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「AMDシンポジウム2017」レポート。e-Sportsから取り残された日本に未来はあるのか?

これから日本が取るべき道を探る

9月7日 開催

会場:ベルサール九段

 一般社団法人デジタルメディア協会(AMD)は9月7日、ベルサール九段にて「世界を席巻するe-Sports ~取り残された日本の挑戦~」と題したシンポジウムを開催した。2部構成で行なわれ、ニコニコ関連のイベントなどでおなじみの慶応義塾大学大学院特別招聘教授である夏野 剛氏をモデレーターに、それぞれ3名ずつの登壇者によりディスカッションが繰り広げられた。

e-Sportsの潮流について

 第1部は「e-Sportsの潮流」と題したパネルディスカッションとなった。ここには慶應義塾大学大学院教授の中村伊知哉氏、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア バイスプレジデントの松本義紀氏と、Twitch Broadcaster Successの中村鮎葉氏が登壇した。

慶応義塾大学大学院特別招聘教授 夏野 剛氏
左から夏野氏、中村伊知哉氏、松本義紀氏、中村鮎葉氏

 まず日本のe-Sportsの現状についてだが、格闘ゲームには世界的な有名プレーヤーがいる状況。ただしそれを解説しているのは、日本では「ゲーム実況」であり、産業化されていないと夏野氏は指摘する。「産業化されていないのは大人がだらしないからか? プレイステーションは全世界で売っているのに、どうして日本ではやらないのか」という夏野氏の問いかけに対して松本氏は、アメリカではプレイステーションプラットフォームとしてスポンサードしていることを紹介。ただし賞金をかけようとしても法的な規制があり、アメリカのように高額にならないという問題点も指摘する。「欧米と同じような盛り上がりは作れていない」(松本氏)。

 この点については、中村伊知哉氏が景品表示法の規制があることを紹介。アマチュアならば10万円が上限となっている。このほか、来場者からお金を集めて勝者にあげようとすると、今度は賭博法の規制に引っかかる。ただし、賭博法の規制については白黒がはっきりとしているものの、景品表示法での規制については、そういう適用がされるのではという“空気”で判断されていると指摘する。

 「歴史が浅いのでチャレンジしてこなかった。大きなビジネスになるぞとわかってきた時に、景品表示法での規制があることがわかってきた。ここまでビジネスを取りこぼしてきた長い年月の問題がある」(中村伊知哉氏)。

 このほか、プラットフォーマーが主催するだけでなく、ほかのどこかの団体が主催した場合はどうなるのかという議論に対して中村伊知哉氏は「今は確認している状態」であるとしながら、「消費者庁とも話し、グレーからホワイト領域を増やすという地道な努力をやろうとしているところ」と語る。ただし「白だと思っていたのを黒だとネットで騒ぐ人もいたりする。規制とどんよりした空気の中にある状態を取り払いたい」(中村伊知哉氏)と語る。また「実際には法改正なども必要で、はっきりと“白”としていきたいところだが、実態を積み重ねてコンセンサスを取る必要がある」とも。

 ただし実際の大会について中村鮎葉氏は「賞金が出るようになり、すべてが白になったといっても、年に1回だけ大きな大会があるだけでは参加しない。地元にいろいろな場があるから裾野は広がる」と指摘する。

 オリンピックにe-Sportsを導入しようという動きがあることに対して夏野氏は「プロとアマの認定など、世界の基準ができていないとオリンピックにならない」と議論を提起。これについて中村鮎葉氏は「プロを認定している国もあるが、結果を出さないとプロになれない。ちゃんと評価される場を設けることが必要」と強調。中村伊知哉氏も「日本として選手を送る場合、団体を統一し、プロを認定する必要がある。日本としてどういう戦術でやっていくのかが大きなテーマ」と語った。

 こうしたさまざまな問題について、最低でも今年中に実現してほしいことがあるかという夏野氏の問いに対して中村伊知哉氏は「年頭の所感で安倍総理の口からe-Sportsという言葉を聞きたい」と語る。続いて「ユーザーレベルでの大会、賞金を出すようなものでなくてもユーザーが問題なく開催できる状況を作り上げたい。そうすれば高みを目指していくという流れができるのでは」と松本氏。夏野氏がドワンゴが主催している「闘会議」が盛り上がっていることを紹介すると、こういう大会が「毎週どこかに欲しい」と中村氏。ゲームの種類やプラットフォームが違っても、e-Sportsの大会そのものの数も増やす必要があるようだ。

国内e-Sportsの明日は?

