞金として1,000万円を提供することが明かされた。

日本のe-Sportsの発展の第一歩となるか。6名の識者が語るe-Sporsの現状と未来

AMD AeGI 理事長の襟川恵子氏

 発表会ではAMD関係者の6名が登壇。それぞれ関連分野に関して講話を行なった。

 始めに登壇したのはAMDゲーム競技化機構(以下、AeGI)理事長の襟川恵子氏。襟川氏は韓国や欧米など、海外のe-Sportsの盛り上がりや、いわゆる“1億円プレーヤー”が既に多数存在する現状に触れつつ、日本では高額賞金をかけた大会の開催が不可能であったという経緯を説明。そうした現状を受けAMDは2017年の3月頃から継続して関係省庁や警察、経団連などに働きかけ、協力や資金の援助を取り付けてきたという。

 そして本日、賞金付き大会の開催にあたって最大の障壁となる景品表示法をはじめとした現行法の確認を終え、ニコニコ闘会議2018に1,000万円の賞金を拠出することを発表した。

 これにより、AMDはオリンピックでのe-Sports競技開催に向け、日本でも賞金付きの大会ができるということを世界にアピールしていきたいという。

NPO法人日本シミュレーション&ゲーミング学会会長鐘ヶ江秀彦氏

 次に登壇したのはNPO法人日本シミュレーション&ゲーミング学会会長鐘ヶ江秀彦氏。鐘ヶ江氏は近い未来、人工知能の進歩や機械化の進行によって機械が人に取って代わる「雇用なき爆発的な経済成長」、即ち第4次産業革命が勃発すると主張。

 これにより人間社会は労働から開放され、新たな「ゲーム化社会」が訪れると述べた。そうした社会ではe-Sportsが新たな雇用を産む、新たな産業の1つになりうる可能性を指摘し、日本がそうした環境を受け入れるために必要なのは規制緩和だと語る。

鐘ヶ江氏はe-Sportsが次の時代の新たな雇用と創出すると指摘
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会CFO 企画財務局長の中村英正氏

 3番目に登壇したのは東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会CFO 企画財務局長の中村英正氏。氏はオリンピック・オリンピックにおいては2つのポイントがある、と切り出した。1点は競技において国境や性別、宗教の枠を超えて切磋琢磨するが、試合を終えれば共に讃え合い、世界の仲間として1つになるということ。2点めはオリンピック・パラリンピックの開催が若者に「友情」や「平和」といったメッセージを与えるとともに、新たな刺激を与える点だという。この2点において、国境を超えてオンラインで競い合い、若者が熱狂するe-Sportsはオリンピック・パラリンピックと方向性において同一だと述べた。

 また、「オリンピック・パラリンピックの開催そのものが世の中を変えるわけではないが……」と前置きしつつ、委員会としてはオリンピック・パラリンピックやe-Sports競技の開催が、若者による小さなムーブメントを後押しする「きっかけ」となれるよう尽力していくと述べた。

AMD参与 AeGI副理事長の中村伊知哉氏

 次に登壇したのはAMD参与 AeGI副理事長の中村伊知哉氏。日本をポップ産業文化のメッカにしたいという想いを語り、そうした観点からはe-Sportsに期待していると述べた。しかし、日本はe-Sportsにおいては現状「発展途上国」であると指摘し、市場規模が世界の15分の1程度であり、プレーヤーの数にして世界の20分の1、プロゲーマーの数は10分の1程度、賞金獲得額は29位であると、海外と比較して振るわない現状を説明した。

 中村氏は日本がこの状況を打破するために解決すべき課題として、アマチュアの大会を刑法で縛る「規制」と、3つの関連団体の統合により、国際的な大会に出場する選手の「プロ化」の2点を挙げた。今回はそれらの課題を乗り越えて賞金制の大会を開こうということで、これは2020年の東京オリンピックも見据えた上で、日本がe-Sports大国となるための第1歩であると評した。

中村氏は「規制」と「プロ化」の問題の解決こそが日本e-Sportsにおける課題であったと述べた
AMD理事 AeGI理事の浜村弘一氏

 5番目に登壇したのはAMD理事 AeGI理事の浜村弘一氏。浜村氏はe-Sportsの市場規模の著しい成長と収益構造について言及。e-Sportsのゲームの大会は単なる興業から放送コンテンツへと発展を遂げることで、多額の収益を得ることができると説明した。

 また、浜村氏はe-Sportsが放送コンテンツになることにより、ノンゲームプレーヤーが観戦者として産業構造に参加することを野球ファンに例えて説明。このステップではe-Sportsの大会が単なるゲームタイトルの販売促進から、興業として成り立つ段階へと変革を遂げると解説した。

 ニコニコ闘会議においてどのタイトルに賞金をつけるかは現在検討中だとしているが、多額の賞金を賭けて闘う本大会が今後の盛り上がりのきっかけになることを期待していると述べた。

浜村氏はビジネス的な視点でe-Sportsを分析。海外では多額の賞金がでていることも紹介した

 最後に登壇したのはAMD顧問弁護士 AeGI理事の森本紘章氏。ここまでも日本がe-Sportsにおいて海外から大きく遅れていることが再三指摘されてきたが、やはりそれには法規制が大きな障壁となっていたという。

 森本氏はAMDにおいて法的な問題の解決に取り組んでおり、「風営法」、「消費者保護法」、そして最も大きな課題として「景品表示法」を挙げ、さらにe-Sports競技が賭博に当たるか否かの判断も問題であったと語った。今回、賞金についてはAMDという中立な団体から授与することで各種法律の問題を解決したと述べ、その問題も「ほぼ解決済み」で、今後は警視庁とも協議をしていくという。

 森本氏はe-Sportsにおける取り組みにおいて、誰もがゲームを使って合法に遊び、そうした競技を観戦して楽しめる社会を実現するということを最終目標として掲げ、今回の賞金提供についてはその実現に至るための第一歩にしたいと述べた。

 日本においてはe-Sportsが流行の兆しをみせつつも、賞金制度にかかわる法整備の遅れからプロゲーマーが職業として極めて成り立ちにくい現状があった。今回のAMDの取り組みを元に、そうした現状が払拭されればそう遠くない未来、海外のようなe-Sportsシーンの盛り上がりが日本でも体験できる日が来るのかもしれない。今後の日本のe-Sportsがどうなっていくのか、それを占う場としても、ニコニコ闘会議2018の開催が楽しみだ。