【特別企画】

eスポーツ×高校生の青春映画「PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~」鑑賞レポート

スポ根的ではなく、Z世代の高校生3人の葛藤を描いた作品

【PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~】

3月8日 全国公開予定

 サードウェーブとハピネットファントム・スタジオによるeスポーツを題材とした映画「PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~」が3月8日に全国で公開される。本作は、「ロケットリーグ」で高校生eスポーツ大会に挑む3人の高校生チームが描かれた、実話を元にした作品となっている。派手な見た目だが弟思いの郡司翔太(演:奥平大兼さん)と、ケガを理由にバスケットボールを諦めた「ロケットリーグ」の上級者で優等生の田中達郎(演:鈴鹿央士さん)、VTuberにハマっている小西亘(演:小倉史也さん)の3人が全国高校eスポーツ大会の決勝戦を目指して奮闘する。

 eスポーツを題材とした映画、しかも年々盛り上がりを見せている高校生eスポーツを舞台にした青春映画というだけに、本作の内容が気になるという読者も少なくないだろう。今回はそんな本作の先行試写の機会を得ることができたので本作の魅力を紹介したい。

【3月8日(金)公開『Play! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』主題歌入り予告編】

Z世代の高校生のモヤモヤとeスポーツ

 「勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~」というタイトルから分かる通り、本作は単にゲームを皆でプレイし、優勝を目指すスポ根的な内容ではなく、Z世代の高校生3人が抱えるそれぞれの葛藤やモヤモヤをしっかりと描いている作品だ。

 例えば、一見すると人気者で「陽キャ」な翔太は家庭環境に問題を抱えているし、優等生の達郎は怪我で部活を辞めるという挫折を味わっている。VTuberに夢中の亘は、リアルでの友人関係が一切ない。まだ高校生である彼らにとって、こうした問題を自分1人で解決することは難しく、それ故にどうしようもない鬱屈した感情を持っている。

郡司翔太(奥平大兼)
田中達郎(鈴鹿央士)
小西亘(小倉史也)

 そんな彼らは、家庭環境だけでなく性格も異なり、同じ学校に通いながらも一度も関わることがなかったのだが、達郎が高校生eスポーツ大会に参加するためのメンバーを募集したことをきっかけに、eスポーツを通じて関係を築いていく。

 「ロケットリーグ」の上級者である達郎が、未経験である他の2人を引っ張っていく形で練習・試合をしていくことになるのだが、初めのうちは中々息が合わせることができずチームはバラバラな状態。そんな彼らが「ロケットリーグ」を通じて段々と競技にのめりこみ、絆を深めながら、勝ち負けより大事な「何か」を掴みながら、それぞれの問題に向き合っていく。

「ロケットリーグ」

 筆者が魅力に感じたのは、彼らが織りなすZ世代特有のコミュニケーションだ。それぞれの問題には深入りせず、お互いの性格が異なることをわかったうえで、絶妙な距離感を探っていくようなやり取りには現代の若者像を捉えている。

 また、彼らの家族を描くシーンでは重苦しさを感じることも少なくないが、高校生同士の笑えるやりとりも散りばめられていたり、日常生活と大会に挑むためにゲームをプレイする非日常が交互に描かれたりといったコントラストが、“eスポーツを題材とした青春映画”としての独特の空気感を生み出しているのではないだろうか。

迫力あるゲーム映像

 そんな本作だが、ゲームをプレイするシーンの出来もよく、eスポーツ映画としてもクオリティが高い。「ロケットリーグ」公式世界大会のキャスターを務めたkokkenさん、Waveさんが監修・指導を行なったゲームシーンは、「ロケットリーグ」の迫力満点のゴールシーンや、空中機動による派手な動きを実際の大会を観戦しているようのに楽しむことができた。

 そこに事前に「ロケットリーグ」をやり込んだキャストによるゲーム中のコミュニケーションや、プレイに熱中し、時にはイライラしてしまうような表情などの演技も加わって、映画のワンシーンでありながら、ついつい主人公チームを応援したくなってしまう没入感を味わえた。

 また、プレーヤーネームやマシンのカスタム、ゲームプレイ時の役割や立ち回りまで、登場人物のパーソナリティに合わせて細かく設定されている点には感心させられた。例えば、達郎が名付けた「アンダードッグス(咬ませ犬)」というチーム名や、「木の棒」というプレーヤーネームからは、一見謙遜しているように見えて実は自分のプレイに自信があるという彼の性格が見えてくる。3人の中でもコミュニケーション能力が高い翔太は、チームの人間関係でも、プレイでも、潤滑油的な存在となる。こんな風に、ゲームプレイを通じて、キャラクターの深堀が行なわれるのはeスポーツを題材とした映画ならではの表現で、ゲーマーなら一種の「あるあるネタ」のように楽しめた。

 一方で、普段からゲームをプレイしていなかったり、eスポーツを観戦しない人にとっても、「ロケットリーグ」は「車でサッカーをする」という他のeスポーツタイトルと比べて分かりやすいゲームということもあり、充分に楽しめる作品となっているのもポイントだ。

「青春」としての高校生eスポーツ

 さて、現実の高校生eスポーツでは「ロケットリーグ」はもちろん、MOBAやFPSジャンルでも盛り上がりを見せている。eスポーツ部が存在する高校も増えつつあり、高校生競技シーンで頭角を現わし、プロになる学生も少なくない。とはいえ、高校生eスポーツの中心は環境を整えやすい私立高校・定時制高校で、公立高校にスポットライトが当たることは珍しい。また、高校生eスポーツは全国で展開しているものの、イベント会場が東京なことから、eスポーツに都会的なイメージを持っている人も少なくないだろう。

 本作はそんなeスポーツの持つイメージとは逆に、自然豊かで田舎の風景が色濃い徳島県の高専を舞台にしている(元になったのは徳島県の公立高校で結成されたチームの実話)。海や山といった自然の風景は美しいだけでなく、eスポーツへの持ちがちな固定観念を壊してくれる。

 高校生シーンやプロシーン等、eスポーツを多く観戦している程、ついついエースプレーヤーによる個人技や、チームとしての高度な連携プレイなどに目が行きがちだ。しかし本作は、そういった視点から一歩離れて、ゲームを皆でプレイする楽しさや、共に共通の目標に向けて切磋琢磨することでしか得られない達成感など、高校生の青春の舞台としてのeスポーツの可能性を感じさせてくれる。

 以上のように本作は、eスポーツのシーンではその魅力をしっかりと伝えながら、日常シーンでプレーヤーそれぞれの葛藤や人間関係を描くことで、青春の舞台としての「eスポーツ」という高校生eスポーツならではの魅力を再認識させてくれる作品となっている。

 主人公チームの3人が全国大会へどのような過程で挑み、勝ち負けを超えて何を掴むのか、気になる方は是非、劇場でご覧いただきたい。

□上映劇場一覧

【3.8公開『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』ロング予告編<ドラマ篇>】