 そして第2部に移り、ここでは「国内e-Sportsの明日」と題した議論が行なわれた。登壇したのはGzブレイン代表取締役社長の浜村弘一氏とeスポーツコミュニケーションズ代表執行役社長の筧誠一郎氏、プロeスポーツチーム DetonatioN Gaming CEOである梅崎伸幸氏の3名だ。

 e-Sports参加者が生活できない現状については、夏野氏はJリーガーの話を例に出し、「中田英寿氏が出てから頭脳プレイが重要になってきて、頭のいいやつじゃないとダメになった」とし、それを受ける形で筧氏は「e-Sportsに出場している人は、それぞれのコミュニティでは有名だが、それ以外では知られていない」と語りながら、「ただしe-Sporsのテレビ番組でブンデスリーガの武藤嘉紀選手が『ウイニングイレブン』をトッププレーヤーと戦った時、負けたけれども電話番号を交換してもらっていた。お互いのリスペクトが必要」と語る。こうした、プロ選手同士がリスペクトし合っている姿を見せていくことが大事だと指摘する。

 また筧氏は、地方でe-Sportsの支部をたくさん作っており、富山の高岡市では結構盛んに大会を開いていることを紹介。月に1度くらい大会を開くと100人くらい集まるそうだが、こうした集まりを開催しながら有名プレーヤーを排出し、増えていくことで一般にも認知されることが必要であると指摘する。

左から夏野氏、浜村弘一氏、筧誠一郎氏、梅崎伸幸氏

 ただし日本のプレーヤーは、プロであっても生活をしていくのが大変だ。梅崎氏は、日本ではアルバイトや仕事をしながらプレイしていることを紹介。絶対的な練習時間が少なくなってしまうので、海外の選手と比べるとハンディがあるわけだ。このため、賞金だけではどうにもならない現状を打開する必要がある。しかも勝たないとスポンサーは見向きもしてくれない。

 ただし学生のあいだでは、e-Sportsがメインコンテンツになっていると筧氏。このため若い人にアピールしたい企業は集まってくる状況なのだとか。梅崎氏がCEOを務めるDetonatioN Gamingでは12、3社のスポンサーがついているそうだが、大半はパソコン関係のメーカー。しかしauやクレディセゾンといった企業が、若者にPRしたいからとスポンサーになったのだとか。「そこが魅力的だという話がある」(梅崎氏)。

 こういう現状について筧氏は野球を例に挙げて比較する。「1911年の朝日新聞には『野球害毒論』が載っている。野球をしていたらろくな人間にならないというキャンペーン。しかしそのあと野球は受け入れられ、六大学野球がスタートすると、新聞社が後援に入る。日本ではまさにここの状態。若者が熱狂してe-Sportsを見るが、認知されていない。この状況を大人が見るメディアで展開して、ゲームなんてやめなさいではなく、熱い戦いがあってドラマがあるというのを見せる必要がある」(筧氏)。

 また梅崎氏は、まだe-Sportsについての中身が知られていないと語る。しかし今ではネット配信などのおかげで固定ファンが多く付いてきているそうだ。「選手からすると、応援されているとモチベーションが上がって頑張ろうと思う。メディアという意味で言うと、ネットメディアに力を入れていってほしい」(梅崎氏)。

 ただし本格的に普及するためには、「教育の中にゲームの要素を入れるのもポイントなのでは?」と夏野氏。「普通のスポーツでは多くの種目が教育課程に組み込まれている。プログラミングが必修化されるが、そんなことをやっているよりも「Minecraft」をやっていた方がいい」(夏野氏)。筧氏もノルウェーやスウェーデンではe-Sportsを教えていることを紹介。またアメリカでも、ユタ大学ではプロ選手の育成コースがあるという。「奨学金を出しているところも6大学くらいある」(筧氏)。こうした状況に少しでも近づけていく必要がありそうだ。

 また実際に、今のゲームでは戦略性が要求されることから、引退後に就職して欲しいという企業もあることを梅崎氏は紹介。「若者がコミュニケーションを取れないというが、e-Sportsではコミュニケーションは必要。社会人的な能力を高めるのには有効なのでは。教育や就職といった面はあるかもしれない」と梅崎氏。

 夏野氏は最後に「ホワイトカラーの生産性が低いので、企業の管理職の試験にゲームを入れたらいい」と語り、パネルディスカッションを終えた。